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「民主主義のための広告代理店」の活動準備を始めます

 私の人生の目的は、人々がこの国や世界の課題を自分で考え、解決に向けた行動を起こす社会をつくることです。
 そのため、非営利の政策シンクタンクの事務局職員と、一般企業のマーケティングや広告企画の仕事とを行き来するキャリアを歩んできました。
(詳細な自己紹介は、こちらの記事をご参照ください。)

 その経験を踏まえ、私は、「民主主義のための広告代理店」という非営利の研究・提言活動を、独自に始めることにしました。

 これは、「政策」と「広告・PR・マーケティング」の両分野の知見を繋ぎ、日本や世界の自由と民主主義、多国間主義の困難を乗り越えるために真に必要な、「人々の動き方・動かし方」を考えるものです。

 私はこの活動で、以下二つのことを達成したいと考えています。
 第一に、「政策」課題の解決に取り組む方々にとって必要な「世論を巻き込む」方法について、新たな発想を生み出すこと。
 第二に、「広告・PR・マーケティング」に携わる方々が、自由や民主主義、国際協調といった普遍的価値を守る立ち位置に立って行動する流れを強いものとすること、です。

 本稿では、私がなぜこのような活動を始めたいと考えたのか、実際の活動の流れをどう考えているのか、をご説明します。

世界最高峰の識者200人から学んだ、世界が直面する課題とは

 私はシンクタンク勤務時代、世界やアジアの平和秩序や国際協調、また国内外の民主主義の修復をテーマとする数多くの公開議論の運営に参画し、首脳経験者を含む政治リーダーや政策当局者、研究者など各国を代表する識者計200氏近くの主張を、事業報告書やウェブサイト記事などの形で世に発信してきました。

 そこで学んだのは、世界、そしてこの日本でも直面する困難に政治家や政党が有効な手を打てず、市民が政治を諦め、「民主主義」そのものが壊れかねない現状でした。
 また、そうした各国内における民主主義の機能不全は、地球規模の課題の解決に必要な各国間の連携の障害にもなり、両者が悪循環となって危機が増幅しています。
 SDGsの各目標のような、個別のテーマに対する取り組みも、このように社会の基層をなす「秩序」や「統治」そのものに分断や動揺が生じている状況では、効果を期待できません。
 
 平和や安全、健康が保たれた世界で、誰もが自分の運命を自分で選択でき、国の垣根を超えて自分の夢を叶え、人々の幸せに貢献する。
 今、脅かされているのは、そのような、あらゆる人や組織にとって当たり前かつ普遍的な願いなのです。
 
 この現状を打破するため、私は、ビジネスパーソン、特に広告やPRに関わる人たちの力が重要なのではないか、と考えています。
 それは、シンクタンクの仕事で得た最も大きな学び、すなわち「民間や市民が動かなければ、日本や世界の課題は解決できない」ということに関係しています。
 山積する課題にもかかわらず、政治や政府は市民の幸福よりも国の対立を背負い、また一部の極端な声を過度に反映し、さらに政治家は低投票率で当選できる中、民意を吸い上げる動機も弱いものとなっています。

 しかし、現状では、自分の願う未来を実現するためには具体的にどのような政策や構想が行われるべきなのか、その情報が多くの市民に伝わっていません。
 加えて、そのように自分で考え、声を上げようとする人々がいたとしても、彼らが勇気をもって発言したいと思える手段や空間が限られている、という問題もあります。
 これらは、政府や政治家、国民、有識者や専門家、この三者の「コミュニケーション」にも密接にかかわる問題です。

「広報・発信」のプロがこの国や世界の危機に立ち向かえば、未来を変えられるのではないか

 そして、まさにその「人の行動を変える」ことを目的とし、コミュニケーションによって物事を社会に広めるプロこそが、私のキャリアのもう一つの柱でもある、広告やPR、マーケティングといった分野に携わる人たちです。

 私はこれまで30回ほど、世界的な広告コンテストの受賞者をはじめとする第一線のプランナーの方々から、世界で最も人々を動かしている広告表現がどのように作られているのか、学ぶ機会をいただきました。
 一人一人の心理を徹底的に掘り下げ、「誰が、いつ、どの瞬間に、どんな行動をしたいと思うのか」を明らかにしながら企画を練り上げていく姿勢に圧倒され、そうした知恵が、シンクタンクで出会った政策立案者の方々が抱く使命や志の達成のために使われれば、本当に世界を変えられるのではないか、と強く感じました。

 しかし、今、広告やPRに関わる多くの人たちは、単に自分たちの利益のため政治に取り入っているか、あるいは無関心を装っているのが現状ではないでしょうか。

 例えば、今、日本の各政党の選挙公約は、課題解決の明確な目標や工程を国民に約束するのではなく、単なるスローガンや願望の羅列と化しており、多くの専門家は、こうした公約が採点すら不可能なレベルだ、と厳しく評価しています。
 そして、多くの広告代理店は、それを問題視するのではなく、政党が選挙で勝つことだけを目的としてパンフレットやCMの作成を引き受けている状況です。

 また、私自身も実際に、ある広告会社で働いた経験があります。当時は、就任したばかりのトランプ米大統領の政策による、世界の分断の加速が強く懸念されていた時期でした。
 それを念頭に、会社の先輩らから私が繰り返し伝えられたのは、「そうした世界の流れに抗うのではなく、それに『適応』してビジネスを展開するのが広告会社の仕事だ」「政府などとの取引でも、その主張やイデオロギーにかかわらず、あくまで多くの広告予算を持っているクライアントと付き合う、という姿勢で臨むべきだ」というものでした。

 私が改めて問いたいのは、その「流れ」の先に待つのは本当に我々が望む理想の未来なのか、各社の「パーパス」で描かれたあるべき世界なのか、ということです。

 この状況を変え、広告・PR業界の方々にも、世界の平和と国際協調、そして民主主義を修復するという立ち位置で共に行動してもらいたい。
 「民主主義のための広告代理店」という名称には、そうした思いを込めました。

 そのために私は、以下のような活動の展開を考えています。

「民主主義のための広告代理店」の活動の流れ

以下の問題意識に基づき、これらの中から随時、さらに個別のテーマを設定し、下記1.~3.に取り組む。
(ア) 市民と政治との繋がりを取り戻すため、市民側の当事者意識や行動を強めること
(イ)日本の将来に必要な「痛みを伴う改革」に向け、市民の合意を進めること
(ウ)世界の平和秩序や国際協調の修復、また世界の分断の阻止を求める市民の声を大きくすること

1.「政策課題」の抽出

そのテーマの将来の見通しや目指すべき理想像、その実現に向け政治が取り組むべきことは何か、を明らかにする。

2.「政治過程」の分析と、必要な「市民の行動」の仮説構築
1.の政策の実現を市民側から政治や政府に働きかける上で、必要とされる市民の行動変容や認識変容の内容や規模を明らかにする。また、そのためには「誰が、どんな人に働きかけて、どんな気持ちを喚起することが必要なのか」や、その手段の基本的な方向性について仮説を構築する。

3.「市民の行動」を促す施策の提案
「広告・PR・マーケティング」の観点から、2.の仮説に対し、「その手段で本当に市民を動かせるのか?」という視点からの評価や、具体的なメッセージの表現やメディアの活用方法についてアイデアの立案を行う。

その上で、関係する専門家や市民団体などへの提言を行い、そのプロセスは可能な限り公開する。

 上記の通り、この活動では、「政治・政策」と「広告・PR・マーケティング」、両分野のプロの最適な役割分担を図りたいと考えています。
 つまり、社会課題そのものに対しては前者の問題意識や志、専門性に立脚しつつ、実際に人々を動かす方法の立案や、その現実感の検証では、後者の最先端の考え方を活用する、ということです。

 また、「市民が動かなければ社会課題は解決できない」との考えから、特定の利害から離れた、「市民側・非営利」の立場をあくまで貫きます。政府や政党・政治家の広告宣伝の支援を行う活動ではありません。

 私はもちろん、私一人の活動だけで社会を大きく変えられるとは思っていません。また、日本や世界の多くの問題は、広告・PRの視点だけで解決できるものではないことも、言うまでもありません。
 しかし、まずは、その活動によって、「政策」と「広告・PR・マーケティング」、それぞれに従事する方々に対し、「自分たちにはこういう視点が必要だったのか」という、今までにない「気付き」を作り出すことから始められれば、と考えています。

 詳細な活動内容は、このアカウントで追って発表していきます。
 多くの方にご指導、ご協力を賜れれば幸いです。

2023年5月

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