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【書評】『記憶の樽』、沢木耕太郎のスペイン・マラガ

オン・ザ・ボーダー

沢木さんの紀行文のひとつの魅力として、海外で飲むお酒の描写がある

とにかく沢木さんは、海外でも美味しそうにお酒を飲むのだ

香港やヴェトナム、インドでのビール、アフガニスタンやトルコのプゾー酒、パリやポルトガルでのワイン

そういった海外で飲むお酒の描写を一行一行と読むたびに、思わずいいなぁと小さく呟いてしまう

海外で飲むお酒は、もちろん味は日本で飲むのとは大きな違いはないが、しかしやはり独特の風土と風景の中で飲むお酒は、美味しい

ここインドネシアでも、熱帯の猛烈な暑さの中で、夕暮れに飲むビンタンビールは格別に美味しく、また贅沢に感じられる

この『記憶の樽』は、1997年のスペイン・マラガ紀行で、その当時名古屋テレビの制作で大沢たかお主演の『劇的紀行 深夜特急』の最後の撮影地でもあるロンドンでの打ち上げに参加され、その足でマラガに寄った際の記録だ

『深夜特急』の旅で心に残った、また心を残したマラガでのバルにもう一度訪ねてみるという目的で、沢木さんもいかに記憶というのが曖昧・・・いや、時が経つと変容していくのを記録している

無数にあると記憶していたバルの樽は実はそれほど多くなく、ワインと思って飲んでいたのは、実はシェリー酒だった・・・

そして、おつまみの貝の刺身を手際よく作ってくれた老人は、もちろんすでにその姿はなくー

シェリー酒を飲み干して最後に、ジャン・グルニエの『孤島』の一節を引用されているのも沢木さんらしいダンディズムのようなものが漂っていて、面白い

ー”したがって、われわれが生まれてから遍歴しなければならない、この広大無辺の孤独の中には、いくつかの特権的な場所がー”

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