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舞台 「再生」 観劇レビュー 2023/06/03


写真引用元:ハイバイ 公式Twitter


写真引用元:ハイバイ 公式Twitter


公演タイトル:「再生」
劇場:東京芸術劇場 シアターイースト
劇団・企画:ハイバイ
演出:岩井秀人
原案:多田淳之介
出演:日下七海、小宮海里、田中音江、つぐみ、徳永伸光、南川泰規、乗松薫、八木光太郎、山本直寛
公演期間:6/1〜6/11(東京)、7/1〜7/2(大阪)、7/8〜7/9(山口)
上演時間:約1時間15分(途中休憩なし)
作品キーワード:コンテンポラリーダンス、身体表現、考えさせられる、熱量
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


岩井秀人さんが主宰する劇団「ハイバイ」が、劇団「東京デスロック」の多田淳之介さんの代表作である舞台『再生』を大幅にアレンジして再演。
『再生』は、神奈川芸術劇場(以下KAAT)で2015年に岩井さんと「快快」がタッグを組む形で上演し、今回は"ハイバイ版"として再演する形でキャストを一新して上演された。

今作は非常に特殊な構造を持った舞台作品で、台詞という台詞やストーリーがある訳ではなく、9人の役名のない役者たちがまるでヒンドゥー教の神々のようなカラフルで派手な衣装を着て、6つの音楽に合わせてひたすら踊り続けたり、コンテンポラリーダンス等の身体表現が繰り広げられる。
この6つの楽曲は劇中で3回繰り返され、同じようなパフォーマンスを連続して3回上演されるという極めて特殊なシナリオ展開となっている。

Daft Punkの『One More Time』が流れ始めると共に、ステージ上に眠っていた役者たちが次第に起き始め身体表現を始める。
それはまるで、音楽に合わせてエネルギーが役者たちの体内に伝わっていくことで、自然と体が動き始める、そんな感じだった。
そして役者たちは一心同体となって集団でパフォーマンスをしたり、個々で全く異なるパフォーマンスをしたりと、まるで人間ではない生物かのようにステージ上を暴れ回る。
そして、6曲目が流れる途中で役者たちはお互いに争い合って共倒れして、上演開始時と同じようにステージ上に全員が眠ってしまう。
そこから再びDaft Punkの『One More Time』が流れ始め、この一連のパフォーマンスがあと2回繰り返される。

同じようなシチュエーションが3回も繰り返されたら観客は普通に飽きるのではないかと思ったが、私自身は全く飽きることなく楽しむことが出来た。
音楽が全てロック系の洋楽ばかり(エルガーの『威風堂々』は違うが)で曲を聞いているだけでもテンションが乗ってくるので、まるでTikTokのショート動画を繰り返し見るような感覚で飽きずに見られたのかもしれない。
また、こういった言語のないパフォーマンスが3回繰り返されることによって色々考えさせられることもあり、輪廻転生だったりを考えながら観ていたので個人的にも様々な解釈が劇中に浮かんできて楽しかった。

舞台美術は派手で、どこの異世界なのか想像もつかないような光景が広がっていて好きだった。
上手から下手に伸びる階段、ソファー、笹の葉のような植物、ミラーボール、全てがロックで奇抜な音響と照明と共に熱量をステージ上からグワングワン浴びる心地が良かった。
役者たちのパフォーマンスもまるでプロレスを観ているかのようで、私自身も客席から立ち上がってリズムに乗りながら立ち見したかった。

そしてなんといっても役者陣の体力が凄まじい。こんなハイカロリーなパフォーマンスを3回も繰り返すのかと開いた口が塞がらなかった。
流石に3回目は全体的に疲れている感じが窺えたが、むしろそういった違いがあってより楽しめたのかもしれない。

とにかくステージ上から物凄い熱量を感じさせられる新感覚な演劇だった。
ぜひ劇場でこの味わったことのない感覚を存分に多くの方に楽しんで欲しい。

写真引用元:ステージナタリー ハイバイ 2023年公演「再生」より。(撮影:平岩享)


【鑑賞動機】

岩井秀人さんが手がける作品は、2022年7月に上演された『ワレワレのモロモロ2022』や、2023年3月に上演されたミュージカル『おとこたち』と観てきていて、どちらの作品も好きだったので、今回は過去話題になった名作の再演ということで期待して観にいくことにした。
また、知っているキャストも複数いたのも観劇の決めて。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ステージ上に役者たちが全員眠っている。日下七海さんだけが下手側の階段の最上段で横になっている。
Daft Punkの『One More Time』が流れ始める。小宮海里さん(おそらく)が叫びながら起き上がる。それに続いて八木光太郎さんが叫びながら起き上がる。徐々に他の役者たちも叫びながら起き始める。そして最後に、徳永伸光さんを囲んで他の全員が輪になって叫び体を動かす。そして徳永さんが立ち上がる。他の輪になった役者たちは円舞する。

Aerosmith『Walk This Way』が流れ始める。先程まで円になって踊っていた役者たちは、今度はバラバラになって叫びながら身体表現を始める。ステージ上を駆け回っている役者もいれば、同じ動作を繰り返し繰り返し行っている役者もいる。田中音江さんは一定のリズムで左手を挙げたり右手を挙げたりしている。

ATARI TEENAGE RIOT『speed』がかかり始める。
八木さんの腹部に白く輝くペンライトのようなものを沢山身につけて、その後ろに一列になって他の役者がくっついて回る。途中、日下さんの襟元についていた3つの風船のうちの一つが割られる。
さらに、田中さんは一番上手側の階段の最上部に行って、りんごをバクバク食べ始める。

エルガー『威風堂々』が流れ始める。天井に吊り下げられたミラーボールが、太陽のように白く光り輝き、役者たちはそのミラーボールを崇めるかのように踊る。
ミラーボールが下に降りてくる。田中さんがそれを取り外して、ミラーボールを抱えながら輪になって円舞し周回しながら踊る。田中さんはミラーボールを上手側へ運んで置き去る。

bo en『my time』が流れ始める。役者たちはステージの隅に置かれていたソファーを下手側手前に持ってきてセットする。そしてそのソファーに横になったり、そのソファーを色々と移動させたりしながらパフォーマンスする。日下さんはシャボン玉をし、男性出演者何人かは下手側から紙吹雪マシンで紙吹雪を舞わせている。

Banvox 『Laser』がかかり始める。(たしかこの6曲目の序盤で、ミラーボールが再び天井に戻される)
最初は皆が円陣を組みながら円舞していたのだが、徐々に彼らは互いに殴り合いを始めてステージ上に倒れていく。天井からは紫色の光線のような照明が差し込まれる。日下さんは階段を駆け登って、下手側の最上段まで行く。
八木さんは一人で自滅する形で倒れて気絶する。乗松薫さんは、階段の最上部にいる日下さんの遠隔攻撃によって倒れる。日下さんは最後、自分で気絶する形で階段の最上部で横たわる。

ここから、再びDaft Punkの『One More Time』が流れ始め、ほとんど今までと同じ内容のシーン展開が2回繰り返される。
そして3回目のBanvox『Laser』が終了して、4回目のDaft Punkの『One More Time』が流れ出して、小宮さんが起き上がり、八木さんが起き上がりが繰り返される中で徐々に暗転して上演が終了する。

同じ内容のシーン展開が3回も繰り返されると聞いていたので、果たして観客は飽きてしまわないのだろうかと疑問に思いながら観劇に臨んだのだが、その心配は全く不要で最後まで私は楽しむことが出来た。というのは、終始ロック音楽が激しくかかっていて、役者たちがステージ上目一杯にパフォーマンスを行っているので、同じシーンを2度観ても見る役者を変えれば新しい発見があって飽きなかったからかもしれない。こんな特殊な構造の演劇を始めて観たので面食らったし、こんなやり方もありなんだ、いけるんだと思いながら観劇していた。
2度目、3度目と繰り返されるが細かな所で多少異なる部分もあった。例えば、日下さんの襟元に装着していた風船は最初は3つあったのだが、徐々に割られていくので最後には風船はなくなっているし、小宮さんに関しては、最後は衣装を脱いで上半身裸だった。また3回目のループの時は、役者も相当疲れていることを観客も感じ取れていて、それもあってか曲の終わりと曲の入りの間が若干長かったように思えた。その間に役者たちは、はあはあと息を切らしている様子も窺えた。それと、3度目のループの時は途中で役者の方がドリンクを飲む頻度が多かったように思えた。
なぜ3回も同じシーンを繰り返すのか、その物語構造に関しては考察パートで詳しく書くことにするが、しっかりと意味のある構造だったと思うし、こんな作品作りもありだし可能なのだと演劇の新境地を観させてくれて楽しかった。


Daft Punk『One More Time』


Aerosmith『Walk This Way』


ATARI TEENAGE RIOT『speed』


E.エルガー 行進曲『威風堂々』第1番


bo en『my time』


Banvox 『Laser』


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

なんと形容してよいのか分からないくらい特殊で奇抜な世界観だった。強いてあげるなら、ヒンドゥー教のような世界観でヒンドゥー教の神々が互いに仲良くしたり争ったり、そんなカオスな世界を体現しているような作品だった。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出についてみていく。

まずは舞台装置から。
ステージ後方には巨大な階段が設置されていて、上手側から下手側に向かうに連れて徐々に上がっていくような階段で、一番下手側が階段の最上部になっている。そこで日下さんが起き上がったり、田中音江さんがりんごを食べたりするシーンで使われる。
さらに下手側の階段の最上段に絡む形で緑色の植物が生い茂り、つるみたいな形で上から下へ垂れ下がっている。そこにはお金が吊り下げられていたり、へびが吊り下げられたりしている。
最初は上手側に置かれていたソファーは、bo en『my time』がかかるシーンでステージ中央に運び込まれる。
全体的には、何と言ったら良いか分からない世界観で、日本に限られた世界でもないし、西洋という感じでもなく東洋という感じでもない。色々な世界が混在したようなカオスな舞台装置の世界観がそこにはあった。
小道具に関しても面白かった。男性キャストの何人かが、途中で紙吹雪マシンを使って紙吹雪を舞わせていた。頭上から大量に降ってくる感じではなく、あくまで紙吹雪マシンの近くで舞っている感じで、それが凄くお祭り感があって好きだった。このお祭りというのも、日本の祭りのようなイメージではなく祝祭、祭典といった儀式的なお祭りの方がニュアンスとしては近いかもしれない。
あとは、色々な所にペットボトルの飲み物が置かれているのも面白かった。それらを、役者たちは適宜手にとって水分補給をする。そのペットボトルがカラフルな照明に照らされて綺麗に見えるのもなんか良かった。

次に衣装について。
衣装はどのキャストも派手なのだが、私が抱いた感想はヒンドゥー教の神々のようにどれも主張が激しくて強そうだった。
役者たちが、ステージ上で殴り合ってたりしているシーンを見ると、まるで観客はプロレスを見ているのかと錯覚するくらい派手で強そうに感じた。
個人的に好きだった衣装は、徳永伸光さんのあのデーモンみたいな悪魔的な衣装が好きだった。胸部から腹部にかけて黒く、そして骨の部分が白くなっている上半身タイツが良かった。
日下七海さんの風船を襟元につけた感じの衣装も好きだった。すばやさが高そうな戦闘キャラクターに感じられた。衣装が所々光っているように見えるのも格好良かった。
八木光太郎さんの、腹部に白いペンライトのようなものが沢山取り付けられた衣装も印象的だった。
また、乗松薫さんの赤いプロレス選手のようなタイツも格好良かった。
あとは田中音江さんの、中国人の婦人のようなスタイルの良さを活かしたドレスのような衣装も素敵だった。

次に舞台照明について。
照明演出は本当にカラフルで、黄色い照明や青い照明など様々な色で且つ主張の強いものが多かった。
一番目に止まったのは、まずはミラーボールの演出。ミラーボールを崇めるかのように役者たちは天井を見上げながらそして輪になって踊る姿は、ミラーボール自身が太陽か何かなのかと思わせるくらい存在感があった。ミラーボールも白く光輝いていたので、そんな意味合いが込められていてもおかしくないなと思った。田中音江さんが、そんなミラーボールを取り外してどこかへ持っていってしまうので、このシーンは一体何を意味するのだろうかと想像力も掻き立てられた。
あとは、6曲目がかかっているシーン、つまり徐々に役者たちが殴り合って倒れていくシーンで、上手天井付近から紫色の光線がステージ上に差し込んでいて、それも気になった。この世の終わりっぽさを感じた。さらに、客席側の左右の壁にも幾何学模様のような映像が映し出されていて、遊び心満載の演出に見入っていた。

次に舞台音響について。
使われた楽曲に関しては、ストーリーパートで記載した通り、1曲目:Daft Punkの『One More Time』、2曲目:Aerosmith『Walk This Way』、3曲目:ATARI TEENAGE RIOT『speed』、4曲目:エルガー『威風堂々』、5曲目:bo en『my time』、6曲目:Banvox 『Laser』だった。
最初の1曲目は、何度も「One More Time」と連呼していて今作のタイトルの通り「再生」を表していて、役者たちが徐々に起き上がって復活していくので、命の復活を表していてわかりやすかった。そして2曲目、3曲目と洋楽ロックが続く。ここで、役者たちの勢いはどんどん盛り上がっていって、エネルギーを発散させているように感じられた。生きる喜びというか、命ある喜びみたいなことを声と体を使って精一杯体現しているように感じられた。
そして4曲目のエルガー『威風堂々』になると少し落ち着く。落ち着くというか、ミラーボールである太陽を崇め始めるので、ある種人類が誕生して、集団を作って宗教を作り始めるような過程を想起した。何か共通となるものを創造して崇めることで一体感を生み出すようなそんな感じがした。2曲目、3曲目の洋楽ロックのシーンでは各々がエネルギーを爆発させていたので、それとは違った路線に感じられた。
5曲目のbo en『my time』は、「おやすみ」という日本語が連呼される洋楽で、そんなこともあってなかなか他の曲よりも落ち着いた印象を受ける。『my time』という楽曲を今作で初めて聞いたので、最初は子守唄(ララバイ)かと思った。ソファーを登場させてベッドにしたりもするので、ちょっと一休みする感じがシーンの起伏的にも丁度良かった。
そして最後の6曲目のBanvox 『Laser』は、やはり洋楽ロックなのだが、役者たちはお互い戦い殴り合って倒れていく。まるで一つの共同体の栄枯盛衰を見ているかのようだった。
4曲目、5曲目は少し大人しいとはいえ、全体的にガンガン曲がかかっているので、3度同じシーンが繰り返されても全く飽きないし、むしろどんどん観客の方までソウルが乗ってきて、一緒に立ち上がってワイワイやりたいくらいだった。

最後にその他演出について、というか気になったことを書いておく。
これは単純に疑問に思っただけなのだが、これらのシーンはどうやって稽古して作品作りをしているのかが気になった。役者たちが縦横無尽に動き回ったり発声したりするので、全てを演出家が決めることが出来ないので、ある程度は役者が主体的に動いて演じていると思うが、岩井さんはどこまで口出しをしているのだろうかと思った。そして何も指示を出さないにしても、ある程度の方針を岩井さんは伝えていると思うので、どういった方針でシーン作りをしているかも気になった。
身体表現も、各々が奇妙な動きをしていたが、あれらは一体どうやって決めてシーン作りしていったのだろうか。役者が主体的に決めていったのか、岩井さんが具体的に指示しているのか気になった。
あとは上演台本がどうなっているのかを見てみたくなった。台詞は一切ないので、どうやってシーンを描写して役者に伝えているのだろうか、同じシーンでも役者によって全然動きが違ってくるので、一役者ごとにシナリオを書いた台本が用意されているのだろうか、気になった。
アフタートークを聞いていると、スタッフワークに対する具体的な要望も少なくて、かなりスタッフの方にも裁量権を与えられた作品作りをされていたように感じたので、こういう作品こそボトムアップ的にクリエーションしても作品として成り立つのだろうなとつくづく感じながらみていた。かなり各々の発想力や創造力を取り入れやすい作品なのだろうなと思った。

写真引用元:ステージナタリー ハイバイ 2023年公演「再生」より。(撮影:平岩享)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

かなりの体力を求められるし、身体表現や発声など並の役者ではこなせないような要素が沢山ある作品だったと思うが、今回キャスティングされた俳優の方々は皆それらをこなしていて素晴らしかったに尽きる。
特に印象に残った役者について触れていく。

まずは、劇団・アーティストグループ「安住の地」に所属する日下七海さん。日下さんの演技は、上田誠さんが作演出を手がけた『夜は短し歩けよ乙女』(2021年6月)、安住の地の本公演『凪げ、いきのこりら』(2022年12月)で演技を拝見している。
日下さんは、『凪げ、いきのこりら』で演技を拝見した時もかなり身体能力の高い役者さんだなと感じていて、コンテンポラリーダンスをそつなくこなす印象があったので、今作に出演と聞いてもなんの違和感もなく、むしろハマり役だった。
他の役者さんが体の大きさだったり、存在感で圧倒する方々が多いのに対して、小柄な日下さんはその機敏さを活かした身体表現が魅力的に感じられた。シャボン玉を吹く感じなど他のキャストでは出来ないような華奢な存在感が上手く作品全体に馴染んでいて素敵だった。

次に、徳永伸光さん。徳永さんの演技を拝見するのは初めて。
金髪でちょっと太っちょな体格は、メインビジュアルのセンターを飾っているようにどこか戦隊モノのヒーローのようで格好良い。非常に攻撃力が強そうなビジュアルで、作品に合っていた。
一番印象に残るのは、Daft Punkの『One More Time』が流れる中で、一番最後に起き上がるシーン。どこかメンバーの中心人物的なポジションに感じられて、彼を全員で必死に起こそうとする感じが良かった。

次に、東京演劇道場一期生の八木光太郎さん。八木さんの演技は、東京演劇道場の『赤鬼』(2020年8月)、シルヴィア・プルカレーテさん演出の『真夏の夜の夢』(2020年10月)で演技を拝見している。
八木さんは今作で一番圧倒的な存在感があったような気がする。体格というのもそうだし、身体を使って大声で暴れまくるという姿が凄くよく似合っている。
腹部に白いペンライトのような灯りを沢山つけて暴れ出すビジュアルや、紙吹雪マシンを使って紙吹雪を舞わせるビジュアルが、どれも全力でエネルギー量が凄くて、まさに命の祭典という感じだった。お祭りだった。

乗松薫さんのインパクトも強かった。乗松さんの演技も初めて拝見する。
乗松さんは、あの叫び方が凄く脳裏に焼きついた。音楽がガンガン鳴っているからそこまで叫び声が客席まで響いてこないが、それでも聞こえてくるくらいなので、相当な声量で叫んでいるのだなと思う。
それと、そのときの顔。あの本気で死にそうになって叫んでいる感じが凄く良かった、良い意味で怪物だった。特に6曲目のシーンで日下さんに遠隔攻撃されて倒れるシーンがあるが、その時の断末魔と表情は一生忘れない。インパクト強かった。

最後は、劇団4ドル50セント所属の田中音江さん。田中さんの演技は初めて拝見する。
田中さんは、今までどちらかというと身体表現のような作品には出演していなかったはずなので、今回のキャスティングは意外だった。しかし、田中さんは今自分が出せるエネルギーを全て出し尽くしている感じで凄く頑張っているように見えた。
田中さんは衣装も相まって、貴婦人、女神といった立ち位置の印象を受ける。ミラーボールを受け取ったり、りんごを食べたり。日下さんとはまた違った華やかさを今作に与えていて良かった。

写真引用元:ステージナタリー ハイバイ 2023年公演「再生」より。(撮影:平岩享)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

台詞もストーリーもない、ただ音楽とパフォーマンスの30分構成のものが3回繰り返されるという、驚愕の演劇だった。事前情報でも聞いていたが、自分は果たして楽しむことが出来るのだろうかと不安だったが、そんな心配は杞憂だと思わせるくらい存分に堪能出来た。
ここでは、今作全体に対して私が抱いた印象を中心に記載していこうと思う。

私が観劇した回は6月3日の昼回で、アフタートークに舞台美術家の佐々木文美さんと、衣装家の藤谷香子さんをお招きしての回だった。その時に岩井さんが語っていたのだが、今作は劇団「東京デスロック」を主宰する多田淳之介さんが、2006年に『再生』というタイトルの演劇を上演していて、それが当時の社会問題であった集団自殺をモチーフにしたもので、それをアレンジしたものなのだと言っていた。東京デスロック版の『再生』は、若者がちゃぶ台を囲んで鍋パーティをして飲み食いしてひたすら馬鹿騒ぎをする、それを3回同じシーンを繰り返した後に最後は集団自殺をして終わるという作品のようである。これはこれで私も観劇してみたかったなと思うが、そこから岩井さんが『再生』を再構築して上演したというが、その原案のストーリーを聞くと今作は全く違った作品に生まれ変わっているなと感じた。
今作は、日本とか若者とかそういう設定は一切なくて、登場人物はどこの国のどなたなのかも全く分からない。そして最後は集団自殺する訳でもなく、4回目も繰り返されることを示唆して終わる。原案が東京デスロックの多田さんの作品とはいえ、これは全くの別作品だなと感じた。
アフタートークでは、そこから佐々木さんと藤谷さんが、どういう着想を得て今回の美術プランになったのかについて語られていた。一番驚いたのは、岩井さんの方で特にこういった案が良いという指針はなくて、ボトムアップ的にスタッフ陣が持ってきた美術案を採用していく感じなのだなと思った。特に細部の舞台美術に関しては、演出家の岩井さんですら把握していない箇所もあるのだなと驚きだった。それくらいボトムアップ的に自由に美術を具現できたら面白いだろうなとも感じられる。そしてそれがまかり通る作品だなと思った。沢山遊べる余地のある作品ということである。

私が今作を観劇してまず思ったのは、これは「輪廻転生」を描いていると思ったことである。「輪廻転生」とは、wikipediaによれば「命あるものが何度も転生し、人だけでなく動物なども含めた生類として生まれ変わること」である。命あるものは必ず生まれ変わるとする思想である。
言うまでもないが、今作は同じシーンが3回繰り返されるが、それは起き上がるという命の誕生から始まって、最後は互いに争って倒れる、つまり死に至るというのを3回繰り返すことで、生命は何度も生まれ変わることを表現しているように思えた所から「輪廻転生」を想起したのである。
そして興味深いことに、この「輪廻転生」という思想はインド哲学に依拠する思想で、インドで生まれた宗教であるヒンドゥー教の死生観とリンクする。私が、この作品に登場する役者たちがヒンドゥー教の神々のように見えると感じたのも、演出家が意図的にそうしていて、その「輪廻転生」を観客に連想させるようにヒンドゥー教のようなビジュアルにしたのかもしれない。

それに加えて私が思ったのは、登場する役者たちはそれぞれ皆個性的なのだけれど、どこか共同体として一緒で繋がっているような印象を受けた。徳永さんを起こすときも、他の役者たちが円になって囲んで、まるで息を吹き込むような形で協力して目覚めさせていたように思える。それ以外のシーンでも、皆で輪になって踊るシーンが多かったり、戦って倒れていくシーンでも日下さんと乗松さんは離れていても遠隔的にエネルギーが伝わって息絶えていく描写があるので、どこかエネルギーが循環して繋がっていて、一心同体のようなパフォーマンスに感じられたのである。
以前私は映画『ミッドサマー』を観たことがある。『ミッドサマー』に登場する村の住人たちは、みな同じような衣装をまとって同じような行動をする。同調圧力を外から来た者たちにかけてくるが如く、部外者たちを徐々に虜にして侵食していく。きっと少数民族の人々というのは、今の高度な文化の元で暮らす現代人と比較して、共同で暮らす、一心同体であるという意識は強かったんじゃないかと思う。
だから、今作に登場する登場人物たちも言語を持っておらず、生まれてきて身体と叫び声を駆使して、共同体であるという意識を芽生えさせているような気がする。だから、たしかに生命としては個々なのだけれど、共同体という意味では一つの生命として感じられたのである。だから、エネルギーが役者間を通じて行き来しているように感じられたし、見えない力で繋がっている結束力を感じられた。

そして、こういった結束力はどんな民族や文明にもあったんじゃないかと思う。どんな民族や文明でも、始まりがあれば終わりがある。始まりは生命が吹き込まれるが如く誕生して、徐々に個々の生命は結束して集団を作っていく。今作でも1曲目〜4曲目にかけてがまさにそういった感じで、徐々に一つの共同体を形成していく。それは例えば宗教を作り上げたりなど。
しかし、栄枯盛衰、盛者必衰の理を表すように、栄える民族や文明には必ず終焉がある。それはもしかしたら内乱かもしれないし色々な要因があるが、今作でもお互いが争い合って絶滅していく。そして共同体としての終焉を迎える。そしてまた生命が復活して再生される。これの繰り返しで、これがまさに「輪廻転生」である。

私が観劇して思ったことは、きっと今作によって観客が受ける感想って世界共通なんじゃないかなということ。言語も使われないので、言葉による解釈の違いもなければ、ただただパフォーマンスを体感するだけなので、きっと外国人の方が観ても楽しめるだろうし、「輪廻転生」を思い浮かべるんじゃないかと思う。
そういった意味で、ぜひ機会があれば今作は世界でも上演して欲しいなと感じた。そして外国人が今作を観劇してどう思うかは興味深い所である。きっと私と同じような感想を抱いて、その感想さえも世界共通なんだと思えるんじゃないだろうか。
また、今作を海外キャストによって上演したのも観たくなってしまう。きっと同じようなことが出来ると思う。むしろ体型が華奢な日本人よりも、体型ががっつりとした黒人や欧米人の方が今作のインパクトをさらに引き出せるのではと思った。

そんな感じで、非常に今まで観たことがないような演劇作品を観劇出来て嬉しかったし、こういった類のパフォーマンスももっとメジャーになって人々に受け入れられていって欲しいなと一観劇者として感じた。

写真引用元:ステージナタリー ハイバイ 2023年公演「再生」より。(撮影:平岩享)


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