220904 20代前半

その貼り紙は
店の自動ドアに張り出されていた
未経験者歓迎
字面の通りに受け取って
自動ドアが閉まらぬ内に中へ入り
ライトが煌々とシてるのに
ほの暗い階段を上って見渡すと
店員と思しき制服の人がカウンターに2人
アプライのアポイントを取って
店を後にした
久し振りに手に取った履歴書で
何が困るって
卒業年度がグチャグチャな事
指折り数えて下書きして
顔写真が無い事も思い出して
慌てて撮りに行くと
ソコには自意識とは乖離の甚だしい顔
悔しい様な気持ちになる
数日後の面接
担当は店長と副店長と後で判った
格闘ゲーム風に謂えば
PKキャンセルを繰り出し
威嚇の如く自らのオデコを自らの指先で
ツツき続ける店長
山の如く動かず
店長の言に相槌と思しき頷きで
時間をやり過ごす副店長
僕は此の二人のキャラクターが
直ぐ好きになった
後日連絡しますと謂われた数時間後
晴れて採用となって僕は
未経験の分野に足を踏み入れた
始業は9時、開店は10時
始業の少し前に軒先で待っていると
中から副店長が僕を呼び
僕の初日は始まった
初日の面子は副店長と
僕の教育担当のK君
スラリと背が高く彫りの深い顔立ち
黒縁のメガネを備えた顔立ちは
女子には説得力の高いグッドルック
太い眉は薩摩隼人を想わせる
もう1人、9時を回って現れたM君は
眠さと寒さの所為なのか
話しかけてくれるなと
謂うオーラをピーコートと共に纏って現れて
着くなりコカ・コーラを開封し呷りだした
その剛胆な姿にホレボレとしながらも
遅刻じゃね?
とは想ったが誰も咎めない事から
ソレが彼の日常、通常運行ナのだと想った
M君が豪快に服を脱ぎ
その美しい体躯を
エヴァンゲリオン弐号機のような
ソレを見せる頃
K君の指導で僕の清掃が始まった
“僕も入って間もないので
適当にウマくやって下さい”
K君の指導方針は明快かつ的確だった

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