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スワーブが切れなくてー私の海外食い倒れー(その3最終回)

 3回に分けた海外生活で食べた料理の話は、これで終わりです。最終回は、アラブ(シリア)料理、アラブ(ヨルダン)料理、アラブ(エジプト)料理、ギリシア料理、ルーマニア料理、各国ビール飲み比べ、番外編(和食居酒屋)です。

12.アラブ(シリア)料理

 日本人にアラブ料理は馴染みがないと思うが、現地で食べてみると、ローマ帝国時代からの歴史とフランスなどのヨーロッパの影響が感じられる、かなり立派なものだと感心する。

 内容も、野菜類の前菜、スープ、魚、肉、デザートときちんとしている。ただし、肉についてはBBQが圧倒的に多く、またパンはホブスという古代ローマ時代そのままの、小麦を練って丸く平らに焼いたものが出てくる。インドのチャパティと似ているが、チャパティよりはふっくらとした厚みがある。

 なお、高級レストランなどで提供されるアラブ料理は、古代ローマ及び十字軍の時代から歴史の拠点となっていた、アラブ文化の中心都市ダマスカスのあるシリアの料理が基本であり、これに似たものとしてレバノン料理がある。

(1)シュワルマ
 高級レストランではコース料理が提供されるが、庶民は、いつでもレストランで食事できるわけではないので、ファストフードもある。その代表は、BBQの羊肉を小さく切り、これと炒めた野菜少しをクレープ状に薄く焼いたパンで包んだものがある。

 これが安価なシュワルマというもので、どの町にも近所にシュワルマを売る店がある。中には、レストランの形態になっているものもあるくらいだ。時間がないときなど、ここでテイクアウェイ(持ち帰り)すると非常に便利だ。
 
 なお、庶民的なアラブ料理レストラン(食堂)も多数あり、そこでは、BBQ肉+ホブスの定食を出してくれる。

右がシュワルマ(野菜とポテト付き)

(2)ホブス(パン)
 アラブ料理で必ず供される小麦で作った丸いパンで、チャパティよりは膨らんでいる。高級レストランでは自家製かつできたてのものを、三角に切り分けて出してくるが、その他のレストランや一般家庭は、スーパーで購入した非常に安価な工場製のホブスを出してくる。

 なお、安価なため、BBQの肉が冷めないように、ホブスを肉料理の上に被せて出すのが普通となっている。この蓋がわりのホブスは食べられるのだろうが、食べる人を見たことはない。

左手前がホブス、他はBBQとじゃがいも

(3)ホンムス(またはフムス)
 ホブス自体の味付けはまったくないので、BBQなどと一緒に食べない場合は、なにかバターやジャムのようなものを付けないと味がしない。その定番としてあるのが、ひよこ豆のペーストにオリーブオイルを混ぜ合わせたホンムス(日本では、フムスと表記されることが多い)である。

 ホンムス自体も非常に安いものなので、どのレストランのメニューにもあるが、これを単品で注文する人はまずいない。また高級レストランだと、前菜と同時に提供されるホブス(パン)の付け合わせとして、まるで居酒屋のお通し感覚で出てくる。

 香辛料などはあまり使っておらず、またマイルドな味付けなので、日本人も気軽に食べられるものだ。

 ホンムスに似たホブスにつけて食べるペースト状のものに、ナスを材料にしたムタッパルというものもある。こちらは、ナスの味わいが加味されている分だけホンムスより味付けがやや濃い。

左から二つ目がムタッパル、その右がホンムス

 
(4)ファレフェール
 アラビア語の発音をカタカナにするのは非常に難しく、このひよこ豆、パセリ、玉ネギなどを粒状にして丸め、これを油で揚げた手軽な料理は、ファラフェルという発音でも通じている。

 ご飯代わりの料理というよりも、前菜や小腹の空いたときの手軽なスナックとして、玉ネギ及びトマトのスライスと一緒に挟んだサンドウィッチにして食べることもある。若干香辛料が効いているが、日本人には香ばしい野菜のミートボールという食感があるので、抵抗なく食べられる。また、ビールのつまみとしても、けっこう使える料理だ。

13.アラブ(ヨルダン料理)

 アラブ料理は各国で微妙に異なると書いたが、ヨルダンでも、一般的にはシリア料理が提供されているが、ベドウィン(アラビア半島に居住する遊牧民族。羊や山羊を飼い、テントに寝泊まりして、集団生活をしている)の伝統を持つ料理がある。それが、以下に紹介するマンサフだ。

(1)マンサフ
 アラブ料理は、けっこう米(ロングライス)を使うのだが、このマンサフも米料理だ。もともと大家族(部族)用に作る料理なので、小さい場合でも10人分ぐらいは作れる大皿に、米・羊肉・野菜・香辛料・固いアラブ式ヨーグルトを入れて蒸し焼きにする。特に羊肉は、骨付きで入れるのだが、頭(脳みそ)の部分が最上のものとなっている。ゲストがいる場合は、亭主(ホスト)がメインゲストにこの頭を勧める習慣がある。しかし、日本人は羊の脳みそを頭蓋骨から手で取って食べる習慣はないので、大抵は辟易してしまうそうだ。

 もっともレストランなどで注文した場合は、さすがに頭蓋骨まではついていない他、羊以外にも鶏肉の選択もできるので、試しに注文してみるのも面白い。味としては、日本人にも最近馴染みの料理となっている、インドから中東に多くあるブリヤニ(またはビリヤニ)に近いので、食べづらくはないと思う。

14.アラブ(エジプト料理)

 アラブ圏では、ダマスカスが中心であり、またペルシャのバグダードも大都会だった。これに並ぶ大都市がエジプトだが、もともとギリシアやそれ以前のフォラオ時代からの古くから続く文化を持っているので、微妙に異なる料理がある。その代表が、エジプトの庶民の味であるコシャリだ。

(1)コシャリ
 コシャリは、米、砕いたパスタ、ひよこ豆を混ぜた上に、挽肉やトマトなどの野菜を入れ、最後にチリが効いた辛いソースをかけて食べるファストフードである。

 エジプトでは、日本の立ち食いそば屋のように、どの街角にもコシャリを売る店があり、多くの客で賑わっている。また、具材も多種多様で好きなだけ選べるため、アラビア語が堪能であれば、自分好みのコシャリを注文することもできる。

 全体は炭水化物だらけなので、日本の焼きそばパンのようにお腹にたまる料理だが、健康を考えるとほどほどにした方が良いかも知れない。

15.ギリシア料理(注:ギリシア国外のギリシア料理店で食べたもの)

 残念ながら、私はギリシア旅行をするチャンスがなかった。新型コロナウィルスによる全世界規模の行動規制もその一因だが、ヨルダンにいるときに、イタリアかギリシアという選択肢のなかで、イタリアを選んだことも理由になっている。本当はクレタ島のクノッソス宮殿を見たかったのだが、それは実現しなかった。

 したがって、ここに記すギリシア料理は、ギリシアで食べたものではない。一方、古代からギリシア人は世界中に拡散して移民となっている。そうして、移民した先でギリシア料理店を開く者がいる。そのような移民が開いた店で食べたものに限定されるが、美味かったギリシア料理について書きたい。

(1)フライドオクトパス
 これは、ルーマニアのブカレストにあった店で食べたものだった。たまたま自宅近くにあったので、住み始めた最初の頃に行ったが、地元の人たちで込み合っている人気店だった。
 
 後で記すが、ルーマニアには特別変わった料理はなく、街中にはイタリアレストランが沢山あるし、またギリシア系と思われる風貌の人もたくさんいる。そうした人たちは、シーフードを食べられる店としてギリシアレストランを認識していたように思う。

 そして私たちも、シーフードを食べたくてメニューを見ていたら、他のヨーロッパ人は食べないタコ(オクトパス)があったので、注文してみた。それは、タコの足をそのままオリーブオイルで炒めたもので、食感はBBQに近かったが、食べたところ、下処理(つまり、タコを堅いものに叩きつける)してあったため、非常に柔らかく、そしてタコの良い風味がした。

 これは日本人にはお勧めの料理だと思う。ただし、ルーマニアだったことが理由かも知れないが、値段は高価だった。

右がフライドオクトパス、左はムール貝、向こうはエビ

(2)ムカサ
 ムカサはラザニア(イタリアのパスタを載せて焼いたパイに似た料理)やキッシュ(フランス料理のクリームと卵生地のパイ)に似た料理だが、いろんな国でムカサは食べられた。調理の仕方は、ベシャメルソース(ホワイトソース)あるいは小麦と卵を合わせた厚い生地の間に、肉や野菜を入れて数段重ね、オーブンで焼いているから、ラザニアやキッシュとほぼ同じ調理方法だ。

 日本人には、具材が沢山入った厚焼き卵のようにして食べられるので、とても重宝する食べ物だが、量は相当に多いので、数人で分け合って食べるのが良い。

16.ルーマニア料理

 ルーマニアの主食は肉だ。牛肉や羊肉はあまり食べず、豚肉が多く、次が鶏肉になっている。そして、小麦を沢山生産するので、地方ごとに特色あるパンを作っているが、トウモロコシを粉にしたものも昔から食べられている。

 料理の背景には、オーストリア・ハプスブルグ時代のイタリア(フランス)料理、ボルシチのようなロシア料理、肉料理はドイツとアラブから、魚料理はギリシア(トルコ)からきているように思う。したがって、多国籍料理の色彩がある一方、地方の人たちは自炊する関係から、実に質素な食事をしている。

 また、地ビールや地ワインの生産が盛んだが、地方では自宅で使用するものだけを生産していることが多い。それでも、全国販売しているビールやワインも多くあるほか、それぞれの専門店で量り売りもしている。なお、ワインだけに限定すれば、ルーマニアよりもモルドバの方が良いものを作っている。

(1)ママリガ
 ルーマニアの代表料理として、このサルマーレが挙げられる。料理としては非常にシンプルで、トウモロコシの粉をミルクで溶かし、それを蒸し焼きにしたものだ。食卓には、マッシュドポテトのようにして丸い形にして出される。

 これだけでは味があまりないので、塩や胡椒をかけて食べるのだが、日本人的にはケチャップやマヨネーズが欲しいと思う。

 素朴な味なので、食べられない人はいないと思うが、毎回食卓に載って欲しいとは思えず、日本人にはすぐに飽きてしまうと思う。

(2)ミティ(またはミチ)
 おそらくアラブの影響が色濃いBBQの一種で、香辛料を混ぜた挽肉を炭火で焼いたものである。これを挽肉から普通の肉にすれば、そのままアラブ各地で食べられる肉料理と同じになる。

 ルーマニアでは、これにマヨネーズベースのピンクのソースを付けて食べるほか、山盛りのフライドポテトに加え、なぜか厚切りのパンが添えられている。つまり、日本のラーメン屋でライスが付いてくるような感覚なのだろう。

 私は、気軽なランチとしてよく食べたが、肉料理でもあるので、地ビールがよく合っていた。また、ワインでも良いと思うが、ビールの風味がよりマッチすると思う。

手前と右端がミティ。左端は豚もも肉BBQ

(3)チョルベ
 ルーマニアのボルシチ風のスープだが、伝統的なものは赤いスープに野菜と肉を入れて、そのまま煮込んだものになっている。一方、専門店では、例えばトスカーナ風とか、ハンガリー風などと称して、味付けや具材を変えたものを出している。

 私はあまり食べなかったが、ルーマニアの氷点下マイナス20℃まで下がる厳冬の季節には、身体が温まるありがたい料理だ。また、さすがに冷たいビールではなく、常温の赤ワインや白ワインが良くマッチした。

トスカーナ(イタリア)風チョルベ(ライ麦パン付き)

(4)サルマーレ
 日本で一般的なロールキャベツで、ルーマニアで豊富にとれる豚肉とキャベツを使ったシンプルな料理だ。また、ミティとチョルベを合わせたような料理ともいえる。肉、野菜、スープを同時に食べられるので、冬が厳しいルーマニアの田舎暮らしにはとても良く合っている料理だと思う。

17.各国ビール飲み比べ

 ビールは、輸入品ではなく地元で作られてすぐに飲むのが一番美味しい。だから、インドではキングフィッシャー、フィリピンではサンミゲル、NZでは、ライオンブラウンやライオンレッド、オーストラリアでは、フォスターやフォーエックス、アメリカでは、バドワイザーや各種地ビール、タイでは、シンハやクロウスター、ルーマニアでは、ウルススやチウク、エジプトはステラ、ヨルダンは、アムスティール(オランダのビールを現地生産)など、現地で購入して飲んだビールは、皆美味しかったという思い出がある。

 だから、どこの国のどれが一番かということは決められない。ビールが美味いのは、飲む時と飲む場所、そして一番重要なのは「飲みたい」という気持ちだと思う。

ブカレスト動物園近くのレストランで地ビール2種類

 蛇足ながら、ワインはさすがにボルドーとかブルゴーニュの有名で高価なワインは美味い。しかしながら、地元の庶民的なレストランで出されるようなハウスワインで、不味かった経験はなかった。やはり、ビール同様に地元産が一番のようだ。

ブカレストの普通のスーパーにあるワインコーナー

18.番外編(和食)

 和食と言えば、高級料亭の懐石料理、刺身・寿司、天ぷら、とんかつ、唐揚げ、焼き鳥、神戸牛のステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶ、そば・うどん、ラーメン、丼もの、お好み焼き・タコ焼き、和菓子の数々などが浮かぶ。また、日本は世界でも珍しい生卵が食べられる衛生的な環境が優れた国なので、卵かけご飯も和食の代表かもしれない。

 そうした中で私が、日本ならでは、そして日本でしか本当に味わえない料理と考えるのは、居酒屋と居酒屋料理だと言いたい。昔は、ビールを頼むとよく柿の種が小皿に載って出てきたが、今は「お通し」と称して、その店独自かつ日替わりの小鉢が出てくる。これは、何を使っているか、どう調理しているかなどに、定番はない。つまり店のセンスが生かされる対象だが、これは凄いことだと思う。

北千住の某居酒屋

 一方、居酒屋の定番料理は数々あるが、単純なお新香、冷やしトマト、谷中生姜、枝豆、オニオンスライス、魚肉ソーセージ、卵焼きなどは、けっして特別なものではないが、それでも店ごとに味わいが違う。そして、飽きることはなく、いつでも酒の良いつまみになる。

 もしもご飯ものを食べたくなったら、焼きおにぎり(おにぎり)や茶漬けもあるし、焼きそば・焼うどんもある。ピザやパスタ、さらにラーメンまで出す店もある。

 だから、私が日本の和食で一番好きなものは何かと問われれば、居酒屋と居酒屋料理であり、まさに日本にしかない世界に誇れる優れものだと声を大にして言いたい。

 ちなみに、今この瞬間に私が居酒屋に一人でいるとしたら、生ビール中ジョッキ・日本酒(冷)一合・麦焼酎(ロック)一合を飲みながら、お新香(きゅうり、なす、大根、ニンジン)、冷やしトマト(塩だけ)、魚肉ソーセージ(マヨネーズ付き)、かき揚げ(イカゲソ、玉ネギ、にんじん)、厚揚げ(ネギと生姜の薬味)、だし巻き卵をつまみに頼み、最後に温かいつゆのかけそばに、ネギの薬味をたっぷりと入れて食べたい。これにデザートとしてあんみつがあれば、立派なフルコースではないか?

川湯温泉夕食


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