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【全文公開】2020年、コロナの「おかげ」で変わったこと

2020年がどれだけ変な年だったか、渦中にいる我々にはまだ十分には実感できていないに違いないけれど、例えば本来なら長い時間をかけて浸透して行くような生活スタイルや習慣の変化がいとも乱暴に、強制的に達成されてしまったことは殆どの人が身の回りで実感していることだろう。

例えば、コロナ以前、ヨーロッパにいる日本人にとっては長いこと、「風邪を引いていても、予防のためであっても、マスクをして歩いたら現地人から黴菌を見るような目で見られる」というのはよく知られた話だった。ヨーロッパ人にとってはマスクをすることが大変非日常的なことで、するのはよほど人に感染させたら危ないような病気を持っている場合のみ、といったような感覚がはびこっていた印象がある。日本人をはじめアジア人にとっては以前から予防のためにマスクをすることもごく普通のことだったけれど、その習慣をヨーロッパで実行すると違和感を持たれるということがしばしばあった。

しかし新型コロナウィルスへの対策ということで、筆者のいるパリを含めてヨーロッパ各地で外出時のマスク着用が義務になった。どんなときも義務的にマスクをしていなければならないのは個人的にも苦痛で、早くこんな状態から脱出できることを願うばかりだが、それでも今回のマスク義務化が、みんながマスクの効能を思い知るきっかけになったことは確かで、これからは単なる風邪でも、あるいは予防のためでも、マスクをしようと思う人も出てくるかも知れない。もしかしたら全然そんなことはなくて、コロナのネガティブな思い出と共に記憶されるだけかも知れないけれど、それにしてもマスクはヨーロッパの人にとっても「まったく馴染みのないもの」「見慣れないもの」ではなくなった。コロナの「おかげ」だ。

あるいはテレワーク。
適切なライフ・ワークバランスを見つけることは以前から大きな社会的課題だったが、その達成を助ける手段の一つであったテレワークがこのコロナ禍で広く推奨されるようになった。そしてテレワークの経験者の9割が継続を希望しているという。

通勤ストレスが軽減されるという大きな利点の一方で、コミュニケーションが取りづらい、管理や評価が難しいといった問題も指摘されている。しかし、多くの人がテレワークを体験してみたことで、実際にやってみるまでは気付かなかった細かいメリットや問題点をそれぞれが実感することになり、テレワーク賛成派と反対派の間にグラデーションが出てきたという見方もある。

この記事が指摘しているように、テレワークの一つの帰結は「会社=ワーク/家=ライフ」という区切りが曖昧になることだ。そもそもライフ・ワークバランスとは「ライフ」と「ワーク」を対立するものとして捉えてそのバランスをうまく取ろうという発想だが、最近は「ライフ・ワークインテグレーション」といって、「ワーク」と「ライフ」を「どちらも人生を充実させるための大切な要素」と考えて双方を統合させて生活の質を向上させようとする取り組みがあるそうだ。

具体的には、テレワーク、フレックス勤務、時短勤務等の柔軟な働き方を選択できるようにすることによって、個々のプライベートの事情に合わせた生活と仕事のリズムを設計することができる、その結果仕事の生産性もそれぞれの幸福度も高まるという考え方だのようだが、それを受け入れる準備のできている企業ばかりではないこともまた事実だろう。

今年、ちょうど小泉進次郎環境相が育児休暇を取得したことが話題になっていた頃、日本のあるイベントで中小企業の社長さんたちとお話する機会があった。そこで彼らが言っていたのは、「建前はわかる。育休も時短も大事だ。しかし自分のところのような規模の小さい会社で誰かが育休を取ったりプライベートな都合で時短勤務になると、あるいは複数の社員が同時にそういった状況になると、他の社員がもろにその分の仕事の負担を負うことになる。社員の待遇の公正を期し、どこからも不満が出ないように対応するのは経営的にも苦しい」ということだった。だから「大臣という重要な職務についている人にに先頭を切って育休を取られたのでは困る」という声も聞いた。これは私にとっては大ショックで、自分が前世紀に迷い込んだような気がした。
大臣のように重要な職務についている人でも育休を取る必要があるほど、育児は両親が共同(分担の内容はカップルによって異なるにせよ)で対処すべきことである、ということを示したのは、たとえたかだか数週間のパフォーマンスであったとしても、意味があったと思う。しかしそうは受け取れない経営者たちもいるのだ。
建前はわかっていても現実的になかなかそれを推奨できない企業、結果的に「ライフ」と両立できるような働き方を選ぼうとする人が白い目で見られる社会、その状況がコロナによるテレワークの普及とそれに伴う働き方全体を見直す動きの「おかげ」で、少しは変わらざるを得なかったかも知れない。それが持続可能な変化であるように、実際に「ライフ・ワークインテグレーション」の理念が社会の隅々まで行き渡るには個々の意識改革だけでなく行政の手助けも必要だ。

2021年、そういうことが少しずつでも達成に近づく年になりますように!

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