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求められる期待

誘われて転職することにしたの
私とじゃないとできないことがあるって
役所のほうは大丈夫でしょ
私でなくても替えが効くみたいだから
#ジブリで学ぶ自治体財政

先日より一部でバズっている地方公務員の中途退職者増加の話題に関して、そういうお前はどうなんだという声が聞こえてきます。
私は22歳で大学を卒業した年に福岡市役所に入り、転職することもなくこの春34年目、すでにアラカンの年齢となり、役職定年まであと5年、定年退職まであと10年、役所人生はおろか自分の人生そのものについてもゴールまでの道のりが見えてきたところです。
そんな時期に差し掛かった自分が、これだけ多くの中途退職者やその予備軍の声を聴きその姿を目にして感じるのは「自分も別の場所でもうひと花咲かせてみたいなあ」という思いです。

先日の記事で紹介したアンケート結果では、転職(あるいはその検討)理由の1位が「組織が旧態依然のままで変革が期待できそうにない」という自治体組織へのマイナスの感情から来るものでしたが、ただ仕事や職場が嫌だからと言って簡単に仕事が辞められるような甘い世の中ではありません。
定年を待たずに地方自治体の職を捨て他の道を選んだ仲間たちは、決して給料が低いからと言って金のために職を変えたわけではなく、それぞれに志や理想があり、それが現在の組織では目指せない高みだったからこそ羽ばたいていったのだと思います。
地方公務員という一生働ける安定的な身分を捨てて転職するのは、今いる場所から逃げるという意味合いではなく、より自分が活躍できる場所、居心地の良い場所を求めて自ら新たな道を切り拓いていったという意味合いが強いでしょう。

私もまた、現在の組織、職場に対するマイナスの感情から逃げ出すというわけではなく、還暦を5年後に控え気がつけば残り少なくなった人生をよりよく過ごすために、今とは違う時間の使い方、日々の過ごし方をしてみたいという気持ちに駆り立てられ、定年を待たない第二の人生のスタートを夢想しているところです。

私が第二の人生を夢想する理由は大きく二つあります。
一つは、私の能力の活用について思うところがあり、その思いが年々増殖しているということがあります。
今から12年前、当時福岡市の財政調整課長だった私は、将来見込まれる財源不足を解消し安定的な財政運営を行うための行財政改革プランの策定を命じられ、その方策として各部局の自律経営を基礎とした枠配分予算の仕組みを構築、実施しました。
併せて財政課と現場の相互理解のための対話の取り組みとして職員向けの財政出前講座を課長在任期間の4年で80回開催し、自治体の財政構造、現状、将来見通しを財政課以外の職員とも共有し、なぜ行財政改革に取り組まなければならないか、行財政改革によって何を実現しなければならないか、を財政課の職員だけでなく職員一人ひとりがジブンゴトとして考えることができる素地を作りました。

この取り組みが方々に知れ渡り、北海道から沖縄まで全国各地から「出張」財政出前講座のオファーが舞い込み、この10年間で130回を数える人気講座となりました。
この取り組みが契機となって2冊の単著を出版するに至り、コロナ禍の中で約4年間休眠していたにもかかわらず、今もなお私の出前を求める声は止むことがありません。
さらに、こうした活動領域の広がりに伴い、様々な場面への露出が増え、地方自治体職員同士のネットワークの中で注目を集めたこと、また私自身のSNS等での発信などもあって、最近では財政の話に限らずいろんなテーマでの出講や業界誌、webメディア等への寄稿などの機会も増え、最近では公務員コミュニティの運営や官民連携団体の活動支援などにも携わっています。

この止むことのない「副業」ニーズに応え続けるにはそこに割く時間や労力について「本業」とのバランスが欠かせないため、「副業」のニーズがどれだけ高まろうとそこにアクセル全開で注力していくわけにはいかないという悩みが常に付きまといます。
また公務員が背負わされている社会的使命から「副業」が制限されている実情からも、求められても応えることができないニーズも存在します。
地方公務員の職を離れ、新たな道を歩んでいる仲間の活躍を見るにつけ夢想するのは「自分が同じようにチャレンジできたら、どれだけの人たちのニーズに応え、世の中に貢献できるだろうか」「そのチャレンジの中で自分が納得のいく時間と労力の使い方を実践できたとしたら、どれだけの満足が得られるだろうか」「その貢献や満足は、自分が地方公務員として期待されている役割や職責、特にこれから10年の間に任せられ、取り組み、遺すことができる成果や満足と比べたときに決して小さくはないのではないか」というものです。
この12年で「求められる期待に応えていく」ことの喜びを知ってしまった私の夢想は日々膨らみ、悩みは深くなる一方なのです。

もう一つの理由は、人生の過ごし方そのものにかかわる心境の変化です。
これまでも妻との過ごし方を考え、自分の仕事への向き合い方を変化させてきたことはこれまでの記事でもご紹介してきたところです。

「本業」はもちろん「副業」まで含めて、自分が社会に貢献し、それに見合った報酬を受け取る「仕事」だけが人生じゃない。
ここ数年、特に強くそう思うようになりました。
その原因は、親世代の老いに伴う介護や生活支援による時間と労力の消耗です。
詳しくは書きませんが、4年前、コロナ禍以前に本業、副業ともそれなりのバランスでスケジュールを調整し、ある程度自分の満足のいく時間の過ごし方をセルフプロデュースできていたのがウソのように、父が死に、独り暮らしになった母が施設に入り、妻が長く生活を支援していた妻の母が介護を必要とするようになった今、自分と妻が時間と労力を割く優先順位が変化し、今やがんじがらめの状況です。
このいつ終わるとも知れないこの長いトンネルの中で日々感じるのは、自分たち夫婦の人生で残された時間とそこで自由に活動できる環境の有限性。
特に危惧しているのは、私よりも病弱で体力のない妻がこの時間と労力の消耗の中で残された人生を彼女なりに謳歌できるタイミングを逃してしまいはしないかということです。

年老いた親たちの介護が終わり、10年後に自分が定年退職を迎えた後、ようやく自由になる時間を手に入れたとしても、その時間を自由に過ごす体力や気力は我々に残されているのか。
ここ数年に我が家に起こったこととその対応に翻弄され疲れ果てている妻の姿を見るに、このまま自分があと10年もの間「仕事」に逃げ込むことは許されないのではないか。
「求められる期待に応えていく。」というのが、これからの人生の姿です。
しかし、求められるニーズに応えたいというならば、最も自分が求められているのは現在の職場よりも、出前講座のオファーをくださる全国の仲間よりも、目の前にいる家族であることは間違いなく、その替えは誰にもできないのです。
そう考えれば、介護に疲れた妻の負担を減らし、現下のがんじがらめの生活の中でもわずかにある自由な時間を二人の笑顔のために費やし、夫婦二人の人生が終わるときに互いに悔いることがないようにすべきではないのか。
そういった時間の使い方をセルフプロデュースするためには、組織に属して月曜から金曜まで毎日職場で過ごす現在の暮らしのままでよいのかと夢想しているわけです。

もちろん、この夢想が夢想であり続けているのにはわけがあります。
現在の職を離れ、新たな道を選ぶとしたときに、現実的には収入の安定という問題もありますし、自分がしたいこと、できることと求められていることとの整合が図れるのか、という不安もあります。
何よりもまず、33年間も勤めた福岡市役所を、嫌いになったわけでもないのに離れることができるはずがありません。
しかしこれだけの夢想が頭を巡るのは「求められる期待に応えていく」ことを希求する自分自身が今、あと10年過ごすことになる組織、職場から何を求められているのか、その期待はもし仮に第二の人生を選んで応えることになる期待と比べ、残りの人生を賭けるだけの価値があるのか、を値踏みしているのかもしれません。

私は地方公務員と言う身分も、福岡市役所という職場も大好きで、福岡市のために公務員の身分でこれからも貢献できればそれに越したことはないと思っています。
しかし10年以上にわたり実践してきた「副業」を通じて、公共的な物事、世の中の枠組み全般に携わり、福岡に限定しない様々な地域の人たちに対して何か公的な部分で貢献できるということにも喜びを感じています。
この件、地方公務員業界から人材が去っていくことを自治体組織の内側から見て嘆くべきか喜ぶべきかという視点で一度取り上げたことがあります。
もし私が第二の人生を歩むことを選んだとしても、サヨナラとは言わないでくださいね。

★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/

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