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歌のシェフのおいしいお話(12)ペレアスとメリザンド その2

(Photo : Vincent Pontet)

さて、前回に続きオペラ《ペレアスとメリザンド》について。まずはあらすじをさらっと。

アルモンド王国の王子ゴローは狩の最中に森で道に迷ってうろうろしていたところ、泉のほとりで泣いている少女に出会います。ゴローがいろいろ尋ねますが、名前はメリザンド、と答えたほかは、どこから来たのか、どうしてここにいるのかなど何一つ話そうとしません。しかしゴローはメリザンドを妻として迎えることに決め、国王である祖父アルケルや母ジュヌヴィエーヴの懸念を半ば脅迫するようなかたちで押し切ります。
メリザンドは陰気な城になかなか馴染めませんが、ゴローの弟ペレアスとは仲良くなり、心を許すようになります。二人の仲を疑い始めたゴローは、前妻との間の子イニョルドから自分のいない間の二人の睦まじい様子を聞き出し、嫉妬に狂います。そして遂にペレアスとメリザンドが互いに愛を告げた次の瞬間、物陰から二人を見ていたゴローはペレアスを刺し殺してしまいます。妊娠中だったメリザンドはショックで倒れますが間もなく女の子を出産し、ゴローの追及にまともに答えることもなく亡くなります。アルケルは赤ん坊を抱いて「次はこの子の番だ」と呟くのでした。

とまぁ、誰も幸せになっていない、なんともやり切れない話です。

ちなみに私としては一番心を揺さぶられるのはゴローの役です。
メリザンドは誰のなんの質問にもまともに答えない、つかみどころのない水の精のようで感情移入のしようがないし、ペレアスは若々しくていいんだけれどももうちょっとよく考えて行動して欲しいし、アルケルは賢者のオーラを出しているわりには致命的な判断ミスを繰り返してこの悲劇を引き起こす環境を作った責任者のように思えて頭にくるし…、でもゴローはその疑い深くカッとなりやすい性格も含めて最初から最後まで人間的で、つかみどころのない妻を理解しようと努力して苦しんだり、ペレアスとの不貞を確信して虐待したり、弟を殺してしまった後でひどく後悔して、それでもやっぱり「弟と妻は本当に不倫関係にあったのか?」を知りたくて、確かめたくて、病床の妻を問い詰めずにはいられない…、徹底的に人間的です。
作曲者ドビュッシー自身、近しかった人の証言によれば「非常に猜疑心が強く激しやすい」性格だったらしいので、彼にとってもゴローは自分の一面を反映しているようなキャラクターだったのかも知れません。

ピアニストの瀬川玄さんは、ドビュッシーは「ペレアスとゴローの両方に自分のちがった面を投影している」というように解釈していらっしゃいます(ペレアスが人妻に惹かれる傾向、長髪の美女好き、バルコニーから忍び込んで逢い引きするような若気の至り的な振る舞い、などなどが若かりし頃のドビュッシーその人のようだと)。なるほど。

次回はいよいよ注目したいシーン、第一幕第二場:ジュヌヴィエーヴがアルケルにゴローからのペレアス宛の手紙を読む場面を詳しく取り上げます。
つづく!


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