吉川 由紀枝

アンダーセンコンサルティング、ライシャワーセンター(シンクタンク)を経て、沖縄県庁主任…

吉川 由紀枝

アンダーセンコンサルティング、ライシャワーセンター(シンクタンク)を経て、沖縄県庁主任研究員として普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案担当。現在ライシャワーセンター・アジャンクトフェロー。著書:「現代国際政治の全体像が分かる!~世界史でゲームのルールを探る~」

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  • 繰り返し読みたい現代の話

    時事問題として取り上げましたが、現代の問題の基礎知識等を書いています。

  • 世界史

    今の国際情勢が分かるために必要な世界史という観点からまとめています。

最近の記事

日米同盟のデメリット

前回、日米同盟のメリットを書いたので、その続きとしてデメリットについて考えたい。 日米同盟のデメリット 前回のおさらいとして、日米同盟のメリットは、同盟国が世界最大の軍事大国であるから、というだけの理由に立脚していないことを確認した。当節、戦争とは軍事だけの問題ではない。総力戦なのだ。よって、軍事力を支える自国、友邦の経済力及び世界への発言力、外交力のフルセットで戦う。この点を念頭に考えていこう。 1. 覇権コストの分担 冷戦中は2超大国の1つ、冷戦後は単一覇権国として、

    • 日米同盟のメリット

      日本の安全保障に不可欠なものといえば日米同盟であることは、万民が認めるとことであろう。その日米同盟も1951年の締結から70年以上の月日が流れ、当初の仮想敵国・ソ連も消滅した。そこでまずは、今日におけるメリット、デメリット(リスク)を振り返り、日本近辺の有事リスクを考慮しながら、その有用性について今一度見直してみたい。 日米同盟のメリット 1.世界最大の軍事国家が日本の安全にコミット この点は、締結当初から変わらない。他国が日本を攻撃した場合、アメリカが相手国への攻撃を行い

      • イラン・イスラエル戦争は秒読みか?

        先月30、31日と立て続けに、イスラエルが、ハマス最高幹部イスマイル・ハニヤ氏、ヒズボラ最高幹部フアド・シュクル氏を暗殺しました。(正式には、イスラエルは犯行声明を出していませんが、否定もしていません。)前者の場合に至っては、ペゼシュキアン大統領就任式に出席から数時間後、イランの首都テヘランでの出来事でした。いずれのグループも、親イラン勢力です。殊に首都テヘランでの賓客暗殺ですから、面目丸つぶれであり、イランが激怒したことは想像に難くないでしょう。 ここで、怒りに任せてイス

        • イラン新大統領は「改革派」か?

          今年6月、7月にイランで、日欧米メディアが言うところの「改革派」ペゼシュキアン大統領が選出されました。第1回目の選挙では投票率40%と、国民のやる気のなさが出ていましたが、保守派と改革派の決選投票となった2回目投票では、投票率がようやく50%に伸び、「改革派」が勝利したという格好です。 そこで、ペゼシュキアン新大統領は本当に日欧米メディアがいう「改革派」なのかをテーマに見ていきたいと思います。しかし、その前になぜイラン国民にやる気がないのか、解説していきましょう。 イラン

        日米同盟のデメリット

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          変わりゆくアメリカの姿・米大統領選の行方

          どの選挙も水物なので、特定の選挙の勝敗を占うことはしませんが、長期的な視野から見ると、アメリカの姿が変わりつつあり、それが民主党・共和党に与える影響について考えてみたいと思います。 白人はもはや単独過半数ではなくなる 従来白人がアメリカ人口の半数を超えていたのですが、2040年代半ばまでには40%台に下がり、最大のマイノリティー・グループとなると言われています。原因は、白人の出生率が低下する一方、流入する非白人移民数が増加傾向にあるからです。よって、白人だけを追いかけていれ

          変わりゆくアメリカの姿・米大統領選の行方

          世界史編のあとがき

          来し方を振り返る さてこれまで「歴史の重み」として古代から現代まで世界史をお話してきました。読者の皆さんには何が教訓として心に残っているでしょうか? 例えば、通常の世界史の本には書かれていない以下などは、いかがでしょうか。 ・覇権は儲からない(維持費が大変) ・西欧がアジアよりも経済力をつけたのは、1815年以降  (西欧がアジアにずっと憧れていたのです。ゆえに、シノワズリ(中国趣味)、ジャポニズムが西欧でもてはやされたのは、むしろ当然であり、また近年アジア経済の全体的な底

          世界史編のあとがき

          不安定な韓半島 北朝鮮の核ゲーム

          つい先日北朝鮮による「人工衛星打ち上げ」の失敗が話題となりましたが、今回は朝鮮戦争後からそこに至るまでのお話です。 北朝鮮経済は破綻 李承晩政権から朴正煕政権に代わり、それまでの輸入代替工業化戦略から輸出主導型工業化戦略へと舵を切り、さらに日本と国交正常化し、賠償金及び政府開発援助(ODA)の流入もあり、韓国経済は最貧国から高度経済成長期へと移行し、いわゆる「漢江の奇跡」が1960年代後半から言われるようになります。 そこで面白くないのが、北朝鮮です。朝鮮戦争に懲りずに、

          不安定な韓半島 北朝鮮の核ゲーム

          不安定な韓半島 朝鮮戦争まで

          金日成総書記の勝算①日本の遺産 アメリカとの取り決め通り、ソ連軍は38度線以北まで軍政を敷きました。当初東ドイツと同様、日本が残した工場設備や社会インフラ等を解体し本国へ輸送しましたが、すぐにやめ、スターリン書記長の眼鏡にかなった金日成を1945年9月に北朝鮮に送り込みました。(北朝鮮の歴史的には、金日成が抗日運動を指揮したことになっていますが、ソ連や中国が異なる史料を公開しています) ここで、金日成が棚から牡丹餅的に入手した日本の遺産とは、前稿でお話しました重化学工場のみ

          不安定な韓半島 朝鮮戦争まで

          アメリカ中東政策の崩壊

          4月のイラン・イスラエル軍事応酬 今年4月、イラン・イスラエル間で初めて、互いの国土に向けての武器類の応酬が繰り広げられました。しかし、拍子抜けするほど、互いに抑制のきいたものでした。 まずイランが発射した際には、ウクライナ戦争で使用されないような、安モノドローン、あるいは火力のないデコイ(ミサイル防衛システムの注意を分散させるために使われるオトリ)ばかりを2~300発であったと言われます。しかも、イラン本土から発射していますので、イスラエルへ到着するまでに5時間程度かかり

          アメリカ中東政策の崩壊

          不安定な韓半島 太平洋戦争終結まで

          隣国は強すぎても、弱すぎても困る 日本は、何のために韓半島を併合したのでしょう?植民地化し、その富を収奪することが目的だったのでしょうか?そのように誤解されがちですが、そうであれば1905年日露戦争の直後に併合しそうなものですが、足掛け6年かけて併合に至っています。また、李朝政府へ、日本政府が無利子・返済期限なしの貸付を行う必要もありません。併合後も総督府や日本軍の駐留費等は、全て日本政府持ち、租税負担率も内地よりも安く設定し、赤字分は日本政府が補填していました。* そもそ

          不安定な韓半島 太平洋戦争終結まで

          不安定な韓半島 日韓併合まで

          2024年1月に北朝鮮は半島統一という従来の目標を放棄し、韓国を同胞ではなく外国、しかも主敵とみなすと宣言しました。もちろん、韓国の尹錫悦政権にとっての中間選挙と位置付けられる、同年4月の韓国総選挙に影響を与え、親日・米姿勢を打ち出す現政権へ打撃を与えようという意図はあるでしょう。しかし、それだけなら何もせっかく父・金正日総書記が建てた祖国統一三大憲章記念塔まで破壊する必要はありません。金正恩政権には、それまでの路線から逸脱した面が見られていましたが、今回の唐突な宣言の真意を

          不安定な韓半島 日韓併合まで

          すれ違いの米中関係 その3

          中国共産党、民主主義を学ぶ 同じ民主主義国でも、日本とアメリカでは大きくその運用方法が異なり、互いの理解を妨げます。それよりも大きな乖離が米中間にあるわけで、ニクソン大統領の訪中以降、中国は民主政治について、様々学習・体験中です。 1つ目の洗礼は、台湾関係法成立です。中国政府は、カーター政権に日本同様、中国との国交樹立・台湾との外交断絶を求めます。そこで、台湾政府はこの流れを不可逆と見る一方、その身の安全保障のため、米議会へのロビー猛攻を仕掛けました。カーター政権がブレジン

          すれ違いの米中関係 その3

          歴史の重み:すれ違いの米中関係 その2

          番狂わせのニクソン・ショック 毛沢東政権で外交全般を指揮していたのは、周恩来首相です。とはいえ、毛沢東主席の意向に従わざるを得ず、後々まで中国に悪影響を与えた場面が2点ありました。一つは、フルシチョフ批判です。スターリン書記長に傾倒していた毛沢東主席は、スターリン死後、その後継者であるフルシチョフ書記長によるスターリン批判に拒否反応を示しました。これにより、中ソ間が緊張し、それまでのソ連からの技術支援が停止され、技師たちは帰国してしまいました。さらに、1960年代両国間の国境

          歴史の重み:すれ違いの米中関係 その2

          すれ違いの米中関係 その1

          絶妙な2024年台湾総選挙 2024年1月台湾での総統選挙は与党・民進党、第一野党・国民党、第二野党・台湾大衆党の党首による三つ巴でしたが、反中派と呼ばれる中国警戒派、親中派、とその中間としてよく政策の違いを説明されていました。親中派とその中間が、野党として統一候補に絞ることができれば、政権交代もあり得ましたが、統一できずに与党が総統選を制しました。その一方、立法院では与党が過半数席を失い、いわゆる「ねじれ」現象が誕生しました。 台湾人は実に選挙の意味を心得ていると言えます

          すれ違いの米中関係 その1

          アメリカ単独覇権から激動のリバランス時代へ

          ロシアに降り立つシカゴ・ボーイズ 以前ラテンアメリカ諸国のお話で、シカゴ学派(シカゴ・ボーイズ)の指導の下、いかに国家資産が欧米企業の餌食になったかをお話しました。そのシカゴ・ボーイズが次に向かった先は、ソ連崩壊直後のロシアでした。全ての企業が国営企業であるため、得意の民営化を進めるにはあまりにも莫大な量(そして欧米企業にとっての利潤)があることは明らかでした。 ソ連崩壊直後の混沌の中、シカゴ・ボーイズに勧められるまま、エリツィン政権は国営企業の大胆な民営化並びに従来の価格

          アメリカ単独覇権から激動のリバランス時代へ

          パレスチナ・ハマスの勝算

          今年10月9日より、パレスチナの武装集団ハマスがイスラエルへ攻撃を仕掛け、1000名強を殺害し、200名余りを人質に取りました。これに対し、イスラエルはハマス殲滅を掲げ、大規模な空爆を中心に既に9倍以上のパレスチナ人を殺害し、パレスチナでの電気・水道等の社会インフラを止め、外国からの人道支援物資搬入ルートもほぼ閉鎖し、200万人ともいわれるパレスチナ人への報復措置を続けています。(十分国際法違反です) 前回パレスチナの歴史のお話をしましたので、今回は直近の出来事について考え

          パレスチナ・ハマスの勝算