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これから、これから、、、。読書記録 女たちの避難所

読書記録 女たちの避難所
垣谷美雨さん、2017年 新潮社



本屋さんで、垣谷美雨さんの本をみつけて思わず手に取りました。

垣谷さんは、ここ数年で何冊か読んでいます。

「70歳死亡法案、可決」などは、

ドッキリするようなタイトルでしたが、終盤の展開はとても爽やかでした。


女性の立場から家族との生活の中での葛藤を、リアルに時にはコミカルに描いていく作家さんのように思います。

さて、今回は「女たちの避難所」、題名通り避難所での暮らしぶりと、その後の進展が描かれています。

東日本大震災の後、実際に知り合いの方のお話を聞いたり、避難所をいくつも回って被災地を歩いて、その体験を形にしたいとペンを取ったそうです。


もしかしたら、今これを読んでいる方の中で実際に避難所での生活を体験された方がいるかもしれません。辛い体験を思い出されてしまう方はどうぞスルーして下さいね。


◎あらすじ
✴︎主人公1 椿原福子(福子)は、50代半ば。保育士をしていたが、少子化のため雇い止めとなり今は酒屋で働いている。

ある日、スーパーで買い物をしていると、立っていられないほどの揺れを感じ、棚の商品が次々と落下する。

揺れが収まって、食料を出来るだけたくさん買い、クルマで帰る途中、津波の警報が、なる。

高台に避難しようとしたら、あっというまに後部の窓ガラスが割れ、津波に飲み込まれた。


✴︎主人公2 漆原遠乃(遠乃)は、20代半ば。生後6か月になる智彦と、夫の岳彦と、岳彦の両親と兄で暮らしていた。

家の二階にいる時、大きな揺れを感じて、赤ん坊の岳彦を抱っこしながら、階下に降りていき、津波を心配する遠乃が避難を促すのも、年老いた義父は頑なに固辞した。

そんな時、友達の信子が「地震の後はスーパーが混むから早めに買い物に行こう」と車で誘いに来る。
それは、結果的に遠乃と智彦を救うことになった。



✴︎主人公 3 山野渚(なぎさ)は、母と二人で港町で喫茶店「なぎさ洞」を経営する40代のシングルマザーだ。渚は昼下がりに小学5年生の息子の帰りを待っている時、大きな揺れを感じ立っていられなかった。

出口を確保しようと外に出ると、地面がパックリ割れていた。揺れが収まってから、物が散乱する部屋を片付けていると、消防車が津波警報を発してきた。


2階に上がり片付けを続けていると、ドーン!という音と共に、家がグラリと揺れて、フワリと浮いた。階下をのぞくと、黒い水が押し寄せて来て、、、。



◎気になった箇所
43ページ
✴︎(渚は)生まれ育ったこの鷗ケ浜市が大好きだ。ここは世界で一番美しい所ではないか、と思う。青い海の中に緑の島々が浮かび、内陸側にはこんもりした山や丘がいくつも連なり、その間を鮎の泳ぐ清流が流れていく。

81ページ
✴︎✴︎体育館には既に大勢の人が避難してきていた。
底冷えする寒さだった。二重に履いた靴下の下から床の冷たさが伝わってくる。  中略


福子は仰向けに寝そべって瞼を閉じた。
ボロ雑巾のように疲れていた。もう1ミリも動けない。体力の限界をとっくに超えている。だが神経だけは妙にピリピリしていた。この分だと、今夜も眠れないかもしれない。となると疲労が更にたまる。
それなのに、眠れない。この悪循環はしばらく続くのだろうか。

141ページ
✴︎✴︎✴︎(避難所のリーダー、阪神淡路大震災の時避難所のリーダーを経験した年配の男性)
「あのね、皆さん、よく聞いてくださいね、私たづは家族同然なんです。これからも協力して生活せねばなりません。つまりひとつにならなければなんねってごどです。だから互いに絆と親睦を深めましょう。連帯感を強めて乗り切っていきましょうよ。」
中略
「だがらね、我々に仕切りなんでものはいらねえです。」



◎感想
✴︎海辺の風光明媚な港町。このお話の舞台となった鷗ケ浜市は、私の故郷を少し大きくして、漁師さんや水産業の人や商店や酒場がたくさんある町。
なんとなく、懐かしい気持ちがした。そしてそのかけがえのない風景が一瞬のうちに飲み込まれたことに、胸の奥がぎゅっとなる感覚があった。


✴︎✴︎底冷えする体育館の床に段ボールを敷いて、横たわる、どんな感じだろう。家族を探して足を棒のようにして歩き回り、身も心もヘトヘトだっただろう。
避難所の生活で必要な物資は一人ずつ違うだろうけど、私はまず温かいものを食べ、心と身体を芯から温めたい。


✴︎✴︎✴︎このみんな仲間とか、一心同体とか、基本的な一人一人の思いが尊重される場面ではいいが、一歩間違えると、欲しがりません勝つまでは、と同じ思考回路になってしまう。   
 まずは避難所でも、一人一人が自分を守れる場、人と少しでも距離を取れる場を確保してほしい。時には涙し、時には小さく音楽を聴き自分を労ったり、癒したりする場、プライベート空間は必要だと思う。


避難所の生活を考えていると、人間に本当に必要なものは何か考えさせられる。

物心両面の支援が欲しい。

それも個に応じた継続的な支援だ。

そして、雇用。働く場。 

最後にみんなが集い、互いに今日の苦労と明日の希望が語れる場があるといい。

それは、小さな子どもを抱えたお母さんだろうと、
学校に行きたくなくなった小学生だろうと、
職場を失ってしまった働く人だろうと、

私はそんな場所に行けるだろうか、
自分はできなくても、
誰かを募り、一緒に練り上げていく

その仲間になりたい、、、と、体力のある今は、思っている。


◎今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。













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