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だが情熱はある

うちの仕事を辞めたいだと?
給料が不満ならもう少しアップするよ
社長全然僕のことわかってくれていませんね
僕が給料欲しさに働いているとでも?
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
地方公務員の中途退職が止まりません。

このような報道を見るたびに私たち公務員界隈では「どこも同じだなあ」というため息が聞こえてきます。
親が子どもに期待する、将来就いてほしい職業ナンバーワンに未だに君臨する憧れの職業「地方公務員」ですが、現実は定年を待たずに退職、転職する方が年々増えており、そのことは私も周囲の状況から実感します。
そんななかで、「地方公務員の退職理由に関するアンケート」なるものが実施され、我々地方公務員SNS界隈でバズっています。 

元横浜市職員の石塚さんが個人的に実施してくれたこのアンケート(6/28終了)。
その実施動機は、私と同じ問題意識でした。
冒頭にご紹介した地方公務員の中途退職に関する報道で、必ず挙げられる「待遇への不満」というワード。
私たちの仲間が数多く、地方公務員の世界から巣立っていきましたが、彼らは「待遇の不満」を感じて退職、転職していったのでしょうか?
給料が安い、時間外労働が多い、仕事を休みにくい・・・確かにそういう側面もなくはないですが、そんな理由で彼らが地方公務員と言う身分を捨てたと勝手に推察し、それをあたかも真実であるように報じるのは彼らにとって失礼だし、そもそも私たち地方公務員が「待遇がいい」からこの職業を選んだかのように世間一般で思われているのかと思うと、自分自身も忸怩たる思いが沸きます。
石塚さんのアンケートもまさに「そんなこたあねえだろ!」というツッコミ意識から始まったようです。(以下、石塚さんのnote参照)

 
アンケートはいわゆる「辞め公(元公務員)」だけでなく、現役の公務員も対象とし、地方公務員が退職を考える、または実際に退職する理由を多角的に把握することを目的としています。
具体的には「どの要因が最も多くの退職者やその予備軍に共通しているのか」「各要因の相対的な重要性や頻度」「組織内で改善が必要な領域(例:労働環境、人事制度、キャリアサポートなど)」を明らかにすることを目的に設問されています。
私も回答しましたし、多くの辞め公、現役の公務員が回答し、1週間程度の回答期間で600を超す回答が得られたそうです。
集計結果が待ち遠しい限りですが、この調査結果が私たち地方公務員の隠れた本音に光を当て、私たちの組織風土や職場環境、労働慣行などの改善、改革に少しでも役立ってくれたらと心底思います。
 
というのも、実は私たち地方公務員の中途退職が増えてきた原因については、あまり実態が明らかになっていないのです。
中途退職者はその退職理由をあまり明らかにしませんし、人事当局も正確には把握できていないでしょう。
例えば、民間企業に転職することが決まり、地方自治体を退職する場合にはその理由は「民間企業に転職するから」という理由で語られます。
しかしそれは「民間企業に転職する」という結果になったことを後から事実として述べているだけで、そもそもなぜ転職しようと思ったのかは全く把握されていないわけです。
職場になんらかの不満があったのか、それは給料なのか、休暇なのか、人間関係なのか、それとも今の環境に不満はないが、将来のことを考え、もっと自分の持つ可能性を引き出す場所を探したくなったのか、などなど、何が原因かは様々だと思いますが、まずは今の職場ではないどこか別の居所を探し始めた理由があり、それが見つかったことで「中途退職」という道を選んでいるのですから、「民間企業への転職」は中途退職の理由ではないのです。
 
私が明らかになってほしいと思っているのは、地方公務員を中途退職した人、あるいは今その検討途上にある人、かつてその過程にあった人が、そもそも最初に「辞めようかな」と考え始めたきっかけと、結果として公務員の職に踏みとどまることができた(あるいはできなかった)理由です。
もちろん、辞めていった仲間たちのことを非難するわけではなくむしろ最大限の応援を常にしているつもりですが、もし彼らが「辞めようかな」と考え始めたきっかけがなかったら、あるいはきっかけがあっても実際に退職に至るまでの間に何らかの改善が図られて「辞めるのを止めよう」と踏みとどまることができていたなら、と少なくとも人事当局には感じてほしいですね。
せっかく一緒に仕事をする仲間として選考し、若いころから手塩にかけて育てた同志が袂を分かつことについて、無自覚、無感情でいられるはずがない。
恋人から別れ話を持ちかけられたら、まず理由を聞くでしょう。
「好きな人ができた」は理由ではありません。
それはまず自分たちの関係に不満や不十分な点があり、その隙間を埋めたのが新しい恋人です。
であるならば、まず「私のどこが悪かったのか」と二人の心に隙間ができた理由を確認し、その理由が生じた原因を詫び、もしやり直すことができるならやりなおそうと、私なら言うと思います。
各自治体の人事当局は、この「私のどこが悪かったのか」を聴いていないように思いますが、どうなんでしょうかね。
 
とはいってもだいたいの場合、別れようと言い出す時点ではすでにその意思は固まっていて、復縁話は手遅れであることがほとんどですし、別れようと思っている時点では、その恋人はもう私のどこが悪かったのかをあげつらうことに何のメリットも見いだせなくなっているでしょう。
なぜなら、現状への不満を持つ人の多くは、現状の環境を形成する当事者で解決できると考えているうちはその当事者に直接働きかけてその改善を図ろうとしますが、その働きかけを行う意欲が失われたときに、人はその環境の外に身を置くことで解決を図ろうとし、現状の改善に興味を持たなくなるからです。
であるからこそ、こういうアンケートの結果から、当事者からは聞き出せない本当の理由、中途退職を考え始めた最初のきっかけは何だったのか、だけでなく、どうしてその理由が現況の改善に至らずに退職という決意に至ったのか、なぜ改善しようという意欲を失わせてしまったのかを把握し、人事当局をはじめとする官房部門や管理職層、首長がそのことを意識することで、私たち地方公務員が辞めたいと思う芽を摘み、やめようかなと思ったときに踏みとどまることができる組織に代わっていくことができるのではないかと思うのです。
 
地方公務員の中途退職については、以前こんなことを書きました。

近年増加している、定年を待たずに地方公務員の世界を卒業していく仲間たち。
その去り行く背中を見ながら私たち「残された者」はどのようにこのことを受け止めるべきか。
この記事で私は、そう悲観することはない、と述べています。
その詳細は記事をお読みいただければわかりますが、さはさりながらせっかく同じ地方公務員としてそれぞれの地域をよくしようと尽力し、互いに励まし合ってきた仲間が櫛の歯が抜けるように去っていくのはやはりさみしいもの。
空前の人材難のなかで、官民、自治体間での人材獲得競争がし烈さを増していますが、人材の獲得にばかり血道をあげるのではなく、今回のアンケートの結果を活かすなどの実態把握により、地方公務員が辞めたくならない、働き続けたくなる職場づくりに意欲的に取り組む自治体間競争が始まってくれたらと思います。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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