不安定な韓半島 北朝鮮の核ゲーム

つい先日北朝鮮による「人工衛星打ち上げ」の失敗が話題となりましたが、今回は朝鮮戦争後からそこに至るまでのお話です。

北朝鮮経済は破綻
李承晩政権から朴正煕政権に代わり、それまでの輸入代替工業化戦略から輸出主導型工業化戦略へと舵を切り、さらに日本と国交正常化し、賠償金及び政府開発援助(ODA)の流入もあり、韓国経済は最貧国から高度経済成長期へと移行し、いわゆる「漢江の奇跡」が1960年代後半から言われるようになります。

そこで面白くないのが、北朝鮮です。朝鮮戦争に懲りずに、武力統一を画策していたわけですから、韓国経済が北朝鮮経済を上回れば、それだけ軍事力増強されるわけですから、戦後直後の北朝鮮の優位性が失われるどころか、ますます不利になってきます。

金日成政権は、韓国を上回る経済発展を目指し、1970年代に大量にプラント輸入を日本や西欧から行ったのですが、折悪しく第二次オイルショックと第一次産品の国際価格の下落と重なり、代価として想定していた亜鉛等の鉱物資源の輸出量では足りず、支払い不能に陥ってしまい、冷戦終結時には経済破綻に瀕していました。

ソ連という最大の貿易相手国は消滅し、後継ロシアに北朝鮮を支援する義理も体力もなく、方や中国は鄧小平主席の下、開放政策の真っただ中。頼りになるどころか、世界から孤立せず、韓国と和解せよと説得される始末でした。

万策尽きて、金日成主席は盧泰愚大統領と会談し、1992年に南北基本合意書が成立し、北朝鮮の核兵器開発・製造・保有が禁止されます。併せて核兵器開発の有無を確認する国際機関、IAEAの査察を受け入れることになるのですが、北朝鮮はこのIAEA査察を甘く見ていたようです。彼らの中では1省庁の出す結論など、大国との政治的取引で何とでも変わると考えているフシがこの後も見られます。

不調に終わり続けるアメリカVS北朝鮮交渉
完成するかも不確定な開発途上の核兵器と引き換えに、アメリカから体制保障の言質と経済支援が得られれば有難いが、アメリカが北朝鮮との約束を守る国かどうか不信感を拭えず、秘密裡に核兵器開発も進めておけばよい、と考えていたのでしょう。しかし、不信感を抱いているのは、アメリカも同様です。互いに言動が一致しているか注視しているわけですから、IAEA査察で核疑惑が浮上するや、アメリカは不信感を募らせ、時のクリントン政権内では、北朝鮮の核施設をピンポイントで空爆しようとまで検討します。

そうした絶妙のタイミングで、カーター元米大統領が訪朝し、米軍の空爆計画の中止及び軽水炉(この形式の原子炉なら核兵器の原料であるプルトニウム抽出が難しい)の提供と引き換えに、金日成主席の核放棄の意思があることを確認でき、米朝間での高官協議への道が開けます。そして誕生したのが、1993年の米朝間の枠組み合意です。

この合意内容では、軽水炉2基を提供したら、北朝鮮内にある黒鉛炉(この形式の原子炉ならプルトニウム抽出は可能)を廃棄すること、軽水炉2基を提供するまでの間黒鉛炉を停止させる見返りに、アメリカは北朝鮮に年間50万トンの重油を提供する、ということです。

しかし、この合意を守る気があったのか?と問われれば、どちらも意志薄弱でした。アメリカは軽水炉2基を提供すると言いましたが、アメリカ自身が提供する意思はなく、最初から韓国政府負担(難しい分は日本政府負担)を前提で合意しました。それなのに、韓国政府には事前合意を取っていないわけですから、当然激怒します。しかも、元々盧泰愚政権時代に核開発をしないと言っておきながら、背信行為をした相手にさらに追い銭(しかも約40億ドル!)を投げる行為に等しいわけです。

加えて、1995年洪水による大飢饉が発生し、「52万人もの被災者と総額150億ドルにも及ぶ被害を被った」*と北朝鮮が発表し、国際人道支援が要請されました。北朝鮮は、1995-8年までに22万人が餓死したと報じましたが、実際には150-300万人に及んだのではないかという説もあります。そのため、この国は放置すれば崩壊するのではないか、という観測が生まれ、枠組み合意を順守する必要がないのではないかとさえ、囁かれるほどでした。

それでも李泳三政権は、まだ前向きに対応するつもりでしたが、北朝鮮工作員を載せた小型潜水艇が韓国内に潜入した際座礁したため、韓国軍兵士と激しい銃撃戦となり、戦死者が出る事態になりました。こうなっては、韓国政府も軽水炉建設から手を引いてしまいます。当然軽水炉建設を肩代わりする国はなく、頓挫するしかありません。

一方、北朝鮮側も秘密裡に「パキスタンの原爆の父」、アブドル・カーン等からウランを濃縮する上で不可欠とされる遠心分離機を大量購入し、極秘で高濃縮ウラン開発計画を進めていました。こうした取引が全く秘密にできるわけもなく、アメリカにも伝わり、北朝鮮を責め立てます。

こうして再び膠着状態に戻るのですが、この状態が長引くと困るのは、体力がそれほどない北朝鮮です。しかし、素手で行ってもアメリカに相手にされません。ですので、アメリカを振り返らせる「手土産」を用意しました。それが、韓国及び日本を射程距離圏内に持つ中距離ミサイル、テポドン1号です。すなわち、北朝鮮はアメリカにまで到達する核ミサイルは保有できていないが、アメリカが攻撃しようとするなら、アメリカの同盟国である日本や韓国及び在日・在韓米軍を攻撃できる体制を整え、ミサイルについても取引しましょう、というわけです。

ちなみに、核の脅威を醸成するためには、核爆弾を保有するだけでは意味がなく、それを標的へ到達させるだけの射程を持つミサイル及び、そのミサイルに搭載できるまでに核弾道をコンパクト化させる技術が、必要です。但し、北朝鮮・アメリカ間のような大陸横断の飛距離である場合、一度大気圏を突き抜けた後に再突入する際の高温から核弾道を防御する技術が、さらに必要です。

そんな矢先、ブッシュ(子)大統領が2001年就任早々、北朝鮮を含めた「悪の枢軸」演説をします。それを聞いた北朝鮮は、イラクのフセイン大統領は明日のわが身と危ぶんだか、アメリカ以外のパイプを模索しようと、日本へアプローチしてきました。2002年、懸案であった日本人拉致問題について、金正日総書記が拉致の事実を認め、謝罪することで日朝関係改善を推進しようとしました。実は日本人以上に韓国人も拉致しているのですが、金大中政権との間では問題視されていなかったせいか、軽く考えていたようですが、完全に逆効果で、日本世論は北朝鮮へ拉致被害者全員の帰国を強く要求し、関係改善になるどころか、日本は態度を硬化させてしまいました。

そこで、再び交渉相手をアメリカに絞り、アメリカもクリントン政権の二の舞を避けるべく、関係国を全部含める6か国協議というフレームワークで2003年から協議を始めますが、相互不信感が根強い中、目ぼしい進展はなく、むしろ経済制裁は強化されていきました。日本でも、朝鮮総連関係者が新潟港から北朝鮮へ現金を毎月運んでいた万景峰号が、入港を拒否されるようになり、話題となりました。

一方、北朝鮮に幸いしたのは、1998年から政権交代した金大中政権が、太陽政策を打ち出し、大型経済支援をしたこと、さらに2000年代は中国の高い経済成長にけん引される形で、対中鉱物資源輸出が増加し、経済状態が改善したことでした。

それでも、アメリカに全く見向きもされない状態が続いては、北朝鮮は困ります。そこで、2009年からさらに射程距離をアメリカにまで伸ばした大陸間弾道ミサイル(ICBM)、テポドン2号を発射テストしました。その後2011年金正日総書記が死去したため、しばらく金正恩総書記が政権を安定させるために時間が要したか、大人しくなりましたが、やはり父親と同様の戦術で、2017年ICBM実験を成功させた上で、2018-9年にかけてトランプ大統領と3回会談を持ちました。すなわち、アメリカへも到達できる核ミサイルを持つことで、アメリカに脅威を与えられる存在への「アップグレード」が、今回の手土産です。

トランプ大統領との交渉で北朝鮮が求めたものは、寧辺の核施設を廃棄する代償として全面的な経済制裁解除でした。しかし、確かに寧辺周辺に核施設があることは知られていましたが、今回北朝鮮がそう持ち掛けてくるからには、寧辺以外に核施設があるだろうとアメリカは考え、不完全な核廃絶では無意味だとして拒否し、決裂しました。

その後、金正恩政権は2022年ウクライナ戦争侵攻以降アメリカとの関係が劇的に悪化したロシアと、軍事面を含め関係を深めていっています。

問題の本質:誰も本気で問題解決する気がない
冷戦後の米朝交渉を見て行く限り、北朝鮮は交渉前に何かしらの軍事的脅威をアップグレードする行動をとり、それをやめさせるためにアメリカや周辺国が多少のお小遣いを与え、少しは大人しくさせますが、しばらくすると北朝鮮は背信行為か目先の異なる軍事的脅威をデモンストレーションし、アメリカや周辺国が重い腰を上げる、の繰り返しです。基本的に、Win-Loseの関係です。

それでも、この構図が続く理由は何でしょう?それが、一番ラクな解決方法だからです。北朝鮮が自壊してしまったら、一気に問題山積です。例えば、北朝鮮人が難民化して国外に逃げたら?中国では、人民解放軍が北朝鮮の国境内に入り、中国への流入を食い止めるつもりです。韓国の場合、まず38度線に広がる地雷原を渡ることになり、死者は沢山でるでしょうが、運よく通れたとしても、韓国軍には難民が北朝鮮からのスパイだかわからないので、武力を用いてでも入国を拒否すると言われています。(日本に流れ着いてしまったら、日本政府の対応策は聞いたことがありません。。。)
 
約2000万強いると言われる北朝鮮人は誰が食べさせるのでしょう?警察は機能しないでしょうから、北朝鮮内にとどまる人々の治安はどうなるのでしょう?韓国が北朝鮮を吸収するにしても、大きな混乱なく行うには、どのようなプロセスがよいのでしょうか?あまりいい比較対象ではないにしろ、ドイツ統一には約2兆ドルかかったと言われています。東ドイツは旧共産圏では優等生といわれた経済でなおこの金額なので、北朝鮮に至ってはどれだけになるのか、天文学的数字になることだけは確かです。このコストは韓国だけで賄い難いですが、どのように負担配分するのでしょう?ただでさえ、各国は財政難に苦しんでいるのに、応じられるでしょうか?
 
このように考えていくと、北朝鮮にお小遣いを上げた方が、はるかに問題が少なくてラクだし、安上がりなのです。
 
しかも、魚心あれば水心なのです。金王朝にとっても、自ら痛い思いをして経済改革を行うことは大変リスキーだと捉えているでしょう。ソ連や東欧諸国の共産党リーダー達は、国内統制を緩めたばかりに、哀れな死に方をした人々が大勢いるのですから、絶対二の舞になってはならないと考えているはずです。ですから、時々外国を恫喝して援助を「貢がせる」方が、はるかに安全でラクなのです。
 
古今東西、国民をまともに養えない政府に対し、いつ反乱がおきるか分かりません。そのため、軍事費を高く設定し、クーデターが起きないように軍を手厚く保護し、味方につけざるをえません。そのため、本来なら道路や学校等社会インフラ等に投資すべき資源は、体制維持に奪われます。一方で国民に対し情報統制をし、「君たちも苦しいだろうけど、南の韓国はもっと悲惨な状態だ、我慢しなさい」と洗脳するわけです。(どれだけこの嘘がばれているのかは不明です。実情を知っていても、口に出せない社会ですが。。。)
 
このように、北朝鮮が突然自滅しない限りにおいて、事態は永久に進展しない仕組みが厳然とあります。

*斎藤直樹著「北朝鮮危機の歴史的構造 1945-2000」


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