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舞台 「骨と軽蔑」 観劇レビュー 2024/03/02


写真引用元:ケラリーノ・サンドロヴィッチさん 公式X(旧Twitter)


写真引用元:ケラリーノ・サンドロヴィッチさん 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「骨と軽蔑」
劇場:シアタークリエ
企画・制作:KERA CROSS(東宝×キューブ)
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:宮沢りえ、鈴木杏、犬山イヌコ、堀内敬子、水川あさみ、峯村リエ、小池栄子
公演期間:2/23〜3/23(東京)、3/27〜3/31(福岡)、4/4〜4/7(大阪)
上演時間:約3時間(途中休憩20分を含む)
作品キーワード:ブラックユーモア、戦争、ファンタジー、プロジェクションマッピング、舞台美術、笑える
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


東宝とキューブがタッグを組んで、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下ケラ)さんの様々な作品を上演する企画「KERA CROSS」の第五弾を観劇。
「KERA CROSS」シリーズは第四弾までは、ケラさんの過去作品を様々な演出家がシアタークリエで上演してきたが、ラストを締めくくる第五弾は、ケラさん自身が新作を書き下ろして演出する形式で上演された。
ケラさんの舞台は、最直近の「ケムリ研究室」の『眠っちゃいけない』(2023年10月)はチケットを取っていたものの劇場の事情で私の観劇回が中止となってしまったので、2023年3月に上演された「ナイロン100℃」の『Don't freak out』を観劇して以来1年ぶりの観劇となる。
「KERA CROSS」シリーズ自体は、2022年2月に上演された第四弾の『SLAPSTICKS』(作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、演出:三浦直之)を観劇している。

物語は、東の国とずっと戦争状態である西の国に暮らす、軍需工場を経営している一族の屋敷で繰り広げられる。
どうやら西の国と東の国は長い間戦争を続けているため、戦争に駆り出されてしまって男性がほとんど見られなくなっていた。
屋敷には何十通もの手紙が作家である姉のマーゴ(宮沢りえ)の元に届く。
しかし、マーゴの妹のドミー(鈴木杏)は、その手紙をマーゴに渡すことなく密かに読んでいた。
軍需工場を経営する父は病の床に伏せており、その看病を秘書のソフィー(水川あさみ)が続けていて、この屋敷を牛耳ろうとしている様子だった。
そんな屋敷に、ナッツ(小池栄子)という女性が姿を現す。どうやらナッツは、マーゴの小説の大ファンのようでマーゴの家までやってきてしまったが...というもの。

私の今作の総合的な感想は、脚本も舞台美術も演出も役者も非常にハイレベルで、ケラさんの今まで観劇した作品の中でも一位二位を争うくらい大満足な作品だった。
まず舞台セットが、まさに西洋の屋敷といった印象で非常に作り込まれていて可愛らしかった。
屋敷の中で起こるシーンと、屋敷の外で起こるシーンが登場するのだが、屋敷内の舞台セットと屋敷の庭の舞台セットが混在しているような美術が非常にユニークでメルヘンだった。
そしてそういった舞台ならではの不自由な演出を逆手に取ってコミカルな描写に変えてしまう点も上手いなと感じた。
それだけでなく、召使のネネ(犬山イヌコ)だけが日比谷のシアタークリエにいる観客と話ができるという設定であったり、プロジェクションマッピングを活かしたケラさんらしい映像演出も健在で、見応え抜群で且つ独創性を感じる演出を満喫した。

また、脚本もとても素晴らしかった。
今のご時世に戦争ものを上演するということは、ウクライナやガザで起こる戦争のことを想起せざるを得ないのだが、先述した日比谷のシアタークリエにいる観客と接続しているという設定を巧みに生かして、戦争というのは私たちが知らずに楽しく呑気で暮らしている間に、見えない所で悲惨な方向へ進んでいることを痛烈に訴えていて心打たれた。
屋敷内に暮らす女性たちも、軍需工場を経営する一家というだけあってお金があるので、割と楽しそうに暮らしているのだが、それは実際には世界で起きている戦争状態を直視しようとしない私たちの投影でもあると感じて震えた。
さらに、マーゴとドミーの些細ないさかいが登場するが、その構造はその姉妹を国に置き換えると戦争になると感じて、戦争に発展させてしまう感情というのは誰にでも宿るものなのだという普遍性にも気付かされた。
それは、人間誰しもが持つ愚かさと傲慢さ故なのかもしれないと思った。

役者は豪華な実力女優たちばかりで素晴らしかった。
マーゴ演じる宮沢りえさんとドミー演じる鈴木杏さんのいさかいは見ているだけで引き込まれた。ただくだらないことで喧嘩しているだけなのに不思議と惹きつけられる魅力があって見事だった。
ナッツを演じた小池栄子さんも、あの陽気でポジティブな性格がとても好きで、『宝飾時計』で拝見した小池さんとは全く違うキャラクターを観ることが出来て楽しかった。
そしてなんといっても、ネネ役の犬山イヌコさんの癖のある召使いらしさが堪らなかった。
ネネのモノローグはずっと見ていたいと思わせるくらい滑稽で好きなキャラクターだった。

脚本、舞台美術、演出、役者、何を取っても完璧で素晴らしく作り込まれていて、且つ今までのケラさんの作品と比較してそこまで癖がないので、舞台をあまり観たことがない方も含めて幅広い客層にウケる作品だと感じた。
多くの人にお勧めしたい傑作だった。

写真引用元:ステージナタリー KERA CROSS 第5弾「骨と軽蔑」より。(撮影:引地信彦 写真提供:東宝 キューブ)




【鑑賞動機】

「KERA CROSS」の第五弾は、ケラさん自身が新作を書き下ろして上演すると言われていて、1年以上前からずっと楽しみにしていた。そのため、情報解禁した時点で観劇確定だった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

舞台上に召使いのネネ(犬山イヌコ)がいて、テーブルクロスを変えようとしている。外ではずっと大砲の音が遠くから聞こえてくる。
この屋敷の母であるグルガ(峯村リエ)がやってくる。グルガは、ネネが変えようとしているテーブルクロスも汚れていることを指摘する。しかしネネは、取り替える前のテーブルクロスの方がもっと汚れていたと言う。この屋敷は西の国にあるが、今は西の国と東の国でずっと戦争が続いていて、周囲の男性はほとんど戦争に駆り出されてしまって、女性と子供とペットしか残っていないと二人の会話で語られる。ネネは、先ほど若い人の片足が地面に転がっているのを目撃したという。グルガは、片足を失った若い兵隊を目撃したという。ネネは、きっとその片足はその兵隊の足に違いないというが、ネネの目撃した足は女性、グルガの目撃した兵隊は男性だったので別人だと分かる。今だに若い男性の兵隊が目撃されるとは珍しいと語る。
妹のドミー(鈴木杏)がやってくる。ドミーは、姉宛てに届いている何十通もの手紙を姉に渡さずに読んでいる。ネネは、勝手に姉の手紙を読んでしまってはいけないのではと言う。

屋敷内で電話が鳴る。屋敷内にはグルガがいて、窓際から電話が鳴っているとネネに大声で叫ぶ。一方でネネは屋敷外にいて、グルガに向かって電話が鳴っているから出てくれと叫ぶ。しかしお互いの大声は聞こえていないようでコミュニケーションが取れていない。結局ネネは屋敷に戻る。
グルガが叫んでいる間に、ドミーが電話の所にやってきたが長く鳴り響いていた電話は切れてしまう。
秘書のソフィー(水川あさみ)が、父の部屋から出て階段を降りてくる。どうやら父の看病をしているのが秘書のソフィーのようである。ソフィーはまるで父に恋心でもあるかのようにずっと父の話をしている。そしてソフィーの発言には、父の財産を狙おうとしているようなニュアンスが含まれていて、グルガやドミーは警戒する。

屋敷に誰もいなくなり、姉のマーゴ(宮沢りえ)がやってくる。そしてクッションを抱えている。そこへ妹のドミーもやってくる。二人は、そのクッションをめぐって口喧嘩をする。お互いにこのクッションは自分のものだと主張しあう。そこから、今度はマーゴの靴の話になる。マーゴの靴にはドミーの名前が入っていると、しかしこれは元々マーゴのものだとマーゴは言い張る。
ラジオを付ける。ラジオからは、戦争によって誰々が死んだというのをずっと放送していて気分が悪いからと電源を切ってしまう。

一方、屋敷の外。ナッツ(小池栄子)が屋敷の敷地内に入ってくる。誤って一枚の写真を水路に落としてしまう。その様子をネネが見つける。ネネが写真を拾うと、そこにはマーゴの夫のバスターの顔写真が写っていた。ネネがなぜこの写真をと言うが、ナッツは知らないと言う。
ネネがナッツに何者かと問うてきたので自己紹介する。ナッツは、マーゴの書く小説の大ファンのようで、はるばる旅をしてマーゴの住む屋敷にたどり着いたのだと言う。マーゴに会いたいと言ってくる。ネネはナッツを屋敷内に通す。
ナッツは屋敷内でマーゴと対面する。ナッツはマーゴに自分がいかにマーゴの書く小説が好きであるかを語り、二人は意気投合してラジオから流れる音楽に合わせて踊る。

一方でグルカは、屋敷の外にある納屋で一人いた。父の看病はソフィーに任せている。そこへ、一人の女性(堀内敬子)が現れる。女性は、自分はムシだと言って屋敷の敷地内でフンをしていると言う。グルガはそのムシと会話をずっとしてまま、納屋に貯蔵されている酒に溺れる。
そこへ、ネネもやってくる。ネネはグルカに父の容態が急変したと告げる。グルカは酒に溺れているため、急変とは良い方向に急変したのかと言う。ネネは、急変というのは悪い方にしか普通使わないと言う。グルカは、先程までムシがここにいて敷地内でフンをしたそうだと言うのだが、ネネはグルガが酒を飲んで酔っ払っているのだろうと言葉を信じてくれない。ネネもグルガに誘われて納屋で酒を飲み始める。

一方屋敷内では、マーゴとナッツとドミーが食事をして楽しんでおり、そこにはマーゴの作家活動の先生を務めるミロンガ(堀内敬子)も来ていた。外は雷雨になってしまって天気が荒れている。マーゴはナッツに、今日は天気も荒れているし一晩泊まっても良いが、明日以降は悪いけれど長居はしないでほしいとお願いする。
そこへ、ベロベロに酔っ払ったグルカとネネが屋敷に戻ってくる。グルガはミロンガを指差し、先ほど納屋にいたムシだと叫ぶ。敷地内でフンばかりしてと怒鳴り散らす。ミロンガは全く心当たりのないことを言われて戸惑っているが、マーゴは何酔っ払ったことを言っているのかと母のグルカをさとす。
ソフィーは父の部屋から出て階段を降りてきて、父が口の中から大量のムシを吐き出していると言う。すぐにソフィーは戻る。
そして、屋敷が暗くなったかと思うと、窓から死神が入ってきて階段を昇っていく。そして、魂のようなものをさらって死神は窓から出ていってしまう。明るくなると、ソフィーがやってきて階段を降りてきて、父が息を引き取ったと言う。
ここには、父からの遺言があると言うのでソフィーやグルガと共に読み上げる。そこには、軍需工場をこの後経営するのはグルカであること、遺産相続はグルカや姉妹たちと分け合うように書かれていた。ソフィーは泣き崩れる。自分のことはこの遺言に一切書かれていないと。

ここで幕間に入る。

ネネが日比谷のシアタークリエにいる観客と話す。日比谷では20分しか経っていないようだが、こちらでは5ヶ月が過ぎたのだと言う。
マーゴは、『骨と軽蔑』という小説で文学の砦賞を受賞して大喜びする。印税も入って少しは経済的にも余裕のある暮らしが出来そうだと。周囲の人間は祝福する。ネネも、今度はクッキーに砂糖をまぶそうと言う。
マーゴはドミーと二人きりになる。ドミーは、マーゴ宛てにずっとバスターから手紙が何十通も届いていたことを明かす。それをマーゴに渡さずずっとドミーが読んでいたと。しかし、後半送られてきたバスターからの手紙には、実は好きだったのはマーゴではなくドミーであるということが書かれていると告げる。
マーゴは悔しがる。ドミーは高らかに笑いこけてマーゴが悔しがる姿を喜ぶ。マーゴが初めてバスターと出会ったのはピクニックの時、その時ドミーもその場にいてその時からバスターはドミーのことが好きだったのかとマーゴは疑う。ドミーは、そもそもバスターと最初に出会ったのはそのピクニックよりも前だからと言う。

その後、グルカ、ドミー、ネネがいて、マーゴがいない場所でナッツは、手紙の話題をする。実は、何十通もこの屋敷に手紙を送り続けていたのはナッツ自身なんだと言う。あの時、電話をかけたのも、結局電話を誰かが手に取ることはなかったがかけたのもナッツだったのだと言う。
ナッツは、マーゴが夫のバスターに逃げられてしまってずっと一人で寂しそうだった。だからいつもマーゴの文章で元気付けられている自分が、マーゴを元気付けようとバスターになりすまして手紙を送り続けたのだと言う。役所でマーゴの夫の写真を取り寄せたから、ナッツが屋敷にやってきた時にバスターの写真を持っていたのだと語る。でも、ナッツが送り続けた手紙は、全部妹のドミーに読まれていて届いていなかったことは知らなかったと言う。
その後、ナッツとマーゴが二人きりになった時も、ナッツは本当のことをマーゴに伝える。実は手紙の送り手はバスターではなくナッツだと。しかしマーゴは、私を元気付けようとそんな嘘つかなくていいよと言う。しかしナッツが何度も強く主張するので、マーゴもそれを信じてではバスターはドミーのことが実は好きだったという訳ではなかったと悟る。

ソフィーがこの屋敷を去ることになったのでみんなでソフィーを見送ることになる。ネネは、ソフィーの荷物を運ぼうとするが重たいと言って苦戦する。
そしてミロンガもそろそろマーゴの元を去りたいと言う。マーゴは悲しがるが、ミロンガは最近マーゴの文章を読んでいても心が動かないのだと言う。マーゴの文章を読んで心が動かない人が先生をやるのはおかしいし、今ならマーゴも売れたし先生をやりたいという人は沢山いるから大丈夫だろうと。
ネネは、マーゴに文学の砦賞受賞の祝電が沢山届いていると言って手紙の束を持ってくる。その手紙の上には、バスターからの祝電があった。皆一同にナッツを疑うが、それはナッツではないと否定する。
マーゴとドミーは、一番上にあったバスターからの祝電を一緒に読み上げて喜び合う。バスターは生きていたと。そしてマーゴの文学の砦賞受賞を心から祝福してくれていることを。

ナッツは結局屋敷から追い出されて、屋敷の敷地の外にいた。ムシが三匹いる。そのムシたちと戯れていたが、鳥がやってきてそのムシを飲み込んでしまって去っていく。ナッツは三匹のムシを奪った鳥を怒鳴りつけるが鳥は飛び去ってしまう。
ナッツは納屋に篭って眠りにつく。目が覚めると、そこには三匹のムシ(鈴木杏、堀内敬子、犬山イヌコ)が現れた。ナッツはすぐに、今目の前にいるのが先ほど鳥にさらわれたムシたちだと気がつくが、ムシたちはナッツのせいで自分たちは鳥にさらわれたと呪ってくる。ナッツは自分のせいではなく鳥のせいだと主張する。

暗転すると、ソフィーが軍服を来て子供たちを引き連れて戦地に乗り込んでいる様子が描かれる。
屋敷内で、マーゴとドミーは再びバスターから手紙が届いていることに気が付く。読んでみると、そこにはバスターがなぜ失踪したのかが綴られていた。バスターは元々東の国の出身だったが、戦争が東の国と西の国で始まったことがきっかけで失踪し、東の国に逃げたと書かれていた。マーゴとドミーの一族は東の国では西の国の城と呼ばれて有名で、実は生産された軍事兵器は西の国の武器として使われるだけでなく、東の国の武器としても輸入されて使われているのだと言う。
5月20日に東の国がマーゴたちの屋敷を爆撃するから早く逃げた方が良いと言う。マーゴとドミーは、5月20日というのが今日であるということに気が付く。爆撃機が飛んでくる音が聞こえる。
暗転しマーゴとドミーは捌ける。カットインで照明が入り、プロジェクションマッピングで焦土と化した土地の映像が映し出される。ここで上演は終了する。

脚本自体には特に捻りがある訳ではなく、戦争を題材に扱った作品ということでむしろ王道のパターンだと感じるのだが、凄く面白かった。姉妹たちの会話も何気ない日常のように聞こえるのだが、役者さんの演技力も相まって飽きさせずにずっと見入ってしまう魅力が凄かった。
会話の中で登場する台詞に戦争の残酷さや酷さを感じさせるからこそ、色々想像力を膨らませることが出来て恐怖できるし、解釈できる余地が十分に残されているから面白いのだと思う。
マーゴとドミーのいさかいは非常に可愛らしくて、姉妹喧嘩や兄弟喧嘩というのはいつもこんな感じだと共感させてくれるが、戦争という状況が立ちこめる中に、意図的にいさかいを差し込むとそれはまた違った意味で恐ろしくなる。クッションや靴、バスターというものや人の取り合いで喧嘩するというのは、構図として領土を取り合う国と国との戦争にも置き換えられてしまう。
また、ソフィーは父が弱ったことによって一族の弱みに漬け込んで軍需工場の財産を横取りしようとする人間の業も描かれていて、そこも戦争を描きながら描写することで恐怖を感じた。結局戦争も、人間の愚かさと傲慢さによって引き起こされ、そういったものはどんな人間にも普遍的に宿るものであるということ、そしてそれがパーソナルなことなのかグローバルなものなのかの違いだということを気付かされて衝撃的に感じた。
だからこそ戦争というのは、人間が普遍的にそういう生き物であるが故に、いつ引き起こされるか分からないし、だからこそ無関係ではいられないということを脚本と演出からも感じられて素晴らしかった。というより恐怖だったしゾクゾクさせられた。まさしくブラックユーモアだと感じた。
ほろびての『センの夢見る』やパルコ・プロデュースの『最高の家出』など、戦争を想起させる演劇に今年は沢山出会ってきたが、今作が一番平和ボケしている自分に戦争とは無関係ではなく、いつ巻き込まれるか分からない恐ろしいものであるかを突きつけられたような気がした。

写真引用元:ステージナタリー KERA CROSS 第5弾「骨と軽蔑」より。(撮影:引地信彦 写真提供:東宝 キューブ)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

「KERA CROSS」シリーズということで、ケラさんは今回のシリーズでどう演出してくるか大変見ものだったのだが、しっかりとした舞台セットを作り込み、プロジェクションマッピングを多用するといういつものナイロン100℃のような世界観が健在で大満足だった。
舞台装置、映像、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
舞台装置はステージ上に固定されて作り込まれていて、場転で巨大な装置が捌け口から移動して登場したりすることはなく、終始同じセットが同じ場所に配置されていた。一族の屋敷と屋敷の外が混在した不思議な舞台セットになっていて、屋敷の壁から樹木が突き出していたり、巨大な窓の下に水路があったりする。
下手側手前にはブランコが吊るされていて、ドミーがブランコに乗るシーンがあった。その奥には、豪華な階段が配置されていてその上に父の部屋があるとされている。ソフィーはいつもその階段づたいに登場する。ステージ中央奥には巨大な窓が置かれていて、死神がそこからやってくる。その手前には下手側から上手側に向けて水路があって、一つだけ人が一人だけ渡れるほどの橋がかけられていた。その手前には、テーブルとソファーが置かれていた。そして階段を降りきった所には固定電話があった。
上手側には、奥に扉のかかった部屋が一つあっておそらくマーゴの部屋だと思われる。その手前には、納屋がセットされていてその納屋だけ回転して納屋の中身が分かるようになっている。納屋の中には沢山の酒が貯蔵されていて、グルカやナッツが納屋でムシに出会うシーンでは、納屋の中が分かるように納屋自体が回転していた。上手手前側にはラジオがセットされていて、第一幕ラストあたりでマーゴが叩いて壊してしまうが、第二幕では別のラジオがセットされていた。
屋敷内も屋敷外も同じ場所で上演されるが、今どちらで会話が繰り広げられているか内容で伝わってくるからすごい。こんな見せ方もあるのだと新鮮さを感じさせる舞台空間の使い方だった。
また、第一幕は秋で第二幕は冬から春の季節に対応しているのだが、その季節に沿って樹木の舞台セットも変わっているから凄い。また小道具としては、鳥のぬいぐるみが細い糸で操られながら登場してとても可愛らしい演出で好きだった。

次に映像について。ナイロン100℃の公演にも良く登場するプロジェクションマッピングが多用されていて個人的には大満足だった。
まず、ナイロン100℃特有のプロジェクションマッピングを使ったオープニング映像によってキャストを全員する件はなかった。ただ、オープニング時に中央の窓部分に「骨と軽蔑」の映像が投影された。
プロジェクションマッピングでは、雷雨だったり秋の紅葉が綺麗な樹木たちだったりと、外の景色を説明する描写が多かった。ただ、印象に残ったのはやっぱりラストで焦土と化した土地が映像で全体的に映し出される演出にはインパクトがあった。
また、死神が登場する映像演出も良かった。これぞケラさんがやるホラーという感じがあって、ケラさんはいつも日本を舞台にした作品を多く上演するが、西洋のメルヘンぽさを感じさせるファンタジーが今作にはあって、そこが新鮮だった。死神もホラーだったがちょっとワクワクさせるホラーで可愛らしかった。

次に衣装について。
東の国、西の国と表現しているのでドイツのお話かなと思うが、ドイツとは明確に言及はされていなかった。しかし、屋敷の内装や衣装を見ていると第二次世界大戦中のヨーロッパかなと思わされる。
グルタやドミーはお嬢様といったような豪華なドレスを着ているが、マーゴはちょっとヒッピーのような民族っぽい衣装をしているのが印象的だった。そしてナッツもマーゴに影響されて似たようなヒッピーのような衣装をしていて目立った。私が観劇した客席がステージから遠かったのでそこまで細部を観ることはできなかったが、遠くからでもそれぞれの個性の分かる衣装を身に纏っていて個人的には好きだった。
あとはソフィーだけちょっと独特な衣装というかきっちりした衣装に感じたのも印象的だった。水色の身の引き締まったような衣装だったが、知的なオーラがあって秘書らしさが感じられた。

次に舞台照明について。
同じステージ上で屋敷内部と屋敷外が存在するので、外のシーンだとちょっぴり暗く、屋敷内のシーンだと温かみのある黄色の照明で全体を照らすことによって上手く演出していた印象だった。あとは、屋敷外のシーンは少々暗いので、役者に白くスポットを当てることで遠くの観客にも演者がしっかりと分かりやすい照明演出になっていたと感じた。
あと印象的に残った照明演出は、第一幕のラストの方で、客席前方に黄色く照明が照らされるシーンがあったのだが、あの光景が後方の客席に座っていた私から見たら凄く不気味に感じた。お客さんの頭部がどこかフライヤーの沢山並んでいる墓地を連想させて、ちょっと毒の効いた残酷な演出に感じた。
あとはラストのカットイン照明によって焦土と化した光景がプロジェクションマッピングでガバッと投影されるインパクトが凄かった。何か胸を締め付けられる感じがした。
細かいが、落雷の感じも凄く好きだった。窓からピカっと光る感じの照明が好きだった。

次に舞台音響について。
まず第一幕序盤にずっと聞こえる砲弾の音がとてつもなく不気味だった。それによって、劇中では戦争が起こっているのだなと分かる。戦時中の人々はこんな砲弾を終始聞きながら生活しているのかと考えると恐ろしい。あの響き方と音量と全てが効果的だった。
次にラジオから流れる音声が絶妙に好きだった。レトロなラジオの音声と音楽という感じがあって、たしかラジオのアナウンサーの役を廣川三憲さんと吉増裕士さんがやっていたが、男性の低い声のトーンが戦争の残酷さを突きつけられる感じがして効果的だった。また、役者がラジオを叩いたりしてラジオの音声が壊れていくのはどうやって上演しているのだろうか。役者の仕草に合わせて音響オペレーターが手動で調整しているのだろうか。凄く気になった。
あとは電話が鳴り響く音だったり、雷雨の激しい雨音だったり、長い時間ではないけれどかなりうるさく感じられるような効果音もいくつかあったように思った(凄く効果的だったという意味で)。

最後にその他演出について。
屋敷の中と屋敷の外が一体となった舞台装置という現実世界にあり得ない設定を、嘘っ子でそれを受け入れて上演するのではなく、その不自由さをむしろ逆手に活かしてコメディにしている点が凄く面白かった。例えば、中央の窓の外に向かって客席から見ると後ろ姿でグルカが屋敷の外に向かって叫んでいる一方、ステージ前方にネネがいて彼女は屋敷の外からグルカに向かって叫んでいるという演出が凄く面白かった。これぞ、屋敷内と屋敷外を同じステージで表現していることを上手くコメディとして上演していて演劇ならではの演出だと感じて面白かった。あとは、途中で屋敷外と屋敷内のシーンの境目がごっちゃになってあれ?みたいにキャスト同士がなっていた点も上手くコメディとして落としていて面白く感じた。
そういう点では、日比谷のシアタークリエの観客と西の国の屋敷が接続しているという設定も上手く作品に盛り込んでいて興味深かった。もちろんネネが度々日比谷を持ち出してくるのはコメディとして面白かったのだが、今の東京と戦時中の西の国を接続することによって、戦争というものが遠い存在ではなくどこかで起きてしまっているものという点を暗に想起させる演出に良い意味で残酷さを感じた。
あとは印象に残った演出は、父が死去する時の演出。窓から死神がやってきて、それをプロジェクションマッピングで最初は映像で投影していたが、実際に誰かが死神役をやって降臨し、階段を上がっていき、白い魂のようなものをさらって映像として窓から出ていく演出は見事だった。父が死神によってさらわれていくというのも良い。軍需工場を経営してきたということは直接的に戦争に貢献して利益を出してきたということ、だからバチでもあたったかのように死神が迎えにくるという演出が皮肉めいていた。
一つ疑問に感じたのが、ムシの存在は一体何を暗示しているのだろうか。病の床に伏せている父の口から湧き出るムシ、そして屋敷の外にある納屋に出現するムシ。私は戦争によって失われた命なのかなと思った。軍需工場を経営していたということは多くの人々を死に追いやって利益を出してきたということ。だからこそこの一族に祟っているものたちだと解釈した。

写真引用元:ステージナタリー KERA CROSS 第5弾「骨と軽蔑」より。(撮影:引地信彦 写真提供:東宝 キューブ)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

観劇前から豪華な女優ばかりだと感じていたが、まさか女性キャストしかいない理由が戦時中で男性の多くは戦争に駆り出されていなくなってしまったという設定で、こんな設定にも皮肉が効いていてびっくりした。
特に素晴らしかった女性キャストについて見ていく。

まずは、マーゴ役を演じた宮沢りえさん。宮沢さんの演技を劇場で拝見するのは初めて。
客席が遠くからだっからか、マーゴが宮沢さんだったというのは配役を見て驚きだった。そのくらい若々しい感じの女性キャストに見えた。けれども、ベテラン俳優っぽさは凄く遠くからでもオーラで感じられて映えていた。
マーゴというキャラクター自体がとても好きだった。文学の砦賞を受賞した時のはしゃぎぶりも素敵だったし、そして凄くバスターのことを思っていて魅力的なキャラクターだった。そのな情に深いキャラクターだからこそ、妹のドミーといつも喧嘩をするシーンが滑稽で可愛らしく感じてくる。
あとはナッツとマーゴのシーンも好きで、ナッツと意気投合してラジオの音楽と共にダンスするシーンは凄く心が温まる感じがした。このシーンでは自分自身をナッツに置き換えて感情移入していたが、これって現代でいう推しに直接会える感動に近いと思うからこの時のナッツの感情といったら極まりなかったと思う。そういう感情を引き出してくれるマーゴは素敵だった。

次に、妹のドミー役を演じた鈴木杏さん。鈴木杏さんの演技は、シス・カンパニーの『いつぞやは』(2023年9月)以来の拝見である。
マーゴはどちらかというと長女で凄く可愛がられてバスターという素敵な夫もいた。だからこそ、マーゴに対する嫉妬の強い女性という感じがしてそこがまた魅力的で良かった。いつもドミーはちょっといやらしい感じでマーゴに喧嘩を売って姉を苦しめる感じが、どこかちょっと性格が悪くてだからこそマーゴと違う魅力を持っている女性で良かった。
あとは下手手前側にあるブランコにさりげなく乗るドミーも良かった。

マーゴの大ファンであったナッツを演じる小池栄子さんも素晴らしかった。小池栄子さんは『宝飾時計』(2023年1月)で一度演技を拝見したことがある。
小池さんも宮沢さんと同じく客席から遠かったので、小池さんとすぐ分からなかったのだが、非常にボーイッシュなキャラクターで以前拝見した役とは全く違う個性が見られた。
ナッツの役を見ていると、凄く最近の推し活に代表されるようなファンの気持ちを想起させられた。私も一時期とある俳優を推していた時期があったが、その推しに実際に出会って話ができた時の感動と興奮を覚えている。ずっと憧れの存在で推しがいるからこそ自分も頑張れるという気持ちが良くわかった。だからこそ今作で一番感情移入したのはナッツだった。
憧れのあまりマーゴが住む屋敷までやってきてしまってマーゴと面会することとなる。そしてマーゴと一緒にダンスができた時なんて最高の一時だと思う。マーゴを励ましたいと思って何十通もバスターになりすまして手紙を送り続けたという行動はオタクっぽいなと思う。推しのためなら何でも出来る感を感じて分かるなあと思った。
でも結局ナッツはマーゴの推しでしかなくて、一晩泊まったら屋敷を追い出される身になってしまうのは、凄く良く分かるが切ないなとも思った。マーゴにとっての重要な話は、マーゴ自身がナッツはこの場を立ち去って欲しい、ドミーとしたいと言われていて、結局ファンはファンでしかないから世界一マーゴのことを推していても、その境界には入れなくて色々感情が揺さぶられた。だからこそ良かった。

今作で一番印象に残る演技だったのは、ネネ役を演じた犬山イヌコさん。犬山さんの演技は、ナイロン100℃の『イモンドの勝負』(2021年11月)、『世界は笑う』(2022年8月)で演技を拝見している。
今までの犬山さんの演技は、割と多数のキャストが出演する舞台だったのであまりしっかりと拝見できてなかったのだが、今作はキャストも少なかったし割とネネにフォーカスされるシーンも多かったので、こんなに犬山さんの演技を堪能できるのは初めてだったかもしれない。
凄く人気のある俳優なイメージがあった犬山さんだったが、人気がある理由が凄くよく分かるくらいの見事な演技力だった。あのよくいるおばちゃん口調の話し方が良い意味でコミカルで素敵だった。あのキャラクターだからこそ、観客をあそこまでいじっても許される節があるよなと思う。
そして登場人物の中で唯一承認欲求がないというか、誰かを妬んだり野望を持っていない存在がネネだったように思う。ネネは、ずっとこの一族に尽くしている感じがあって、それが当たり前のような感覚になっていた。だからこそネネのパーソナルな話が登場した時は嬉しかった。そこにも権力の恐ろしさが見え隠れしているなと思った。
犬山さんの演技は、またこういう形で少人数の劇で役を見てみたいなと感じた。

写真引用元:ステージナタリー KERA CROSS 第5弾「骨と軽蔑」より。(撮影:引地信彦 写真提供:東宝 キューブ)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは今作の脚本に描かれている戦争について時事を交えながら考察していく。

今作では直接的ではないが戦時中であることを伝える様々な描写が登場する。ラジオから流れる暗いニュース、しきりなく聞こえる銃声、周囲には男性がほとんどいなくなってしまったことなど。
しかし物語の大部分は、このマーゴたちの一族による滑稽な物語が展開される。マーゴとドミーはいつも姉妹喧嘩しているし、マーゴはバスターのことを思いながら、作家としてのキャリアに勤しむ。グルカは納屋にある酒に溺れている。
ここで私が思ったことは、経済的に恵まれている世界では比較的裕福な暮らしが出来て世間知らずになっていくということ。この屋敷では恐ろしいほどの死者が戦争によって出ているにも関わらず、マーゴたちはそんな戦争には目もくれず、自分たちだけよければ良いというような暮らしをしている。ラジオから暗いニュースが流れてくると、それに向き合おうとせず切ってしまう。経済的に守られているが故の裕福な暮らしと平和がそこでは描かれていて、そこがなんとも最後まで終わってみれば残酷だった。
さらに残酷なことは、この一族は軍需工場によって利益を出して儲かっているということである。たしかに戦争が続く時代で一番儲かるのは、軍事兵器を製造する企業や団体であることは想像するまでもない。人殺しをする兵器を製造することによって利益を出して裕福な暮らしを送ることが出来るって想像するだけでも残酷な設定だと気付かされた。

戦争というのは、人間に宿る普遍的な傲慢さや業によって起きてしまうものである。パーソナルは事だといさかいがそうだということに、この作品を観ていると気付かされる。
マーゴとドミーは、クッション、靴、バスターをめぐって喧嘩をする。クッションも靴もバスターも、最初に誰が所有していたか、好きだったかということを発端に喧嘩になっている。これは、グローバルな構造に発展させると国と国が領土をめぐって戦争をすることとなんの変わりもないことが分かる。
今日起きているウクライナ戦争も、ロシアが一方的にウクライナに侵攻したことがきっかけで起きた戦争だが、ウクライナは元々ロシアがソ連だった時代にはソ連であったが、ソ連が崩壊したことによってウクライナ共和国として独立した。しかしウクライナが独立してからNATOへの加盟を進めようとしたからロシアが反発し、武力行使を始めたのである。これは、ウクライナという領土をめぐってロシアとNATOなどのヨーロッパ諸国とぶつかっていることに他ならないのである。
また、ガザ地区で起きている武力衝突も同様で、ガザ地区をめぐってイスラエルとハマスが武力衝突している。イスラエルは1948年に建国されたユダヤ人たちの国、ユダヤ人は今までホロコーストによって大量に虐殺されてきたという悲しい歴史的背景があったことに起因し、自分たちの国を「イスラエル」として建国した。しかしそれによって、今までイスラエルに住んでいたアラブ人たちは追い出されてしまった。ハマスというのはイスラム組織の過激派、イスラエルとハマス、ユダヤ人とイスラム人がお互いガザ地区の制圧を試みようとするから昨今の戦争が起きている。
だからこそ、マーゴとドミーがそれぞれ所有権を奪い合って喧嘩するという描写から、ウクライナやガザの戦争を想起せざるを得ず、それによって私たちは戦争というのは、そういった誰もが持ち合わせる人間の傲慢さと業によって起きえてしまう普遍的な行動であるということに気付かされ、私は衝撃を受けたのである。

第二幕後半で、マーゴは文学の砦賞を受賞する。東の国と西の国が戦争真っ只中であるのにである。マーゴはそれによって僅かながらかもしれないが印税を受け取って、クッキーに砂糖をまぶせるほどの少し裕福な生活を送ることができる。
しかしそうやってマーゴが文学の砦賞を受賞できたのも、軍需工場を経営する一族の生まれで戦時中でも比較的に裕福だったからこそなし得たという皮肉がそこにはある。結局、エンタメなどの娯楽というのは経済的に豊かな者にしか挑戦出来る資格がないと言われているようなものに感じてゾッとした。
マーゴが『骨と軽蔑』で文学の砦賞を獲って周囲の人を喜ばせることが出来たのも、ナッツというマーゴの小説の大ファンを喜ばせ、何十通もの手紙を書かせてしまうほどマーゴへの愛が強くすることが出来たのも、マーゴの一族の経済力が強かったからである。
軍需工場を経営して人殺しによってもたらされた利益によって豊かさが生まれ、それによって文学賞が授与されたりナッツを夢中にさせたというアイロニー、結局エンタメに代表される娯楽は、裕福なものからしか生まれないという事実を突きつけられる描写で考えさせられた。

私たちも、こうやって「KERA CROSS」の『骨と軽蔑』を観劇するという娯楽を楽しんでいる。しかしそこには前提として日本国の裕福さと平和があるから可能であるということを忘れてはならない。
今作の演出でもあったように、ネネは日比谷にいた私たち観客に話しかけられるということは、私たちが暮らす日常と戦争状態である国々とは地続きで繋がっているということ。ウクライナやガザで起きている戦争は、私たちにとって無関係な戦争ではなくどこかで繋がっていることなのだということを気付かされる作品だった。
今作のラスト、今までマーゴやドミーたちはずっと平和に幸せに暮らしてきたが、バスターからの本物の手紙によってその日常は突然終わりを告げる。東の国が西の国の城と言われている軍需工場を経営するマーゴたち一族を爆撃するからである。皮肉なことに、マーゴ一族は西の国の軍事兵器だけでなく東の国の軍事兵器も製造していたので、自分たちで製造した平気によって攻撃される形となってしまう。
マーゴとドミーがバスターからの手紙を読んだ時はもう遅かった。その日にマーゴたちの屋敷は爆撃された。バスターはどんな思いでこの手紙を送ったのだろうか。バスターは東の国の人間であるので彼女たちを救うことは出来ない。せめて、この爆撃が起きる前にこの手紙を読んで逃げ延びて欲しいと思ったに違いない。最後の描写は焼け野原の映像だけが映し出されたので、マーゴたちは危機一髪逃げられたのか、逃げられなかったのかは分からない。そこは観客の想像にお任せする所だろう。
しかし、一つだけ言えることがある。こうしてごくごく普通の日常を送ることが出来る日々というのは、戦争によって一瞬にして失われてしまうこと。いかにこうして普段の暮らしが出来ることが幸せなことなのかを忘れてはいけない。今でもウクライナやガザで多くの人が命を失っている。そういった戦争を無関係だとは思わず、今自分に出来ることをしていこうと思わせるラストであったことには違いない。

写真引用元:ステージナタリー KERA CROSS 第5弾「骨と軽蔑」より。(撮影:引地信彦 写真提供:東宝 キューブ)


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