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血の繋がっていない"おとうと"がいるワケ

私には実弟は居ない。義弟もまだ居ない。
でも"おとうと"がいる。


「もしもしねーちゃん?相談が出来たんで電話かけました」
年に2.3度だけ、忘れた頃にやってくる"私のおとうと"からの電話。
若干敬語を含めながらも、"おとうと"は謙虚に、でもどこか可愛げがある様な話し方で、それは突然かかってくる。




おとうと(略:弟)は私の一つ下の男の子である。
もう20代後半だから男性と呼ぶべきか、でも私からしたら、いつまでも男の子だ。

こう聞くと、昔からの知り合いみたいに聞こえるかも知れない。
違う。
彼は東北出身、私が大学2年生の頃に出会った"後輩"である。
それはもう、勉強が私の5倍出来る生意気な、それはもう可愛げの無い後輩だった。

仲良くなったきっかけは、秘密の共有だった。

当初、私は大学の自治会会長をしていて、嬉しいことに慕われていたのか、もしくは馬鹿にされていたのか、名前が一人歩きしていた。
たまに知らない子からも声をかけられては仲良くなっていく、そんな日々だった。


弟と初めて話した時は覚えていないが、生徒会主催の相談会に立ち寄ってくれたんだと思う。顔だけは覚えていた。
同じ授業を受けた時に、知らずに一番前の座席で前後になり、授業中にこっそり相談を持ちかけられた。


「あの。今度、嵐山に行こうと思うんですが、どんな所か分かりますか?」
「あー私、最近行ったよ。詳しくは無いけど、今なら暑すぎもないし丁度良いんじゃない?」
「何があるんですか?」
「行けば分かる」
「聞く人間違えました。Googleに聞きます」

もう一度言う。以前から顔見知りだが、そこまで話したことはない。なんだこいつ。私、質問されたんだよね?え?可愛げないね?

見た目は福士蒼汰似な感じでインテリの高身長。モテてもおかしく無いのに、可愛くない。年下を可愛がりたいのに、可愛くない
…でも何故か、後輩だからか、ほっとけなかった。


「なあなあ、デートなんやろ?この時期雨降るから傘持って行きなよ。降った時にぱっと出してこられたら、彼女嬉しいだろうから」
後ろから声を掛け、反応を探る。

「彼女居ませんし、女子じゃないです」
「あー違う違う。彼女にしたい女の子を連れて行きたいんだよね?楽しいなぁ。若いなぁ」


19歳が18歳に言う、オヤジみたいな絡みがウザかったのか無視をされた。ほんと可愛くないやつ。けど分かりやすく面白い。


---


翌週の同じ授業中、気になって聞いてみた。私は大阪のおばちゃんの様な、お節介おばさんの19歳に成り上がっていた。


「で。嵐山どうだった?傘、役に立ったんじゃない?」
「雨は降らなかったですが、その日は特別に日差しが強かったんで、晴雨兼用傘だっ…いや、なんでもないです」
「いや、絶対女の子やん」
「…。次の問題分かります?」


静かに話しながらも、先生にはバレている。
会長として生徒の模範にならないといけないらしいが、そんな事言ってられなかった。明らかに誤魔化そうとしてる辺りが可愛くて。顔を机に向けながら、笑いが止まらなかった。


「なんで勉強出来ないくせに、そういうところだけ鋭いんですか。ほんとに、もう。困った人だ」
「おいこら待て。ディスるな」


そう言いながら彼は続けた。
実はまだお付き合いをしていない事。嵐山が初めてのデートではない事。仮に付き合っても誰にも卒業するまで公言しない事。 

「付き合えそうなの?どんな子?私知ってる?」
「絶対に知らないでしょうし、付き合えても言いません」


固いというか、真面目と言うか。彼女(仮)を大切にしたい気持ちは痛いほど分かるけど、ほんと可愛く無いなぁ。


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翌翌週、彼から「何で聞いてこないんですか?」と尋ねられた。
なんだ、やっぱり公言しないと言っても"害にならない誰か"には話していたいよね。そう思って意地悪をしてみた。


「話したいんでしょ、聞いてあげる」
「そんな事ないですよ。ただ、先輩の性格上、気にならないのかなと思って。別に話さなくても僕は大丈夫です」
「付き合えたから自慢したいんだよね。そっか!おめでとう!」
「だから、僕はそんな事言ってません!」
「ムキになってる時点で分かるから、ほかにバレたくないなら気をつけなよー。あー良いなぁ若くて!」





そこからは話が早かった気がする。すぐにLINEの交換をした。
学業の事で相談をされて、代わりに学校のイベントに参加して貰う、win-winの関係ないを築いた。

仲良くなって2ヶ月後には、まるで本当の弟の存在の様に可愛かった。可愛くないところが可愛く思えた。
"異性だけどLOVEじゃない愛おしさ"を感じてしまうのは、曲がれもなく弟の様だった。
弟を持つってこんな感じなのかな?と温かい気持ちになった。
弟側もそう思ったのか、実姉も義姉も居ないが"ねーちゃん"として慕ってくれた。


弟は私に対して、奢ってくださいなど一言もいう事はなく、"会話"しか求めてこなかった。

彼女の顔写真やデートの自慢、プレゼントの相談、デートの過ごした方、何でも聞いてきた。
まるで恋愛相談所かの様に。恋愛経験が非常に少ない私に。


---


そして弟は彼女を日本に残し、カナダに留学をした。

カナダと日本。時差が長く、タイミングが合う事は少なかった。だが当時、弟は週1のペースで突然の電話をしてきた。

「あのさ、いつも思うけど、私に電話するの嬉しいけど、彼女は?」
「ああ、彼女はLINEしかしません。僕の彼女、ねーちゃんと比べて忙し方なので、電話しても出てくれませんから」

え、えーーー?
やっぱり理解できない。まだ友達界隈に公言もして無いから私にしか話す相手が居ないんだろうけど、いやいやいや。彼女に電話した方がいいんじゃないかな?
私の存在知られたら怒るんじゃないかな?
本気で、姉として、弟の幸せを願っていた。





弟が留学から帰ってきても、私が新卒で他府県に行っても、3年以上会っていなくても、弟からの相談や報告は必ず年に2.3度あった。
将来を見据えて転職する事や、英検1級目指す事。
彼女への6度目のクリスマスプレゼントなんて、私には経験無さすぎて考えられなかった。
「6回目ともなると、ぶっちゃけもうなんでもよくない?って思うのは僕だけですか?」
「6年も誰かと付き合った事無いから分からへんけど、女子は欲しいだろ知らんけど」





私が彼を"おとうと"として仲良くするには理由がある。

弟は凄いやつで、良い奴。
生き方が変わっていて面白い。
遠いけど刺激をくれる、心が近しい存在。

趣味は勉強と答える程の勉強好きで私とは真逆の存在である。元々は超絶の理系。だが文系の大学に入学してきた。


「コロナで困った事ですか?僕、毎日自宅で勉強してますから、別に大して困ってません。勉強をわざわざカフェでするタイプじゃ無いですし、マスクが勿体ないですし。あ、来週英検1級受けます。その電話でした。喝下さい」

こういう電話を貰うたびに、勉強しなきゃという気持ちにさせてくれる。会社の苦労話よりも勉強の話。こんな奴は私の友人界隈には一人もいない。存在が有難い。
頑張れとは言ってこない辺りが、ちょうど良くて有難い。



でも、何で。

何故弟は私に電話をかけてくるのか。
偏差値40と70くらいの差があり、職種も違う。考え方も、実家の宗教も違う。
仲良くしてた○○くんは元気?と聞いても、3年以上連絡取ってないと言われる。
英検1級を合格した時も、一番に電話してきた。

弟にとって私はなんなんだろうか。そう考えた時、一つの仮説がたった。


弟と私は若干似ている。呼吸の仕方が似ているのか、話すタイミングや間の取り方、ツッコミの入れるタイミングも息ピッタリで、以心伝心かと思う時が多かった。分かりやすいと感じてしまうほどに。
 

そして、そもそも弟は周りから評価される事が少ない。年下としては、可愛く無いからだ。だが、実際末っ子の弟は褒められたい性分だと思う。

私と言えば、周りを評価する天才だと自負している。社交辞令で褒めるは得意ではない。
褒めるよりも感心して、心から思っていることしか言わない。


だからだろうか。
弟は私の言葉を嘘だと思った事はないと思う。「ねーちゃんがそう言うなら、きっとそうですね」
「やっぱりそうですよね。ねーちゃんが同じ考えで良かったです」

何度も言うが、励ましてるつもりも、褒めてるつもりも無い。それが心地いいのか、気を使われていない感が嬉しいのか、必ず連絡がくる。


私に弟がいるワケは、
友人よりも客観的に見る事が出来て、会社の繋がりでも無ければ、リアルな家族でも無い。
遠すぎず近くもない存在であるのに、どこか似ている。相談しやすい。
なおかつ、絶対に恋愛関係にはならないと断言出来るからだ。


弟よ。
私の弟になってくれてありがとう。
ねーちゃん、これからも貴方に頼られるねーちゃんになるね。
貴方の頑張りは私の力になる。いつもありがとう。


チョコレートに牛乳



なっがい文章になりました。
リアルには実弟は居ません。ニセモノの"おとうと"
なんなら、弟と同じ名前の兄が居ます。

私が弟の様に接したいと決めた男の子は何人か居ますが、この"おとうと"との絆には負けます。


20代、フリーランスとして生きるそうで応援しています。
彼女との結婚も早くして、彼女と共に幸せになって欲しいところ。

ちなみに、おとうと、と表記するのは、可愛くない彼が、少しでも可愛く見える様にと、平仮名の可愛さに頼り"おとうと"としています。笑


写真は去年のおとうとです。
リアルに存在しています。笑



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