等距離恋愛。_1丁目7番地 はじまりの改札
_おはよ
_いま電車乗った
女の子の朝は忙しい。気合を入れたい日は特に。
今日は久しぶりのデートなだけあって、ドキドキとワクワクが迷子になりそうなほどあっちへ行ったりこっちへ行ったりした。
いつもはファンデと眉毛を書いてお終いな簡素なメイクもこの日はちゃんとチークを入れたし、マスカラを塗った。私にしては上出来だった。
でも、ここ最近の睡眠不足のせいでデキたニキビは隠しきれなかった。
「はあ、こんな顔で会いたくないよ~…」
何度も鏡を見てはため息をつく。私と会ってどう思うだろう。イメージと違ったとか写真よりブスだったとか思われたら嫌だな…
そんな今更、どうしようもできないことで悩んでいたら急に会うのが怖くなった。嫌われるくらいなら一生会わずに電話越しの関係でいたほうがましだとも考えた。
_おはよう~
_今日、会うのやっぱりやめない?
咄嗟に送ってしまったラ〇ン。もう手遅れなのはわかっていたが急に迫りくる不安に手が勝手に言葉を綴った。
_なんで?
カレからの返事。どう伝えたら良いのか分からなかったがここは正直になろうと思い
_最近寝不足で肌荒れひどいからこんな顔で会いたくなくて…
と、応える
するとカレは既読を付けた後しばらく返事をくれなくなった
(…怒ったかな?…嫌われちゃったのかな?)
既読のままのトーク画面をひたすら見つめる。ドタキャンしようとした自分に自己嫌悪になる。
(なんで余計なこと言っちゃったんだろう…会ったときに話せばよかった…)
後悔してももう遅い。私はホーム画面に戻し、洗濯物を干しはじめた。
数分後、buuuu..bu..buuと3回続けてスマホが鳴った。いつもなら通知音が鳴っても洗濯を干し終えたキリのいいところで確認するが今日は違った。
飛びつくようにスマホをとり急いで画面を覗く。
_ごめんねてたw
_そんなこと気にせんから会お
_もうそろそろ着く
(え、え、え、えええええええええええええええ!!!!)
なす術も無く、洗濯物をほったらかしにして部屋の鍵とイヤホンとスマホをバックに入れて駅に向かう。駅までの道は、平日の昼だというのに陽気な人達で賑わっていた。
最寄駅までもう少しのところで立ち止まり、深呼吸する。
心臓が今にも口から出そうなほどに激しく脈打つ。
苦し紛れに人という字を書いて飲んでみたがやってみた後に恥ずかしさで余計苦しくなった。それ以来、人という字を書いて読むことはしないと決めた。
_もういる?
改札を出てちょうど目の前にあるビルの下で連絡をする
_おるよ~どんな服装?
_えっとね、くすんだピンクのワンピにジャケット
_おれも緑っぽいジャケット着とる
顔をあげてジャケットを着た人を探した
「あっ…。」
改札の横にある券売機の前の柱に寄りかかりイヤホンをしながらスマホを弄っている男の人を見つけた。
視線に気付いたのか、そこに立つ男の子と目が合う。
(たぶん、いや、きっとあの人だ。)
歩み寄ろうとしたが足が固まって動かない。彼は再び目をスマホに落とし何かことばを打ちはじめた。
buu.
画面に目を落とす、
_確認のためにそこで両手あげて
_え、なんで両手www
_それか踊って
_なんで罰ゲームみたいなのばっかりなのww
思わず、画面を見ながら笑ってしまった。ふと視線をあげると、彼も笑っていた。ゆっくり近づいてくる。
「みつけた。」
それが彼との、土肥 奏太(どひ そなた)との初めての出逢いだった。
そしてこれから先、私と奏太の甘くて切ない二人の物語のはじめの改札口となったのだ。
__1丁目8番地 紅潮したカレー
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