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<ラグビー>ザ・ラグビーチャンピオンシップ第六週の結果など

*表題の画像は、『ビハインド ザ シルバーファーン (シダの葉の裏側)』という、オールブラックスの歴史を回顧したNZの本の裏表紙にある、歴代オールブラックたちの名前です。まるで、ロゼッタストーンのような石に刻まれた歴代王侯のようです。

(どうでもよい「話の枕」です。関心ない方は飛ばしてお読みください。)
 敬老の日は台風が近かったが、ちょうど都合がよいので、八重洲ブックセターに行って、『完訳デカメロン』の文庫本全3巻とシュメール神話関係の新書二冊を買い、さらに丸の内側に行く地下通路(かなり蒸し暑かった!)を通ってオアゾにある丸善へはしごして、レイモンド・チャンドラーの『The long good-bye(長いお別れ)』を買った。その後、有楽町に行って万世のパーコーラーメンでも食べようかなと思って外を見たら、なんと大雨。これは、移動しないでここで昼飯を食えという啓示だと思って、五階のちょっと高級なソバ屋に入った。

 まだ客は少なかったので、四人用席を使わせてもらったが、ランチメニューに載っていないビールを頼んだこともあって、店員がずっとこちらを凝視している。たぶん、「うちみたいな高級な店に、お前のような貧乏人が来るなよ!」ということかも知れないが、私は東南アジアのレストランで、大勢の女店員たちから凝視されるのに慣れているので、悠然と無視して琥珀エビス(小)を一気に飲み干し、そそくさと野菜天ざるそばを食べた。・・・味は、まあまあでした。そういえば、店長らしき人が私を確認するかのようにビールを持ってきていたが、たしかに日本人には一般的でない目立つ髭はあるけど、特別に変な人相でも服装でもないと自分では思っているのだが・・・。

 ところで、「招き猫」である私は、空いている店を選んで入ってもその後すぐに混みだしてしまう特技がある。この日も私が食べ終えるころには店は満席になっていて、私が会計を済ますのを外で待っている人がいた。もし私のこの「特技」を知っている店長がいれば、いつでも私にただ酒・ただ飯を提供してくれるのではないかと、私はひそかに期待しているのだが・・・。

1.ブラックファーンズ95-12女子日本代表

 女子のブラックファーンズ対日本代表のWCに向けた(練習)テストマッチが行われ、95-12でブラックファーンズが圧勝した。

 ブラックファーンズのトライは、14番WTBポーシャ・ウッドマンが7つ、9番SHケンドラ・コックセッジが2つ,2番HOルカ・コナー、7番FLサラ・ヒリニ、15番FBレニー・ホームズ、13番CTBアーミイ・デュプレッシー、22番WTBステイシー・フルーラー、11番WTBルビー・ツイが1つずつ。コンバージョンは、コックセッジが5つ,ホームズが4つ,21番SHアリヒアナ・マリーノタウヒヌクが1つ。

 日本のトライは、6番FL齊藤聖奈、18番PR左高裕佳。コンバージョンはFB平山愛、10番SO大塚朱紗となった。

 ブラックファーンズのカリスマWTBウッドマンが、まるでディフェンスを無視するかのような縦横無尽の走りでトライの山を築く一方、NZ女子ラグビーの至宝ともいえる、地元開催のWCで引退を決めているSHコックセッジは、速いポイントへの到達からのテンポ良く確実な球さばきに加え、SO顔負けの速くて長いピンポイントのパスまで投げる一方、自分でも機を見て効果的なランニングを見せ、トライまで取りきれる素晴らしい選手だが、この2人以外もリザーブまで含めた全員が良いプレーを披露した。

 一方の日本は、セットプレーを筆頭に、何もかもがまったく手も足もでなかったというのが正直な感想だろう。ブラックファーンズに100点を取らせず(後2分試合時間があれば、またコンバージョンが全て決まっていれば、100点越えだったが)、少ないチャンスから2トライを取ったのが、せめてもの慰めとなった。日本と世界トップとの距離はかなりある。

 来月にNZで開催するWCでは、カナダ、アメリカ、イタリアとプールマッチで日本は対戦する。さすがにブラックファーンズほどのスキルとスピードはないが、日本が対戦する3チームはいずれもフィジカルでは同等以上のものがあるので、どの試合でも日本が簡単に勝てるとは思えない。かつての男子日本代表のように、なんとかプールマッチ1勝を目指すのが、現実的目標となっている。

2.オールブラックス40-14ワラビーズ

 
 ワラビーズのNZ人監督デイヴ・レニーは、前週のオールブラックスCTBクイン・ツパエアに対する危険なファールプレーで、6週間の出場停止処分となったLOダーシー・スワインに代えて、オーストラリアAのメンバーで日本行きスコッドに入っているカデイン・ネヴィルを入れた。またFLロブ・レオタがアキレス腱を負傷し、今シーズンのプレーは不可能となったことから、ロブ・バレティニを6番FLに移動させ、NO.8にハリー・ウィルソンを入れた。

 リザーブでは、17番PRにアンガス・ベル、19番LOにニック・フォレストが入っている。長くキャプテンを務めていたFLマイケル・フーパーは、引き続きメンタルの問題による欠場が続き、この試合でも、反則が多いのが課題になっている1番PRジェイムズ・スリッパ―がキャプテン代行を務める。

 オールブラックスの監督イアン・フォスター、アシスタントコーチのジョー・シュミット、FW担当コーチのジェイソン・ライアンの3人は、ホームのイーデンパークで迎えるザ・ラグビーチャンピオンシップ最終戦かつブレディスローカップ第2戦のメンバーを、怪我人を抱える状況に苦労しながら決めた。

 キャプテン兼7番FLサム・ケーンと12番CTBデイヴィット・ハヴィリの2人が、脳震盪のため欠場する。また、ワラビーズのダーシー・スワインに膝を負傷させられたCTBクイン・ツパエアは、今シーズン出場不可能となってしまった。さらに、LO兼FLスコット・バレットも怪我で欠場となる。

 他方、子供の出産で欠場していたFWの中心アーディ・サヴェアが戻り、NO.8に入った。7番FLにはケーン以上の能力を評価されているダルトン・パパリイが入り、6番FLは地元オークランドのアキラ・イオアネが先発する。また2番HOには、最近欠場していたコーディ・テイラーが戻り、好調のサミソニ・タウケイアホは16番のリザーブに下がった。

 課題となっている12番CTBには、前戦で途中から12番を務めたFBのジョルディ・バレットが移動し、13番CTBリエコ・イオアネとパートナーを組む。FBと13番が連携するプレーが多いほか、フォスター監督によれば「既に60分プレーした」経験があるので、スムーズに対応できる見込みだ。

 また、FBにはリザーブから兄のボーデン・バレットが入り、先発15人のうちSOをプレーできる選手が、10番リッチー・モウンガ、12番ジョルディ、15番ボーデンと3人そろった。そのためリザーブ22番には通常SOを入れるのだが、先発に3人もいることから、久々かつ期待の登場となるロジャー・ツイヴァサシェックが、2つ目のキャップを目指してメンバー入りした。プレー時間がどのくらいになるのかは不明だが、NPCのオークランドでは非常に良いプレーを見せているので、この慣れたグランドのゲームで大活躍することが期待される。なお23番には、しばらく外れていたセヴ・リースが入った。

 試合は、オールブラックスのハカに対して、ワラビーズが隊列を組んでハーフウェイラインまで前進するプレッシャーをかけた後に始まったが、オールブラックスが圧倒的強さを持つイーデンパークの神話を確信させるような、今シーズンで一番と思われるプレーで完勝した。

 キックオフからワラビーズはオールブラックス陣内に攻め込むんだが、3分にワラビーズボールのラックで、4番LOジェド・ホロウェイがNO.8ウィル・ハリソンとともに、オールブラックス7番FLダルトン・パパリイの足を持ち上げるタックルをして、ラックから排除したため、TMOの結果ホロウェイがシンビンになった。結果的にこの不要な反則プレーで、ワラビーズの勢いは削がれた。

 しかし、その後オールブラックスは数的優位を生かせずにいたが、ようやく21分にSOリッチー・モウンガがPGで3-0と先制する。続く23分、30m付近のラックから右展開し、SOモウンガ→15番FBボーデン・バレット→14番WTBウィル・ジョーダンとつなぎ、ジョーダンが右斜めのスペースを走りきってトライ。モウンガのコンバージョン成功で、10-0とリードを拡げた。

 さらにオールブラックスは27分、ゴール前のラインアウトからモールを押し込み、これをワラビーズがつぶしてトライを阻止したと判断されたペナルティートライで、17-0とさらにリードする。またこのプレーで、ワラビーズ2番HOデイヴィット・ポレッキがシンビンになったが、この後の数的優位をオールブラックスが生かせずに終わる。

 一方、ワラビーズも30分に、11番WTBマリカ・コロイベテがインゴールに入ったが、TMOの結果タッチを踏んでいることが確認され、前半は無得点に終わる。このプレーに象徴されるように、オールブラックスのディフェンスが評価される前半となった。

 後半に入りオールブラックスは、前週のワラビーズから受けた逆襲を修正したかのように早々にゴール前へ攻め込み、ゴール前ラックから5番LOサムエル・ホワイトロックがインゴールに入る。TMOの結果、ワラビーズ選手より先にボールをタッチダウンしていると判定されてトライ、モウンガのコンバージョン成功で、24-0へリードを拡げた。さらにオールブラックスは47分に、モウンガがPGを入れて27-0とした後、54分には、ゴール前ラインアウトからのモールで、2番HOコーディ・テイラーがトライを挙げ、モウンガのコンバージョンは失敗したものの、32-0として、ほぼ勝負を決めた。

 オールブラックスは安心したのか、この後59分にワラビーズの反撃を受ける。オールブラックスがゴール前から蹴ったボールをワラビーズがチャージし、それをうまくつないで、16番HOフォラウ・ファインガアがトライ、SOバーナード・フォリーのコンバージョン成功で、32-7とワラビーズはようやく一矢を報いた。

 しかし、オールブラックスは65分に、またもやゴール前ラインアウトからのモールで、16番HOサミソニ・タウケイアホがトライ、モウンガのコンバージョンは失敗したが、37-7と得点差を戻した。さらに、77分にはモウンガがPGを決め、40-7として優勝に向けて有利となる大勝をものにすることになった。

 しかしワラビーズは、ノーサイドまで諦めずに攻め、81分に23番BKジョーダン・ペタイアが、ゴール前ラックからの21番SHニック・ホワイトのパスを取ってそのままトライ、フォリーのコンバージョンが決まって40-12としたが、既に勝敗が決まった後の文字通りの慰めの得点でしかなかった。

 オールブラックスは、リーグから移籍後にオークランドで活躍しているロジャー・ツイヴァサシェック(RTS)が、68分にFBボーデン・バレットと交代し、この日大活躍の12番CTBのジョルディ・バレットがFBに移動することで、RTSが12番に入ってプレーしたが、良いプレーをするには十分な時間がなかったのが残念だった。今後を期待したい。

 またオールブラックスは、怪我人の続出により、2019年RWCで試行したSOモウンガ+FBボーデン・バレットの2人SO(デュアルプレーメーカー)を今回再現したが、2019年当時とメンバーが代わっていることもあり、結果としてかなり成功した。その最大の理由は、マア・ノヌーが2015年RWCで引退した後、優れた12番CTBを見つけられないでいたが、この試合でジョルディ・バレットが素晴らしいプレーをしたことで、ようやくデュアルプレーメーカーのつなぎ役として重要なポジションに良い人材を得られた。また、このデュアルプレーメーカーが機能することにより、優れたトライゲッターとしてのWTBウィル・ジョーダンが才能を存分に発揮できたとも言える。

 2016年から先週のワラビーズ戦までのオールブラックスのCTBは、ソニービル・ウィリアムス(引退)、ナガニ・ラウマフィー(フランスへ移籍)、ライアン・クロッティー(日本へ移籍)、ジャック・グッドヒュー(長期の怪我)、アントン・リエナートブラウン(ALB、長期の怪我)、デイヴィット・ハヴィリ(脳震盪)、クイン・ツパエア(長期の怪我)と、いずれもノヌーと13番のコンラッド・スミスの代わりになることができなかった選手をCTBとして次々と入れ替えて起用し、いずれも良い結果を出せないで来た。

 しかし、13番にはWTBだったリエコ・イオアネのコンバートが定着し、12番にはFBがメインのジョルディ・バレットをコンバートすることで、ようやくRWCで勝ち抜けるCTBコンビを作ることができたようだ。また、12番の適任者としてはRTSがいるほか、怪我で欠場中のグッドヒュー、ハヴィリ、ALB、次世代に期待されるツパエアもいるので、もしも怪我人が出た場合でも対応は万全だろう。

 一方、もしも怪我などでボーデン・バレットがFBを外れた場合、SOも出来るFBはジョルディ・バレットしかいなくなる。その場合でも、デュアルプレーメーカーをうまく機能させるためには、現在ウェリントン及びハリケーンズでSO及びFBをプレーしているルーベン・ラヴを昇格させることで対応できるのではないだろうか。

 ワラビーズは、前週の最後のレフェリングに対する不満を引きずりすぎた他、オールブラックスのハカで、リエコ・イオアネのパフォーマンスを批判するなど、プレー以外の面でオールブラックスにプレッシャーをかけようとしたが、結局効果はなかった。また、クエード・クーパー、ノア・ノレシオ、ジェイムズ・オコナーと、SOが次々と怪我をし、日本から戻ってきたばかりのバーナード・フォリーに頼ることになったのは、深刻な人材不足としかいいようがない現状だ。SOは簡単に育成できるものではないので、NZのNPCレベルでプレーしているSOを、早期にオーストラリアに引っ張ってくる以外に良い解決策がないのではないかと愚考する。

3.スプリングボクス38-21アルゼンチン

 アルゼンチンのオーストラリア人監督マイケル・チェイカは、最終戦に向けてFWは代えず、BKの先発2人を代えてきた。11番WTBには、ルチオ・チンチが外れてユアン・インホフが入り、13番CTBには、マティアス・オランドーが外れてマティアス・モローニが先発する。

 リザーブは複数が交代した。17番PRは、トマス・ガロが外れてマイコ・フィハスが入り、20番FLは、ロドリーゴ・ブルーニが外れてペドロ・ルビオロが入った。また、23番にはバウティスタ・デルガイが入っている。

 南アフリカ・スプリングボクスのジャック・ニーナバー監督は、SOの人選に苦しんでいる。一番手のアンドレ・ポラードが怪我で欠場している中、ダミアン・ウィルムゼが脳震盪で欠場となってしまった。3番目のエルトン・ヤンチースは、当然先発候補となるが、アルゼンチン遠征中にチームのダイエット担当をしているジーナット・シムジーと同じ部屋に泊まる不倫事件を起こし、マスコミからスキャンダルのターゲットにされたため、本人のメンタルに障害が出て、試合メンバーから外すこととなった。

 そのため、35歳の大ベテランであるフランス・ステインが、2008年以来の14年ぶりの先発SOを務める。先のブリティッシュアンドアイリッシュライオンズ戦でSOを務め、シリーズ優勝を決めるPGを蹴りこんだモルネ・ステイン同様に、南アフリカの救世主になることが期待される。

 その他、南アフリカの選手にコカイン使用が判明したという偽のニュースが流れるなど、チームを取り巻く環境はかなり悪い。一方、試合メンバー23人では、オールブラックスのボーデン・バレットに対する悪質な空中タックルをしたため出場停止になっていた、WTBカートリー・アレンゼが23番に戻っている。先発では、7番FLにピータースティフ・デュトイが戻り、19番のリザーブにはフランコ・モスタートが入った。また、16番HOにボンギ・ムボナンビが復帰している。

 リザーブは、FW6人+BK2人となっており、WTBしかできないアレンゼ以外は、SHのファフ・デクラークが22番に入っているのみなので、SOステインが退場した場合は、FBのウィリー・ルルーがカバーすることになる。

 南アフリカは、暫定1位になっているオールブラックスを勝ち点で越えて優勝するためには、ボーナスポイントが必要となることに加えて、39点差以上つけてアルゼンチンに勝たねばならない大きなプレッシャーのかかる状況でのキックオフとなった。

 そのため、試合開始以降に拮抗した状態が少し続いた後、17分にアルゼンチンの7番FLマルコス・クレメールがチームの反則繰り返しでシンビンとなってから、ゲームは動きだした。19分に南アフリカは、ゴール前スクラムで一人少ないアルゼンチンを押し切り、NO.8ジャスパー・ウィーゼがスクラムトライを決める。SOフランス・ステインのコンバージョン成功で、7-0と先制した。

 その後もアルゼンチンの反則は継続してしまい、今度は27分に6番FLフアンマルティン・ゴンザレスが、またもやチーム反則の繰り返しでシンビンとなる。アルゼンチンは、19分から38分までの間、常時1~2人の選手が足りない劣勢が続いたため、これが勝敗に影響してしまった。

 一方の南アフリカは、数的優勢を利した29分に、6番FLシヤ・コリシがゴール前ラインアウトのモールから抜け出してトライ、ステインのコンバージョン成功で、14-0と引き離す。さらに37分には、中央55mのロングPGをステインが決めて17-0とした。しかし、アルゼンチンも人数が戻った後に反撃を開始し、40分に、ゴール前ラックから右へ持ち出した9番SHゴンサロ・ベルトラノーがトライ、14番WTBエミリアーノ・ボッフェリがコンバージョンを決めて、17-7と10点差に戻して後半に希望をつないだ。

 後半に入るとアルゼンチンの反抗が続き、48分、左中間の中央付近ラックからブラインドサイドを攻め、SOサンチャゴ・カレーラスからの絶妙なパスを取った6番FLフアンマルティンン・ゴンザレスがブラインドサイドを走り抜け、最後のタックラーとなる南アフリカFBウィリー・ルルーを見事なステップで抜いてトライ、ボッフェリのコンバージョン成功で、17-14の3点差に迫る。

 しかし、優勝を目指す南アフリカは猛攻を繰り返し、55分にラインアウトからのモールを激しく押し込み、これをアルゼンチン12番CTBヘロニモ・デラフエンテがつぶしてシンビンとなった一方、ペナルティートライを得て、24-14と再び引き離した。

 この後南アフリカは、この数的優位を生かしたかったが、60分に、4番LOエベン・エツベスが味方の上げたボックスキックをチェイスする際に、キックレシーブのため飛び上がったアルゼンチン14番WTBボッフェリの近くにいたアルゼンチン6番FLゴンザレスを背中から激しく押してボッフェリにぶつけ、その結果ボッフェリの着地を失敗させた。これがTMOで確認されて、エツベスがシンビンとなる。このプレーは、TMOのなかった時代は普通に見逃されていた悪質かつ巧妙な反則なので、こうして処罰されることはラグビーの健全な発展のためには必要なことだと思う。また、エツベスはこの件に限らず、かつての反則王であったLOバッキース・ボタを彷彿とさせる悪質なプレーが多いので、この機会に修正することを願いたい。

 南アフリカは、エツベスに続き、これも過去にインテンショナルノッコンや過度のチャージなどの反則が多い21番SHファフ・デクラークが、66分にアルゼンチンのモールを止めるためにオフサイドから入ってつぶすプレーをして、シンビンとなる。優勝するためには、アルゼンチンに大勝する必要がある南アフリカにとって、この時間帯での連続した反則によるシンビンは高い代償となってしまった。

 一方のアルゼンチンは、数的優位を突いた68分、ゴール前ラックから左展開し、23番CTBバウティウタ・デルガイからパスを受けた13番CTBマティアス・モローニがトライ、ボッフェリのコンバージョン成功で、24-21と3点差に迫る。ところが、73分、南アフリカは再びラインアウトからのモールを押し込み、アルゼンチン18番PRヨエル・スクラヴィがモールを崩してシンビンになった一方、南アフリカは二つ目のペナルティートライを得て31-21と勝利を引き寄せた。

 その後南アフリカは、優勝に必要な39点差以上の勝利は難しくなったが、最後まで猛攻を見せ、81分、右展開して13番CTBジェシー・クリエル→11番WTBマカゾレ・マピンピ→14番WTBコーナン・ムーディーとつなぎ、ムーディーの後ろかサポートに入った23番FBカートリー・アレンゼが抜け出してトライ、ステインのコンバージョン成功で、38-21の17点差にするのがやっとだった。

4.ザ・ラグビーチャンピオンシップの結果

 全試合が終了した結果、ザ・ラグビーチャンピオンシップの最終順位及びポイントは以下の順となり、NZオールブラックスの優勝が決まった。オールブラックスは、ワラビーズとの間のブレディスローカップ、スプリングボクスとの間のフリーダムカップに続き、ザ・ラグビーチャンピオンシップの優勝カップも継続して保持することとなった。

NZオールブラックス     19ポイント
南アフリカ・スプリングボクス 18ポイント
オーストラリア・ワラビーズ  10ポイント
アルゼンチン・プーマス     9ポイント

 第4週までは2勝2敗で4チームが並び、第1週ではアルゼンチンが一時的に首位に立つなど、全チームに優勝の可能性がある混戦だったが、最後の第5週及び第6週に、オールブラックスがワラビーズに連勝する一方、南アフリカがアルゼンチンに連勝したものの、大勝できなかったため、例年と大差ない順位に落ち着くこととなった。

 しかし、最初の混戦が示すとおり4チームの実力は接近しており、かつてのようにアルゼンチンからは確実に勝ち点が見込まれることはなくなる一方、どのチームもホームかアウェイかという地理的条件に加え、レフェリーとの相性、怪我人の状況、戦略・戦術、選手個々の調子などを含めた総合的な要素で、ノーサイドまで勝敗が決まらない試合が多くなっている。

 来年のフランス開催のRWCに向けてまだ約1年が残っているが、この秋の南北対決、年初のシックスネーションズ、夏のザ・ラグビーチャンピオンシップまで、まだまだ多くのテストマッチが行われ、その都度怪我人や新たな選手が出てくることが予想される。したがって、現時点でのWRランキングは、実力を比較するための参考にはなるものの、そのまま勝敗を決める物差しとはなりえない。特にザ・ラグビーチャンピオンシップを見た限りでは、南半球4チームの実力はかなり盛り返しており、北半球のイングランド、フランス、アイルランド、ウェールズらは、北半球有利と簡単に安心していられない状況になっている。

 また2007年の前回フランスで開催されたRWCでは、アルゼンチンが開催国フランスを二度にわたって粉砕して3位に入るなどのアップセットがあったように、多くの波乱があった大会だったことを想起すると、安易に開催国フランスの優勝を予想することにはかなりの無理があるように思う。一方、現時点で優勝国を占うことは非常に難しいが、現状から見れば、北半球からは、アイルランドとフランス、南半球からはオールブラックスとスプリングボクスがベスト4に一番近いように思う。

 しかし、これら4チームは準々決勝で当たる可能性があるため、この4チームがそのままベスト4になることはない。一方ワラビーズ、アルゼンチン、イングランド、ウェールズを加えたベスト8による準々決勝は、いずれもレベルの高いゲームが期待できそうだ。しかし、残念ながら日本がベスト8に連続して入り込める余地は、かなり低そうに思える。イングランドやアルゼンチンにRWCで勝つためには、まだまだ長い道のりがあるようだ。


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