見出し画像

愛知県名古屋市に本社を置く人材会社の傘下にあるMan to Man Animo株式会社の岐阜県内にある営業所で、高次脳機能障害を抱えた40代の女性が、上司からパワーハラスメントを受け、合理的配慮を得られず、心身を痛め、退職を余儀なくされたとして、岐阜地裁に起こした裁判が、5月19日に結審となった。8月30日に判決。中日新聞が報じた。パワハラの事実認定に加えて、会社側の対応が障害者雇用促進法に基づく雇用主側の「合理的配慮」を欠いていたのかどうか、裁判所の判断が注目される。

2022.5.20中日新聞

特例子会社なのに障害者への理解がない?

報道などによると、原告は2008年に入社し、当初は配慮を受けながら働けていた。しかし2013年、管理職らが交代したことで、それまで受けられていた、障害特性に合った服装や靴の着用を認めるなどの配慮を受けることができなくなった。2016年に強迫性障害が悪化し退職した。女性は2019年9月に岐阜労働局に労働審判の申立を行ったが、和解が成立せず、民事訴訟を起こした。

パンフレット1
パンフレット2

原告の支援組織が制作したパンフレット

被告会社は、障害者の雇用を創るための「特例子会社」として2004年に設立された。岐阜県・愛知県・名古屋市において、行政の障害者雇用支援事業を数多く受託してきた。

画像6

被告会社ホームページ

しかし、他企業にノウハウを提案する立場でありながら、こうしたことが起きてしまっている。判決次第では行政からの事業に影響が出る可能性もありえるのではないか。

特例子会社制度とは、企業が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件を満たすことによって、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率を算定することができる制度。特例子会社で雇用された障害者は、親会社に所属している従業員に対して必要とされる障害者雇用者数としてカウントすることができる。

特例子会社は、一般の職場よりも手厚く障害に配慮された設備や環境が整えられ、スタッフも障害者雇用にノウハウのある人材が揃うことになっている。しかしその運営に関しては、親会社の意向、業種、規模によって変わってくる。

事実認定・合理的配慮をめぐるの判断の難しさ

この裁判で疑問に思うのは、本来ならば特例子会社側が謝罪し再発防止に取り組む内容の和解で解決するのが望ましい事案とみられるにもかかわらず、そうした解決に至らなかったことだ。

尋問で会社側証人は、原告の支援組織側のパンフレットにあった「できなくてもいいからやれ」などの発言は否定。「本人を成長させるため、よかれと思って行った配慮について、原告はそれを自分への強制だと思い込み、そこに高次脳機能障害による解釈のズレが生じたことが、今回の事件の本質」と述べていた。

「よかれと思ってやったのに悪者扱いされる」―こうした言い回しは、マイノリティ問題のトラブルでよく聞く。

裁判官が「個人的な特別な配慮は難しかったということですか?」と会社側証人に尋ねると、「会社としては、生産性と福祉については両立しようとした。福祉だけで考えられるわけではない」とも発言していた。

原告の支援者によると、裁判所の提案した和解案では、「合理的配慮義務違反とまではいえない」とされ、口外禁止が加えられていたという。

原告の代理人弁護士は、結審後の記者会見で、裁判官が合理的配慮義務違反とは言えないと判断した理由を尋ねた新聞社の記者の質問に対し、「裁判官は、被告会社が指示の変更など、原告への説明が不十分としか判断せず、変更そのものが配慮に欠けるということについての理解がない。書面をきちんと読んで精査していない」と答えた。

原告の支援者は、体制が変わるまでは会社を信じていたからこそ、客観的な物証が不足することになり、そのなかで立証しなければならない困難さ、裁判官に、理解されにくい問題を理解してもらうように伝えることの困難さを切実に訴えていた。

ハラスメントや合理的配慮をめぐる裁判の難しさが現れている。

最終口頭弁論では、原告の女性が意見陳述をした。

「私のような障害者は他にもおり、泣き寝入りしている人はたくさんいる。障害者の働く場所は限られている。働かせてもらえるだけましだと卑屈になっている」

「合理的配慮とは障害のある人とない人が平等が確保され、社会的障壁をなくすために行われる個別対応や支援。被告会社のような対応こそが『社会的障壁』」

意見陳述1
意見陳述2

最終口頭弁論での原告の意見陳述書(原告の支援組織が公開)

事実認定の判断と、それが合理的配慮とみなされるかの判断。合理的配慮は絶対的な基準が存在するケースが少なく、双方主観で合理的かどうかのみならず、世情の変遷なども反映しながらの客観的な合理性となるので、難しい面がある。

これが会社側の認識を追認する判決となった場合、それがどんな社会的メッセージとして伝わることになるのか、働く障害者や支援機関にどんな影響が出るのか、ほかの障害者問題の裁判に影響が出るのか。もっと掘り下げて追ってみたい。

(2022年6月1日訂正)民事訴訟となった経緯について、「2020年3月に」を削除しました。

(2022年8月1日追記)8月4日予定だった判決日が、裁判所の都合により延期となりました。

(2022年8月3日追記)判決日は8月30日となりました。これに伴い、修正しました。

続報


収録マガジン

マガジンをフォローしておくと、追加のたびに通知されます。


この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします。サポートは100円、500円、1000円、任意の金額の中から選ぶことができます。いただいたサポートは活動費に使わせていただきます。 サポートはnoteにユーザー登録していない方でも可能です。