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詩情

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詩情を感じて書いたもの。
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記事一覧

啓示

私が天使だったころ、
白いギザギザと白いナミナミの光が交差する部屋で、私は啓示を受けた。
言葉にならず、正体もわからなかったが、
たしかに何かを悟った感覚があった。

そのときなにを閃いたのかは思い出せないが、そのときの白い光に包まれた光景と、目の前が明るく拓ける感覚だけが、いまでも脳裏にはっきりと焼きついている。

それは奇跡のような、祈りのような瞬間だった。

あのときのあの感覚を取り戻したく

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無表情

むかしから悲しくても涙が出ない体質なのだと言っていたきみはきっとあのとき泣いていたのだろう、きみの涙をどうにもできない距離になってはじめて気づいた。きみの無表情から、わずかな色の違いを、もっと見ようとするべきだった。からだや顔から読み取れることは、ほんの表面でしかないのに。

ぼくにぼくの海があるように、きみにもきみの海があった、そんなことはわかっていたはずなのに、自分の海に潜ってばかりで、ほかの

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恋衣

己が世世恋衣打つ霙かな

 
以下、参考作品

愛という、透明なもの

その人と過ごした時間の中で堆積した
怒りとか悲しみとか好きとか嫌いとか、
ぐちゃぐちゃに混ざり合った色々な感情を
濾過して残った透明なもの、
これはたしかに愛だと思う。

色付く山々の向こうに桃色の雲、
ビルの頭上に浮かぶ有明の月、
下方から響き渡る子どもたちの声、
幾重もの層で世界はできている。

沈黙

意味ありげな雰囲気をつくらなければ、とても言い出せそうにないから、ぼくがわざと作った沈黙を、どうか埋めないで。

言葉の呪い

カモミールティーがあまり好きではないときみが言ってから、カモミールティーが美味しく感じられなくなってしまった。きみの言葉は、きみ自身よりも強い力を持って、ぼくの中に残り続けている。それは言葉がぼくの鼓膜を震わせたそのときよりも特別な美しさを持っていて、それなのに、それだけに、ぼくを苦しめる。言葉というのは、それを発する人間よりも息が長く、生まれた時点では薬であったものも後になって強力な毒に転じるこ

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言葉の堕胎

表の世界には表の言葉しか通用しなくて、裏の言葉は裏の世界でしか発してはいけないらしい。外側には外側の言葉、内側の言葉は異質すぎて外の世界を脅かしかねない、だから育ちすぎて産まれてきてしまいそうになったら、外の世界の住人たちに見つからないように、堕胎してきちんと穴に埋めなければならない。

ずっとお腹のなかにいたから、きみが膜を通り抜けてぼくの中に入ってくるまで、外の世界があることに気づいてなかった

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秋の夜の空気

人々の細かい涙の粒でできた
秋の夜の空気のなかを、深海魚のように泳ぐ

あなたになら裏切られてもいい、そう思って私を選んでくれていた人を、裏切りたくなかった

私とおなじ色をした人を、傷つけたくなかった

後悔でもない、恨みでもない、未練でもない、憎しみでもない、諦めでもない、嘆きでもない、純度100%の透明なかなしみで、秋の夜の空気はつくられている。

首すじをちいさな風があたためる ここにも夏がしのびこんでる

しるし

歌集よみお気に入りの詩鉛筆でしるし
ー、つけずに2回唱える

笹井宏之さんの歌集を買いました。
爽やかで夏にぴったりだと思いました。

記憶の墓場

思い出になった栞を宝箱に詰めて蓋した 手紙とともに

サンダルの白抜きのある君の足

短歌『桜』

桜より寿命の長い恋だったと思えばまた生きてゆけると