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はみだし者たちの言霊

どうして役所をやめるのかって
この仕事が嫌いなわけじゃないよ
うまく言葉にできないな
言えばそこが嫌いになっちゃうから
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
先日の投稿でご紹介した、元横浜市職員の石塚さんが実施してくれた「地方公務員の退職理由に関するアンケート」の結果が先日公表されました。
地方公務員の中途退職者が増えているという報道の中で「給与の低さだけが地方公務員の退職増加の原因であるかのような記事を見てイラっとしたという、単なる義憤がきっかけではじめたアンケート(石塚さんのnoteより)」ですが、10日間そこらの短期間でのネットアンケートに私も含めて全国各地の地方公務員及び元地方公務員1000人以上が協力し、これまで明るみになることがあまりなかった、地方公務員の中途退職の実態が垣間見えてきました。

私たちの仲間が数多く、地方公務員の世界から巣立っていきましたが、彼らは「待遇の不満」を感じて退職、転職していったのか。
給料が安い、時間外労働が多い、仕事を休みにくい…確かにそういう側面もなくはないですが、そんな理由で彼らが地方公務員と言う身分を捨てたと勝手に推察し、それをあたかも真実であるように報じるのは彼らにとって失礼だし、そもそも私たち地方公務員が「待遇がいい」からこの職業を選んだかのように世間一般で思われているのかと思うと、自分自身も忸怩たる思いが沸き、同じ問題意識で実施されたこのこのアンケートに対して、私は大きな期待を寄せていました。

アンケートの結果を見て、協力し回答した多くの公務員、辞め公が「我が意を得たり」と膝を打ったのではないかと思います。
一つの会社団体に終身雇用でその身を捧げる時代が終わり、自らの意思でキャリアを切り開いていく時代になってきたとはいえ「え!この人までも?」という退職事案があまりにも多くて何やらもやもやしていたこの数年間の謎が一気に解けました。
石塚さんのnoteにもありますが、公務員志望理由の1位は「地域社会に貢献したいという思いがあったから」
退職理由あるいは退職を検討している理由の1位は「組織が旧態依然のままで変革が期待できそうにない」
回答してくれた方の多くが、公務員になったときに抱いていた公務員という職業に対する期待(待遇とか安定とかではなく)が、その職場、業界では実現できないという事実がわかってしまったということ。
それは最初から幻想だったのか、私たちの組織が変容してしまったのか、あるいは辞めていった多くの仲間たちが変わってしまったのか、能力が足りなかったのか(いや、そんなことは決してないと思う)、問題の所在はこれからもっと掘り下げていかなければいけないのですが、とにもかくにも「やりがいの喪失」なんですよね。
自分の心に照らしてもそういう部分はあるし、その原因は組織に対しても業界に対しても、業界を取り巻く社会の在り方そのものに対しても思うところはあります。
 
このアンケートは地方公務員全体を対象として実施されましたが、調査は任意の協力に基づくため、「中途退職」というテーマに興味関心を持ち、積極的に回答した人たちの属性に偏り、地方公務員の中途退職に関する実態の全体像を統計的に把握し回答傾向を分析するのには向いていません。
近年増えたとはいえ、まだまだ定年まで勤め上げるのが大多数の地方公務員のなかで、定年を待たずに退職する、あるいはその検討をしているというのは少数派ですし、そんなアウトローたちが役所に不満を持って辞めた、辞めそうだということを業界全体の傾向だと喧伝することに抵抗感を示す方もおられます。
しかしながら、このテーマに入れ食い状態でアンケートに回答した同胞が1000人もいたこと、またその1000人の辞め公あるいはその予備軍の本音が、たとえ少数派だったとしても一定のボリュームで可視化され、その存在が確認されたという意味で、この調査は大きな意義があったと思います。
 
私たちはこのアンケートを通じて、ひょっとしたらパンドラの箱を開けてしまったのかもしれません。
言葉というのは不思議なもので、口から発すると魂が宿ります。
これは「言霊」と言います。
日頃思っていてもなかなか言葉に発することのない「思い」。
「思い」は、頭の中、胸の内にあるだけでは、その存在に誰も気づきません。
自分自身ですら気づいていない場合だってあります。
それを「言葉」にすることは、「思い」に魂を吹き込み、この世の中に存在させる大事なアクションです。
「思い」は「言葉」として発することで自覚し、また他から認知され、この世に存在します。
そうやって言霊を吹き込まれた「思い」は、やがて人の考えや行動に影響を与え、「かたち」になっていきます。
 
アンケートの結果を見て、現在の地方公務員組織で不安や不満を抱えている人たちが「自分と同じ思いを持っている人がいる」と仲間を見つけ連帯感を感じたり、「辞めたい」という自分の内心が覚醒したりして、今後の中途退職の動向に影響を与えるかもしれないと思う反面、辞めようと思うけど辞めずに踏みとどまっているという回答も多数あることで、自分も同じように辞めずに頑張ろうと考える人への励み、エールにもなりえます。
このアンケートで魂を吹き込まれた様々な言葉たちは「言霊の力」によってその言葉を口にした本人だけでなく、その言葉を見聞きした方々の記憶の片隅に残り、きっと何かの影響を与えたことでしょうし、そのことが次の何かに気づくきっかけ、行動を起こす原動力になるのではないでしょうか。
その影響力を考えると、今回の調査は本当に大きな意味があったと思います。

私自身は、このアンケート結果の先にある、地方公務員を中途退職した人、あるいは今その検討途上にある人、かつてその過程にあった人が、そもそも最初に「辞めようかな」と考え始めたきっかけと、結果として公務員の職に踏みとどまることができた(あるいはできなかった)理由について、調査なり考察を深めていきたいと思いました。
アンケートの1位にある「組織が旧態依然のままで変革が期待できそうにない」とは、具体的にどういうことか。
それは「変革」が必要なことなのか。
その「変革」は社会から求められているのか。
もし求められているとしたらその「変革」ができないのはなぜなのか。
その「変革」のために自分ができることはないのか。
その「変革」は誰がどう働きかけ、動くことにより実現するのか。
そんなことを考えながら、日々与えられた公務に邁進しつつ、公務員や地方自治体周りのいろんな課題に光を当て、情報発信し、皆さんと対話による思考と実践を進めていこうと思っています。
 
石塚さんが投げかけてくれている、この結果を踏まえて「明日からあなたは何をしますか」という問いを、このアンケートにビビッドに反応した辞め公やその予備軍の皆さんはもちろんのこと、それ以外の多くの公務員あるいはその外側にいる社会全体で、このような地方公務員の赤裸々な本音の一部を知ってほしいし、地域社会の基盤として全国で仕事をしている私たちのこの思いをそれぞれの地域の皆さんのジブンゴトとして考えてもらえるような環境づくり、雰囲気作りに力を注ぎたいと思いました。
石塚さん、ありがとうございました!
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
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