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この世の「神」を感じる瞬間を、美しい映像に乗せて描く「すずめの戸締まり」に日本人のスピリチュアリティを感じた件

年末、新海誠監督の「すずめの戸締まり」を息子と観てきた。
結論から言って、素晴らしかった。

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会


※ストーリーの結末に関するネタバレはありませんが、登場人物や場所などには深く言及しているのでご理解、ご注意の上読み進めてください。


「東日本大震災」を真正面から描いた本作。この作品を作った新海監督の勇気にまずは拍手を贈りたい。

そして、これだけの公開規模の大作に重いテーマを乗せ、しかも疾走感と軽快さを持たせて一気に見せる技法、そして毎回感動するほどの美しい景色とアニメーション。

そしてその背景に感じる「神の存在」。

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

またまたすっかり新海誠監督ワールドに入り込んでしまった。

1.「天気の子」で新海誠監督にハマる

新海誠監督作品を見るきっかけは「君の名は。」を地上波。息子が見てハマり、わたしも強制的に一緒に見せられた。

きっかけは強制的だったけれど、みずみずしくて美しい映像に、わたしもすっかり新海誠作品ファンに。

何とも言えない繊細な情景描写が美しくて、「言の葉の庭」も見た。この監督の雰囲気が好きになったので次作の「天気の子」は気合を入れて劇場へ。

「君の名は。」は、地上波でなんとなく見たせいか、パラレルワールド的な話で、タイムトラベルとか不思議現象の話かなぁと思っていたのだけれど、「天気の子」を劇場で見て思ったのは

「新海監督って、日本神話とか神社、スピリチュアルなものが好きなんだな」ということ。

調べてみたら、新海監督は長野県佐久市の出身で、その近くの「新海三社神社」という神社からその「新海」の名前をとったよう。

この神社は「君の名は。」のモチーフにもなっているようで、劇中に出てくる口噛み酒の風習は、この神社独特の風習なんだとか。

きっと幼いころからそういった不思議なものや神聖なものにどこか惹かれていたのかなぁと思う。

どの作品でも、自然に対する敬意みたいなものを感じるし、その後ろにある「神の存在」みたいなものや、古くから伝わる伝承なども考慮に入れたうえで作品を作っているのだなと思った。

「天気の子」は、その名の通り天気を操ることができる少女が登場する。天気、特に雨を操るといえば、龍神。

劇中にも龍の天井画が出てきたけれど、このモデルは「気象神社(高円寺氷川神社)」の天井画がモデルになっているとかいないとか。

古代は雨のコントロールが作物の出来に関わるため、天気の祭祀は国家行事だった。

先日奈良と京都でお参りした神社も、止雨・降雨を司る龍神が祀られていたしね。

天気の子は、空の美しさが特別素晴らしいので、こちらもぜひ見てみてほしい。


3.「すずめの戸締まり」では「土地の神」を扱う

と、天気の子では「気象」を扱った新海監督が、今回取り上げたのは「土地」。

日本をはじめ全世界で頻発している「地震」がど真ん中のテーマとなっている。もちろん東日本大震災についても直接的に描写がされている。

そして前作よりさらに日本神話のエピソードをなぞった物語になっていて、最近日本神話や神社をいろいろ調べている私には違う意味でたまらない作品だった。

ストーリーに関してはネタバレを避けたいので、ここでは作品の背景に流れる「神の存在」や「そのモチーフ」について、メインに語っていきたいと思う。

3-1.登場人物の名前がすでに神話由来

まず登場人物の名前が「岩戸すずめ」
「岩戸」と聞いてすぐに連想するのが「天の岩戸伝説」だ。

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

太陽神である「アマテラスオオミカミ」が弟スサノオの愚行に怒って天の岩戸に隠れてしまい、太陽が出なくなってしまった。それをなんとかしようと他の神さまが策を練り、岩戸の前で宴会をすれば天照大神の気をひけるのではないかと考えた。そこで登場するのが「アメノウズメ」という神さま。セクシーな踊りを踊りまくり、どんちゃん騒ぎをしていると、作戦通りにアマテラスが岩戸から覗き見たところを見事引っ張り出して、やっと世の中に太陽が戻った。と言う話。

この天の岩戸伝説が伝わる場所は宮崎県にあって、主人公の物語も宮崎県からスタートする。

そしてこのすずめと出会う「閉じ師」は宗像草太。
こちらも宗像といえば、宗像三神という神さまで

田心姫神 たごりひめのかみ
湍津姫神 たぎつひめのかみ
市杵島姫神 いちきしまひめのかみ

の総称。

アマテラスが弟スサノオの剣を噛み砕いて、息を吹きかけることで生まれた三柱の女神。
こちらは福岡県に宗像大社があるのだけど、沖ノ島という島そのものが宗像大社は、沖ノ島の沖津宮、筑前大島の中津宮、宗像市田島の辺津宮(総社)の三社の総称で、この3つの社は一直線上に作られているのだそう。

この宗像三神は海の神さまで、水に関係ある神社、たとえば江の島などにも祀られている。

アマテラスから見て弟の娘だから、姪っ子に当たるこの宗像という名前、なんとなく親戚関係にあるからかどうかは分からないが、日本神話由来の名前と言うのは間違いないだろう。

3-2.主人公が歩むルートが、神武東征ルートをたどっている


この神話由来の登場人物が、宮崎からスタートして東に東にと移動していくのだが、このルートが神話で神武天皇(初代天皇とされる)の東征ルートをなぞっている感じなのだ。

ちょうど秋に訪れた奈良の神社が、神武天皇に関係がある神社だったので、神武東征についても本を読んでいた。なのでなんとなくピンと来て見ていた。

宮崎スタートで、そのあと震災の被災地神戸。そして首都東京に向かう。神武天皇の頃の都は奈良なので、そこは多少違うのだけど、モチーフは神武東征なんじゃないかなと思った。

そして、宗像さんが椅子に変えられてしまうのだが、その姿は「三本足」。三本足といえば「ヤタガラス」。神武東征の折に、神武天皇を道案内したカラスで、神の化身と言われている。

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

普通に見てもしっかりしたエンターテイメント作品なのだけど、こういうバックグラウンドが分かると、より深く楽しめる気がする。


3-3.地震を起こす「ミミズ」を要石で収めるのも神話由来

地震は科学現象で説明ができるけれど、昔の人は地底に潜む龍やミミズ、大ナマズが暴れていると考えていたそうだ。

すずめの戸締まりでは、地震を起こすのは後ろ戸から出た「ミミズ」が起こすとしている。

そして、それを抑えているのが「要石」という石。
これは実際にそういう伝説があって、わたしが訪れた千葉の香取神宮、鹿島神宮の中には、地震の元となる巨大ナマズを押さえている「要石」があり、香取神宮と鹿島神宮の要石で頭としっぽを押さえていることになっている。

こちらもちょうどタイムリーに知っていた話だったので、より深く味わうことができたと思う。

要石がある香取神宮、鹿島神宮参拝の記事はこちら。


3-4.閉じ師は陰陽師?土地を悼む祝詞


もうひとつ話のキーになるのが、「閉じ師」という仕事。宗像草太が担うこの閉じ師は、地震を引き起こす元となる「後ろ戸」が開いた場所にかけつけ、そこを祝詞と共に閉じて鍵をかける。

なんとなく陰陽師的な雰囲気を漂わせている彼が唱えるのは

「かけまくもかしこき日不見(ひみず)の神よ

遠つ御祖(みおや)の産土(うぶすな)よ

久しく拝領つかまつったこの山河

かしこみかしこみ 謹んでお返し申す」

という祝詞。

新海監督は、この作品を「土地を悼む物語にしたかった」と言っている。人が亡くなればお葬式があるのに、土地や町が廃れてしまった場所、たとえば廃墟などは、鎮める儀式はなくそのままになってしまう。家を建てるときには地鎮祭を行うのに、使わなくなったらそのままになってしまうことに疑問を感じたそう。

神道の考え方で行けば、いや、そもそも、この地球の土地は神(自然)のもので、わたしたちはそこに住まわさせてもらっている。だからこそ、使うときにも感謝をし、そして使わなくなったときにも、感謝を込めてその土地神様にお返しすることが必要なのだと感じたということなのだろう。


3-5.裏鬼門から鬼門への旅!?


ミミズが出る場所をたどって、主人公のすずめは閉じ師と共に旅をする。そのルートはどうやら、「裏鬼門から鬼門へ」のルートらしい。

このあたりの考察は、こちらの方の文章がすばらしく深いので、ぜひ読んでみていただきたい(思い切りネタバレあり)

鬼門の話だけ、抜粋させていただきました。


後ろ戸というのはお寺の本堂の後ろにある扉。鬼はこの扉からやってくる、とされており、法会の際、やってくる鬼の気を逸らすために、踊りを踊ったのが、後の能楽(後戸の猿楽)になった。つまり、日本のエンターテイメントの源流の一つです。

元来エンタメはこのように神様への奉納や悪魔祓いが目的だった。ヒロインが宮崎から旅立ち、名前が岩戸すずめ、ですから、もちろん天の岩戸で舞を舞ったアメノウズメのこと。なので、この作品も神か悪魔か、地震をもたらす「人ならざるもの」への神事の意味があります。

こちらの記事より抜粋

この方曰く、すずめが旅するルート自体が、裏鬼門から鬼門への旅なんだとか。

そもそもこの作品の旅って、宮崎から東京を通り東北なので、やはり裏鬼門→鬼門への旅なんですね。その線上にあるのが後ろ戸。

出典同上

この方のレビューはがっつりネタバレしているが、ものすごく詳しいので観た後にぜひ読んでみていただきたい。


4.忘れ去られる前に。場所を悼む、がテーマ


さきほども少し触れたが、この映画では東日本大震災についても真正面から描かれる。

すでに震災から12年が経過しようとしていて、その頃にまだ小さかった子どもたちが大人になり、その記憶さえ曖昧になっている大人がどんどん増えている。

それは確かにそうだ。いま中3のうちの息子は、当時3歳。記憶としてなんとなく覚えてはいるものの、その悲惨さは知らない。

本作に登場するすずめも、当時4歳。震災の記憶はあいまいだ。そうやってどんどん記憶から消えていく前に、このことについて描かなければと思ったそう。

1991年の阪神大震災も然り、さらに過疎化ですでに無人化した場所や、閉園した遊園地、そうやってだんだん記憶から薄れていく場所たちに気持ちを向けてみる。それは毎日生き急いでいるわたしたちにも必要なことなのかな、と思う。




5.昔の人からのメッセージに耳を傾けよう


この映画を観たタイミングで、神社ツアーでお世話になったくれや萌絵さんと、昔の土地の名前について話題があがった。

土地の名前。昔の人は災害の起こりやすい場所にその名前を付けて警鐘を鳴らしていた。

けど、市町村統合や、不動産屋の都合で、きれいめな名前に変えて不動産をバンバン売ってしまい、高級住宅地と宣伝されて買った場所がまさかと思うような災害にあったりしている。

うちはもう新たに家を買うことはないと思うのだけど、もしそういう予定がある人は絶対に昔の地名を調べてから買ったほうがいいと思う。

「すずめの戸締まり」を見ると、そうやって過去に思いを馳せる、耳を傾ける、ということが必要かもしれないなと痛感する。

6.「すずめの戸締まり」の、より深いレビュー案内


作品の背景に流れるあれこれが気になって、いろいろと調べながら言語化してみたが、いやはや詳しい方のレビューはとんでもなく深い。

さきほども紹介したけれど、さまざまな考察はこの方のレビューがすごすぎるので、読んでください(丸投げ)

鬼門については、不動産屋さんのホームページが分かりやすかった。方位とかももっと知りたくなる。


この方の考察もすごいので、こちらも。(超ネタバレ)

と、観た人の考察をかきたてる、緻密な描写が新海監督の魅力。

絶賛ロングラン上映中なので、興味がある方はぜひ見てみていただきたい。

ちなみにこれだけ熱く語っておいて、実は作品のテイストは巫女系、龍神系の「天気の子」のほうが好みだったりする。

RADWIMPSの歌が大きくフィーチャーされて、とてつもなく美しい雲と空、そして主人公たちの「選択」、ああ語りたくなってきた。

いまのところ(2023年1月)amazonプライムで「天気の子」は観られるようなので、ぜひ見てみていただければ!


思い切り熱くて長い紹介となってしまったが、最後までお読みくださりありがとうございました!

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