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ジェンダークレーマー対策―表現と文化を守る5つの方法

 こんにちは、神崎ゆきと申します。

 先日、ネット論客の青識亜論氏が「キャンセルカルチャー」について、このような記事を投稿されました。内容は「キャンセルカルチャーにいかにして対抗するか」というものです。

すでに述べたように、炎上させようとしている人々は圧倒的少数派なのだから、1割の人々がキャンセルを行うよりも、9割の人々が積極的に購入したならば、トータルではプラスになる。小学生でもわかる簡単な算数だ。

まして、フェミニストは温泉地の主要な顧客でもなければ、松戸市に特別な貢献をしてきたわけでもないし、赤十字に積極的に献血をしていたわけでもないだろう。彼女らの「キャンセル」は実質的に何の意味も持たない。

ならば、私たちは逆をやればいいのだ。

フェミニストが何かをキャンセルしたとしても、そのキャンセルの何倍も応援と支援の消費が行われる。そのような文化を作り出し、定着させればいい。

キャンセルカルチャーの逆、差し詰め「エンカレッジ・カルチャー(応援文化)」とでも言えばいいだろうか。

確かに、短期的には効果が見えづらいかもしれないが、これが定着していくにつれて、キャンセルカルチャーの実効性を担保してきたテロル(恐怖)は無効化されていく。

これは、誰でも、明日からでも取り組める、簡単な戦略だ。

キャンセルカルチャーをキャンセルするには?
――対抗戦略の具体的検討
青識亜論|note

 本記事では、青識亜論氏が提唱する「エンカレッジカルチャー」を詳しく定義づけすると共に、表現に対してバッシングやコメントスクラム等の運動で、不本意な取り下げや修正に追い込まれる社会問題に対して、「直接の被害者ではない第三者である個人が、現実的に可能な具体的行動」を提案することを目的とします。

 しかし、本題に入る前に。

 青識亜論氏には申し訳ないのですが、この「キャンセルカルチャー」という用語は「人物」を対象とした排除運動に使われるべき言葉であり、これを「表現」を対象とした排除運動に適用するのは誤りです。

 [cancel culture]
the practice of excluding somebody from social or professional life by refusing to communicate with them online or in real life, because they have said or done something that other people do not agree with.
・Cancel culture punishes people who break the rules by saying the wrong thing.
・The power of social media's cancel culture can end a career within minutes.
・The actor has hit out at cancel culture, calling it ‘judgemental and vindictive’.

[キャンセルカルチャー]
他の人が同意しない言動をしたことを理由に、オンラインまたは実生活でのコミュニケーションを拒否することによって、社会または職業から誰かを排除する行為。
・キャンセルカルチャーは、間違ったことを言ってルールを破った人を罰するものです。
・ソーシャルメディアのキャンセルカルチャーの力は、数分でキャリアを終わらせることができます。
・この俳優は、キャンセルカルチャーを「決めつけと執念深さ」と呼んで反撃しています。

cancel-culture noun - Definition, pictures, pronunciation and usage notes
Oxford Advanced Learner's Dictionary at OxfordLearnersDictionaries.com

(拙訳:神崎ゆき)

 外来語なので海外の事例をいくつか参照してみましたが、やはり基本的には「人物」を対象とするものです。

 これが、なぜ「表現」を対象とするものとして日本で広まってしまったかを辿ると、おそらく2021年1月27日に放送されたインターネット番組『Abema Prime』の影響が大きいでしょう。

 辞書の意味や海外の事例に従うならば、表現へのクレームやバッシングを「キャンセルカルチャー」と呼ぶのは適切ではありません。

 しかし、いずれにせよ……。

 表現に対してバッシングやコメントスクラム等の運動で、不本意な取り下げや修正に追い込まれることが、大きな社会問題となっていることに変わりはありません。

 本記事では表現に対して行われるバッシング問題を「ジェンダークレーム」と呼びます。なお、ジェンダークレームを行う人物および集団を「ジェンダークレーマー」とします。

【ジェンダークレームの定義】

 ジェンダーの観点から、表現者、表現の監督者・責任者、表現の掲載媒体又は表現の消費者等に対して、女性の権利等を根拠に強く訴えられる一連の主張のうち、現状まで公的に認められていた権利の基準を少なくとも実質上、表現者側に不利に変更する内容のものをいう。

 ただし、自然科学的研究等、公的に正当とみなされる手法に基づく学術研究又は事実認定により、その主張に係る正当性の担保が取れる場合にあっては、この限りではない。

 なお、ジェンダーの定義は、独立行政法人JICAによる、「社会的・文化的につくられる性別」に基づくものとし、この定義に逸脱しない範囲において、同様の定義を認める。

ジェンダークレーマーの定義|神崎ゆき|note

 表現に対して「女性蔑視・性的消費」「女性差別の助長・性犯罪の誘発」「TPOに不適切」等という批判が為され、それが批判の域を超え、集団による企業への罵詈雑言やクリエイターや企画者やモデルへの人格攻撃にまで発展するという事態が、これまでに何度も繰り返されてきました。

 青識亜論氏が提唱した「エンカレッジカルチャー」という概念は、以前から農業や漁業にも存在する「買って応援」や「買い支え」であったり、エンターテイメントにおける「推し文化」にも通じる内容です。

 しかし、これが「表現をバッシングする行為への対抗戦略」として提唱されたのは、私が知る限り初めてのことではないかと思います。

 それだけに、このエンカレッジカルチャーには賛否両論があります。まだまだ詰めて考える余地がある概念なだけに、様々な意見が飛び交いました。

 可能な限りの意見を読み、まず私が思ったことは……人によりエンカレッジカルチャーの捉え方、すなわち「定義」にズレがある、ということです。

 そのため、僭越ながら本記事ではエンカレッジカルチャーを以下のように定義して、話を進めさせていただきます。

【エンカレッジカルチャーの定義】
 エンカレッジカルチャーとは、非難ではなく、応援や支援によって意思を示す社会運動である。

 シンプルな定義ではありますが、エンカレッジカルチャーの本質は運動の「方向性」にあると私は考えます。すなわち「必ずしも、金銭的支援によって支えることだけがエンカレッジカルチャーではない」ということです。

 なぜ、このような定義をしたかと言えば、エンカレッジカルチャーは企業に対する直接的な金銭的支援以外にも「様々な効果」を狙うことも期待できるからです。これについては、追々説明します。

 また、エンカレッジカルチャーに関する意見には「それ自体は表現へのバッシングに対する決定的な対抗戦略とはならない」というものもありました。エンカレッジカルチャーの「弱点」を指摘する意見もありました。

 これらの意見を踏まえて、本記事ではエンカレッジカルチャーを含め、以下の5つの戦略を検討していきます。

  1. 法的措置

  2. エンカレッジカルチャー

  3. 根拠と記録によるアプローチ

  4. 選挙の情報共有

  5. スキャンダルの調査とリーク

 この記事の目的は、表現を守るためのこれらの戦略を「直接の被害者ではない第三者である個人が、現実的に可能な具体的行動」にまで落とし込み、提案することです。

 その中から、各々が「自分にはこの方法が合っている」というものを選び、この社会問題に取り組んで欲しい。

 表現の自由が危ぶまれている現状に問題意識を持つ人は少なくありません。しかし、同時に「具体的に何をすればいいのか分からない」「自分に何ができるのか分からない」という方も多いと推察します。

 本記事が、行動を始める一助になれば幸いです。

1. 法的措置

 エンカレッジカルチャーについて語る前に、まずは表現へのバッシングに対抗する手段として「法的措置」に触れなければならないでしょう。

 おそらく、数年に渡る長い期間に渡って「表現の自由」に関する問題に取り組んでいる方ほど、エンカレッジカルチャーには懐疑的に思っているのではないかと推測します。

 いくら、ジェンダークレーマーの標的となった企業を支援したとしても、それは根本的な解決には至らない。ジェンダークレームを仕掛けてきた相手を民事訴訟……いや、刑事告訴までする必要がある。それこそが、ジェンダークレーマーを抑止するためには不可欠だ。 

 このような趣旨の意見は、実を言うと「私も同意見」です。

 同時に「だからこそ、まずはエンカレッジカルチャーに取り組まなければならない」とも思います。

 何だか矛盾したことを言っているように思われるかもしれませんが、順番に説明をしていきます。

 まず、ジェンダークレーマーに対して「名誉毀損・威力業務妨害・偽計業務妨害」辺りを根拠に法的措置を取ることは、被害に合った当事者であれば可能だと思います。

 では、どうして法的措置という対応を選ぶ企業が少ないのか。

 企業の基本的な目的は「利潤追求」です。もちろん、それだけが企業活動の目的ではないのですが、利潤追求を完全に度外視して活動することは、原則としてありません。

 そして、法的措置によるリターンは、リスクとコストに見合っていない。これが、企業が法的措置を避けようとする理由です。

 法的措置を取るためには、大きなコストが掛かります。法的措置そのものにお金が掛かり、その対応をする社員にも人件費が掛かる。

 さらに、リスクもあります。法的措置を取ることによって、企業に法的ないざこざというネガティブイメージがついてしまい、敬遠されることのリスク。企業はこれを避けようとします。

 対して、リターンは小さく不確定です。

 ジェンダークレームに加担した全員に対して法的措置を取ることは、現実的に不可能です。実際には大勢の中から数名に絞って行うことになります。

 その中には、支払い能力が乏しい個人もいるでしょう。法的な正当性が合ったところで、高額な賠償金を得られる保証はどこにも無いのです。

 忘れがちなことですが、企業には「表現の自由を守るために、ジェンダークレーマーに対して法的措置を取る」という義理も筋合いもありません。

 ジェンダークレーマーの被害に遭ったことで、何らかの賞を辞退したり、表現を修正したりして、屈した(ように見える)姿勢を取った企業を責める方を時々見かけますが、厳しいことを申し上げると「その人が勝手に期待して、勝手に失望した」に過ぎません。

 もし、私自身が「ジェンダークレーマー」だったとしたら、それらの言動を「利用」して、このような主張を展開するでしょう。

ほらね、表現の自由戦士たちは「何かを叩きたい」だけなんですよ。

あれだけ「バッシングに負けないで!」と企業を応援していたくせに、企業がバッシングと見なさずに「お客様の声」として受け止めて真摯に対応したら、すぐに手のひらを返して自分たちがバッシングし始めたでしょ?

結局、あの人たちは「フェミニストを叩くための大義名分」が欲しいだけ。根本にあるのは女性蔑視。ミソジニーの意識が透けてみえる。自分たちに都合の良い企業は担ぎ上げて神輿にして、都合が悪くなったら排除。これが「表現の自由を守る」とか言っている人々の『正体』です。

 ただし、企業が公開された表現を自ら「不適切でした」とはっきりと称してしまった場合、それは「クリエイターを守らなかった」という観点から批判に値すると思います。

 しかし、そうでなければクリエイターとの打ち合わせたうえで「守るため」の行動の場合もある。第三者視点からの見極めは非常に難しい。

 もう1つ、留意しておくべきことがあります。

 それは「本当に企業が法的措置を取っていたとしても、その情報が一般に公開されるまでにはタイムラグがある」ということ。

 例えば、青識亜論氏が記事で言及された『温泉むすめ』の場合を考えてみると、たしかに「受賞を辞退した」という事実はありますが、だからと言って「法的措置を取っていない」とは限りません。

 実際に、湯原温泉が法的措置に乗り出すとしても、その情報を一般人が閲覧可能となるには、裁判が進行するまでのタイムラグが発生します。

 また、裁判をしているからといって、そのことを広くアナウンスしなければならない義務もない。この点を踏まえても、法的措置を取っていない(ように見える)企業を責めるのは、お勧めしません。

 繰り返しますが、企業の目的はあくまで「利潤追求」です。ジェンダークレーマーに対抗すること、表現の自由を守ることが企業の目的ではありません。このことは、忘れてはならないことだと思います。

 ジェンダークレームではなく、停職処分や失職等を伴う「地位を失墜させる目的のキャンセルカルチャー」の場合はしばしば法的措置による処分取り消しや名誉回復が試みられますが、これは「法的措置以外に取れる手段が無いから」という理由に他なりません。

 ジェンダークレーマーから受けた被害・損害を回復するために、法的措置よりもコストやリスクが低く有効な方法があるならば、企業はそちらを選びます。これは、企業を責めたところで変わりません。

 それでは……。

 企業に法的措置という手段を選択しやすくするためには、私たち第三者はどうすればいいでしょうか。個人として、何ができるでしょうか。

2. エンカレッジカルチャー

 ジェンダークレーマーに対する法的措置が、その抑止のための非常に有効な対抗戦略であることは事実でしょう。

 しかし、それには大きなコストとリスクを伴い、リターンも小さく不確定であるため、企業は通常それを選択しません。それでは、どうすれば企業は「法的措置」という選択を取るようになるでしょうか。

 企業が法的措置という選択を取るためには、コストとリスクというデメリットを上回る「メリット」を用意する必要があります。

 そのために重要となる概念が「社会的合意」です。

 社会的合意という言葉は、日本共産党が「女性とジェンダー」と題して掲げた政策の中で言及されていることで話題となりました。

 現行法は、漫画やアニメ、ゲームなどのいわゆる「非実在児童ポルノ」については規制の対象としていませんが、日本は、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の主要な制作国として国際的にも名指しされており、これらを適切に規制するためのより踏み込んだ対策を国連人権理事会の特別報告者などから勧告されています(2016年)。非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていくために、幅広い関係者と力をあわせて取り組みます。

7、女性とジェンダー(2021総選挙/各分野政策)
各分野の政策(2021年)│日本共産党の政策
日本共産党中央委員会

 まず、そもそも「非実在児童ポルノが、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながる」というのは、科学的な根拠が乏しい主張です。

 「子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない」には同意するが、それに付随する社会的合意によって表現を「自粛」に追い込むのは「実質的な規制」と同等ではないか……という点で、議論が起こったのです。

 インターネットニュース番組『Abema Prime』に出演した日本共産党・吉良よし子常任幹部会員の発言も、社会的合意の観点で話題を呼びました。

さらにタレントでソフトウェアエンジニアの池澤あやかからは「ここ数日、表現の自由と児童ポルノ規制に関する話題で日本共産党が炎上していたが、主張に矛盾はないのか」との質問が出た。

 吉良氏は「矛盾はない。ジェンダー政策の部分で言っているのは、子どもに対する性暴力は絶対許さないということだ。児童ポルノも子どもへの性暴力だから許されないということだ。ただし、児童ポルノという言葉を使った表現規制ということに対しては明確に否定している。表現の自由を守り抜くのは当然だし、児童ポルノを無くせば子どもへの性暴力も無くなるという話ではない。どう解決していくかはクリエイターも含めて国民的に議論していくべきだ。具体的には、子どもたちや一般の人たちの目に触れないような場所に置くゾーニングというやり方もあると思うし、“こういう表現は本当にまずいよね”“儲からないよね”という合意ができれば、クリエイターの皆さんも作らなくなると思う」と答えた。

「自由と民主主義を何よりも大切にするのが共産主義の社会だ」
日本共産党・吉良よし子常任幹部会員 各党に聞く衆院選(5)
政治 | ABEMA TIMES

「……いや、これって『表現規制はしないけど、漫画・アニメ・ゲーム業界の特定表現を政策によって”儲からなくさせる”ことで衰退に追い込む』とも受け取れちゃうんだけど、大丈夫なの……?」

 このような不安や批判が起こり、日本共産党の「女性とジェンダー」政策にはネガティブイメージがついてしまいました。

 では、この「社会的合意」が、企業がジェンダークレーマーに対する法的措置を取るためにどのような役割を果たすのでしょうか。

 表現規制をしなくとも、社会的合意によって表現を「自粛」に追い込めば「実質的な表現規制」ができてしまう。

 しかし、裏を返せば……。

 「自分が不快な表現も含め、あらゆる表現が守られるべきだ」「表現を取り下げや不本意な修正に追い込むジェンダークレームは重大な社会問題である」という社会的合意を形成できれば「自粛による実質的な表現規制」に対抗できることを示します。

 ジェンダークレーマーの問題が、環境問題や貧困問題と同等の社会問題であるという社会的合意を形成できれば、企業がジェンダークレーマーに対して法廷措置を取る「メリット」が生まれます。

 いったい、なぜか。

 企業は、本来の営利活動とは異なる慈善事業に取り組むことがあります。その理由は、慈善事業に取り組むことが企業のポジティブイメージとなり、「ブランディング」に役立てることができるからです。

 ブランディングは「利潤追求」の方法の1つ。

 社会的合意の形成により「企業がジェンダークレームに屈さずに法廷措置で毅然と立ち向かうこと」が、慈善事業への取り組みと同等のブランディングに繋がるならば、法的措置のデメリットよりもメリットが上回る。

 ゆえに、企業は法的措置という手段を選びやすくなる。

 そして、社会的合意を形成するための手段の1つとして、エンカレッジカルチャーは非常に効果的であると、私は考えています。

 私は、エンカレッジカルチャーを「非難ではなく、応援や支援によって意思を示す社会運動」と定義しました。

 例えば、私は過去に「被害者支援の寄付ムーブメント」に携わったことがあります。意図したわけではなく偶発的なものでしたが、私の呼びかけがきっかけで『全国被害者支援ネットワーク』に寄付する運動が起こりました。

 以下の記事は、ムーブメントの協力者の方々が「ネット誹謗中傷粘着ストーカー行為常習犯」と侮辱されたことに対して私が抗議したものですが、このムーブメントの経緯や流れも付随して記録しています。

 この被害者支援の寄付ムーブメントは、ジェンダークレームに対抗して起こったものではなく、別の社会問題を対象としていますが……。

 この被害者支援の寄付ムーブメントも「非難ではなく、応援や支援によって意思を示す社会運動」という定義から、エンカレッジカルチャーの1つであると私は考えます。

 このムーブメントが果たした役割は、3つ。

 1つめ、寄付による金銭的支援。

 2つめ、被害者支援のために寄付できる機関があると周知できたこと。特に「何か行動を起こしたいと思っても、何をしたらいいか分からない」という人に情報を届けられたこと。

 3つめ、この寄付ムーブメントが起こったきっかけの問題も同時に広めることができたこと。

 具体的には、小田急刺傷・殺人未遂事件を「フェミサイド」と断定する危険性や「あなたの幸せな瞬間の写真を投稿して抗議しませんか?」や「祖師ケ谷大蔵駅にポストイット(付箋)を貼って、ミソジニー犯罪にNOを」という抗議活動への疑問の周知です。

 つまり、エンカレッジカルチャーは対象への応援や支援だけではなく、それに付随する社会問題について「一般層へのアプローチ」をかけて社会に周知する効果がある、ということです。

 ジェンダークレームに対するエンカレッジカルチャーが盛り上がれば、一般層の目を惹くことができ、ジェンダークレーム自体に問題意識を持ってもらうことができる。

 それを積み重ねれば「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマーは社会問題である」という「社会的合意」の形成が狙える。

 「社会的合意」が形成されれば、前述した通り企業も法的措置を取りやすくなります。すなわち、エンカレッジカルチャーはジェンダークレーマー対策の「土台」の役割を果たします。

 だからこそ、企業に「ジェンダークレーマーに対して法的措置を取って欲しい」と考えるならば、第三者にできることはエンカレッジカルチャーに取り組むことである、と私は考えるのです。

 ただし、エンカレッジカルチャーにも「弱点」が存在します。

 エンカレッジカルチャー以外のジェンダークレーム対策も紹介しながら、その弱点を検討していきたいと思います。

3. 根拠と記録によるアプローチ

 企業がジェンダークレーマーに対して、法的措置による対応を選びやすくするためには「社会的合意」が必要です。

 「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレームは社会問題である」という社会的合意がなければ、法的措置という選択はメリットよりもデメリットの方が大きい。

 そして、社会的合意を形成するために、エンカレッジカルチャーは効果的な方法の1つ。エンカレッジカルチャーには、対象への支援・応援を通して「一般層へのアプローチ」をかけて社会に周知する効果があるためです。

 さて、エンカレッジカルチャーとは別の方法として。

 「一般層へのアプローチ」という観点から、ジェンダークレーマーへの対抗手段として挙げておくべき戦略が『根拠を調べる』『記録する』です。

 例えば、前述した日本共産党の政策に書かれている「非実在児童ポルノが、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながる」という文言。

 これに類する「表現の悪影響」を語る主張に関して、手嶋海嶺氏が複数の総説論文に当たって調べたうえで、このように述べています。

【ポイント】
・どのようなメディアを見ても、もともと攻撃性や暴力性が強い人がいる。

・性的攻撃や暴力行為をする素質のない人は、ポルノを見ても影響を受けない。
・暴力的なポルノを見た場合と、非暴力的なポルノを見た場合で比較しても、女性に対する態度、レイプ神話の受容、暴力の受容などについて、いずれも特に影響は見られなかった。
・ポルノによる悪影響は無視できるほど小さく、一時的なものであり、現実世界に一般化するのは難しい。

表現悪影響論・表現規制論に対抗するための『理論武装』
~その科学的根拠~
手嶋海嶺|note

 これを読む限りでは、正直に言って「表現の悪影響」が科学的根拠に基づく主張だとは、言い難いものがあるでしょう。

「いや、科学的根拠を調べたからって、何になるの? ジェンダークレーマーが『なるほど、表現の悪影響があるって科学的根拠は無いんですね。すみませんでした』とバッシングをやめるとでも思っているの? そんな話に耳を貸す人たちじゃないでしょ……?」

 もしかしたら、そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。ジェンダークレーマーが「表現の悪影響には科学的根拠が無い」程度で止まるとは思えない。そして、実際に止まっていません。

 しかしながら、科学的根拠は「ジェンダークレーマーへの説得」ではなく「一般層へのアプローチ」として周知することで、その効果を発揮します。

 発信の体裁としては「ジェンダークレーマーの主張へ反論する」という形でも良いのですが、その際に「自分と相手のやり取りを見ている第三者の存在」を意識するのです。

 「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマーは社会問題である」という「社会的合意」を形成するために、科学的根拠は大きな助力となります。

 非常にありがたいことに、手嶋海嶺氏は、初心者向けの「論文の探し方・読み方」も、中高生でも取り組めるくらいの内容で、具体的かつ詳細に書かれています。

 これを参考にすれば、手嶋海嶺氏と同じ戦略を取ることが可能です。

 あるいは、表現規制と性犯罪率について、海外と比較した情報を周知するのも良いでしょう。特に、The International Classification of Crime for Statistical Purposes(ICCS)という統計目的の『国際犯罪分類』による犯罪率の比較は、押さえておきたいところです。

 誤解の無いように言っておきますが、私は性犯罪を無くしたいと思っています。そのうえで「表現規制は性犯罪率を下げるには全く効果がなく、むしろ上がる懸念さえある」と主張しているだけに過ぎません。

 他にも「過去の事例」「公的な事実」という客観的要素に照らし合わせて、ジェンダークレームが不当であることを周知するのも良いでしょう。この方法に関しては『ジェンダークレーマーの定義』で詳しく述べています。

 しかし、過去の事例とは言っても、全く関係の無い他の商業作品等を、相手を「論破」のためだけに著作権等を無視して、これ見よがしに突きつける行為は、その作品のファンから敬遠される恐れがあります。

 その点だけは、十分に気をつけていただきたく存じます。

 科学的根拠と合わせて重要なのが『記録』です。

 ジェンダークレームによって炎上が起こったとき、時間が経てば経つほど「実際に何が起こったのか」を知ることは困難となります。

 ジェンダークレームを既に社会問題だと認識している方ならば、自分で詳しく検索して調べることもあるでしょう。しかし、一般の人々はわざわざそこまでしません。

 だからこそ「一般層へのアプローチ」をかけて社会に問題を周知するためには、「記録」が非常に大きな役割を果たすことになります。

 例えば、私は先日このような記事を書きました。

 この記事は、全国フェミニスト議員連盟が”Vtuber戸定梨香さん”の交通安全啓発動画に関して、警察側に「謝罪・使用中止・削除」を求めたことから始まる一連の出来事を、時系列順にまとめたものです。

 公開後の反応として「何か問題が起きているとは思っていたけど、こんなことが起きていたんだ」という感想を沢山いただきました。

 この『記録』という方法は「後々になって当時のことを参照するために重要である」という他に、それ自体が「興味を持ちかけているが、自分で調べるほどではないという人々にアプローチを掛ける」という効果がある。

 また、『記録』の際に大切なポイントが3つ。

 1つめのポイントは、Twitterのようなフロー型メディアではなく、ブログやnoteのようなストック型メディアで、ジェンダークレーマーによる炎上が起こったら速やかに記録すること。

 公式にはアナウンスされていませんが、Twitterではブロック機能やユーザー名に関連して「Twitter検索でツイートがヒットしなくなる」という現象が起こります。

 今後のアップデート等で変更される可能性はありますが、少なくとも2021年10月14日に検証用アカウントを作成して確認したところ、ブロック機能に関して以下の仕様が存在します。

① 引用RTとブロックの仕様
相手のツイートに引用RTをしてからブロックした後、自分のアカウントでTwitter検索を行った場合、その引用RTは検索にヒットしなくなる。しかし、第三者が検索した場合はヒットする(なお、ブロック後に引用RTした場合も同様の結果となる)

② リプライとブロックの仕様
相手をブロックした場合、ブロック前に行ったリプライはTwitterの検索にヒットするが、ブロック後に行ったリプライは検索にヒットしない。

③ 被ブロックの仕様
相手からブロックされた場合、その相手に対して行った引用RTは、相手のツイートの引用RT欄には表示されなくなる。また、その相手に行ったリプライや引用RTは、Twitterの検索にヒットしなくなる。

セクハラ被害と「性の解放」
―Twitterブロックの隠された仕組み
神崎ゆき|note

 また、他にも。

 Twitterには「ユーザー名にアンダースコアが入っているアカウントで『引用リツイート検索』してもヒットしない」という仕様も存在します。

 まだまだ、確認できていない仕様も存在するでしょう。

 「データとして残っているのだから、後から検索して調べればいい」と考えていると、時事性の強いフロー型メディアのTwitterでは想像以上にあっけなく記録が埋もれてしまう。

 まずは、Togetter、note、ブログ、何でもいい。

 後からでも参照しやすいストック型メディアで、まずは一時的に記録に残すことが重要と思います。そして、必要に応じて都度そのURLをTwitter等のフロー型メディアで発信するのが効果的でしょう。

 さらに、アーカイブサイトも併用しておけば、元の記事が削除されても記録を残しておくことができます。

 これらは、いざ企業が法的措置に乗り出して情報収集を始めたときに、大きな助力をすることができます。

 2つめのポイントは、できればWEBのストック型メディアだけでなく、紙媒体でも記録するのが良いということ。

 基本的に「ネット上の記事はいずれ跡形も無く消失して参照できなくなる」と考えた方が良いです。遥か以前、個人ホームページ時代のWEBはその記録がごっそり失われており、今では参照できなくなっています。その中には、貴重であったはずの記録もあった。

 これは、友人から又聞きした話ではあるのですが、十数年前の政治家の不祥事について事細かに記録を取っていた方がおり、当時のWEBニュース記事等が閲覧不能になっていて証拠が出せずに困っている……といった事態も起こったそうです。実際にあり得る話。

 10年後や20年後にまで、既存のWEBサービスが残っている保証はありません。そして、その頃には「記憶」は、忘れ去られてしまっているでしょう。

 いえ、もしかしたら紙媒体が必要となるのは、そこまで先の話ではないかもしれません。それほどに、WEBでの記録はあっけなく失われる。

 『記録』が本領を発揮するのは、人々の「記憶」が忘れ去られたとき。だからこそ、短期的・中期的なWEBサービスでの『記録』と並行して、長期的な紙媒体での『記録』も進めていくのが望ましい。

 同人誌としてコミックマーケット等で頒布すれば、コミケット運営によって保存もされます。BOOTH等でオンデマンド印刷同人誌として販売すれば、買った人の手元に確実に物理的な形で残せます。記事執筆者が印刷費を負担しなくても良い、在庫を抱えなくても良いというメリットもある。

 紙媒体は、保存性においては群を抜いています。

 「紙媒体をネット経由で参照するのは困難」と思われるかもしれませんが、紙媒体で記事を執筆する際にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスとして「CC BY-ND」と明示すれば、購入者が自由にコピーやスキャンすることが可能となります。

 これにより、何度でもネットに情報拡散して貰うことができる。

 また、他にも。

 PDFを作成して国会図書館に納本するという方法もあります。オンデマンド印刷同人誌もそうですが、こちらの方法も全てWEB上で作業が完結するため、非常にお勧めです。

 私も、まだ紙媒体での『記録』までは着手できていないのですが、まとまった時間が取れたときにやってみようと思っています。

 そして……。

 どうやら、ジェンダークレームやキャンセルカルチャーの被害に遭った側だけではなく、あろうことか「積極的に加担した側」の方にも、紙媒体に『記録』をする動きがあるようです。その中身が、本人たちの都合の良い内容となるであろうことは、言うまでもないでしょう。

 何らかの事柄に関して、紙媒体に残った記録が「それのみ」であった場合、後世においてはそれが「正しい歴史」となってしまいます。

 大げさに聞こえるかもしれませんが、物事を『記録』するというのは、それ程に大切なことなのです。

 3つめのポイントは、キャンセルカルチャーに加担する人々を過度に貶めるような文言を用いずに、なるべく「穏当・丁寧・価値中立」を心掛けた淡々とした書き方を心掛けること。

 これは、何も倫理観や正義感から「相手を貶めるべきではない」と言っているわけではありません。

 『一般層へのアプローチ』を考えたときに、書いてある内容が正論だったとしても、その文言が相手を貶めるようなものならば「ジェンダークレーマーに対抗する側」に悪い印象を持たれてしまう、という話。

 また、既にジェンダークレーマーを社会問題として捉えている層からしても「相手を貶めたい」という目的を持つ人以外は、せっかくの記録を引用しづらくなってしまう。

 丁寧な言葉を使う人は、丁寧な言葉を好む人・乱暴な言葉を好む人の両方から支持されます。しかし、乱暴な言葉を使う人は、乱暴な言葉を好む人からしか支持されません。

 以下の記事は、STP分析と呼ばれるセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングというマーケティングの観点から、支持者を「顧客」に見立てて社会運動を考察したものです。

「KuToo」で学ぶマーケティング戦略|神崎ゆき|note

 「ジェンダークレーマーに問題意識を持つ人々を先鋭化させる」という目的ならば、相手を貶める文言を積極的に使用することが効果的です。しかし、それは「ジェンダークレーマーの根本的解決」の土台にはなりません。

 前述した『時系列まとめ|全国フェミニスト議員連盟による削除要求』も、私はかなり気をつけて「丁寧・穏当・価値中立」を心掛けて書いたつもりですが、それでもまだ「VTuber戸定梨香さんの方に少々寄り過ぎ」というご意見を、"戸定梨香さんに好意的な方から"頂くほどです。

 『一般層へのアプローチ』と、それを踏まえた「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマーは社会問題である」という『社会的合意』の形成を目指すならば、可能な限りの「丁寧・穏当・価値中立」を心掛けた『記録』をお勧めします。

 もしかしたら。

 「あらゆる表現を守るために、相手を貶める書き方はしないように勧める」ことに、矛盾を感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

 すなわち「あらゆる表現が守られるなら、相手を貶める表現も守らなければ、ダブルスタンダードではないか」という指摘。

 しかし、私は「論としての正当性」「戦略としての有効性」は、分けて考えるべきと思います。本記事は、全て後者の観点に則っています。

 これは「表現の自由」を「フェミニズム」に置き換えて考えてみると、分かりやすいかもしれません。フェミニストの石川優実氏は、自身のブログでこのように述べています。

相手がこっちの話を聞いてくれるように気を遣って話す?
その相手、自分の話を聞いてもらうためにこっちに気を遣ってくれたんですか?


相手の話の聞きやすいようにこちら側が下手に出て、相手の機嫌を損ねないように、穏やかにうまく・・・

それって自分から進んで、「私はあなたより下の立場の人間です」って表明しているようなもんですよ。

本当に全ての人間が対等になるためには、まず自分が自分を相手と対等なんだと信じてあげることから始まると私は思っています。

向こうに「降りて来てもらう」、じゃない。
こっちがむこうと同じ高さになるんです。


むこうは今持っている、私たちが死ぬほど欲しい権利(性犯罪にあわない権利、化粧やヒールを義務付けられない権利、入試で差別されない権利、子どもを持ったときに仕事を諦めなくても良い権利、などなど)を、誰かに気を遣って許しをもらって理解をしてもらって得たと思いますか?

そうじゃないはずです。そうでなく、最初からあったはずです。だったらこっちだって、そんな理解得ずにその権利を持てるはずです。

誰かに許可を得なくても、私たちは同じ権利をみんな持っているんだということを知って欲しくて活動をしています。

堂々としていましょうよ。
こちらの話を聞かない人に、話を聞いてもらう努力なんてしなくても良いはずです。
むこうが聞かない権利があるのならば、こちらにだってその権利があるはずです。

私がしてきた「反射的に反論するエクササイズ」
石川優実 [Yumi Ishikawa] Official Site

 石川優実氏の発言は、フェミニズムの「権力勾配」という考え方を踏まえているのでしょう。端的に言えば、次のようなものです。

 「現代社会は『男性優位の格差社会』であるのだから、なぜ女性の方が『話を聞いてもらう努力』『理解を得るための努力』をしなければならないのか。社会に存在する権力勾配を無視して『丁寧で穏当な言葉を使え』というのは、トーンポリシングだ。これは差別への加担である」という考え方。

 「論としての正当性」から見れば、少なくとも「フェミニズムとしては正しい」のでしょう。しかしながら「戦略としての有効性」から見れば、乱暴な言葉を使うフェミニストは、余計に社会から敬遠されていくだけです。

 「論としての正当性・戦略としての有効性」の乖離。

 これはフェミニズムだけでなく表現の自由に関しても、似たようなことが言えると思います。もしかしたら、他の分野でも。真面目に考察を掘り下げていけば、非常に興味深い論点だと思いますが、本記事では「戦略としての有効性」だけに絞って述べていきます。

 ご了承をいただけると、幸いです。

 また、エンカレッジカルチャーには、その性質から「多くの人から好感を持たれやすいコンテンツの場合は効果を発揮するが、一般的には敬遠されがちなコンテンツがジェンダークレーマーの標的となった場合、大きな効果は期待できない」という弱点が存在します。

 その弱点を『根拠を調べる』『記録する』というアプローチは補うことができます。もしかしたら、エンカレッジカルチャーよりこちらのアプローチが性分に合っているという方も、いらっしゃるかもしれません。

 根拠を調べるのは言わずもがな、記録に関しても「その炎上事例1つではなく、複数の炎上事例の記録を引用することで、ジェンダークレーマーを社会問題として論じることができる」という点から、重要な資料となる。

 各々が自分に向いているやり方で取り組むのが良いと、私は思います。

4. 選挙の情報共有

 さて、ここまでジェンダークレーマーへの対抗戦略として『法的措置』『エンカレッジカルチャー』『根拠と記録によるアプローチ』の3つについて、説明してきました。

 一旦、ここまでをまとめてみましょう。

 表現規制をしなくとも「こういう表現は本当にまずいよね」「儲からないよね」という『社会的合意』で表現を「自粛」に追い込めば「実質的な表現規制」ができてしまう。

 これは、裏を返せば「自分が不快な表現も含め、あらゆる表現が守られるべきだ」「表現を取り下げや不本意な修正に追い込むジェンダークレーマーは重大な社会問題である」という社会的合意を形成できれば「自粛による実質的な表現規制」に対抗できるということ。 

 「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマーは社会問題である」という社会的合意が無ければ、企業にとっては法廷措置を取るメリットよりもデメリットの方が大きくなる。だから企業は「利潤追求」の原則に従って、その選択を取らない。

 逆に言えば、社会的合意を形成できれば、ジェンダークレーマーに毅然とした姿勢を見せることを「ブランディング」に役立たせることができるため、企業は法的措置という選択を取りやすくなる。

 その社会的合意を形成するためには『エンカレッジカルチャー』『根拠と記録によるアプローチ』を通して、一般層に呼びかけを行うことが重要。

 これが、ジェンダークレーマーの被害者ではない第三者として、もしくは個人として、できる対抗戦略である。

 さて、ここで1つ明確に書いておかなければならない事項があります。

 それは、ジェンダークレームは「憲法上の『表現の自由』の問題」ではないということ。

 なぜかと言えば、国家や自治体が法律や条例により表現規制を行うわけではないからです。憲法は「国家権力」を縛るものなので、厳密に言えば「ジェンダークレームは憲法上の表現の自由の問題ではない」となります。

 ただし、憲法上の『表現の自由』の問題ではないだけで、原理的な人権における『表現の自由』の問題ではないとは、必ずしも言えません。

 日本で暮らしていると「憲法で保証されているもの = 人権」と思ってしまいがちですが、憲法に人権規定がない国家や、そもそも国家が機能していない地域もあるのです。

 しかし、少なくともジェンダークレームは、国家や自治体が法律や条例による表現規制ではありません。

 注意して頂きたいのは「表現規制ではないから安心」ではなく「表現規制ではないから厄介」であること。

 ジェンダークレーマーへの対抗戦略として「どうせ強制力は無いのだから『無視』すれば良いだけ」と提案される方もおりますが……。

 確かに、企業だけなら『無視』が最良の選択かもしれません。しかし、何らかの形で行政機関が関わっていると、そもそも『無視』という選択を取ることができない場合もある。

 前述した、全国フェミニスト議員連盟の交通安全啓発動画の削除要求は、動画を制作した株式会社 Art Stone Entertainment ではなく、そのコラボ先である千葉県警・松戸警察署・松戸東警察署に向けて行われたものです。同社には『無視』という選択肢を取る権限が、そもそも存在しない。

 また、地域活性化プロジェクトである『温泉むすめ』を運営する株式会社エンバウンドは、おそらくはジェンダークレーマーの影響で「スポーツ文化ツーリズムアワード」の受賞を辞退しましたが……。

 このアワードは観光庁・スポーツ庁・文化庁の3庁が合同で主催するものです。実質的に『無視』という選択肢を取るのは、不可能であったのではないかと推察します。

 また、他にも。

 2020年12月に、世界最大のアダルトウェブサイトPornhubに対して、VisaとMastercardが決済停止を行ったことが話題となりました。

 これにより、Pornhubの決済手段は仮想通貨のみとなったのですが、重要なのは「決済手段を提供する企業が停止処分を試みることで、表現規制をしなくとも事実上の検問が可能となる」という点。

 例えば、仮にクレジットカードの決済会社が、日本共産党が言うような「非実在児童ポルノ」を懸念して、『PIXIV FANBOX』『DLsite』『とらのあな』等のサイトに決済の停止処分を行ったとしたら、オタク文化の表現とクリエイターは致命的なダメージを負うでしょう。

 現実に日本でも、R18の分野では既に「ライトな表現規制」は起こっています。表現規制はR18の分野から徐々に始まるのです。

 2022年7月29日には、オンライン通販やコンテンツ配信サービス等を運営するDMM.comが、MasterCardでの決済に関する契約を終了することを発表しました。

 同社は「MasterCard側と弊社のサービスでのカード決済において諸条件が折り合わず、残念ながら契約終了となりました」と回答しています。詳細については契約事項に該当するため非開示となっていますが、同社が成人向けサービスを手掛けていたことから、SNSでは表現規制との関連性を指摘する声も出ています。

 決済手段が封じられたり、作品自体が公開できなければ「買って応援」も「買い支え」もできず、コンテンツを広めようと思っても、そもそも企業やクリエイターがそのコンテンツを公開できる場が無くなる。当然ながらクレジットカード会社を『無視』もできない。さらに、エンカレッジカルチャーという対抗手段を取ろうとしても、それ自体もできなくなる。


 しかしながら、このような事態に陥る前に『エンカレッジカルチャー』と『根拠と記録によるアプローチ』で社会的合意を形成できれば、この「事実上の検閲」にも対応できる……。

 ……と考えるほど、私は楽観的ではありません。

 日本だけでなく、世界規模の「事実上の検閲」に対抗するには、民間の社会運動だけではなく「政治の力」が不可欠であると私は考えます。

 すなわち、ジェンダークレーマーに対抗するには、『選挙』で表現やクリエイターを守る政治家を、地方自治体から国政まで幅広く送り込むことが必要となる。

 エンカレッジカルチャーの定義を踏まえれば……。

【エンカレッジカルチャーの定義】
 エンカレッジカルチャーとは、非難ではなく、応援や支援によって意思を示す社会運動である。

 投票によって意思を示す『選挙』は、究極のエンカレッジカルチャーだと言っても、過言ではないかもしれません。

 ここで、注意すべきことが2つあります。

 まず1つは、表現やクリエイターを守る政治家を送り込むためには、幅広い年代に理解を得なければならないということ。

明日への統計2021|総務省統計局

 『明日への統計2021』を見ると、20代から30代に比べて、40代から50代は、約2倍の人口がいることが分かります。

 重要なのは、日本の制度が「1人1票」であること。つまり、人口が多いということは、その年齢層の「票数が多い」ということです。そして、票数が少ない若年層に比べて、票数が多い中高年層はオタク文化に親和的ではない傾向がある。

 「中高年層はオタク文化に親和的ではない傾向がある」という事実は、VTuber戸定梨香さんや宇崎ちゃん献血ポスターに関して、すもも氏が実施したインターネット調査の結果でも示唆されています。

 オタク文化に理解があり、表現とクリエイターを守ってくれる議員を政治の場に送り込むためには、オタク文化に必ずしも親和的ではない中高年層の理解を得る必要がある。

 これに気づいてから、私は「オタク文化の表現は不快だ」と思う人々からも「それでも表現やクリエイターは守られるべきである」という理解を得られるように、発信を心掛けるようになりました。

 「不快な表現でも守られるべきである」と思う人々が増えない限り、表現やクリエイターを守る議員を政治の場に送り込むことはできず、公共広告の表現をバッシングから守ることはできない、と考えたのです。

神崎ゆきの「本当の目的」|神崎ゆき|note

 オタク文化の表現は、ジェンダークレーマーの標的となりやすい。

 しかし、表現やクリエイターを守る政治家を送り込むには、どうしても票数が必要となるため「オタク文化の表現は不快だ」と思う人々にも「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマーは社会問題である」という理解を得なければならないのです。

 非常に困難なことではありますが、ここは避けては通れない。

 もう1つ気をつけるべきことは、表現やクリエイターを守る政治家を送り込むには、民間による『社会的合意』の形成も同時平行で進めないとならないということです。具体的には「票割れ」が起こってしまう。

 「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマーは社会問題である」と考える人々がまだ少ない状態で、表現やクリエイターを守ると掲げる立候補者が増えてしまうと、少ない票数がそれぞれの立候補者に分散します。結果として、誰も当選しなくなってしまう。

 だからこそ、表現やクリエイターを守る政治家を送り込むためには『社会的合意』の形成を目指して『一般層へのアプローチ』を意識することが必須となります。

 そして、その『一般層アプローチ』における「一般層」の内訳として、若年層から中高年層まで幅広い年代を想定して情報共有を目指さなければ、大きな票数は獲得できません。

 なお、2022年7月25日までに行われる参議院議員通常選挙を対象として「#表現の自由を守る参院選2022」というハッシュタグがあります。

 このハッシュタグは、yatoegg氏の「表現の自由というイシュー(論点・課題・問題)において、与野党合計で200万票を掘り起こすムーブメント」といった話を受けて、炬燵どらごん氏が提案したものです。

 与野党合計で200万票を目指す。

 ところで、フェミニズムには「個人的なことは政治的なこと」というフレーズがあります。このフレーズは、1960年代以降のアメリカにおける学生運動および第2波フェミニズム運動におけるスローガンです。

 しかしながら、現代において。

 私は、表現の自由というイシューで与野党合計で200万票を目指し、政治表現やクリエイターを守るためには、逆に「政治的なことは個人的なこと」という意識で情報を共有していくことが大切だと思います。

 政治はどこか遠い世界の話だと思われがちですが、実際には「政治に無関心でいられても、無関係ではいられない。誰も政治からは逃れられない」のです。

 私も、あなたも。

 ここまで述べてきた『法的措置』『エンカレッジカルチャー』『根拠と記録によるアプローチ』『選挙の情報共有』という、4つの方法。

 これらはそれぞれ、ジェンダークレーマーに対抗する独立した方法でもありますが、同時に『社会的合意』というキーワードで、それぞれが有機的に結びついてる関係でもあります。

 「どれが良い、どれが悪い」という話ではない。

 ジェンダークレーマーに対抗するには「全てが必要」です。そして、同時に「全てを独りで行う必要はない」とも思います。

 自分の性格・興味関心・向き不向きに合わせて、取り組めることに取り組めばいい。そうすれば、他の方法でジェンダークレーマーに対抗する人々とも連携して、相乗効果をもたらします。

 政治方面からジェンダークレーマーという社会問題に取り組みたいと考える方は、まずは「#表現の自由を守る参院選2022」のハッシュタグで『選挙の情報共有』をすることをお勧めします。

 そして、気概があれば……。

 政治の場で表現とクリエイターを守るべく活動するために、自ら立候補するのも、1つの方法です。

5.スキャンダルの調査とリーク

 さて、ここまで。

 『法的措置』『エンカレッジカルチャー』『根拠と記録によるアプローチ』『選挙の情報発信』という、ジェンダークレーマーに対抗する4つの方法を説明してきました。

 これらは「ジェンダークレーマーの被害に遭ってからの対応」や「短期的ではなく長期的な観点で、ジェンダークレーマーに対抗する方法」であり、言うなれば「守りの戦略」です。

 しかし、ジェンダークレーマーを社会問題と捉えている方の中には、方法や程度の差はあれ、ジェンダークレームに加担する人々に対して、同様に糾弾することを是とする方々もおります。どうやら「報復派」と自称・他称されているようです。

 ザッと意見を見た限り、数年に渡る長い期間に渡って「表現の自由」の問題に取り組んでいる方ほど、一向に解決の兆しを見ないジェンダークレーマーにもどかしさを覚え、報復派の考え方に寄る傾向があります。

 私は、まだ今のアカウントで発信を初めて1年ちょっとしか経っていないので、こんな若輩者が言うのは烏滸がましいと承知していますが、それでも「報復したい気持ちは、正直すごく分かる」という部分は否めない。

 しかしながら、報復の方法としてまず挙げられるのは『法的措置』なのですが、これは基本的に「被害を受けた当事者」にしか選ぶことができず、また選ぶにも『社会的合意』が形成されていない状態では、当事者にとってメリットよりもデメリットの方が大きい。

 結局、第三者が当事者に『法的措置』という方法を取ってもらうためには、『エンカレッジカルチャー』『根拠と記録によるアプローチ』『選挙』を通じて『社会的合意』を形成することしかありません。

 では、他に個人ができる「攻めの戦略」はないのでしょうか。

 『はてな匿名ダイアリー』では、キャンセルカルチャーへの対抗手段として、相互確証破壊としての『キャンセルカルチャー返し』が提案されています。具体的には、キャンセルカルチャーに加担する自著を1冊1冊炎上させることで権威を削いでいく方法。

 しかし、私はこのやり方をお勧めしません。

 私が、もし「キャンセルカルチャーに加担する側の人間」あるいは「ジェンダークレーマー」だったと仮定して『キャンセルカルチャー返し』『ジェンダークレーム返し』をされたら……。

 「モノ言う女は叩かれる、女性蔑視が社会に溢れている証拠、女性差別だと声を挙げることすら許されない」と見立てることで、フェミニズムやジェンダー平等への『バックラッシュ』だと語り、思う存分に利用します。

 正直、フェミニズムにて展開されている論理や、フェミニストの主張には数々の疑問点や矛盾点があります。時には、あまりにも無茶苦茶で無理筋な主張の展開もある。しかしながら「それでもなお、これほどまでに支持されている」という現状を、しっかりと脅威だと認識すべきと思うのです。

 それは「女性」を「被害者」に見立てることで「かわいそう」という世間の同情を誘うことが巧みであること、またメディアとの繋がりや政治におけるロビー活動に卓越していること、政党や団体と言った組織力を持つことなど、様々な要因があるでしょう。

 だからこそ、同じやり方を真似して『キャンセルカルチャー返し』『ジェンダークレーム返し』をしても、それを利用して「被害者」というポジションに逃げ込まれてしまい、さらに「表現の自由戦士」や「オタク」と一括りにされ、「加害者」のレッテルを貼られて悪魔化(デモナイゼーション)されてしまう。

 一方で、自分たちの「キャンセル」には適当な"それっぽい理由"をつけて正当化し、メディアや政党を通じて一般層にアピールされてしまう。

 この点は、青識亜論氏も同様の指摘をしています。

 では、他に方法はないでしょうか。

 私が思いつくのは、ジェンダークレーマー、またその人々が所属する団体に関する『スキャンダルの調査とリーク』です。これが、個人ができる範囲で可能な方法かなと思います。

 詳しい具体例はこの場では述べませんが、フェミニズム・ジェンダー平等・反差別運動を掲げる団体の一部には、団体同士やスポンサーの繋がりにおける「ヒト・モノ・カネ・情報」の流れで、個人的に「かなり気になる部分」がいくつかあります。

 おそらく、疑問を抱いているのは私だけではないのではないか……と思っています。

 しかし、個人が調べられる表面的な部分だけをネットで公開して「こんな疑惑がある」と相手に突きつけても、良くてスルーされてネットの海に埋もれて終わりです。

 悪ければ、名誉毀損・偽計業務妨害・威力業務妨害で法的措置を取られます。もっと悪ければ、開示請求された個人情報をメディアにリークされる可能性もあります。

 ……その後どうなるか、あまり考えたくはありません。

 しかしながら、大人数を動員したらスキャンダルの調査をしようとしたら、今度は統率が取れなくなります。

 エンカレッジカルチャーの最大の利点は「大人数を動員しても問題になりづらい」ことです。つまり、動機や目的が一枚岩でなくとも良い。

 元からそのコンテンツが好きだった人、炎上がきっかけで知って応援したいと思った人、コンテンツ自体には興味がないけれどジェンダークレーマーに対抗するため支援したい人、お金は出さなくとも拡散協力で応援する人、黙って支援する人、一過性の人、継続してファンになる人、エンカレッジカルチャーとしてコンテンツを応援している人、特にエンカレッジカルチャーを意識せずに純粋にコンテンツを応援している人。

 本当に様々な動機の方がいますが、それらの区別がつかないことこそが、エンカレッジカルチャーの強みです。

 動機がどうあれ、お金に色はつきません。
 署名も、選挙の投票も、動機は反映されません。

 私はエンカレッジカルチャーを「非難ではなく、応援や支援で意思を示す社会運動」と定義しました。エンカレッジカルチャーに基づく社会運動は、必ずしも全て「成功」となるわけではありませんが、もしその運動の統率が上手く取れなくても、致命的な「失敗」になることは少ない。

 これが、エンカレッジカルチャーの最大の利点。

 しかしながら、対象のスキャンダルを調査して公開する場合、統率が取れないことは、致命的な「失敗」に繋がります。

 大人数を動員すると「勇み足」を踏んでしまう方もいるでしょう。もし調べて発見した「疑惑」が正真正銘の本物だったとしても、誰かが細部を伴わない杜撰な公開の仕方をしたら、相手側に「証拠隠滅」を図る時間を与えるだけです。もちろん、前述した法的リスクも跳ね上がる。

 現実的に、この方法に取り組むなら。

 個人が安全に調べられる範囲で調べたら、それを元に「興信所」を始めとしたプロフェッショナルへ依頼するのが良いでしょう。

 信用調査と身辺調査を行い、対象の団体の要人やスポンサーとの繋がりを洗います。金銭的コストは掛かりますが、素人が自分で調査するリスクよりも遥かにマシです。

 そして、そこで本当に「スキャンダル」と称して過言ではないものを発見してしまったら……。

 まず、犯罪行為に当たるものであれば、警察へ。

 「犯罪行為ではないが倫理的にどう考えてもアウト」というものであれば、自分で公開せずに「信頼できるメディアへ情報をリークすること」が、安全かつ大きな話題を呼べるのではないかと思います。

 この場合は「どこが信頼できるメディアなのか」という見極めも非常に重要となるでしょう。当然ながら、ジェンダークレーマーに与するメディアに情報をリークしても、意味がありません。

 個人的には、神戸新聞社の『よろず〜ニュース』に、信頼できるメディアとしての可能性を見出しています。

 根拠としては、まずフェミニストが関わる団体の1つ『Online Safety For Sisters』に関して、批判的な記事を「よろず〜ニュース編集部」の名義で公開していたこと。

 また、よろず〜ニュース所属の福島大輔氏は……。

 全国フェミニスト議員連盟が"VTuber戸定梨香さん"の動画を削除要求したことから始まる一連の出来事について、熱心な取材に基づく記事を4本執筆されています。

 もちろん、これだけで「信頼できるメディアだ」と考えるのは早計と思いますが、『よろず〜ニュース』はyahoo!ニュースにもよく掲載されるメディアで、拡散力もある。しばらく神戸新聞社の動向を見守る価値はありそうだと、私は考えています。

 以上が『スキャンダルの調査とリーク』という方法の具体的なやり方なのですが、くれぐれも注意しておいて欲しいことがあります。

 まず、この方法は「多かれ少なかれ、相手側の憎悪を煽ることになる」ということです。これは避けては通れません。

 そして、同時に「誰の役にも立っていない、誰も救っていない、誰も支持していない」という団体は、ほとんど存在しないということ。どのような形であれ、誰かの役に立ち、誰かを救い、誰かに支持されている。

 これらを考慮したときに、取り扱うべきスキャンダルは「世間一般の感覚から見て、社会通念から忌避される」では、まだ足りないと思います。

 そのスキャンダルを公表することで「対象の団体を支持する人々でさえ、団体の姿勢に疑問を持ってしまうもの」な必要がある。

 そのスキャンダルを公表せずに放置したままにしたら、その団体に関わる人々に明確な不利益をもたらしてしまうもの。スキャンダルを公表することが「その団体を支持する人々のため」になるようなもの。

 ちょっとした発言の揚げ足取りや、何とでも誤魔化せる「疑惑」を精査せずにあげつらっても、あまり意味がありません。

 『スキャンダルの調査とリーク』において、興信所やメディアと言った「その道のプロフェッショナル」を介すことは、この観点からも重要となります。プロフェッショナルから「これは公表しても意味がない」と判断されたものは、素直に諦めた方が良い。

 可能であれば、弁護士等の法律の専門家への相談もしっかりと行っておけば、より万全と思います。

 「攻めの戦略」を取るならば、社会通念と照らし合わせて、圧倒的にスキャンダル公表側に正当性があるような、それを公表することで対象の団体の正当性を喪失させるような、相手側に与する人々でさえ味方につけられるような、「倫理的で、致命的で、決定的な一撃」が必要だと私は考えます。

 そして、それ以上に重要なのは……。

 「スキャンダルなど、無いほうが良い」という大前提を忘れないこと。対象の団体を調査して、何もスキャンダルを発見できなかったら「良かった。ちゃんと活動している団体なんだ」と捉えることです。

 『スキャンダルの調査とリーク』は、人によっては「過激な方法」と感じるかもしれません。

 だからこそ、細心の注意を払って行う必要があり、引き際を見極めることも大切となります。

6. 最後に

 ここまで、ジェンダークレーマーに対抗する様々な方法を『個人が現実的に可能な具体的行動』に落とし込んで説明してきました。

 簡単にですが、まとめてみます。

① 法的措置
 ジェンダークレーマーの被害に遭った当事者にしかできず、さらにコストとリスクに比べてリターンが小さい。そのため、企業は「利潤追求」の原則からこの方法を選ばず、法的措置よりもコストとリスクが小さい方法で、ジェンダークレーマーによる損害の回復を図る。企業に法的措置を取ってほしいなら「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマー
は社会問題だ」という『社会的合意』を形成する必要がある。そうすれば、企業がイメージアップのために慈善事業を取り組むのと同様に、ジェンダークレーマーへの法的措置を「ブランディング」に役立たせられるというメリットが生まれ、その選択を取りやすくなる。

② エンカレッジカルチャー
 「非難ではなく、応援や支援によって意思を示す社会運動」と定義する。買って応援、買い支えだけでなく、情報の拡散に協力することもエンカレッジカルチャーに含まれる。最大の利点は「動機が一枚岩でなくとも良いため、大人数を動員しても問題になりづらいこと」である。エンカレッジカルチャーは、対象の社会問題に人々の関心を惹くことで『社会的合意』の形成をする効果がある。

③ 根拠と記録によるアプローチ
 「表現が悪影響を与えるという主張は科学的根拠に乏しい」を始めとした、表現に関する研究や論文を調べて広めていく。これは、ジェンダークレーマーを説得する目的ではなく『一般層へのアプローチ』である。また、ジェンダークレーマーによる被害が起きたら、それを淡々と記録することも重要。その際は、一般層への関心を惹くこと、後から引用して論じやすくすることを考えて、穏当・丁寧・価値中立なものが望ましい。これらの方法も『社会的合意』の形成する効果がある。

④ 選挙の情報共有
 ジェンダークレーマーに対して『無視』するという方法は、行政機関が関係する場合、実質的に不可能なこともある。また、世界規模で「クレジットカード決済の停止処分」という「事実上の検閲」も起きている。これらに対抗するには政治の力が不可欠だ。そして、表現やクリエイターを守る政治家を送り込むには「オタク文化に必ずしも親和的でない中高年層」の理解を得ることが重要となる。なぜなら、中高年層は若年層の2倍以上の人口であるため、必然的に多くの票数を持っているからだ。表現やクリエイターを守る立候補者が増えても、同時に『社会的合意』の形成を進めなければ「票割れ」を起こす。幅広い年代に「あらゆる表現が守られるべきだ」「ジェンダークレーマーは社会問題だ」という認識を持って貰えるように、情報共有をしていくことが大切だ。

⑤ スキャンダルの調査とリーク
 キャンセルカルチャーに加担する人々の自著等を1冊1冊バッシングやコメントスクラムで炎上させていく『キャンセルカルチャー返し』は「モノ言う女は叩かれる」「女性蔑視が社会に溢れている証拠」「女性差別だと声を挙げることすら許されない」という文脈で語られてしまうので、意味がない。それよりも、キャンセルカルチャーやジェンダークレームに加担する人々および団体のスキャンダルを発見することが有効だ。その場合、個人で安全に調べられるだけ調べたら、あとは「興信所」等のプロフェッショナルに身辺調査を依頼するのが良いだろう。そして、スキャンダルを発見したら、犯罪行為であれば警察に届けること。犯罪行為ではないが倫理的に問題であるものであれば「信頼できるメディア」にリークするのが望ましい。また、そのスキャンダルは社会通念と照らし合わせて、一般的に忌避されるものであるだけでなく、公表することで「対象の団体を支持する人々でさえ、団体の姿勢に疑問を持ってしまうもの」であることが重要だ。そして、スキャンダルを発見できなければ、大人しく手を引くべきである。

 最後に「リソース」の問題に触れたいと思います。

 エンカレッジカルチャーに関する議論の中で、しばしば「エンカレッジカルチャーはジェンダークレーマーに比べて、圧倒的にリソースが必要だ」という意見を見かけました。

 「ジェンダークレーマーは、指先1つで標的をバッシングして追い込むことができる。エンカレッジカルチャーで対応している間に、相手は次の標的を探すだけ。どんどん応援・支援する対象が増えていく。だから、法的措置によって相手側を『痛い目』に遭わせなければ、ジリ貧に陥る」という主張。

 しかしながら……。

 そもそも、ジェンダークレーマーに対抗するために「大きなリソースが不要で効果的な方法」は、私の考える限りでは存在しません。

 『法廷措置』という対抗手段は、第三者視点から見れば掛かるリソースが少ないように思えますが、実際は「当事者がコストとリスクを全て背負っているだけ」に過ぎません。

 企業に法的措置を取るように促して、法的措置を取らなかったら責める行為は、逆にジェンダークレーマーから「表現の自由戦士たちは、自分たちに都合の良い企業は担ぎ上げて神輿にして、都合が悪くなったら排除する」という主張に利用されるだけです。

 また、他にも。

 『キャンセルカルチャー返し』『ジェンダークレーム返し』という対抗手段、すなわちキャンセルカルチャーやジェンダークレームに加担する人々の書籍やコンテンツを、逆にバッシングやコメントスクラムで炎上させていく方法は指先1つで可能ですが、これも「女性蔑視が社会に溢れている証拠だ」として利用されて終わります。ともすれば「オタクはこういうことをする奴らだ」という社会的なイメージダウンとなる。

 『無視』という対抗手段はリソースこそ必要ありませんが、前述した通り、行政機関が関わる場合はその方法は取れません。また、行政機関が関わっていなくとも、企業に出資する「スポンサー」にジェンダークレーマーの矛先が向けば、その企業は実質的に『無視』ができなくなる。

 つまり、逆説的に考えると……。

 行政機関やスポンサーがジェンダークレーマーを『無視』できる頃には、幅広い年代に「あらゆる表現が守られるべきである」「ジェンダークレーマーは社会問題だ」という『社会的合意』が既に形成されており、ジェンダークレーマー自体が脅威ではなくなっていると言えるでしょう。

 最終的に目指すべきは、この『社会的合意』です。

 そもそも、リソースを割かずに簡単に解決できるなら、ジェンダークレーマーはここまで大きな問題となっていません。

 『社会的合意』が形成されるまでは、どの方法でジェンダークレーマーに対抗するにしても、ある程度の効果が見込まれるものには、それなりのリソースが必要だと覚悟すべきと思います。

 金銭面だけではなく、時間や労力も含めて。

 リソースが必要だからこそ、少しでも自分の性格や適正に合っていて、なるべく取り組みやすい方法から始めることを私は勧めます。

 例えば、私は政治のことは調べ始めたばかりで、まだ全然詳しくありません。なのでハッシュタグ「#表現の自由を守る参院選2022」を始めとした『選挙の情報共有』では、あまり自分の意見は言わずに"RT&いいね"に徹しています。

 また、仕事がそれなりに忙しいので『スキャンダルの調査とリーク』に取り組むには、少々時間が足りない。

 しかし、私にはマーケティングの知識があります。PCが使えて、ある程度まとまった文章も書ける。そして、オタク文化のコンテンツが大好きです。なので『エンカレッジカルチャー』と『根拠と記録によるアプローチ』を中心に、一般層に向けて呼びかけをしています。

 独りで全てに取り組む必要はありません。ジェンダークレーマーに問題意識を持っている人々で、自分ができる範囲でやっていく。短期的な解決が難しいからこそ、長期的に続けられることをやっていく。

 これが現時点での最適解かと、私は思います。

 ……。

 ですが、これでもまだ足りません。

 ここまで、ジェンダークレーマーが「企業」の表現を対象とする場合について述べてきました。

 企業がジェンダークレーマーに『法的措置』を選択しないのは、コストとリスクにリターンが見合っていないから。

 だから『社会的合意』の形成によって、ジェンダークレーマーへの法廷措置を、慈善事業への取り組みと同程度の「ブランディング」に役立たせることができるようになれば、企業は「利潤追求」の原則に従って『法的措置』を取りやすくなる。

 しかし、企業ではなく「個人」のクリエイターがジェンダークレーマーの被害に遭った場合、あるいは資金に乏しい小さな企業が被害に遭った場合、そもそも『法的措置』を取るための金銭的コストを捻出することが難しい。

 ジェンダークレーマーの標的となるのは「オタク文化」の表現が多い。

 これは言い換えれば、抵抗ができる人数がそれなりにいるオタクだからこそ「まだ、今の被害で済んでいる」とも言えます。それでも、相当に甚大な被害ではある。

 オタクよりも人数が少なく、一般的な感覚ではまず間違いなく「不快で気持ち悪い」と思われてしまい、世間からの理解も得られていない……そんなマイノリティの個人クリエイターによる「表現」がジェンダークレーマーの被害に遭えば、もはや回復が困難な致命的なダメージとなってしまう。

 『法廷措置』を取るための費用を「クラウドファンディング」で募るという方法もありますが、弁護士の小沢一仁氏は否定的な見解を述べています。

 以下のツイートから続く、一連の投稿を引用します。

最近、クラウドファンディングが注目されているため、主に弁護士費用をクラウドファンディングで賄えないかという相談がちらほらあるけれども、刑事事件や行政事件であればともかく、私人間の事件で利用するには相当慎重にならなければならないと考えています。基本的に相談されても止めます。→

理由は、①認知・共感を得るために、自己の正当性を広くアピールしなければならない一方で、裁判によらず相手方を一方的に貶めることになるため、名誉毀損になりかねないこと、②お金を出す人が期待すること(真実を知りたい、相手方を徹底的にやり込めて欲しいなど)にブレがあり、事件処理の→

方針によってはクレームになりかねないこと(特に、和解したりするとクレームになりやすいと思います)、③戦略や守秘義務の関係で事実関係の詳細を公開できないことがクレームになりやすいこと、④性質上リターンの設定がしにくいとところ、お金が集まった場合、弁護士費用が集まったお金から→

賄われ、その分利用者は賠償金等を丸取りできるため、結果的に他人の善意でお金を稼いだという批判を受けやすいこと、などというリスクが無視できず、クラウドファンディングをすることによってさらに依頼者に不利益が生じる可能性が高いからです。また、金銭的負担がない分、無理筋な裁判を→

起こしやすくなるという弊害もあります。対応する相手方の負担は大きいものとなります。私人間でクラウドファンディングを利用するのであれば、最低限、一方的な主張ではなく、当事者間の主張を併記して、出資者の選択のための情報提供をすべきだと思います。片方に肩入れして投資してみたところ→

ふたを開けてみたら、相手方の言い分が正しいと感じたというのでは、かなりの不満が残ると思います。

煽りデマの事件でも、事案の公益性からクラウドファンディングの利用を検討しました。しかし、この件でも結局解決方法は損害賠償請求であり、人のお金で稼いでいるとの批判は避けられないものと考えたため、それでは被害者救済にならないと考え、利用することは止めました。→

それが泣き寝入りを増やすではないかとの批判もあるところかと思います。この点はリターンを工夫して、より批判を受けにくい制度を構築することもあり得ます。ただ、正直、私にはどうすればそうできるのか、良いアイデアが浮かびません。

弁護士 小沢一仁|午後11:08 · 2020年4月3日|Twitter

 では、どうすれば良いのか。

 ここから先は、理想論になります。また、個人が取り組めることでもありません。ある程度の組織的な動きが必要となります。

 その前提でお読みください。

 私は、ジェンダークレーマーに問題意識を持つ出資者がお金を出し合い、その資金を適切に運用する「基金」の設立が必要と思います。

 クラウドファンディングの場合は『法的措置』を行う当事者が、出資者へ直接対応しなければならない。つまり、本質的には「金銭面のコスト」を「出資者に対応するコストとリスク」に置き換えているに過ぎません。

 そこで、出資者と当事者の間に「基金」が入って、当事者と出資者の間に発生するコストとリスクを肩代わりするのです。

 ジェンダークレーマーの被害に対して、金銭的な支援がしたいと考える出資者は、基金に寄付をする。

 寄付された資金は、基金を運営する人々の人件費に充てる分を除き、ジェンダークレーマーへ『法的措置』を取りたい人々に出資される。

 ジェンダークレーマーに対して『法的措置』を取りたい企業や個人等の当事者は、基金に必要な書類等を提出する。当事者の主張に何らかの不備があれば、基金は書類を否認する。基金が書類を承認した場合、法的措置を取るための資金が出資される。

 基金は、資金の状況を定期的に公表するが「誰に出資したか、どの裁判なのか」という個人情報は公開しない。

 当事者が裁判で賠償金を獲得できなかったとしても、基金への返還義務は無い。賠償金を獲得できた場合は、その一部を基金に返還する。

 ……もし、このような組織が設立できたら、ジェンダークレーマーという社会問題を根本的に抑止できるのではないかと思います。

 また、この『基金』の構想には、とつげき東北氏が表現の関する『保険』という形で、ビジネスやシステムとして現実的な提案をされています。

 ただし、これをやるには「自分の人生を掛けてジェンダークレーマーという社会問題に取り組む」という覚悟を持つ人物が必要となります。それも、1人ではなく複数人。もちろん、匿名ではなく実名で活動できる人物。

 正直に申し上げて、私にはできません。今の仕事が本当に大切だから、それを捨てることはできない。そして、自分にできないことを他人に押しつけることも、私にはできません。

 だから、理想論。

 おそらく「自分の人生を掛けてジェンダークレーマーという社会問題に取り組む」ことができないのは、私だけではないでしょう。だからといって、ジェンダークレーマーを放置したままで良いとも思いません。

 皆で少しずつ、できる範囲で『個人が現実的に可能な具体的行動』に取り組んでいくしかない。そのための手掛かりとして、エンカレッジカルチャーに関する論点を可能な限り取り上げて、この記事を書きました。

 最後の最後。

 もう1つだけ、理想論を述べるなら。

 おそらく、この記事を読んでいる方は、ジェンダークレーマーに問題意識を持っている方がほとんどだと思いますが、もしジェンダークレームに加担している自覚がある方が、この記事を読まれているのなら。

 ある表現を「問題だ」とバッシングするのではなく、自分が良いと思うものを応援することで、意思を示すように変わって欲しい。

 非難して騒ぐジェンダークレームやキャンセルカルチャーではなく、応援して盛り上げるエンカレッジカルチャーで、社会問題に取り組んで欲しい。

 何かを非難することで意思を示す社会運動ではなく、応援と支援によって意思を示す社会運動が広まって欲しい。

 ある日突然、バッシングの嵐に晒される。

 その恐怖に、誰も怯えなくても済むように。

 私は、そう願っています。


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