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舞台 「花柄八景」 観劇レビュー 2022/05/21

【写真引用元】
Mrs.fictionsTwitterアカウント
https://twitter.com/Mrs_fictions/status/1527964866186989568/photo/1


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https://twitter.com/Mrs_fictions/status/1527964866186989568/photo/2


公演タイトル:「花柄八景」
劇場:こまばアゴラ劇場
劇団・企画:Mrs.fictions
作・演出:中嶋康太
出演:今村圭佑、岡野康弘、ぐんぴぃ、永田佑衣、前田悠雅
公演期間:5/11〜5/23(東京)
上演時間:約80分
作品キーワード:落語、ヒューマンドラマ、パンク、笑える、泣ける
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


今村圭佑さんが主宰する劇団「Mrs.fictions」の公演を初観劇。
公演リーフレットにも記載されていたが、Mrs.fictionsはコロナ禍の影響によって、2020年4月に予定していた劇団4ドル50セントとのコラボ公演「伯爵のおるすばん」を延期、そして主催公演の「15 Minutes Made Rehabilitation」も中止となってしまい活動休止となっていた。
しかし、今回の「花柄八景」で当劇団としては約2年半ぶりの公演を上演することとなった。

今作は2012年に初演された、落語をテーマとした舞台作品。
20XX年のTOKYO、AIの発達などによってプロ棋士など名人たちがAIに惨敗する近未来。
とある落語の流派である花柄一門の師匠・花柄花壇(岡野康弘)はテレビ出演した際、ホログラムの噺家「初音ミク」に圧倒され、自身のファンからは失望と罵倒を喰らい落語を引退することとなった。
しかし、そんな落ちぶれた花柄花壇の元に、鉢(今村圭佑)、苗(永田佑衣)、そして燐(前田悠雅)という個性豊かな面子が弟子に加わり、花柄花壇自身も、花柄一門も大きく変化を遂げていくという物語。

まず舞台装置が素晴らしかった。
舞台上には巨大な和室が仕込まれていて、畳を歩く音、襖を開ける音、そしてそこに噺家が座って落語を披露するのを生で観られただけでも価値のある観劇体験だった。
そして、寄席を想起させる場転時の寄席囃子、それから噺家の状況によって変化する舞台照明のセンスが抜群で、小劇場演劇の良さを詰め込んだ空間がそこにはあって面白かった。
寄席も久しぶりに観に行きたいなと感じさせてくれた。

そしてなんといってもこのタイミングで、そしてMrs.fictionsがこの演目を上演してくれたということ。
コロナ禍に入ってからずっと冬の時代を迎えていた演劇業界だったけれど、そんな冬の時代を経験して乗り越えていくからこそ見えてくるものがある。辛い状況を乗り切ったことを肯定してくれる救いの手をこの作品は差し伸べてくれる。
まさに、コロナ禍に入って一度役者を辞めた人たちが、もう一度役者に挑戦してみようという気持ちをそっと後押ししてくれる作品だった。

役者陣の演技も皆はまり役で素晴らしかった。
岡野さんの師匠っぽさ、ぐんぴぃさんのあの彼にしか出せない不器用で生真面目な味、今村さんと永田さんのパンクなキャラとやり取り、前田さんの突拍子もない言動と可愛らしさの組み合わせ、全て素晴らしかった。

多くの人にオススメしたいが、特に役者をやっていた人、これから役者を目指す人に観てほしい演劇作品かもしれない。


【鑑賞動機】

Mrs.fictionsはコロナ禍以前からも聞いたことのあった劇団であり、ずっと観劇したいと思っていたので、今回2年半ぶりの本公演ということで観劇することにした。
特に役者陣も、Mrs.fictionsに所属の俳優さんは名前は存じ上げていても演技を観たことがなかったので観てみたいと思ったのと、永田佑衣さんは日本のラジオの「カナリヤ」で、劇団4ドル50セントの前田悠雅さんは東京夜光の「悪魔と永遠」などで演技を拝見していて非常に素晴らしい女優だと感じていたので、今回も期待値高めで観劇した。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

花柄花壇(岡野康弘)は、花柄一門の噺家師匠。今日も和室で一人この世と地獄に関する演目を披露していた。この世と地獄の違いは匂いであり、この世と違って地獄には匂いが全くないと言うのだけれど、それは地獄に行った者にしか分からないと言う。
そこへプラン太(ぐんぴぃ)という花壇の弟子がやってくる。プラン太は花壇をリスペクトしていて、自分もいつかは花壇のように肩を張った噺家になりたいと願っていた。しかし、プラン太は花壇にこう言う。昨今はAIの発達によって、プロ棋士でもAIに惨敗してしまう時代。そしてついに、噺家の領域へもテクノロジーの進歩は踏み込んできていると。人間の噺家がAIの噺家に負かされる時代ももうすぐそこまで来ていると。
そして花壇は今度テレビ出演するらしく、そこでテクノロジーを駆使した噺家と対面するそうなのだが、自分の実力を示してやろうと意気込んでテレビ出演に望む。

しかしテレビ出演した結果、花壇はあっけなくテクノロジーを駆使した噺家に負かされてしまった。ホログラムの噺家「初音ミク」が登場し、花壇に向かってニコッと笑ったりなどして、あまりにも予想もつかない展開に度肝を抜いたようでたじろいでしまったからみたいである。
その光景をテレビで観ていた視聴者は、花壇を見限ってしまう者も沢山いたようであった。そしてプラン太も。プラン太も花柄一門を出ていこうとした。花壇の屋敷には、石を投げ込んでくる者も沢山いて、中には火の付いた雑誌を投げ込んでくる者もいる始末だった。
こうして花柄一門からは弟子のプラン太も去ってしまい、花壇は落語からひっそりと幕を下ろそうとした。

ある日の夜、廃れてしまった花壇の屋敷の中に忍び込んできた鉢(今村圭佑)と苗(永田佑衣)。彼らはパンクロッカーのように派手な格好で、そして互いに汚い口の聞き方で喧嘩をしていた。2人はお化け屋敷に忍び込む感覚でやって来た。そこへ屋敷の中に何やらうずくまっている黒いものを発見する。そしてそれは動く。どうやら「水をくれ」と言っているようだった。苗は手にしていたバドワイザーを渡す。
うずくまっていた者の正体は花壇だった。

数日後、花柄一門を去ってから数年ぶりにプラン太がスーツ姿でやってくる。どうやらプラン太は就職先が決まったらしく、師匠に報告をしに屋敷へ久しぶりに寄ったらしい。
花壇はプラン太を出迎えるが、そこには鉢と苗の姿もあった。プラン太は鉢と苗とは初対面なので、彼らは?と花壇に尋ねると、花壇は鉢と苗を新しく花柄一門の弟子にしたのだと言う。プラン太は、花壇の弟子があまりにも自分とキャラクターが違い過ぎる、まるでパンクロッカーのような落語に相応しくない姿の鉢と苗で驚く。
また花壇は、もう一人燐という女性も新たに弟子にしたのだと言い、彼女も連れてこようとする。燐(前田悠雅)はどうやら霊柩車を珍しいものだと思って追っかけてしまっていたらしく屋敷を留守にしていたので、花壇が連れ戻してプラン太の前で紹介した。
燐はちょっと変わった少女であり、じっとしていることが出来ず、物事への理解度も低そうであった。プラン太は燐を見てさらにこんな少女を弟子にしたのかと驚く。
プラン太は、着物の素材になる巻物を沢山持ってきていた。様々な柄のものがあるので、これらを使って新しく入った弟子たちの着物を拵えたら良いと言う。花壇は燐に、どんな着物が欲しいかと尋ねると、「ヴィトン」と答える。花壇は、そういうものではなく「花柄」のようなものを挙げなさいと燐に言う。
そんなやり取りの後、鉢、苗、燐は、プラン太が持ってきた巻物で拵えた着物に着替える。

ある日、花壇が落語を披露していてそれを燐が見守っていた。そしてよく最後まで聞けたものだと花壇は燐を昇格させた。その位はどうやらプラン太が花壇一門を去る前にどう頑張っても届かなかった位だった。プラン太はその花壇のやり方に物申す。
しかし、苗はプラン太が知らない間にさらに昇格していてびっくりする。単純に苗は落語の素質はあると認めるからなのだと。しかし鉢は未だに昇格出来ていない、鉢は花壇に自分も昇格させるように懇願するが、花壇は鉢のことはまだ単純に落語が下手だという理由で昇格させてくれなかった。
苗は燐の前で落語を披露した。苗はナンシーというイギリスの女性の話を落語にして語った。燐は色々間違ったことを途中で突っ込んでくるが、苗は冷静にそれを正す。

鉢は襖からいきなり登場し、エレキギターを構えてまるでパンク風に落語を語って去っていく。

正月がやってくる。まだ三ヶ日だというのに仕事に行かなければならないと文句を言いながらスーツ姿でプラン太は屋敷にやってくる。
屋敷には花壇と燐と鉢がいて、その後に苗が鍋を持ってやってくる。その鍋にはどうやら昨日の残りの鍋を雑炊にしたのが入っているらしい。その雑炊を巡って苗と鉢は喧嘩をする。苗はなんで昨日鍋を食べたんだと鉢を叱りつけ、鉢は苗が作った鍋と分かっていたら食わなかったと逆ギレする。
花壇は正月なのだし楽しく酒でも飲もうじゃないかと言い、酒を飲みながら踊り出す。それに合わせて、燐も鉢も苗も浮かれ出すが、花壇はそのまま襖に突っ込んで気を失ってしまう。

花壇はずっと布団で寝ていた。燐と鉢と苗に向かって、プラン太は落語について話している。そしてプラン太のある一言によって花壇は急に起き上がる。
そして、花壇はどうやら自分の名前を燐に授け、花柄一門を燐に託した。
一方プラン太は、ずっと花壇の屋敷に入り浸っていていいのか?と花壇に心配される。仕事の方は大丈夫なのかと。鉢も心配している様子である。そしてプラン太も、実は落語がやはり大好きでもう一度やり直したいと思っているんじゃないかと聞かれ、図星であるかのようだった。
花壇は再び、この世と地獄について語る落語を披露する。この世と地獄の違いは匂いがあるかないかで、地獄には匂いが存在しないのだと。そしてこの違いは、地獄に行った人でないと分からないと。

長い暗転の後、花壇は亡くなっており、燐が花柄一門の高座を継いでいた。そしてその弟子にはプラン太がいた。燐は一生懸命落語を語ろうとするが、全然覚えられていなかったり、途中で笑い転げてしまったりとグダグダだった。プラン太は、そんなダメダメな燐を叱りつけながら、燐がしっかりと覚えてくれないと私も昇格出来ないのだからと小言を言っていた。ここで物語は終了。

これは2012年に初演された物語だというけれど、物凄くコロナ禍に通じる部分が多い脚本であり、まさに今再演されるべき作品だと感じた。
個人的に好きだったのが、物語序盤と終盤で花壇師匠によって語られる落語の演目が、この世と地獄を比較した話であるということ。そして興味深いのが、地獄を知らないとこの世の匂いというものが分からないということ。ホログラムの噺家に圧倒されて一度は幕を下ろした花壇だったからこそ、鉢と苗と燐を弟子として迎え入れて華やかで自由な落語を確立出来たというのが面白かった。その上、コロナ禍とも通じていて今を生きる人々に元気を与えてくれるメッセージ性が好きだった。
脚本として精巧だったかというと、決してそうではなく粗い箇所もあったように感じられたが、主軸となるメッセージ性とそれを上手く活かした演出と、このタイミングというのが重なって今作をより素晴らしいものに仕上げている感じが本当に素晴らしかった。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

こまばアゴラ劇場という小劇場に寄席が出現したといっても過言ではないくらい、そこにはがっつり仕込まれた和室と、噺家たちを魅力的に映す舞台照明、音響、そして素敵な着物が用意されていた。本当に見事なクオリティの舞台美術だった。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージ上が丸々和室の舞台装置となっていて、こまばアゴラ劇場にここまでセットが仕込まれて演劇が上演されるのは実はこれまで観たことがなかった。
10畳くらいある和室が中央にあり、下手側には暖簾がついたデハケがある。そこの暖簾は、劇中で三段階くらい変化する。最初は、花壇師匠が落語を引退する前の至ってシンプルで地味な暖簾、そして花壇師匠が引退して屋敷が廃れた時のボロボロになった暖簾、そして最後に花柄で華々しくなった暖簾の三段階。花壇師匠、花柄一門の置かれた状況を反映したかのような暖簾のデザイン演出が凄く良かった。
そして舞台中央奥には、両開きの2枚の襖があった。そこからいきなり襖をガバーっと音を立てて開けて、苗が睨みつけながら登場したり、鉢がエレキギターを構えて登場して落語を披露したりと、襖からの登場演出を上手く活かした表現がとても素敵だった。
そして舞台中央の手前にはちゃぶ台が置かれていて、そこでみんなで鍋をしたりしていた。非常に和な雰囲気に加え、少し豪華な感じもあって好きだった。
上手側奥には掛け軸が掛けられていて、上手には木製の引き戸があった。花壇師匠が終盤にそこに頭を突っ込んで気を失ってしまう。
それから、和室のステージ手前は縁側になっていて、その上手側にはいつもプラン太が座っていた。
舞台装置で一番印象に残ったのは、物語が進むにつれて舞台装置に追加されていく花たち。花瓶にどんどん花が入れられたり、植物が生い茂ったりして舞台装置に変化がある点、物凄く演出として好きだった。それはまるで花柄一門が復活していく様子を物語っていて素敵だった。

次に衣装。衣装は特に鉢、苗、燐の着物が本当にカラフルで素敵だった。
鉢は、まず髪型が奇抜でまるでデーモンのように頭から2つの角が生えているかのように髪が固められているのだけれど、着物にヤンキー衣装によくある金属の縫い付け(名前を忘れた)があって非常に格好良く感じた。そしてエレキギターを構えながら落語を語るのはパンク過ぎて新しくて面白かった。
苗の紅色の着物も非常に好きだったのだけれど、特にメイクが好きだった。あのハーレイ・クインのようにアイシャドウをたっぷり塗って、その目で色々睨みつけられると本当に怖く感じられて面白かった。非常に魅力的なキャラクターだった。網タイツも良かった。
そしてなんといっても、燐の着物姿が本当に可愛らしくて艶やかで素敵だった。全体的にはブルーの着物でそこにはひまわりなどの花柄が模様として入っているのだけれど、前田さんの役にぴったしの衣装チョイスで素敵だった。また、途中から髪を1つ束にして縛るファッションもとても素敵だった。幼い感じの可愛らしさ、無邪気さのある可愛らしさが本当に役にハマっていて素敵だった。

次に舞台照明。
開演早々に、花壇師匠がこの世と地獄について語る落語を披露するのだが、それを話し始める瞬間から徐々に舞台照明が暗くなっていって、花壇師匠だけにスポットが当たっていくのが非常に好きだった。落語って、噺家にスポットが当たるだけで物凄く雰囲気が出るし惹き込まれて、舞台照明って魔法のようだなと思う。
物語終盤で、花壇師匠が亡くなってから、燐とプラン太の2人のシーンで非常に舞台照明が日中の陽射しのように明るかったのを覚えている。これがまさに明るい未来を表しているようで非常に希望の光のように感じられて好きだった。
また夜のシーンも良かった。鉢と苗が花壇の屋敷に忍び込むシーン。

そして舞台音響。
まず場転中に流れる寄席の曲、つまり寄席囃子が本当に心に響いた。この寄席囃子を聞いて非常に寄席に行きたくなった。和室の舞台セットと空気感があってのこの寄席囃子があるからこそ、小劇場にまるで寄席が出現したような感覚になるし、演出として上手いと感じる。
それから客入れ、客出しの曲がインディーズ感ある歌謡曲で良かった。ダウ90000の「ずっと正月」の客入れに流れていたような感じに近い。曲名が分からないのがもどかしい。

そして最後にその他演出について。
役者の台詞が基本落語のようになっている点が面白かった。別に落語をやっている訳ではないのに、落語のようにテンポが良いのが劇を観ていて心地良かった。
度々アニメ「攻殻機動隊」が登場するのがちょっと面白い。近未来の話といえど、SFものだとは観る前からこれっぽっちも思っていなかったが、光学迷彩が登場したり、花壇師匠の体がサイボーグ?のようなくだりが、ちょっとSFを想起させられて良かった。この脚本を書いた中嶋さんは「攻殻機動隊」好きなのだろうか。



【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

キャスト陣は全員はまり役だし、本当に演技力が素晴らしかった。客席50席ほどの小劇場だからこそ迫力ある芝居が観られて本当に嬉しかった。これだから小劇場って良いよなとつくづく感じてしまう。
今作にはキャストは5人しか登場しないので、全員について言及しながら良かった点を振り返っていきたいと思う。

まずは、花柄花壇役を演じたMrs.fictions所属の岡野康弘さん。岡野さんの演技を拝見するのは今回が初めて。
第一印象は、本物の落語家に見えるくらい味があって響く台詞とテンポに一気に惹き込まれたといった感じ。本当に序盤から雰囲気と言い話し方といい落語家そのものだったので、開始数分で惹き込まれていったのは間違いなく岡野さんの演技力の高さによるものだった。
そこから、一旦噺家を引退して再び鉢たちを弟子にして花柄一門を返り咲かせるが、その返り咲く時のどこか浮かれた感じというか、厳しくなく丸まった感じがある演技もとても好きだった。印象に残るのは、三ヶ日に酒を飲んで踊り出すところ。あの愉快な感じが本当に好きだった。

次に鉢役を演じていたMrs.fictions所属の今村圭佑さん。今村さんの演技を拝見するのも初めてだったが、とにかくヤンキーっぽさ、パンクっぽさ炸裂で、よくもこんなキャラクターが落語を題材にした作品でしっかりハマっているなと感じた。
話し方がいい、ジャイアンのようにちょっと声を低く太く話す感じが好き。もちろん出で立ちも良いのだけれど声の出し方が何と言っても好きだった。野球やろうぜ!ってなる感じもジャイアン?って思ってしまう所があった。
あとは、襖をガバーっと開けてエレキギターを構えながらパンク風な落語を語るのがとても斬新で面白かった。内容を細かく覚えていないけれど、凄く聞き入ってしまった記憶がある。

今回の役者で一番凄いなと感じたのは、プラン太役を演じたぐんぴぃさん。ぐんぴぃさんは初めて演技を拝見したが、本当にズルいなというか彼にしか出せないような味をしっかりと出されて演じられているなと思って素晴らしかった。
まずあの体型、とても太っちょなんだけれどメガネをかけていて非常に真面目で誠実そうなキャラクター性が凄く良い。だから真面目にやっているのにことごとく損をしてしまっている。お笑いコンビのWエンジンのチャンカワイっぽい感じ。
そして声が非常に通るので、小劇場だと非常に迫力を感じてそれだけでも元気がもらえた。
またこのプラン太の終盤に向けての立ち位置も物凄く良い。花柄一門は自分がいた頃とはまるで違って驚くことばかりだったけれど、それでも仕事をするよりも花柄一門にいたくてずっと屋敷に入り浸り、最終的には燐の元で弟子となって落語を再び始めるあたりがほっこりする。
美味しい役だったと思うし、非常にぐんぴぃさんにはまった役だった。素晴らしかった。

苗役の永田佑衣さんも凄く良かった。永田さんの演技は、2021年11月に上演された日本のラジオの「カナリヤ」以来2度目の演技拝見なのだけれど、今回の役はまるで違った役だったので驚いた。
「カナリヤ」での役は非常におとなしい感じの女性の役で、割と永田さん自身もそういった感じの方なのだと思っていた。しかし今回はまるでハーレイ・クインのようなパンクな女役。大きくアイシャドウを塗って、網タイツをして、非常にイカツイオーラを出した役で圧倒された。永田さんってこんな役もされるのかと。
でもそれが非常に上手くハマっていてさらにびっくりした。あの目つき、それから襖をガバーっと開けて登場する迫力、鉢と言い争うあの女とは思えないような言葉遣い。全てが好きだった。変な話かもしれないけれど結構永田さんの好感度がこの演技でアップした。本当に素晴らしかった。
あの紅色の着物もよく似合っていた。

最後に、燐役を演じていた劇団4ドル50セントの前田悠雅さん。前田さんの演技は、東京夜光の「悪魔と永遠」や舞台「ヒミズ」などで何度も拝見しているが、今回は特にまるで気の狂ったような少女の役でさぞかし難しかっただろうなという印象。
ずっと落ち着かない感じ、いきなり叫びだしたり笑いだしたりと半狂乱のような演技を上手くこなしていたのは本当に見事だった。そして、寿限無を言うくだりで最後に「長久命のプラン太」と言ったりと笑いをしっかりと取るあたりも上手かった。
そして個人的に好きだったのが、一番最後の場面でプラン太の前でふざけながら落語を語るシーン。途中で笑い転げてしまったりするあたりが本当に上手いなと感じた。凄く魅力的に感じて脳裏に焼き付いている。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今作は非常にTwitterの観劇者界隈でも大変好評で、実際に自分が劇場へ足を運んで観劇してみて、その好評ぶりに非常に合点がいった。
ではなぜその好評ぶりに合点がいったのかについて、この作品を考察しながら触れていきたいと思う。

コロナ禍は周知の通り、多くの人の活動の場を奪っていった。そして勿論演劇界隈の人たちもその影響をもろに受けていた。なかなか終わりの見えないトンネルに入ってしまったかのように、コロナ禍によって思うように上演出来ない時間というのは長く続いた。それによって役者を辞めていく人も沢山いただろう。
そしてMrs.fictionsも特にその影響を受けていて、冒頭で書いた通り、2020年4月に上演予定だった劇団4ドル50セントとのコラボ公演「伯爵のおるすばん」を延期、そして2020年夏に開催予定だった「15 Minutes Made Rehabilitation」も中止となった。そこからMrs.fictionsは完全に活動を休止していた。

この「花柄八景」には、タイトルは忘れてしまったものの、物語の冒頭と終盤で花壇師匠が落語でこの世と地獄の違いについて語るシーンがある。そこで言及されていることは、地獄に行ったことがあるからこそこの世の匂い、つまり素晴らしさが分かるというものである。地獄には匂いがなく、この世はあらゆる匂いによって彩られていると。
これが個人的にはなんとも素敵な言葉だと思いながら、そしてこれはまさにコロナ禍を経て演劇活動を続けている人たちのエールのような言葉ではないかと思った。
きっと演劇表現者たちは、コロナ禍を経たからこそ、劇場が開放されて観客が揃ってこうして上演されることの有り難みや大切さに改めて気づいたことが沢山あったのかもしれない。
観劇者にとっても、何ヶ月か舞台が上演されない期間があったので、公演が上演されている状態がいかに素晴らしく貴重なものであるか、そして有り難い存在なのかも知った気がする。まさに地獄を知ったからこそ、この世の匂いというものをしっかりと感じ取ることが出来たのだと思う。
役者が劇場に立って、公演が上演されること。そして観劇者が常に舞台観劇できる環境にあること。これはまるで、コロナ禍を経た私たちからすれば華々しいことである。

一度役者を辞めた人がもう一度役者に挑戦したいと思わせてくれる作品、そのようにこの舞台感想を語っていた方がいたそうだが、まさにその通りでありなんて素敵なことなのだろうと思う。
今作は2012年に書かれた戯曲なので、まさかこんな時代が来ることを予見して書かれていたかに思われるくらい、コロナ禍を生きる私たちに響く作品だった。リーフレットで中嶋さんが自分たちが過去書いた戯曲に救われたと言っているが、まさにそうだなとほっこりした。

そして、舞台観劇をして後、リーフレットを読みながらこんなに泣けることがあるのかというような内容が書かれている。リーフレットの、しかも挨拶部分ではなく次回公演項目を見て涙することはあるのかと思う。
そこには、コロナ禍によって延期になった「伯爵のおるすばん」と中止になったはずの「15 Minutes Made」の上演を知らせる告知が書かれていたこと。コロナ禍によってMrs.fictionsは一度は活動休止に追いやられてしまったが、なんとそこから完全復活して延期になった公演を続々上演するということだった。
「花柄八景」のメッセージ性を受け取って、こんなに次回公演項目を読んで感動させられることはないだろう。まさに全てが事前に仕込まれていたかのように良く出来ていて、そして演劇作品ってやっぱり現実と陸続きなのだなと感じさせてくれる体験だった。

本当にこの作品を観劇して、別に役者に限った話ではないと思うのだけれど、コロナ禍などの社会情勢によって一度は諦めかけていたことをもう一度挑戦してみようと、少しでも思ってくれた人がいることを願うばかりである。


↓永田佑衣さん過去出演作品


↓前田悠雅さん過去出演作品


↓落語を題材にした舞台作品


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