サヨナラは別れの言葉じゃなくて
おねえちゃん役所辞めちゃうの
やだよーさみしいーやめないでー
ありがとう 心配しないでいいのよ
役所を辞めて立場は変わるけど
みんなの幸せのために働くのは同じだから
#ジブリで学ぶ自治体財政
4月になり、2週間近く経ちました。
私も新しい職場に着任し、年度替わり独特の期待や不安を胸に抱きながら、自分や周囲の環境の変化のなかで気ぜわしい毎日を過ごしています。
多くの公務員諸氏がきっと同じ思いで日々過ごしておられるのでしょうね。
この春、特に印象的だったのは、定年退職を待たずに卒業し、次なるステージに向かった方が劇的に多かったこと。
このことについては、何かいろいろと書こうと思っていたのですが、山形市役所の後藤好邦さんが地域活性学会JK/実務家研究者応援サイトに寄稿されたものがあまりにも論旨が似通っていたので、昨日まで下書きしていた私の駄文は割愛し、後藤さんの寄稿をご紹介したいと思います。
https://chiiki-kassei-jk.com/archives/2807
後藤さんが伝えたかったのは以下の3点。
①終身雇用の代名詞だった公務員の世界でも転職が一般的なことになった。
②公務員を辞めることは決して「もったいない」ことではない。
③人の流動化が起きている時代に合わせて人事制度の見直しを行わないと良い人材は確保できない。
まったくその通りで異論なく100%同意です。
この傾向はここ数年続いてきたもので、そのたびに私なりの論考を発信してきましたが、今年私が考えを改めたことがあります。
それは、公務員が公務員を辞めて別の世界に行くことを「人材の流出」として嘆くことはない、という開き直りです。
私の市役所入庁時に一般的だった新卒一括採用、終身雇用前提の閉じた雇用形態であれば、社会人1年生の新人時代から10年、20年の時間と労力をかけ、ようやく幹部候補生にまで育て上げたバリバリの中堅職員が突如民間にとらばーゆ(死語)するなどということは「これまでお前に投じた銭を返せ!」と言いたくなる裏切り行為です。
私はこの時代に育った感覚から、中途退職で組織を裏切った職員を責めるのではなく、職員に裏切られ三行半をつきつけられた組織側が猛省し、そのようなことがないよう職員を大事にする職場や組織風土をつくるべきであるというようなことをこれまで言ってきました。
しかし今は転職しながら自分の人生を設計していくことが当たり前の時代。
そんななかでの「人材流出防止」という抗いは時代の流れに逆行するものであり、その姿勢自体が私よりも若い世代の感覚とのずれを大きくしてしまいます。
人材流動化の時代にあっては、養殖池に囲い込んで意のままに育てるのではなく、その流れをどうつかむかが鍵であるということには全く異論がありません。
後藤さんは先ほどの寄稿の中で「人材が流動化する今の時代にあった人事制度を」と提言されていますが、では具体的にどういう仕組みに改善していけばいいのでしょうか。
「魅力的な組織には自然と優秀な人材が集まる」と後藤さんは書いています。
職員に着目した政策を効果的に実施している生駒市の例などを紐解き、従業員満足度の向上による人材確保策の実施を解かれていますが、私はもう少し俯瞰で物事をとらえ、少し天邪鬼になってみます。(後藤さん、スイマセン)
「人材確保」といいますが、そんなに躍起になって市役所の中で働く公務員として優秀な人材を確保し続ける必要があるのでしょうか。
確かに優秀な人材、熱意ある人材が組織の中にいてくれることはとても心強く、自治体経営上望ましい姿の一つだと思います。
しかし、世の中にたくさんいる、いろんな能力を持った方々について、自治体職員として雇用することでしかその能力を市民のために発揮してもらう方法がないわけではありません。
私たちは自治体に雇用された職員だけで市民の幸せを実現しているわけではありません。
自治体職員の雇用形態も、常勤、非常勤、会計年度任用職員など多岐に別れ、以前は職員が担っていた業務の委託化、人材派遣の活用もいたるところで行われています。
公的なサービスは自治体のみで提供されているものではなく、いわゆる公共的団体ではなく純然たる民間企業もその担い手となって私たちの暮らしを支えており、公共サービスを支える官民の垣根は相当に低く、その境目はどんどん希薄化しています。
別に、役所の中だけに公共サービスを担う人材を確保する必要なんてないし、むしろ人口減少時代において地域の中で人材を奪い合うことが新たな摩擦を生む、そんなことも考えあわせなければいけないのです。
これからの時代、人材は組織内で囲い込まず、必要な時に協力を求め、必要な能力をその都度活用できる柔軟な仕組みを組織内に備え、組織の外側と良好な関係性を構築しておく、というものにシフトしていくでしょう。
官民の敷居を低くし、自治体組織の外から中の様子が見えるようにしておき、いざというときに外からの人材が入ってきやすいよう、職員や組織が持つ制度の壁、心の壁も取り払っておく。
オンライン環境さえあれば遠方からテレワークでの業務従事も可能です。
問題が生じたときにその解決を自治体組織の中だけで考えるために人材を確保するのではなく、様々な人的資源に協力を求め、官民連携や外部人材の登用を含め、内外の力をフルに活用するためのネットワーク構築こそが、求められる人材確保策なのではないでしょうか。
そう考えると、自治体を辞めた元職員は立派な戦力です。
経験を積み、自治体の政策や実務に精通した元職員が市井の人としてまちのあちこちにいて外側から自治体運営を眺めてくれていることは、いざというときとても心強いことです。
私はかつて財政課長だった時、それまで優秀な人材を長く囲い込みがちだった人事異動サイクルをやめ、市役所の平均的な異動サイクルに改めました。
異動サイクルを短くして財政課の外に財政課経験者を増やすことで財政に関する知識やノウハウが全庁的に移転していくことを期待していたのですが、その取り組みが功を奏し、10年前に私たちが進めていた枠配分予算制度による局・区組織の自律経営が実現できています。
公務員が別の世界に旅立つのは「人材の流出」ではなく「人材の輩出」だと思えばいいのです。
とはいえ、自分たちの組織で人を育てずに困ったときの外頼みばかりでは、市民も自治体運営の安定性に不安を感じざるを得ず、また外部の優秀な人材、能力を見つけ、協力を求め、対等なカウンターパートとして関係性を構築するためにもそれに見合う一定の能力開発、人材育成は必要です。
ただ、これまでのように自治体組織の中ですべての政策分野に必要な能力をフルラインナップでそろえるのではなく、官民あるいは民民の連携による政策実現を前提として、異なる立場の人同士をつなぐことができる、そのつながりをコーディネートし、全体を望ましい方向に誘導できる、といった人材を育て、そんな人材が活躍し、評価される組織づくりが求められています。
そういった人材が輝き、官民の力を合わせて事に当たる組織の姿を見て「あの職員と一緒に仕事をしたい」「あんな人材を擁する自治体と連携したい」と外から思ってもらえればこれ幸い。
「魅力的な組織には自然と優秀な人材が集まる」ということの真意はこういうことではないかと私は思います。
★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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