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等距離恋愛。_1丁目6番地


あの日以来、カレと私の距離はどんどん縮まっていった。

私は暇さえあればカレに連絡していたし、何かあるごとにどうでもいいようなことでもいちいち報告していた。

_今日の調理実習でね、ウサギさばいたの!

_悲しくなった

_みんな美味しそうに食べてたけど、むりだった。牛や豚や鳥は平気で食べれるのにね。

放課後、その日あったことを淡々とスマホで打ち込む

_しごおわ~

_夜勤明けの出勤きつい

_疲れすぎてはらへった

_うさぎくいたい

私の気持ちなんかフルシカトで言うもんだから思わず「ねえ!笑」ってつっこんだ。

悪気がないのが一番厄介。

でもそんなやり取りがいつの間にか、放課後の楽しみの一つになっていた。

日に日に彼に会ってみたい気持ちが募る。

「よかったら今度、お茶しませんか」


その一言がいつまでも言えないでいた。会った事も写真でしか見たこともない画面越しのその人を思い浮かべて。

断られたら嫌だな...という気持ちが邪魔をして勇気が出ない臆病者の私。

「彼はどう思っているのだろう」

その日の夜、いつもと同じくらいの時間にスマホの着信音が鳴る。日課になりつつあるこの音を無意識にベットの上で正座しながら待つ自分がいた。

「もしもし、起きてる?」

なんてことないその一言が耳に心地いい周波数で伝わる。

「うん、起きてる」

「今日は何してたん?」

「あのね、面白い話があるの!ききたい?」

「いや、別に(笑)」

「しょうがないなあ~」

「おい」

「あははっ」

「...」

私がおどけた態度をとるとすかさず反逆してくる彼が急黙りこむ。何か気に障るようなことでも言っちゃったのかなと不安になる。

「あれ?電波悪い?」

わざと電波のせいにしてみる私はやっぱり臆病。

「…会ってみたいな。」

電話越しから今にも消えちゃいそうな小さな声が聞こえた


ずっと言いたかった言葉。
心の中を見透かされてしまったのかと思い心臓が跳ねた。身体の真ん中よりちょっと上のあたりがあつい。

そばに置いてあったミネラルウォーターを手に取り、一口飲んで熱を帯びた心臓を冷やしてから

「うん、私も会いたい」

と伝えた。

「ははっ、やっと言えた」

さっきまでの自信なさそうな声とは違い、安心してはにかんだように笑うカレの声。

「でもなんか緊張するな。ずっと電話越しで話しとった人にはじめて会うって」

「そうだね。本物見て幻滅しないでね」

「それはお互い様。でも電話でこんだけ楽しいんだからそんなことないと思うけどな」

「そっか、それもそうだね。
...次、おやすみいつ?」

「今週の土曜かな。」

「あ、その日なら私も空いてる!」

「なら決まり。その日、一日俺にちょうだい。」

「うん。待ち合わせどうしよっか」

「下北住んどるんやろ?案内してや。」

「え。責任重大じゃん(笑)去年の12月に越してきたからまだ2か月も経ってないしあんまり詳しくない...」

「それなら気になるとこ探索しよ」

「楽しそう!...なんかデートみたい」

「え、デートじゃないん?」

「えっ、あっ...。」

「可愛くして来いよ」

「えええっ...」

「冗談。気軽においで。」

「...うんっ!」

「じゃあもう遅いし、寝ますか」

「だね、楽しみにしてるね。」

「こちらこそ、おやすみ。」

「おやすみなさい。」

電話を切るなり、鏡の前で土曜日のためのファッションショーを開催した。

せっかくならおしゃれして一番可愛い自分で会いに行こう。

この日、インターネットの世界で出会ったカレと初めて対面で逢う約束をした。

その日の夜は、久しぶりに幸せな夢を見た。

次の日の朝。

あからさまにご機嫌な様子で登校すると、クラスの親友は警察の事情聴衆のような質問攻めを受けた。

「で...。ここ最近なんか機嫌良いけどいいことでもあった?また好きな人できたとか?」

「ふっふーん。って、そんな恋多き女みたいないい方しないでよwでも今週の土曜日にね、気になる人とシモキタデートすることになったんだ~♪」

ルンルン気分で話すと、やっぱりなという面持ちで

「恋多き女なのは事実でしょ。いつの間に?展開早くない?どこで出会ったの?」

自他ともに認める恋愛体質で、常にときめいていたい人間なのは百も承知。

だからこの手の質問は割と定番化していた。いつもなら何でもかんでもペラペラ喋る私も今回ばかりは言葉が詰まった。

「えっと...それはひみつ!」

「なんでよ〜!いつもはすぐなんでも話したがるのにー?」

「今回の人はね、特別なのっ!いい感じになれたらいずれ教えるねそれまでは優しく見守ってて?」

「まあ、無理に言わなくてもいいけどさ...。で、彼のことは好きなの?」

「うーん...まだわかんない。」

「そっか。何回か会ってるの?」

質問は受け付けないと言ったのにそれでも気になるのか親友の口からは次々新しい質問が出てくる。

「そういう訳じゃないんだけどね。最近しょっちゅう連絡取りあってて、話も合うし楽しいんだよね~。あと声がっ...」

自分が言おうとした言葉に恥ずかしくなり言葉を飲み込む。

「声?」

ここまで言ってしまったら仕方ない

「うん、そう。声がね、とってもすき。」

「声かあ...。大事だよね、声」

「うん。あと話し方と、方言」

「方言は本当ずるい!どこの人なの?」

「九州!宮崎弁らしい」

「わー、アツい男じゃん!(笑)」

「そうでもないよ。笑
あ、でも好きなことに対しては熱いかも。」

「へえ、デート楽しみだね」

「うん、緊張するけどね」

「ちゃんと報告してよ~(笑)」

「はい!笑
ちゃんと包み隠さずいうねっ」

「よし、楽しみにしてる♪」

彼との出会い方を秘密にしちゃったっけど、嘘はついてない。

少し後ろめたい気持ちもあった。ネットで知り合った人と会うなんてどう思われるだろうか。

会ったときカレに相談してみよう。

これからも会ったりお話ししたい気持ちがお互いに生まれたらの話だけど...

心の中に、こっそり二人だけの秘密をしまいこみ週末まで学校とバイトに励んだ。


そして、デート当日。

私はいつもより少し早く起きて、
彼に会うための身支度を始めた

__1丁目7番地 はじまりの改札

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