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ショートショート・短編

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さらっと読めて、ちょっと考えちゃうようなショートショートが書けたら良いなと思って書いてます。
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2023年6月の記事一覧

【140字SS】ささやかな楽しみ

【140字SS】ささやかな楽しみ

本を買うと必ずカバーをかける。
汚さないように、折らないように。
読み終えると、その本を持って本屋に向かう。
該当の本棚の前で辺りをよく見回し、その本を本棚に返す。
そして棚卸しの日を想像する。
「おかしいな、合わない」
「また万引き?」
「いや、増えてるんです」
それが私のささやかな楽しみだ。

【毎週ショートショートnote】塩人祭りの夜

【毎週ショートショートnote】塩人祭りの夜

旧暦の8月3日の夜、塩人祭りは行われる。
塩人は39歳の男の中から選ばれ、海辺の祠にこもり、お清めを受ける。
陽が沈むと、塩人は白い衣装を身に纏い、松明を手にした女たちに先導され、情緒ある篠笛の音を従え、塩を撒きながら練り歩く。
最後は浜に辿り着き、道を示すように並べられた松明の炎に従い、明け方の海に帰っていく。
その姿が神秘的で、インスタ映えすると、日本全国から若者も集まる祭りとなった。
地元の

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【短編小説】ガラスの手 #シロクマ文芸部

【短編小説】ガラスの手 #シロクマ文芸部

お題「ガラスの手」
文字数:2442文字

ガラスの手のようだと思った。
透明感のある肌、すらっと節がないかのように伸びた指、香奈の手はまるで作り物のようだった。
はじめて会ったとき、僕の視線はその手に釘付けになった。

「和彦、話があるんだけど」
夕食で使った皿を洗い終えた香奈が、そう言いながらキッチンから出てきた。
僕は見るともなしにテレビの天気予報を眺めながら、グラスに残ったビールを飲み干し

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