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【読書記録】インテグラル理論を体感する〜統合的成長のためのマインドフルネス論〜

アメリカ人の思想家ケン・ウィルバー氏が提案している、人の意識の発達および、世界を統合的に捉えるための視点を提供している「インテグラル理論」。

2019年6月に、日本能率協会マネジメントセンターから「A Theory of Everything」の復刻・新訳版「インテグラル理論」が出版され、人の意識および能力の発達に関する興味関心が高まってきているように感じます。(その時の読書録は、以下のリンク先にまとめました)

今回は、この「インテグラル理論」を経て、実践編として位置付けられ、方法としてマインドフルネスを提案している「インテグラル理論を体感する〜統合的成長のためのマインドフルネス論」を読んでみて、特に印象深かった点をまとめていきたいと思います。


そもそも、人が発達するとはどう言うことか?

まず、ウィルバーは、「人の発達には、2種類ある」としているのが、シンプルに興味深く、そして面白い部分でありました。

発達」…この単語の意味だけでも様々な意味があるように感じますが、この本から私が受け取った発達とは、「意識をはじめとする人の能力全般の発達」でした。

そして、2種類の発達ですが、それぞれ「垂直的な成長=グローイング・アップ」と、「水平的な目覚め=ウェイキング・アップ」と紹介されています。

そして、この2種類の発達を意識した統合的なマインドフルネスの実践により、人の意識は「一なる意識(ユニティ・コンシャスネス)」「悟り」に近づいていくのではないか、とウィルバーは提案しています。

もう既に、この本の伝えんとしている内容が複雑になってきているような気がしますが、めげずにまとめていきたいと思います。

※今回、マインドフルネスの実践についてはあまりに長くなりそうなため、以下の読書録では、あくまで中心的な理論モデルのみを取り上げることとしました。

グローイング・アップ〔成長〕

有史以来、人は成長を遂げてきました。言い換えると、人類はその誕生以来、その他の生物とは全く違った文化・文明を築き、それらを発展させてきました。

そして、それら文化・文明は、人の意識が段階(ステージ)を経て成長するごとに、それ以前になかった全く新しい構造(ストラクチャ)・価値観を持ち、高度化・複雑化してきたとウィルバーは説明します。

特にこの100年ほど、発達心理学者や宗教研究者らの手により、様々な形で人の成長・発達について研究がなされ、モデル化されてきましたが、多くのモデルで、

「おおよそ6〜8段階程度を経て人はより高次の意識状態へ至ること」

「高次の意識状態に向かう度に個人としてのエゴが克服され、より他者や自然等の幅広い存在を気遣うようになり、幸福感を感じやすくなること」

と言った共通点を見出し、統合的に一覧できるモデルとしてまとめました。それら、意識の段階(ステージ)のモデルは虹の色のグラデーションのようにまとめられ、多くの研究者もまたその分類を採用しています。

2018年1月に出版された「ティール組織」もまた、組織構造とそれを形作る人間の意識の成長・発達を取り扱った本ですが、ここでもまた、色による段階の分類が行われています。

色による分類については、ウィルバー自身により、

「ある段階を指し示そうとしても、ある1つの言葉では多様な意味を説明しきれないため」

「虹の色は様々な文化で取り入れられてきた指標であるため」

「国家・宗教・人種といった対立を喚起させない人類の普遍的な指標を模索したため」

…等と、様々な書籍で断片的に触れています。

段階は、それぞれ以下のようになります。

段階1:古代的段階(インフラレッド)
段階2:呪術的段階ないし部族的段階(マジェンタ)
段階3:呪術-神話的段階(レッド)
段階4:神話的段階ないし伝統的段階(アンバー)
段階5:合理的段階ないし近代的段階(オレンジ)
段階6:多元的段階ないし後-近代的段階(グリーン)
段階7:統合的段階(ターコイズ)
段階8:超-統合的段階(ホワイト)

ちなみに、これら発達段階については通常は人の意識に登らない「隠れた地図(ヒドゥン・マップ)」であるため、まずこう言った段階とそれぞれの特徴を知るだけでも、その後の成長・発達にポジティブな影響が及ぼされうるそうです。

ウェイキング・アップ〔目覚め〕

このウェイキング・アップ〔目覚め〕とは、グローイング・アップ〔成長〕とは別の意識の発達を指します。

グローイング・アップ〔成長〕が意識の段階を表す「隠れた地図(ヒドゥン・マップ)」であるのならば、ウェイキング・アップ〔目覚め〕は、東洋及び西洋の瞑想体験、瞑想システムに共通する意識状態の4ないし5の状態と、それらを発達させていく道を表しています。

目覚めている状態(粗大:グロス=物質的・物理的状態)
夢を見ている状態(微細:サトル=微細な状態)
夢のない深い眠りの状態(元因:コーザル=極めて微細な状態)
空なる目撃者の状態(トゥリーヤの状態)
純粋な非二元の状態(トゥリヤティタ:一なる意識の状態)

世界中の人々は、目覚め、眠り、そして夢を見ます。そして、その時に観測される脳波は、人種性別その他の要因で異なることはなく、全人類共通で体験できる意識状態を想定することができます。

ただし、意識状態を発達させる瞑想法は、世界中の宗教において中核的な部分を形成してきたにもかかわらず、秘教的に、つまり一般の多くの人々に知られない形で現在まで伝えられてきたため、ほとんど知られてはいません。

多くの宗教的な教えは、物語(ナラティブ)として伝えられているバージョンだと、ウィルバーは指摘しています。

また、グローイング・アップ〔成長〕とウェイキング・アップ〔目覚め〕を統合的に扱うメディテーション法は、これまでの歴史の中でほとんど開発されていません。

ウェイキング・アップ〔目覚め〕の道を探求してきた一団では、グローイング・アップ〔成長〕の道が知られておらず、グローイング・アップ〔成長〕の道を研究してきた一団は、ウェイキング・アップ〔目覚め〕の叡智を知る機会がほとんど存在しなかったのです。

本書は、そういった状況の中で、一般的なマインドフルネスではなく、「垂直的な成長=グローイング・アップ」と「水平的な目覚め=ウェイキング・アップ」を統合的に扱うマインドフルネス、インテグラル・マインドフルネスの実践を取り上げています。

「悟り」の公式化仮説:ウィルバー-コムスの格子

ウィルバーは、上記のように見てきた「垂直的な成長=グローイング・アップ」と「水平的な目覚め=ウェイキング・アップ」を掛け合わせることで、いわゆる仏陀の「悟り」とは何だったのか?現在の世界で「悟り」を得るとはどういうことだったのか?を解き明かそうとしました。

例えば、段階3:呪術-神話的段階(レッド)の意識段階にある人が、純粋な非二元の状態(トゥリヤティタ:一なる意識の状態)に至ることもあれば、段階7:統合的段階(ターコイズ)の意識段階にある人が、純粋な非二元の状態(トゥリヤティタ:一なる意識の状態)に至ることもあるでしょう。

他方、グローイング・アップ〔成長〕において段階6:多元的段階ないし後-近代的段階(グリーン)の意識段階にある人でも、ウェイキング・アップ〔目覚め〕においては目覚めている状態(粗大:グロス=物質的・物理的状態)にまでしか至れていない…そんなことも起こりえます。

そして、「悟りを得る」とは、『その時々、時代時代において現れている最も高次の意識段階に発達し、同時に、純粋な非二元の状態(トゥリヤティタ:一なる意識の状態)に至ること』という大胆な仮説を、ウィルバーは著書「インテグラル・スピリチュアリティ」において初めて著し、本書においても紹介しています。

では、それらを具体的に実践するために、マインドフルネスをどのように活用していくのか…?

これについては、本書中のグローイング・アップ〔成長〕の章、ウェイキング・アップ〔目覚め〕の章において触れられているのですが、今回の読書録では文量が増えすぎるため、割愛したいと思います。

もう1つ、なぜ今、「悟り」に繋がるグローイング・アップ〔成長〕ウェイキング・アップ〔目覚め〕を扱うのか?いわゆるスピリチュアルなテーマを踏み込んで述べているのは何故か…?

という問いについては、ぜひこのnoteを読んでくださった皆さんご自身で確かめていただければ良いなぁ、と感じます。

最後に

おおよそ、本書の中心的なテーマであるグローイング・アップ〔成長〕とウェイキング・アップ〔目覚め〕の統合について述べてきましたが、まだまだそれを体現するインテグラル・マインドフルネス実践方法については紹介できていません。また、発達に関する様々な考え方(多重知能:ライン、タイプ等)についても触れることはしませんでした。

ですが、ケン・ウィルバーという思想家の提案を可能な限り言葉を削りながらもまとめる努力をしたことは、自分にとって大きな収穫だったように思います。

現在、「ティール組織」という組織論がビジネスの領域において注目されつつありますが、そもそも「ティール」とは何か?それ以前・それ以降の段階はどんなものがありうるか?段階の区別に込められた意図とは何か?そういったものに少しでも触れることができたような気がします。

安易な理解に留めるではなく、日々の生活の実践のなかで、本書の学びを振り返り、わかちあえる機会も作っていければと感じました。

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