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紙を染める時

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私は布だけでなく、紙も染めることがあります。

襖や、壁紙に使う紙など、注文制作で草木染で染めることもあります。

しかし、私はそのような”加工仕事”は、断れない人の注文で無い限りあまりやりませんが、上写真のような額作品としては良くやります。

(布を着物の技法で額装品としてつくることもあります)

上の写真は、手漉きのネパール紙を、ロウを使い、墨と天然染料で染めたものです。

何やら妖しげな運動というか、痕跡というか、そういった感じと、煤けたような地のニュアンスの作品ですが、私は手漉きの紙、例えば和紙やこのようないろいろな繊維が入った紙にはあまり”キッチリとした形を持った具象画”のようなものを描く気になりません。

それはもちろん、私自身に日本画や水墨画、書道に高度な素養がないのも理由ですが、普段から良く言うように、紙でもやはりその素材の根底を何らかの手段でより表出させたい、と思ってしまうので、ついついこういう仕事をしてしまいます。

私の場合、例えば素晴らしい書を観た時に、まず感じるのは、その滲みや墨色、筆の運動、痕跡、そして古いものなら、経年変化の美しさなのです。

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(上作品のUP)

それは、やはり和紙などの、手漉きの良い紙だと顕著です。

私は草書などを読めませんし、また楷書でも漢文など読み解くことは出来ません。(解説付きで読みながら観ることもありますが)

私にとって、紙の画や書で、まず一番に私に訴えてくるものは、墨と筆と紙の織りなす美しさ、書として書かれた文字の運動の魅力です。

洋紙に書を書いても同じような美しさや妖艶さは出ることはありません。

私は、その繊維長の長い紙独自の美しさを、自分として、より強調した形で表したいと思い、いろいろとやってみるわけです。

布は基本的に、織の組織で整えられた繊維に添って墨や染料の滲みが出ます。

しかし、紙は繊維の並びに織物のような規則性がないので、ランダムに滲みます。

その繊維が染まり、集まり、面に形成され、形を持つにあたっての、いろいろな痕跡が面白いのです。

布は、滲みはあまり美しくありません。

絞り染めや、板締めの技法で自然に出来た滲みは美しいですが ”描いたり、書いたりした場合の” 染料や顔料が滲んだ様は美しくありません。

(絞り染や板締めで出来る布の滲みは、布の特質よりも技法による特徴の方が強いのです)

なので、私は絹本に描かれた水墨画はあまり好みではなかったりします。いくらドーサを引いて滲みを少なくしても、やはり布の規則的な繊維の構造通りに滲むからです。

紙なら、紙という素材から私の個性が、やはり引き出されます。制作にあたって素材と深く関わることは、やはり面白いと感じます。

数年前から、このようなタイプの仕事で、紙では出来ないニュアンスを、油彩でやるようになりました。油彩もとても面白いです。


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