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六人の嘘つきな大学生

いったいなんのワードで検索していたのかわからないが、ネットサーフィンをしていたら偶然見つけた。今かなりの話題本らしい。本当は本で買いたかったけれど、すぐに読みたくて電子書籍で買ってしまった。

あらすじはこうだ。ある企業の最終面接に選ばれた6人の大学生たち。最終面接はグループディスカッションだが、まずは1ヶ月かけてこの6人で最高のチームを作り上げるよう指示される。グループディスカッションの出来が良ければ6人全員が内定もあるとのことで、6人は1ヶ月間、共に議論し仲を深めながら「全員で内定を取ろう」と結束する。だが、最終面接の直前に突如面接方法が変更される。

「内定者は1人。最終面接では誰が最も内定者に相応しいかを6人でディスカッションしてください」

当日、面接会場に置かれていた6人全員分の封筒。その中には6人それぞれが抱えている「秘密」が書き記されていた。

※以降ややネタバレが入ります。

内定者に選ばれるのは誰か?封筒を置いた「犯人」は誰なのか?この二つの謎を軸に話が進んでいくのかなと思いきや、案外中盤あたりでこの謎は片付いた。

物語の中核を成しているのは、謎解きというよりはむしろ「人間の多面性」「人への信頼」だ。6人の大学生たちは1ヶ月間、最終面接を通るために互いに打ち解け合い協力しあい、信頼を築いてきた。それが最終面接時、封筒に書かれたそれぞれの「秘密」によって、その人物像が揺らいでいく。

物事の裏側を見てしまったことで、それまで見えていた「表面」の印象もガラリと変わってしまうというのは非常によくわかる。

善か悪か、白か黒か。人は案外、極端な判断を好むと思う。「どちらか一方である」という方が判断として落ち着くというか、「どっちでもあると言えばあるし、どっちでもないと言えばないんだよね」という状況はどうも煮え切らなくて判断がつかないので、どっちかにしてくれよとなってしまう。

でも人という存在は、本来、全てを内包しているものだと私は思う。善も悪も、白も黒も、1人の人の中にはたぶん全ての要素が含まれている。聡明さも愚かさも、善良さも邪悪さも、崇高さも卑屈さも、対をなす概念はもともと、その一対がなければ存在しないのだから、どちらか一方の面しか持ってない人というのはいないのではなかろうか。

しかし、その人が「何かしかの罪を犯した」という情報だけが渡された時、それまでのその人が積み上げた信頼は一気にその「罪」に塗りつぶされる。人の本性は表面だけでは計り知れない、どんなにか善良な人だと思っていたって、所詮人間は裏のある生き物なのだ…となる。

不思議なことに善と悪の判断は、一気に塗り替えられる。反動ともいうのだろうか、それまでの評価が「善良」であればあるほど、ひとたび「裏側」を見せられた時、その判断が「悪」一色になるのが興味深くもあり、恐ろしくもある。

要はどこかで人は、人が完全な「善」であるとは思ってないのだろう。だからこそ、人に見せている表面が善であればあるほど、「悪」(裏側)を見せられた時に余計に「こちらが本性だったのだ」と思ってしまうのかもしれない。

ただし、物語にも書かれているが、人は完全な「善」でもなければ完全な「悪」でもない。立場、状況、条件、情報量によって善悪の判断なんてコロコロ変わる。要はその人やその人の行為自体に善悪があるわけじゃない。

人の本性、本質はブラックボックスのようなものだと私は思う。全てを内包する、真っ暗な穴。全てであり、どれでもない。どれか一つを選ぼうとすればこぼれ落ちる何かが生まれてしまい、その人そのものではなくなってしまう。

「人の本質や本性を人が判断する、見極めるなんてことはできるのか?」という問いも「就活」という特殊な舞台を通して描かれている。はっきりと書かれているが、そんなことできるわけがない。

人は優しくて、お互いに支え合って、高めあって、成長し合えるものでもあるし、それと同じくらい意地悪で、利己的で、他人を蹴落としてまで勝ち上がりたいと思うものでもある。1人の人間の中にこんな矛盾する相反する面があったってなんら不思議じゃない。矛盾はそれ自体が真でもある。

人は多面性を持つ生き物だ。だからこそ、完全に善人もいないのかもしれないけれど、完全な悪人もまた、いない。

あなたが信じてきた人は、その裏面を知った時、あなたが思うような聖人君子ではなかったということがわかるかもしれない。でも、その人への信頼はそれで全て破棄されるべきものだろうか。完全な善人もいなければ、完全な悪人もいない。結局それは、何にでもなりうるということだ。

あなたが、私が、その人の何を信じるかによって。


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