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岐阜特例子会社パワハラ裁判、高次脳機能障害女性の訴え退ける

愛知県名古屋市に本社を置く人材会社Man to Manの傘下にあるMan to Man Animo株式会社の岐阜県内にある営業所で働いていた、高次脳機能障害および強迫性障害を抱えた女性(41)が岐阜地裁に起こした裁判で、8月30日、鳥居俊一裁判官は請求棄却の判決を言い渡した。

争点は、特例子会社での高次脳機能障害の人への合理的配慮、障害のある労働者に対し障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な援助を等の措置を講じなければならない義務を怠った否かだった。

「一般に社会人としての活動範囲を広げる」

女性は入社当時、「スニーカー等腰に負担のない履き物で仕事させてほしい」「スーツやブラウスが着られないので服装の自由を認めてほしい」などの申し入れをし、被告会社はこれを了承した。しかしそれまで経営を担ってきた取締役や従業員が退職し、以後、新たな人物が取締役となり、女性の指導を担うようになったの機に、それまで受けられていた履き物や服装の自由を認められなくなり、ブラウスやスーツの着用、革靴使用を強要されたと主張していた。一方で、被告会社側は、これらは提案したのであり強要はしていないと主張。裁判所は、ブラウスやスーツの着用、革靴使用について、「一般に社会人としての活動範囲を広げることにつながることに照らせば、それらの購入を勧めたこと自体は、合理的配慮義務違反とは認められない」とした。

また、女性は病状が悪化し休職した後、職場復帰の条件として、症状への理解および職場環境の改善を求め、障害者職業センター主任・心理士も交えての面談もしたが、ここで被告会社側から提案を拒否され、職場復帰の道が閉ざされ、退職を余儀なくされたと主張していた。裁判所は、被告会社側は経営方針や女性に対して希望することを述べていたものの、女性の職場復帰やそれに向けての職場環境の整備を拒んでいたとは認められないとした。

「障害に全く無理解な判決。特例子会社の責任軽視」

判決後、原告と弁護団は記者会見を開き、そこで原告女性は、「障害特性で文章を読み込むのに時間がかかるが、判決文を読み込んでいくうちに、到底納得できない」「なぜ期日を延ばしたのに。人の話を聞いていたのか。なぜここまで理解してもらえなかったんだろう。ショックを受けている」と述べた。笹田参三弁護士は、控訴もこれから検討していくことを述べた。


原告弁護団は声明を発表した。

「障害のある人に対する合理的配慮提供義務に関する岐阜地裁判決について」

2022年8月30日

原告・弁護団

 本日、「障害者雇用促進法」上の「特例子会社」に勤めていた障害のある労働者が、会社に対して自らの障害に対する理解と環境改善を求めたにもかかわらず、提案を拒絶され、退職せざるを得なくなったことによる精神的苦痛に対する損害賠償を求めた事件で、岐阜地方裁判所民事第2部第2係(鳥居俊一裁判官)は、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。

 判決は、原告が職場復帰を果たすべく、会社に対して自らの障害に対する理解と職場改善を求めたにもかかわらず、会社が環境改善の提案さえ拒絶し、退職せざるを得なくさせたことを違法とは認めず、原告に対する賠償責任を認めなかった。

 本件特例子会社による原告に対する配慮措置は、

(ア)障害者雇用促進法でいう、採用面接時、原告が障害の特性から自ら申し出た配慮(36条の2)、あるいは採用後に、上司と原告で、問題が起きた場合に必要とされた配慮(36条の3)であり、(イ)合理的配慮の内容について当事者で話し合い、確認し、いずれも会社の了承を得、ないしは、ルールを作ってきたものである。

①障害のある労働者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること、②障害のある労働者の雇用の促進および安定が確実に達成されると認められることを認定要件とする特例子会社(障害者雇用促進法44条1項3号、4号)がこの合理的配慮提供義務を蔑ろにしたことは極めて重大な問題である。

 にもかかわらず、本判決は、会社の主張に依拠し、障害のある労働者に対する合理的配慮よりも企業活動を優先させ、特例子会社の責任を軽視し、特例子会社の賠償責任を免れさせ、さらには、原告の障害に対する無理解のまま行った体調悪化につながる本件特例子会社の指示を「支援、指導」と評価し「原告は、業務遂行能力の向上に努力すべき立場にある」として原告に無理難題を要求するもので、障害を有しながら働くことの困難さ、障害者雇用促進法の趣旨を全く理解しておらず、到底、維持されるべきものではない。

 原告および弁護団は、本件で、被告が合理的配慮提供義務に違反し、原告に対して精神的苦痛を負わせたことを認めた上、特例子会社であることを認識し、障害のある労働者に対して法の定める合理的配慮提供義務を実効化させる措置をとるとともに、ともに働く労働者に対して障害および配慮措置に対する理解を図るまで、断固として闘い続ける決意である。


被告会社であるMan to Man Animo株式会社にも、判決をどう受け止めているか、メールで問い合わせたが、8月30日23時現在まだ返答はない。


こうした特例子会社側の認識を追認する判決となり、どのような影響が出てくるか、判例となった場合にどのように使われていくことになるのか。

各方面の専門家の意見も聞きながら、周知していきたい。


9月2日 判決深掘り

2月8日 控訴審


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