見出し画像

『フェミニスト経済学』から政治・経済・歴史を捉え直す⑤

(①はこちら、②はこちら、③はこちら、④はこちら

フェミニズムと親和的な経済学

金井 岡野さんからはいかがですか。

岡野 私は経済の専門的な質問はできないんですが、自分が今まで関心を持ってフェミニスト経済学の勉強をさせていただいていて、一方でケアの勉強をしながら、政治学的には私がふとそうだよねと思ったのは、政治思想史的に私が研究しているケアの倫理が一番対決しないといけない相手はリベラルな正義論なんですよね。ロールズの正義といってもいい、配分的正義です。ざっくりですけれど。その対決をする中でフェミニストたちは、歴史的にもフェミニストだって正義を求めていたよね、とふと気づくわけです。

これこそが正義、これこそが正しい原理なんだということを、山のようにいる男性研究者たち、ロールズ研究者たちが、繰り返し言ってきたために、私たちも理論上の相手はリベラルな正義論だということで、視点がそこに固定されてきたような気がして。でもフェミニストたちは、もっと広く見たら正義論だっていろいろあると気づく。哲学の長い歴史において正義論だっていろいろあるわけで、ケアの倫理と親和性のある正義論だってあると。そういう意味では、マルフェミとの関係なのかもしれませんけれど、おそらく想像するに皆さんのお話を聞いていても、フェミニスト経済学って、わりといろんな分野の方が学ばれていますよね。地域研究の方から、環境問題、そして開発経済まで。

フェミニスト経済学とこことは伴走できる、それはケイパビリティのアマルティア・センかもしれないんですが、そういう経済学、つまりフェミニスト経済学の勉強にもなると皆さんが思っている経済学のテキストというか、分野があれば教えてほしいです。フェミニストと親和的な経済学は他にどういうものを考えたらいいのかなというのはすごく気になって。マルフェミとの関係も気になっているんですが、みんなマルフェミではないでしょうから、何か既存の経済学の中でも親和性のある経済学の分野というか流派というか。それをぜひこれを機会に教えてほしいです。

金井 私たちのテキストでは、アダム・スミスなどの古典派経済学は社会がいかに人間の必要を満たして維持されているのかといった「プロヴィジョン」に着目していて、フェミニスト経済学は古典派を継承していると捉えているため、親和的だと思います。また、異端派経済学は新古典派の人間像を批判するという点で共通していると思います。異端派の中でも、経済主体の行動に制約を与える制度の生成や存続のメカニズム、またそうした制度の機能や変容プロセスを検討する制度派経済学はフェミニスト経済学だけでなく、政治学とも親和的ですよね。

古沢 行動経済学に対する議論も大変興味深いです。行動経済学は、合理的経済人という人間類型に対して問いを立ててそこを崩していったという点では大きな貢献をしました。そこは認めつつも、行動経済学がジェンダーだと提示した性向を見ると、たとえば、リーマンシスターズ仮説など、金融資本主義の根幹を問わないで女性を勝手に神話化したり、逆のステレオタイプにはめてしまったり、あるいは、その論証過程が十分だとは思えないものがあります。

へ続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?