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「民主主義の修復」へ広告・PRの発想で何をすべきか―「民主主義のための広告代理店」第1弾の取り組みについて―

 久々の更新となります。
 本稿では、私の現在の活動内容についてご紹介します。
 
 私は、自由や民主主義、多国間主義といった価値を守るために必要な「人々の動き方・動かし方」を広告・PRの視点も交えて探る「民主主義のための広告代理店」という研究・提言活動を始めました。
 そして、その第1弾の研究テーマを「民主主義の修復」に決め、学術雑誌への論文掲載を目標に研究を行っています。
 
 私がこれを最初のテーマに選んだのは、今の日本を覆う「政治に自分の民意が反映されていない」という国民意識を転換できなければ、どんな政策も推進力を持ち得ない、と考えるからです。
 
 日本では、従来、市民の声を吸い上げる役割を果たしていた地域や社会の様々な組織が弱体化し、そうした中で投票率も5割を切る地域が続出し、わずかな票でも当選できる状況となるなど、多くの国民にとって、選挙で選ばれた政治家を自分の代表と思えない傾向が強まっています。これでは、持続的な経済成長や老後の安心などに必要な、痛みを伴う政策が、国民の幅広い合意を得るのは困難です。そして、政党や政治家は国民の反発を恐れてビジョンや哲学を曖昧にし、また一部の身内や関係団体の方ばかりを向き、結果として国民の将来不安は根本から解消できず、さらに政治への信頼が低下する、という悪循環に陥っています。このような、市民が既存の政治や民主主義の枠組みから離れていく現象は、日本だけでなく、多くの先進民主主義国に共通するものです。

 また、このように各国の国内での政治基盤が脆弱になる中、多くの国では、そうした国民の不満に便乗して一国主義を掲げる過激な指導者や勢力が台頭し、またこれまで世界をリードしてきた先進国が共有する「自由」「民主主義」という価値そのものへの求心力が低下することで、戦争や気候変動、感染症のような国境を超えた課題に、各国が協力して対処することは一層難しくなっています。この状況は当然、各国の国内における国民の不安や政治への反発につながります。これが二つ目の悪循環です。
 
 この「二重の悪循環」を打破するためには、まず我々の足元で、市民と政治をつなぐ回路の再構築に取り組むことが必須、ということです。
 
 これに対し、我が国では、いくつかの事例から、従来の代議制民主主義を補完し、市民がより主体的に政治に参加する仕組みの構築に向けた気運が高まっているようにも見られます。例えばある世論調査では、地方議員のなり手不足解消に必要な取り組みとして、選択肢で2番目に多い43%もの人が「政策作りに住民が参加する制度を導入し、地方議会への住民の関心を高める」を挙げました(中日新聞、2023年1月5日朝刊掲載)。実際に、無作為に選ばれた市民が専門家の助言を受けて気候変動対策を議論し、その結果を行政や議会に提案する「気候市民会議」を実施する自治体も増えています。

 ただ、そうした動きに積極的な声ばかりとも限りません。2020年に国内で初めて気候市民会議を開催した札幌市では、無作為に選び、参加候補者として案内状を送付した人のうち、参加の意思を表明した人の割合は1.6%(リンク先の報告書10-11頁参照)と、主催者側が想定した3~5%を下回りました。この割合は21年の川崎市(リンク先19頁)、22年の武蔵野市(同3頁)や所沢市(同3頁)など、同会議を実施した自治体の多くで2~3%程度となっています。
 
 「政治に自分の民意が代表されていない」という不満は多くの人が抱いているはずなのに、その解消に向けた具体策への反応が必ずしも芳しくないのはなぜなのか。そもそも、人はどんな条件のもとで、集団の合意形成に自分の意思が「代表されている」と思うのか。
 私の研究ではそれらの問いから出発し、多くの市民が「民意の反映」を実感できる政治制度とはどのようなものか。そして、市民と政治とのつながりを修復する制度改革に向けた世論の声を大きくしていくためには、誰に、どんなメッセージを投げかけることが必要なのか、を、広告コミュニケーションの発想も取り入れながら、明らかにしていく予定です。
 
 現時点で、上記の問いにベストな解決策をご提案できるか、自信はありませんが、私の問題意識を多くの方にお伝えすることで、それを超える発想が生まれるきっかけになれば、と思っております。
 その成果は、いずれ本アカウントでもご報告できればと考えていますので、ご注目いただけますと幸いです。

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