見出し画像

同期愛幻想

わたしは、新入社員たちがよく口にする「同期愛」が大嫌いだった。

新入社員時代、会ったばかりの同期から繰り出される「同期サイコー」「同期大好き」という言葉に、うなずくことはできなかった。
ただみんなが笑顔でうなずいているので、否定的な自分がダメな人間のように思えて、首を振ることもできなかった。
結局、私はどちらともなく、しばらく黙ってにこにこしているだけ。何もしてなかったのに、すごくしんどくてつらかったことは覚えている。
あのときの同期愛は、やさしいそよ風のような心地よさはなく、18度に設定したキンキンのエアコンのように、強烈で人工的だった。

きっと同期たちも必死だったのだろう。
同期とは、四六時中会社で顔を合わせなければならない。サイコーな奴も、サイテーな奴も関係なく。
だから、同期は皆サイコーだと口にして言い聞かせることで、自分の選んだ会社は間違ってなかったんだと思うようにしているのだろう。
今ではすっかり同期愛を聞かなくなった。同期たちの選択が成功だったからか、失敗だったからか、わからないけど。

ただ同期の良さは、入社直後ではなく、入社して1,2年ほどたったころにわかってくるものだと思う。
夜8時過ぎに一緒にコンビニでご飯を買うとき、
ランチでみんなの悩みを聞いたとき、
同期愛の居心地の悪さを感じていた人がいたことを知ったとき、
口にしなくても、自然に同期がいてよかったと思えてくる。

いまでは、わたしも心の奥底では「同期サイコー」と囁いている。誰にも聞こえないように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?