職場(組織)のコミュニケーションは「情報の伝達」と「人間関係」の2つの側面から捉えることができる!?― 社会福祉職場のコミュニケーションに関する調査 ―
自身の研究テーマが「コミュニケーション」にまつわるテーマになりそうなので、最近はもっぱら組織コミュニケーションの論文を漁って読んでいます。
今回は、社会福祉施設の人材不足と職場のコミュニケーションに関連する調査結果の考察をとおして、組織マネジメントの留意点を検討した論文についてまとめようと思います。
私自身、福祉現場で働いていた経験があるので、他人事には思えないなあと感じながら、読ませていただきました。
論文名:
職場のコミュニケーションと組織マネジメントの留意点―社会福祉職場のコミュニケーションに関する調査結果の考察を通して―
船木幸弘さん
離職理由と職場でのコミュニケーションの「不満」
そもそも、社会福祉施設ではどのような不満があるのでしょうか。
全国社会福祉協議会(2008)が行った「社会福祉施設の人材確保・育成に関 する調査」(以下、報告書と呼ぶ)の概要には、社会福祉施設の職員たちの職場への「不満」は、処遇(給与・福利厚生等)、労働環境(労働時間・有給休暇等)という予め提示される条件への「不満」が最も際立っています。次に「職員同士の人間関係・コミュニケーション(24.2%)」「上司との人間関係・コミュニケーション(19.6%)」が多い結果となっています。
また、「職員同士の人間関係・コミュニケーション」を「不満」と回答した職員の約4割(38.6%)が「すぐではないが転職を検討している」(26.2%)「1・2年で転職を検討している」(12.4%)という結果です。さらに、「上司との人間関係・コミュニケーション」を「不満」とした職員の約5割(50.6%)が「すぐではないが転職を検討している」(33.7%)「1・2年で転職を検討している」(16.9%)という結果でした。
このことから、職員の離職自体が人材不足を招くことになると捉えると、離職理由を生じさせる事柄の影響が招いた結果が人材不足であるといえます。
職場の人間関係・コミュニケーションへの「不満」が人材不足を招いた結果であるならば、職員個々人の離職理由・「不満」として見做せないですし、これらがその後社会福祉施設に招く結果として懸念されるのが、職場の協働性やチーム力の低下、サービス提供への影響という組織的な事柄であることから、組織マネジメントの課題として捉える必要がある、とこの論文では述べています。
対象者と調査方法
企業・組織で働く日本人ビジネスパーソン(個人)を対象とした㈱ NTTデータ経営研究所の調査(以下、NTTdと呼ぶ)と、社会福祉施設を複数運営する社会福祉法人A(以下、法人Aと呼ぶ)の職員を対象に調査を実施。
法人Aの全幹部職員 24名を対象に調査票を配布して回答協力を求めた。調査の実施期間を2013年 11月20日から29日として、法人Aが調査票(原本)を回収し当方宛に郵送することとして、法人本部を通じて対象職員の同意を得て(回収率 100%)実施した。調査票の集計結果から図表作成し、NTTdの調査結果と比較を行った。
調査結果
以下の図は、NTTd(2007年実施)と同じ設問項目を設けて法人Aの調査(2013年実施)を実施したので、それらの項目を縦軸に表示して作成したものです。
法人Aと NTTdの調査では、職員たちは「職場のコミュニケーションが良好であること/職場の雰囲気がよいこと」を、職場に対して強く望んでいたことから、職員たちにとって職場のコミュニケーションは中核的事柄であるといえる結果となります。しかし、職場のコミュニケーションを業務に必要な「情報の伝達」と業務を遂行する中の「人間関係」として捉えてみると、当該調査結果では明確な把握ができないが、良好な「人間関係」を職員たちが望んでいるように思われます。
一方、法人Aの幹部職員は「仕事の余裕」と「同僚や部下の理解」についての優先順位が NTTdの結果よりも低いです。この法人Aの結果では、社会福祉施設が利用者との「支援関係の質」に配慮を必要とする専門職場としての特殊性(影響)が窺えます。
考察
職場(組織)のコミュニケーションについて、「情報の伝達」と「人間関係」という2つの側面から捉えた説明とともに、コミュニケーションに影響を生じさせる「職場の協働性に影響する(阻害)要因」という先行研究の知見に基づく考察を述べています。
職場(組織)のコミュニケーションについて、「情報の伝達」と「人間関係」という2つの側面から捉えた上で、インフォーマルなコミュニケーション問題が生じやすい社会福祉施設では、職場における 協働や目標達成に向けて組織的要因(仕事のやり方) の本質的検討・把握が、今後の対処と取り組み開始前の重要な組織マネジメントの課題である、と述べています。
組織のコミュニケーションが問題だ!課題だ!という前に、そもそもどのような傾向のコミュニケーション問題が発生しているのか?と分析をすることが非常に重要であることを、この論文から気づかされました。