大澤悠子

パリ在住のピアニスト,コレペティトゥア。 東大美学→武蔵野音大院→ピアノ講師,中学高校…

大澤悠子

パリ在住のピアニスト,コレペティトゥア。 東大美学→武蔵野音大院→ピアノ講師,中学高校社会科総合科教員→パリで学生に戻りコレペティの勉強→ショーモン音楽院勤務を経て現在カシャン, オルレアン, アティス・モンス音楽院のコレペティ。Stein-lein-chenメンバー。

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    SDGsを知る・楽しむ・行動するをテーマに専属ライターが独自の視点から社会のSDGsを語ります。より多くの人たちにSDGs理解啓発を目指したオンラインマガジン。

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歌のシェフのおいしいお話(16)ペレアスとメリザンド その6

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくおつき合いくださいませ! さて、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》をとりあげて既に6回目ですが(オペラのあらすじはこちら、ここでとりあげている第一幕第二場の全訳はこちら、人物相関図はこちらをご覧ください)、今までの5回は全部前置きでして、いよいよそれを踏まえて「どう歌うか」を考えます。 これは演奏者にとっては最も興味深い段階ではあるけれど、一番言葉にしにくいし、歌手によって無数の「正解」、無限の可能性があることなので一般

    • 【全文公開】2020年、コロナの「おかげ」で変わったこと

      2020年がどれだけ変な年だったか、渦中にいる我々にはまだ十分には実感できていないに違いないけれど、例えば本来なら長い時間をかけて浸透して行くような生活スタイルや習慣の変化がいとも乱暴に、強制的に達成されてしまったことは殆どの人が身の回りで実感していることだろう。 例えば、コロナ以前、ヨーロッパにいる日本人にとっては長いこと、「風邪を引いていても、予防のためであっても、マスクをして歩いたら現地人から黴菌を見るような目で見られる」というのはよく知られた話だった。ヨーロッパ人に

      • 歌のシェフのおいしいお話(15)ペレアスとメリザンド その5

        引き続き、ドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》の第一幕第二場に注目します(訳は前々回の記事、人物相関図は前回の記事をご覧ください)。 この場面を読んで気になった点を検討してみます。 ゴローは6ヶ月間どこで何をしていたのか?ゴローが書いてよこした手紙には、「メリザンドと結婚して6ヶ月になるが…」とありますが、狩りの途中に道に迷い、メリザンドと出会って(その後どのタイミングで結婚したかは不明ですが、とにかく結婚して)から、船の中からペレアスに宛てて手紙を書くまで、ゴロー

        • 歌のシェフのおいしいお話(14)ペレアスとメリザンド その4

          数回にわたってドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》、特に第一幕第二場を取り上げています(訳は前回の記事をご覧ください)。 単に手紙を読むだけの場面のようですが、いろいろな情報が満載。 まずは、このロイヤルファミリーの複雑な関係の一端がすこーし、明らかになります。 手紙の中で、ゴローとペレアスは兄弟は兄弟でも、父親が違うと述べられています。 ジュヌヴィエーヴはこの城の出身ではない(約40年前に嫁いできた)と次の場面で言われているので、彼女がアルケルの娘というわけでは

        歌のシェフのおいしいお話(16)ペレアスとメリザンド その6

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          歌のシェフのおいしいお話(13)ペレアスとメリザンド その3

          今回から第一幕第二場、「城の中の一室」の場面を取り上げます。 これは冒頭、第一幕第一場「森」で道に迷ったゴローが泉のほとりで泣いているメリザンドを発見し、いまいち噛み合わない会話を行った後の場面です。城でゴローの帰りを待つ母ジュヌヴィエーヴが、老王アルケルに向かって、ゴローがペレアスに宛てて書いた手紙を読んで聞かせます。 ジュヌヴィエーヴ 「これが、彼が弟ペレアスに書いてよこした内容です。 『ある夜、ある泉のほとりで泣きじゃくっている彼女を見つけた。私が道に迷った森の中

          歌のシェフのおいしいお話(13)ペレアスとメリザンド その3

          歌のシェフのおいしいお話(12)ペレアスとメリザンド その2

          (Photo : Vincent Pontet) さて、前回に続きオペラ《ペレアスとメリザンド》について。まずはあらすじをさらっと。 アルモンド王国の王子ゴローは狩の最中に森で道に迷ってうろうろしていたところ、泉のほとりで泣いている少女に出会います。ゴローがいろいろ尋ねますが、名前はメリザンド、と答えたほかは、どこから来たのか、どうしてここにいるのかなど何一つ話そうとしません。しかしゴローはメリザンドを妻として迎えることに決め、国王である祖父アルケルや母ジュヌヴィエーヴの

          歌のシェフのおいしいお話(12)ペレアスとメリザンド その2

          歌のシェフのおいしいお話(11)ペレアスとメリザンド その1

          《月の光》や《亜麻色の髪の乙女》といったピアノ曲は日本でもわりと広く親しまれているドビュッシーですが、声楽曲の分野でも名曲をたくさん残しています。彼は若い頃に歌のレッスン伴奏のバイトをして糊口を凌いでいて、そこで出会った歌手のヴァニエ夫人(ということはヴァニエさんの奥さん。人妻ですよ)にぞっこんになって彼女のために何十曲もの歌曲を書いたりしています(天才にインスピレーションを与えるミューズというのはこういう人のことを言うんですね、ヴァニエ夫人ほんとにありがとう…)(ちなみに彼

          歌のシェフのおいしいお話(11)ペレアスとメリザンド その1

          女性管理職の割合の話

          おなじみの半沢直樹の東京中央銀行の役員会議室。見渡す限りおじさんばかりだ。これがどの程度現実を正確に反映しているのかは知らないが、女性管理職の割合の少なさは世界でもたびたび問題になっている(ちなみに半沢直樹シーズン2ではこのように女性3名が申し訳程度に役員会議に加わっている。もちろん発言はゼロ)。 ところが、なんと先日パリ市は逆に女性管理職が多すぎるという理由で公共変革・公務員省から罰金を請求されたという。 自ら史上初めての女性パリ市長を2014年以来務めているアンヌ・イ

          女性管理職の割合の話

          シビルユニオン

          「シビルユニオン」という言葉も近年ではだいぶ市民権を得てきたように思える。これは異性間の婚姻と同等の権利を同性カップルにも認めようという制度のことである(具体的な権利や義務の内容は地域によって違い、異性カップルに対しても適用が認められているところもある)。 日本でも東京の渋谷区と世田谷区で「パートナーシップ制度」が始まったのが5年前。今は60以上の自治体に広がっているという。 日本の場合は法的な効力はなく、制度を利用していても配偶者控除を受けることや遺族年金を受け取ること

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          (全文公開)果物売りのマエストラ

          オーケストラの指揮者のことを敬意を込めて「マエストロ」と呼ぶことがあるのを聞いたことがある人もいるかもしれないが、先日パリでは「ラ・マエストラ」(マエストロという言葉の女性形)という、女性の指揮者を対象にしたコンクールが初めて開かれた。 昨年日本人の沖澤のどかさんが伝統あるブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したことが話題になったように、女性の指揮者の活躍もこの頃では目にする機会が増えてきた。それでも、実際に指揮者の世界での女性の割合はまだ5%前後だという。 社会にこの状

          (全文公開)果物売りのマエストラ

          「インテリ」の話

          地球温暖化対策のための「パリ協定」からの脱退決定に象徴されるように、アメリカのトランプ政権はSDGsの達成に対して極めて後ろ向きな態度だった。が、そのトランプ氏がホワイトハウスを去ることに決まった。勝利したバイデン氏は協定への復帰を訴えており、我々としてはその実現を期待したい。 4年前にトランプ氏の当選を支えた主な支持層は「低学歴白人層」に分類される人たちで、今回も彼の陣営はこの層に対する熱心な投票呼びかけを行っていた。 アメリカ大統領選挙の報道では、「ヒスパニック」「黒

          「インテリ」の話

          歌のシェフのおいしいお話(10)緊張をなんとかする

          図太そうな印象を与える顔なのかどうか知りませんが、昔からピアノの発表会の折などには他の出演者から「緊張しなそう」としばしば言われていました。 が、とんでもない!緊張しますとも。「緊張で手が震える」「足が震える」という表現がありますが、ピアノを弾いている最中にも文字通り手とか足とかが震えた経験があります。漫画のように歯がガクガクいっていたこともあります。我ながら悲惨です。 ただ、いろいろなシチュエーションで30年ピアノを弾いてきたおかげで、そして何より伴奏業の経験のおかげで

          歌のシェフのおいしいお話(10)緊張をなんとかする

          核兵器禁止条約をめぐって

          核兵器の保有や使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約の発効が先日決まったが、日本は「核軍縮は核保有国とともに段階的に進めるべきだ」として、不参加の姿勢を表明している。 核保有国の中国やロシアに近接し、北朝鮮の脅威にも直面する日本がこれまで選択してきた「核の傘」、すなわち核兵器を含むアメリカの軍事力に依存した安全保障政策が、この条約が禁止する「使用の威嚇に対する『援助、推奨』」にあたる可能性がある以上、現段階でおいそれと参加するわけにはいかないというわけだ。 しかし、日米安全保

          核兵器禁止条約をめぐって

          (全文公開)「表現の自由」とSNS時代の授業

          パリ郊外で、授業中にムハンマドの風刺画を見せた中学教師が殺害された衝撃的な事件に文字通り言葉を失って、記事にするのに時間がかかってしまった。 以下の記事では事件の背景も含めて概要が述べられている。 https://www.google.co.jp/amp/s/japan-indepth.jp/%3fp=54341&amp 数日後、犠牲になったパティ先生はフランス最高位の勲章、レジオンドヌールを授与され、国葬というかたちでマクロン大統領の弔辞に送られた。 https:/

          (全文公開)「表現の自由」とSNS時代の授業

          シングルのスキル in 1930s

          マージョリー・ヒリスという女性をご存知だろうか。 1889年、アメリカのイリノイ州生まれ。現在でも有名なファッション誌、ヴォーグの編集者として活躍していたが、何よりその名を有名にしたのは彼女が1936年に出版した”Live Alone and Like it”という本。 その年の全米トップ10入りするほどの売り上げを記録したこの本は、タイトルの通り、様々な理由で一人で生きる女性にエールを送り、快適でエレガントなシングルライフのスキルを多くのケーススタディとともに紹介してい

          シングルのスキル in 1930s

          エココンシャスドライバーのつくりかた

          先日、近所の自動車教習所に申し込んでみた。 日本で学生のときに取得した免許はまだ有効なのだが、それではこちらで運転できないので(フランス到着後1年以内に免許の切り替え手続きをすればよいのだが、そうすると日本の免許は返納することになって不便だし、うかうかしているうちに1年をとっくに過ぎてしまっているのでどちらにしろ手遅れ)、思い切って教習所の門を叩いた。 でも、日本の教習所のような、コースのある敷地は見当たらない…と思っていたら、最初の路上教習でいきなりパリの街中を走ること

          エココンシャスドライバーのつくりかた