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舞台 「凪げ、いきのこりら」 観劇レビュー 2022/12/17


【写真引用元】
安住の地 Twitterアカウント
https://twitter.com/anju_nochi/status/1589060133514272768/photo/1


公演タイトル:「凪げ、いきのこりら」
劇場:シアタートラム
劇団・企画:安住の地
作・演出:岡本昌也、私道かぴ
出演:森脇康貴、日下七海、沢栁優大、山下裕英、池浦さだ夢、古野陽大、金谷真由美
公演期間:12/16〜12/18(東京)
上演時間:約105分
作品キーワード:コンテンポラリーダンス、身体表現、SF、生物
個人満足度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆


世田谷パブリックシアターが新しい才能の発掘と育成を目指し、1年に1度、公募により選ばれた団体にシアタートラムでの上演機会を提供するシリーズである「シアタートラム・ネクストジェネレーション」。
過去に「悪い芝居」や「快快/FAIFAI/ファイファイ」などが選出されたことがあるこのイベント、今年(2022年)は京都の劇団である「安住の地」が選出され新作公演を上演。
私自身、「安住の地」の舞台作品の観劇は初めてだが、配信で「かながわ短編演劇アワード2021 演劇コンペティション」でグランプリを受賞した作品『ボレロの遡行』を視聴している。
今作は、「安住の地」に所属している岡本昌也さんと私道かぴさんが共同で脚本と演出を務めている。

物語は、地球環境が21世紀から著しく変化したはるか未来の地球が舞台となっている。
海面上昇によって生物が生息できる陸地が減少、それによって人間だけでなく獣人、動物、妖怪、怪物たちが住処を求めて争いが始まるというもの。
一見SFのようだが、どちらかというと役者たちが人間だけでなく獣になりきって暴れたりするので、身体を上手く使ったコンテンポラリーダンスの要素も近い、非常にアーティスティックな舞台作品だった。

良かった点としては、まず役者陣たちの演技の迫力が凄まじく、声だけでなく柔軟な身体性を活かした演技に、序盤は一気に引き込まれた。
役者たちがそれぞれ個性を尖らせていて、誰一人として目立たない役者はいなかったし、それぞれが持ち味を発揮して全力で舞台上にぶつかってきている所に勢いを感じた。
そこに舞台音響や舞台照明も相まって、非常に今まで観たことのないような芸術作品に仕上がっていて非常に新鮮で、演劇でしか出来ない、この世にまだ存在しないものを必死で表現しようとしている点に好感を抱いた。

しかし、脚本の構成と演出に関しては、物足りない点があると私には感じた。
各シーンがそれぞれぶつ切りに感じられて、繋がっていないように感じて、だからこそこのシーンでは一体何を言いたかったのだろう?と疑問符が浮かんだまま終盤になってもそれが解消されなかったので、観ている側としては非常にストレスを感じてしまって、物語が進めば進むほど引き込まれなくなっていった。
一つの作品としてまとまっていないように感じた。

また、今作で主張したいメッセージはおそらく自分の中ではぼんやりと分かったのだけれど、そこにあまり意外性も感じられず、壮大な物語にしてはその主張は薄すぎてラストもしっくり来なかったのが勿体なかった。

今作の脚本・演出に関してはかなり満足いかない箇所が多く見られたが、間違いなく演劇でしか出来ない新しい何かに挑戦している勢いは感じられるし、役者陣の演技力と身体表現力の高さに圧倒されたので、絶対に近々傑作を生み出してくれるだろうと、かなりポテンシャルを感じさせてくれる団体だったので今後の活躍に期待していきたい。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/505438/1961224


【鑑賞動機】

劇団「安住の地」は以前から良い評判を聞いていて観劇したいと思っていたが、如何せん京都がホームの団体なので、なかなか観劇出来ずにいた。配信で「かながわ短編演劇アワード2021 演劇コンペティション」でグランプリを受賞した作品『ボレロの遡行』を視聴した時に、物語は抽象的で難解だけれど、間違いなく演劇でしか表現出来ないような多様性のある舞台芸術を上演されていたので非常に興味が湧いた。
そして今回、過去に「悪い芝居」も選出されて観劇したことがあった、「シアタートラム・ネクストジェネレーション」に選出されたということで、東京で観劇できるので足を運ぶことにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

縄文時代の衣装のような格好をした人々が、「スーハー」と呼吸をしながら歩き回り、やがて全身を使って躍動的に踊りだす。稲光を伴いながら落雷があると、そちらに向かって吠えだしたりと、まるで獣のように大自然を自由に闊歩し、踊っていた。
映像で時代背景の説明が流れる。ここは21世紀よりもはるか未来の地球、今とは環境は著しく変化して海面上昇に伴い、海の面積が増え、陸地が減り始めていた。人間たちはそんな状態から共存しながら生きながらえようと努めていた。

縄文時代の衣装のような服装をした人間たちは、井戸端会議ならぬ水バタ会議をしていた。陸地がどんどん減り始めて海になっていると噂する。今は共存して人間たちは集団で暮らしているが、そのうち戦争が起きるかもしれない。
一方で、ナナシ(日下七海)は子育てを理由に戦争に参集されることはなく、ただひたすら家事?をしていた。
登場人物の二人(誰だか忘れた)が、向こうにいるホルスタインについて話をしている。ホルスタインを擁護したつもりだったのに、ホルスタインには嫌われたらしくこちらを睨んでいるようだったと話している。

バッハ(池浦さだ夢)は全裸になり、ここから格闘技が始まる。二人の格闘技のシーン。
ナナシは、子育てのために戦争には向かわなかったが、密かに鍛錬して強くなっていることに周囲から批判される。

ラップシーンが入り、今の地球環境の状況をラップに乗せて歌うミドリ(澤柳優大)。
映像で、さらに未来の先生と生徒が、今起きている2つの人類の戦争について講義している。
陸地はどんどん減っているようだ。

そこから音楽と共に、縄文時代の衣装を着ていた人間たちが、各々派手な衣装に着替えて獣のように暴れだす。クロワ(山下裕英)はホヤ人間となって真っ赤な衣装をまとって踊る。

二人の女性の会話のシーン。一人の女性は、自分よりも辛い思いをしている人がいるのだと思って頑張ってきたと言うが、もうひとりの女性に他人の不幸を糧に自分の人生を頑張ろうとするなと説教される。他の人の人生は自分の人生を頑張るためのものなんかではないと。

クロワは巨大な卵を産む。しかし、巨大な水の貼った穴に飛び込んでみたいと言って飛び込むと、その中に潜んでいた怪物によって食われ帰らぬ人となってしまう。
他の人間たちも、卵があれば今後自分たちの存在を証明してくれることになるから、自分たちはここで死んでも問題ないということでこぞってその巨大な穴に飛び込んでいく。最後にナナシも、卵が孵化してその生命が命を受け継いでくれるものと信じて、穴に飛び込む。
その後、卵は自ら割れて生命が生まれる。
ここで上演は終了。

とにかく一つのシーンが、全体に対してどういった影響を及ぼすのかが全く分からないものが多く、蛇足が多かったからなのか今作で伝えたいメッセージが非常にぼやけた印象。決して伝えたいメッセージは難解である訳ではないと思う。人間を含め生物は、自分たちの暮らしが脅かされ危機を感じると互いにサバイバルモードになって共存する余裕はなくなって、互いに生き残り争いをする。そして、子孫さえ残すことができれば、自分たちがそこで生きていたという存在を証明することが出来て、そうすれば必死に自分の命を守ろうとしなくなる。だからどんなに危機的な状況に直面しても、子孫を残すことさえできれば自分たちが生きていたことに価値を見いだせると。
しかし、そこにたどり着くまでのシーンが、あまりにもそのメッセージ性にどう結びつくのか分からず、シーンとシーンがぶつ切りに感じられて脈絡がないように思えてしまったからこそあまり脚本に引き込まれることがなく、結果として楽しむことが出来なかった。
例えばホルスタインの例のくだりが、果たして最後のメッセージ性とどう結びつくのだろうか、自分の人生を頑張るために人の人生を糧にすることがいけないというメッセージが、舞台全体にどう関わってくるのか、格闘技のシーンやナナシがひそかに自分の戦闘力を鍛錬していた事実が、どう物語に関わってくるのか、私にはその関連性が解釈不能だった。一つ一つシーンとして取り出せば面白いのだけれど、全体の構成で見たときにそれぞれのシーンがパーツとしてどう機能しているのかが分からず、その点に今作の勿体なさを感じた。
また、ラストのメッセージ性に関しても、ある種様々な生き物は皆サバイバルというか、生き残るために争ってきた訳だけれども、それをなぜ描こうとしたのか、なぜ今上演されるべきだったのかが謎だった。コロナ禍やウクライナ危機もあって、共存と戦争という点について頭に浮かぶことはあったが、あまり強い関連性は見られず、結果あまり共感することもなく、強いインスピレーションを受けることもなかった。もう少し、今この世界を生きる私たちに響くテイストで描いて欲しかった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/505438/1961225


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今作のテーマに対して、今回の演出の仕方がハマっていたのかは疑問だが、要素を一つずつ取り出して考えると、それぞれがかなり作り込まれていて迫力を感じさせる演出になっていて見応えはあった。
舞台装置、映像、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置について。
シアタートラムの舞台上の中央の空間に、四角く窪んだエリアがあって、そこを舞台の中心として進行していく。その周囲には、直方体の人の背丈以上の高さがあるオブジェが、大小様々なサイズで置かれていて、その上に登ったりすることが出来る。また、真っ赤に細長くグネグネと伸びたオブジェもあったりと、かなり抽象的な造形物が置かれていて、それ以外に特徴的な舞台装置はなく、具象的なものは一切なかった印象だった。そういった舞台装置の数々に、今作のアーティスティックな舞台作品の一面を感じられる。
しかし、物語後半になってくると具象的な小道具が登場する。例えば、ホヤ人間が産んだ巨大な卵はとても具象的なオブジェだった。人間や獣たちが取り合う食肉も印象的だった。取り合ってビヨーンと伸びるあたりなんかも記憶に残っている。ただ、ミドリが持ってきた小さな立方体の黒い小道具が抽象的な造形物だったりと、ちょっとそこに一貫性が見られなくて色々想像力は掻き立てられるのだが、もう少し舞台全体に対してどういう意味を持つのかを考えて、ブラッシュアップして登場させて欲しかった。考えても答えにたどり着かないものが多くてストレスになった。
あとは、舞台後方には下へ飛び降りられる穴が用意されていて、そこへ降りたら「死?」を思わせる仕掛けは印象的で良かった。最後に皆そこへ身を投げていくエンドは良かった。

次に映像について。
私個人的には、物語の時代設定を映像で説明する演出自体は悪くないと思った。字幕の表示されるスピードも特段早かった訳ではなかったので、文字自体も追えたし映像演出としての見せ方といった点では過不足なかったと思う。またラップシーンで、歌詞が映像で表示される演出自体も好みで、ラップに乗せられている文章自体も面白かったので、それを文字にして映像にしてもらえたのは、その理解も非常に助かったので良かったと思っている。
ただ、1000年後の未来の生物だと思われる先生と生徒で講義しているシーンの映像は、あれは本当によく意味が分からなかった。最初に何の前触れもなく登場させて、観客に「あれは、何だ?」と思わせるのは良いのだけれど、なぜ生徒は目玉がなかったのか、あの二人は一体なんなのかの説明が結局何もないままで終わってしまったのは満足出来なかった。きっとそこも観客の想像力を掻き立ててほしいということなのかもしれないけれど、それは少々乱暴に思う。なんでも説明していないことを想像力に任せるにしてしまうのは違うと思う。先生も生徒も人間離れしたビジュアルで且つ映像で表示されるので、観客の記憶に刻まれることは間違いないと思う。だからこそ、しっかりとした回収を劇中でして欲しかった。

次に衣装について。
前半と後半で衣装が様変わりするのだが、このスイッチが凄く興味深くて、ここに関しては今作の演出で上手く行った部類のものかなと感じた。前半は、皆縄文時代の衣装のようなクリーム色の衣装を皆同じようにまとっている。未来であるにも関わらず、原始時代のような格好をした設定に関してはアニメ「Dr.STONE」を思い出した、あまり関係はなかったが。一方で、物語後半になると役者それぞれが衣装を着替えてそれぞれ全く違ったカラフルな衣装に変わった。ホヤ人間は毒々しい真っ赤な衣装に着替えたり、ナナシはナウシカのような薄青い衣装に着替えたり。そこには、前半は人間たちが共存して暮らしていて集団を重視した暮らしをしていた所から、陸地が減少して生物たちが追い込まれたことによって野性的になり、集団で共存するという意識から個々が独立してサバイバルしながら自分だけの命を守る姿勢に移り変わったことを示唆しているように思えた。だからこそ、衣装は集団を象徴する皆同じから、皆異なるに変わったのかなと思えた。
このメッセージ性は、かなり普遍性のあるものかなと思って合点がいく。どんな生物も余裕があればお互い助け合って生きていくが、余裕がなくなると自分の命を守ろうと保守に転じる。だからサバイバルモードになって目の前の生物と争うことになる。凄くしっくりいく演出だと感じた。

次に舞台照明について。
シアタートラムという大きな劇場で、そして協賛企業も沢山付いている公演だったので、お金がかかっているというのもあるだろうが、非常に遊び心満載な舞台照明に迫力を感じ、結構好みだった。しかし、それが舞台全体として良い効果として影響しているかどうかは別だが。
特に印象に残ったのは、劇序盤の稲光の照明。劇場の後方の壁面に稲妻が照明として当てられるのだが、そこに向かって役者たちが獣のように唸るシーンが好きだった。
劇終盤でも、劇場の後方の壁にナスカの地上絵のような動物の形をしたシルエットが投影される感じも好きだった。ちょっと世界観としては謎だったが、非常にインパクトが残る演出だったし、今まで見たことのない演出だったので新鮮だった。
あとは使用されている照明がそもそもカラフルで、それにラップや格闘技のシーンといった迫力のあるシーンが差し込まれると、それだけでビジュアルとして美しくワクワクさせられた。
あとは、ラストのナナシが穴に飛び込んだ後に巨大な卵だけが舞台上に残ってスポットが当てられる照明も好きだった。そしてあの間(ま)も好きだった。この卵から生物が孵化するのだろうかと釘付けにになってしまう。そして照明欄で触れることではないが、最後に卵が孵化しようと少し動くのが面白かった。「お、孵化するぞ!」と心の中で叫んだ。そのくらい、あのシーンは引き込まれるものがあって好きだった。

次に舞台音響について。
劇中、音楽が流れているシーンは比較的多かった気がする。結構エンタメ性が強いロック風な音楽が多かった印象。だからこそ格闘技のシーンやラップのシーンとの親和性は高かったのだろうと思う。最初は、ちょっと世界観が掴めなくて、選曲とそれ以外の演出がマッチしているのかと言われたら分からなかったが、終盤までいってこれもありで新鮮なのかもと受け入れられた。
しかし、これは私個人の感想に近いが、劇後半で登場する生物の鳴き声などは、モンスターが登場するパニックものの洋画を想起させられて、あまり好きではなかった。ちょっと安っぽく感じてしまって、グロさが勝ってしまったかも、好みかもしれないが。あまり舞台演劇では見られないような演出だったので新鮮ではあったのだが、個人的にはマイナスのイメージの方が強かった。
ラップ音楽は非常に好きだった。あの楽曲を考えた人は素晴らしい才能の持ち主だなと思った。

最後にその他演出について。
序盤、役者たちが呼吸をしながら体を整え、一斉にコンテンポラリーダンスを披露しながら舞台照明と舞台音響に合わせて、野性的に暴れ、踊るシーンはとても引き込まれたし好きだった。非常にフィジカル的で芸術性の高い舞台作品だなと感じて最初の引き込みは非常に良かった。
しかし、そこからの劇の展開がイマイチだった。映像で説明があったように、しっかりとした時代設定があるにも関わらず、ストーリー性があるのだかないのだか曖昧で、ストーリーがあると考えると蛇足も多くよくわからないシーンも多くて、ストーリー性がないと言われるとでは時代設定はなんだったのかとなって中途半端だった。
あとは、物凄く今まで観たことがないような新しい演出に沢山挑戦している姿勢は素晴らしいのだが、あまりにも突飛すぎるものが多くて混乱することの方が多かった。今までの舞台作品にはないような新規性、新鮮さを追求しつつ、あまりにも今の観客には受け入れられないような突飛すぎるものは避ける。その良い塩梅を模索して欲しいと感じた。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/505438/1961222


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

ほとんどが劇団「安住の地」所属の役者さんで俳優陣は構成されているが、非常に演技力が高かった。発声という観点でも素晴らしかったが、身体表現という観点での演技力も高くて、今後の役者としての飛躍に期待出来る方々ばかりだった。
特に注目した俳優について触れていきたい。

まずは、ナナシ役を演じた「安住の地」所属の日下七海さん。日下さんの演技は、2021年6月に舞台「夜は短し歩けよ乙女」で一度観劇している。
一番惹かれたのは、ラストシーンの卵を残して自分は穴に飛び込んでいくシーン。あのモノローグは、ナナシが言うからこそ凄く魅力的に感じられるし、非常に説得力があるように感じた。ちょっと母親のような印象を受けた。自分は先立ってしまうけれど、子供を託したので自分たちの分まで生きてねといったようなニュアンスに対して。
そして衣装がナウシカを想起させられてよかった。
ラストシーン以外だと、声が非常に通るキャストさんだったので聞きやすかったのと、身体表現力が高くて体の使い方がなめらかで美しかったので、台詞を発していないシーンでの演技にも惹きつけられる力があった。

次に、ミドリ/ジュリー役を演じた「安住の地」所属の沢栁優大さん。沢栁さんの演技は初めて拝見する。
舞台上で非常にキャラクターが立っていて素敵だった。ちょっと詐欺師のようなお調子もので人を欺いてきそうなオーラを放っていたキャラクター設定で、その尖り方も好きだったのだが、身体表現も非常に素晴らしかった。もちろん良い意味でだけれどちょっと気持ち悪さを感じさせるあたりが良かった。そこに人間離れした感じを抱いたし、それが舞台の世界観ともハマっていた気がした。

次に、クロワ/ミーム役を演じた「安住の地」所属の山下裕英さん。山下さんの演技も初めて拝見する。
一番の印象に残ったポイントは、やはりホヤ人間になって人間離れして踊りだす所。あの真っ赤で毒々しい衣装を身にまといながら、そして叫びながら巨大な卵を孵化するあたりに良い意味でドン引きしたが、凄く目新しい演技と演出に私は新鮮さを感じた。
あそこまで殻を破って演技できる女優さんは素晴らしいと思う。

バッハ/ジス役を演じた池浦さだ夢さん。池浦さんの演技を拝見するのも初めて。
一番印象に残ったのは、全裸になって格闘技シーンで審判をやる演技がとても良かった。池浦さんはちょっとがたいが良くてヒゲを生やしたおじさん顔(容姿を批判している訳ではない)の役者さんなのだが、その貫禄を上手く活かしたキャラクターの目立ち方が良かった。またがたいが良いのに、身体表現もキレキレだったのも印象に残った。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/505438/1961230


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

昨年(2021年)に配信で「ボレロの遡行」を視聴して以来、「安住の地」の舞台作品は生で観劇したいとずっと思っていた。それは、あまり東京で様々な劇団の舞台を拝見していても出会わない、非常にアーティスティックな舞台作品だったからである。
たしかに難解と言われればそうかもしれないが、演劇好きな私にとってはその難解さが好きだった。決して多くを説明してくれる訳ではないけれど、その台詞一つ一つにしっかり向き合うと、そこに隠された解釈が浮かんでくる。それに加えて、アーティスティックな舞台表現が、非常に新鮮に感じられて、こんな舞台観たことないと感動を与えてくれる、そんな作風が非常に好きだった。
劇団「安住の地」は、毎回作風が違うことを売りにしている団体のようで、脚本・演出担当も、岡本昌也さんと私道かぴさんの二人がいらっしゃって、どちらかが作演出をやられたり、または共同で創作したりするようで、今作はその共同創作という形で制作されている。
しかし、「ボレロの遡行」と「凪げ、いきのこりら」の2つを観劇、視聴した私にとって、全く異なる作風ではあるものの、どこか共通している部分があって、それがアーティスティックで且つ新鮮さの漂う作風に非常に心躍らされた。
ここでは、今作を観劇してみて感じたことを自分なりにつらつら書いてみる。

私が観劇した回のアフタートークは、「快快 -FAIFAI-」の野上絹代さんで、野上さんはコンテンポラリーダンス界隈出身の俳優さんということもあり、フィジカルな点に言及されるコメントが多く非常に今作を褒めていらっしゃった。私は聞いていないが、山内ケンジさんや岩井秀人さん、杉原邦生さんもアフタートークにご登壇されていたようだが、彼らはかなり手厳しいコメントをしたようであることはTwitterからも窺えた(白井晃さんもアフタートークにご登壇されていたようだが、どのようなコメントをしていたかTwitterの様子からも分からなかった)。そして私自身も、実際に自分の目で観劇しながら、特に脚本の構成と演出に関してしっくりこない部分が多々あると感じながら観ていた。その点に関しては、上記で述べた通りである。

私が一番気になったのは、岡本さんと私道さんが、なぜ今回の公演でこのような題材を選んで作品作りをしようと思ったかである。
私なりに解釈していくと、感染症の拡大によって舞台芸術の界隈は自粛を求められて、上演すること自体も自粛を求められる期間があった。それはまるで、感染症の蔓延という危機的状態が演劇人たちの暮らしを襲ってきて、自分たちの命を守るためにサバイバルモードになって、政府という敵と戦っていたことを今作を観劇して想起した。だからきっと、彼らはそんな世の中の動きをSFという設定に落とし込んで描いたのかなと感じた。
生物同士の命をかけた戦いは、実際に今の地球上でも起きている人間とコロナウイルスという生物との戦い。お互いに生き残りたいがために必死に戦っている。人間はワクチンを次々と開発してウイルスが流行らないように、これ以上死者を出さないように戦っている。一方でコロナウイルスも、自分たちが今後も地球上に生き残れるように変異株を生み出すことで戦ってきた。この抗争は、今作のテーマとも密接に通じる点なのではなかろうか。
また、危機的状態に立つと、人間同士も生き残りをかけて戦い始める。政府が緊急事態宣言を発令して舞台芸術関係者に活動を自粛するように求めると、それに反発して、もちろん戦争にはならないが闘争は武力を行使しない形で巻き起こる。ここにも、今作で描かれたテーマとリンクするようなことが考えられる。

だがしかし、今作で一番メッセージとして伝えたかったのは、子孫を残す重要性だったのかなと思う。あの巨大な卵だけ残して去っていったことを考えると、自分たちが戦いの末滅びても、子孫さえ残してくれれば自分たちの存在を証明してくれるということを言いたかったのかもしれない。生命の存続を脅かされるような危機的状態によって、自分の命を守ろうとして戦っても、最終手段としては子孫さえ根絶やしにされなければ大丈夫だと。
これを解釈すると、きっとこの作品は演劇というものが今は存続自体も脅かされていて、もしかしたら数十年後には無くなっているかもしれない。しかしこの舞台作品を観劇した観客たちがいればそれは伝承されて、自分たちの存在を後世まで証明してくれる。そんなメッセージ性に思えてきた。つまり、今作でいう死をかけて戦う人間たち生物たちは演劇そのもので、最後に残された巨大な卵は観客を表しているのではないだろうかと。
演劇(ここでは日本の小劇場演劇?)が滅びたとしても、この演劇を今観てくれた観客は残り続ける。その観客がこの今の演劇のあり方を後世に伝えてくれれば、自分たちが存在したという事実、存在証明は滅びずに済む。そんなことを強く感じた。

だとしても、解釈不能だったシーンが多かったり、脚本の構成としてイケてない箇所が目立った気がする。そして観せ方という観点でも、同じメッセージ性を観客に投げかけたいのであれば、もっと面白く工夫出来る余地は沢山あった気がしている。
しかし、劇団「安住の地」は今までの演劇にはなかったような新しいものに挑戦する姿勢と勢いを物凄く感じたし、なにより劇団に所属する劇団員たちの演技力の高さには驚いた。「安住の地」がブレイクするきっかけはたまたま今作ではなかったというだけで、今後物凄くチャレンジングで素晴らしい舞台作品を生み出す、そのポテンシャルは強く感じられた。
「安住の地」の益々のご活躍を楽しみにしたいと思う。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/505438/1961231


↓日下七海さん過去出演作品


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