【基礎文献】アナボリックステロイドの驚愕の効果⁉ ~なぜ「ドーピング」が競技スポーツを「破壊」するのか、実験から考える~
かなり有名で、なおかつ少し古い論文ですが、筋力トレーニングや競技に携わる人間にとっては、ぜひとも押さえておきたい内容なので紹介したいと思います。
1996年の研究で、アナボリックステロイドの効果に関するものです。
この論文によると、アナボリックステロイドの使用が筋肉量を著しく増加させ、スポーツ競技の成績向上に大きく貢献することは以前から知られていましたが、実際にその効果がどれほどのものか、具体的に確かめた研究はこれ以前にはなかったといいます。
(正確には、研究自体はあるにはあるが、実験の手順に不備があったり、統計的な分析が行われていなかったりしたそうです)
米国のカリフォルニアで、19~40歳の、50名の男性を被験者に行われました。
実験期間は、トータルで30週にわたって実施されました。
4週間 :統制期間
10週間 : 治療期間
16週間 : 回復期間
としています。
まず、最初の4週の統制期間では、参加者は運動を禁止されます。
そして次の10週の「治療期間」で、被験者の一部にアナボリックステロイドを投与し、また一部にはトレーニングを実施し、それらが筋量や筋力の向上に及ぼす効果を計測したのです。
16週の回復期間は、特に何かをするというよりは医療的ケア、チェックのために設けられた期間だといえるでしょう。
なので、実質的には10週間の試験ということになります。
被験者は、直近の1年間に競技スポーツの経験がなく、またアナボリックな作用のある薬や嗜好薬(論文には「recreational drugs」とあります。おそらく、州法で使用可能な、あるいは違法だが黙認状態の、いわゆるドラッグの類だと思います)の服用経験がない人が対象です。
実験の全期間中を通じて10名が脱落し、最終的に40名のデータが得られました。
この実験では、40名を次の4グループに分類しています。
10名 : プラセボ(偽薬)、エクササイズなし
10名 : テストステロン 、エクササイズなし
9名 : プラセボ(偽薬)、エクササイズあり
11名 : テストステロン 、エクササイズあり
「トレーニングをするグループ/しないグループ」に分け、
それぞれをさらに「ステロイドを投与するグループ/しないグループ」に分けたのです。
ステロイドを投与するグループには、毎週600㎎のテストステロン製剤が投与されました。
論文には「injections」つまり「注射」とあるので、おそらく筋肉注射で摂取したのでしょう。
これは、性腺機能が低下した男性の治療に通常用いられるテストステロンの、6倍!に相当するそうです。
そのため、本論のタイトルは「supraphysiologic dose」、つまり「超生理学的用量」とあります。
薬剤使用の決まり文句に「用法・用量を守って正しくお使いください」というのがありますが、それをガン無視したんですね。
おそろしい……。
一応、他の研究で「通常の男性に週当たり300㎎を、16~24週投与しても害がなかった」そうなので、その実験とトータルの投与量を揃えたのかも知れません。
300㎎×20週=6g
600㎎×10週=6g
ということですね。
とはいえ、ドーピング目的でステロイドを使用するトップのアスリートやボディビルダーは、これ以上の用量を投与するとも言われています。
当然のことながら、実験に参加した被験者はアンチドーピングの観点から、ほとんど全てのスポーツ競技の大会に出ることができなくなります。
だから、被験者には「直近1年で競技スポーツの経験がない人」を選んだのです。
それから、「エクササイズあり」のグループに関しては、10週の治療期間中に、週に3回のトレーニングが課されました。
論文には、「ウェイトリフティング」とあります。
といっても、これはおそらく「バーベルを用いたウェイトトレーニング」の意味だと思われます。
クリーンやスナッチなどの「ウェイトリフティング競技種目」ではなくて。
そう判断する理由は、本論文では筋力の伸びを、ベンチプレスやスクワットといった基礎的なバーベル種目で計測しているからです。
もちろんウェイトリフターも補助的にベンチやスクワットを行うことはあるでしょうが、そもそもクリーンやスナッチは主にパワー、つまり瞬発力を発揮する種目です。
筋力、つまりストレングスを評価するには、やはりベンチやスクワットを行った方が適切だと思います。
またトレーニングの負荷設定については、
1RMの90%(高負荷)
70%(低負荷)
80%(中負荷)
でサイクルが組まれたとあります。
詳細は載っていませんが、
月曜日 90%
水曜日 70%
金曜日 80%
のような運用をしたのでしょう。
トレーニング日が連続しないように、という条件がありますので、必ず1日以上の間隔をあけて行っています。
ボリュームについては、それぞれ4セット×6回を挙上したそうです。
ただし、実験途中での筋力向上を考慮して、5週目からは負荷の重量を増やし、なおかつ4→5セットに増やしたそうです。
実験結果
上記の実験の成果を、主に次の3つの観点から評価しています。
➀筋肉のサイズ
MRI(磁気共鳴画像法)で、腕(上腕三頭筋)と脚(大腿四頭筋)の筋肉のサイズを計測。
※筋肉の断面積を計測します。MRIは、簡単に言うと人体を「輪切り」にして、「断面図」を見る機械ですので。
②筋量
underwater weighing(水中体重測定)で、除脂肪体重を計測。
※体積と体重の両方が測定できるので、被験者の身体の「密度」が分かり、体組成が計測できます。
➂筋力
ベンチプレスとスクワットで、1RM(Max重量)を計測。
※他にも、各種ホルモンの値などを計測しているのですが、ここでは割愛します。
さて、結果はどうなったでしょうか。
まず、ちょっとした副作用から。
40名のうち、4名においてニキビが増加したそうです。
ただし、3名がテストステロン投与、1名がプラセボです。
よく、「ステロイドを投与するとニキビが増える」と言われますが、やはり何らかの作用はあるのかも知れません。
プラセボでニキビが出た理由は不明ですが、おそらく被験者が「自分はテストステロンを投与された」と思い込んだ結果だと思います。
実験は客観的なデータを取得するため、実験者も被験者も、誰が「テストステロンを投与されたか」を知らない状態で行っています。
いわゆる「二重盲検法」です。
なので、これはまさに「プラシーボ効果」ですね。
思い込みの効果というのは、それぐらい無視できないのです。
また、テストステロンを投与された2名に、胸部の「圧痛」があったとのこと。
いわゆる「押すと痛みがある」状態で、論文には「breast tenderness」とあります。
それでは、実験結果をごらんください。
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