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歌のシェフのおいしいお話(13)ペレアスとメリザンド その3

今回から第一幕第二場、「城の中の一室」の場面を取り上げます。

これは冒頭、第一幕第一場「森」で道に迷ったゴローが泉のほとりで泣いているメリザンドを発見し、いまいち噛み合わない会話を行った後の場面です。城でゴローの帰りを待つ母ジュヌヴィエーヴが、老王アルケルに向かって、ゴローがペレアスに宛てて書いた手紙を読んで聞かせます。

ジュヌヴィエーヴ
「これが、彼が弟ペレアスに書いてよこした内容です。

『ある夜、ある泉のほとりで泣きじゃくっている彼女を見つけた。私が道に迷った森の中でのことだ。私は彼女の年齢も、彼女が誰なのかも、どこから来たのかも知らないし、思い切って問い詰めることもできない。なぜなら彼女はどうやらひどく恐ろしい経験をしたらしく、何が起こったのかと尋ねられると、彼女は子供のように突然泣き出して、それが本当にひどい泣きようなので、こちらが怖くなるほどだからだ。彼女と結婚してもう6ヶ月になるが、彼女のことについて、出会った日に知った以上のことは何も知らない。

さしあたり、親愛なるペレアス、父親が違うにもかかわらず単なる弟という以上に愛しいペレアスよ、さしあたり、私の帰還の準備をしておくれ。お母さんは喜んで私のことを許してくれるだろうということはわかっている。しかし私はアルケルが怖いのだ、彼の善良さはわかっているんだけれども。彼がそれでも彼女を受け入れることに、それも自分の本当の娘のように受け入れることに同意してくれるなら、この手紙が着いてから3日目に、海に面した塔のてっぺんにランプを灯してくれ。我々の船のデッキからそのランプが見えるだろう。そうでない場合は、私はもっと遠くに行って、もう戻ってこない。』

…どうお思いになられますか?」

これに対する老王アルケルのコメントがこちら。

アルケル
「何も言うことはない。これは奇妙に見えるかもしれないがね、なぜなら我々は絶対に運命の裏側しか見ることはできないのだからね。我々自身の運命のでさえも。

彼は今までいつも私の助言に従ってきた。私は、彼にユルジュル姫との結婚を申し込みに行かせることで、彼を幸せにしてやれると思っていたのだ。彼は一人のままではいられなかったんだ。妻が亡くなって以来、彼は一人でいることを悲しく思っていた。それに、この結婚は長い戦争、古い憎しみを終わらせてくれるはずのものだったのだ。彼はそうは望まなかった。

彼の望んだ通りにしてやるがいい。私は運命の邪魔をしたことはないんだ。彼は自分の未来を私よりよく知っている。意味のない出来事というのはおそらくないんだろう。」

ジュヌヴィエーヴ

「彼はいつでもあんなに慎重で、あんなに謹厳で手堅かったのに…奥さんが亡くなって以来、彼は息子のためだけに生きていました、ちいさなイニョルドのため…全部忘れてしまったのね…どうしましょう?」

そこにペレアスが入ってきます。

アルケル
「入ってきたのは誰だね?」
ジュヌヴィエーヴ
「ペレアスです。泣いていたのです。」
アルケル
「お前かい、ペレアス。もう少し近くにおいで、お前を明るいところで見られるように」
ペレアス
「おじいさま、お兄さんの手紙と同時に、もう一通の手紙を受け取ったのです。友達のマルセリュスの手紙です。彼はもうすぐ死ぬんです、そして私を呼んでいるんです。彼は、死が何日にやって来るのか、正確にわかっていると言っています。彼は、もし私が望めば、死がやって来る前に彼のもとに到着できる、でも無駄にする時間はない、と言っているのです。」
アルケル
「しかし、しばらく待たなければいけないよ。お前の兄さんの帰還が我々に何をもたらすのかまだわからない。それに、ここ、我々の真上にお前のお父さんがいるのではないかね、もしかしたらお前のその友達よりもひどく患って…お前は父親と友達を秤にかけることができるというのかね?」 

(アルケル退場)

ジュヌヴィエーヴ

「ペレアス、今夜からランプを灯すようにしておくれ」

(ジュヌヴィエーヴとペレアス、別々に退場)

以上でこの第二場のやりとりは終了。オーケストラによる間奏を経て、第三場、ジュヌヴィエーヴが嫁のメリザンドを案内して庭を散歩する場面に至ります。

一読しただけでもいろいろな情報が満載です。皆さんはどんなところが心にひっかかりましたか?

とりあえず今回は訳を紹介しました。現在ネット上で見つかる他の対訳よりも(現代的な日本語という点でも、原文との対応という点でも)わかりやすくなるように努めたつもりです。
次回は中身を分析しながらつっこみを入れていきたいと思います。
つづく!!

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