【日本一周 九州編10】 まだまだ序の口宵の口
今日の宿は、博多駅から車で小1時間ほどの久留米市にある。そこまでは国道をひたすら南下すればいいのだが、太宰府天満宮のときにふりはじめた雨は夜には本降りに変わり、タイヤの跳ねあげる水飛沫は道をうすく煙らせていた。テールランプの行列が紅く染めあげた地雨のエンドレスは眠気を誘う。同じ塾でバイトする尾道と生徒の話をすることで睡魔を退散させ、なんとか久留米まで踏んばった。
宿・イルファーロ久留米は駅前にあった。広いフロントには、大きさ、かたちの様々なソファーが整然と並んでいた。明日の朝食はここで食べるのだろうか。チェックインを済ませると、部屋のあるフロアに向かった。
エレベーターを降りてすぐの共有スペースには、街の銭湯、もしくは床屋さんに置かれがちな王道の漫画がずらりと並んでいた。その脇には、ワンピースをうずたかく積み上げて一心不乱に読む男がいた。彼は、僕たちが夜食を食べたり、風呂に入ったりとなんやかんやする間、ピクリとも動かずに読み続けていた。今夜中に読み終えるつもりなのかしら。
部屋は学校の多目的トイレの入り口みたいなパーテーションによって分けられていたため、下手に室内で会話しようもんなら隣室の迷惑になってしまう危険なつくりだった。でも、1人2,000円でベッドで寝られて、朝食までついてくるんだからもう充分である。それに、このシステムも早寝を促すという点においてはメリットに変わるしね。
とりあえず、一日目が無事に終わったことを祝う晩酌をするため、駅前のセブンイレブンに買い出しに行った。僕はプラQを、尾道はカルピスウォーターをそれぞれ。加えて、分けあうためのポテチを買った。先述のとおり、ソファーの海の広がるフロントを会場に決めた。こんなにいい環境なのにひとっこひとりいなかったから、一番座り心地のよさそうなソファーを吟味して腰を据えた。
乾杯!
旅先での非日常を口実に呑むお酒が一番美味しい。酒精に手をつける前からしてすでに、頬が火照っているような気までする。「明日は吉野ヶ里遺跡だねー」とか、「まだ行程の九分の一しか終わっていないのか!」と笑いあって、ほくほくしながら床についた。
この宿について注記すべきは、シャワールームが宇宙船の一室みたいだったところ。SFっぽい空間にきゅんきゅんしながらさっぱりした。
明石
・メンバー
明石、尾道
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