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2020/02/08 舞台「学芸会レーベル/アセリ教育」観劇

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公演タイトル:「学芸会レーベル/アセリ教育」
劇場:DDD青山クロスシアター
劇団:劇団4ドル50セント、柿喰う客
作・演出:中屋敷法仁
出演:福島雪菜、前田悠雅、岡田帆乃佳他(劇団4ドル50セント)
   加藤ひろたか、永田紗茅、牧田哲也他(柿喰う客)
   小松準弥、平田裕一郎、広川碧
公演期間:1/30〜2/9
個人評価:★★★★★★☆☆☆☆(学芸会レーベル)
     ★★★★★★★☆☆☆(アセリ教育)


【レビュー】


いくら舞台とはいえど「学芸会レーベル」も「アセリ教育」も個人的には脚本はもっと練り上げて欲しかったかなとは思う。1時間半の公演なのにコメディにしてもメッセージ性が弱い気がした。
脚本以外に関しては物凄く満足度が高くて、身体表現を使った演出の上手さ、照明音響のタイミング、そしてレベルの高いキャスト陣たち。
今回のコラボ公演で劇団4ドル50セントの劇団員たちはだいぶ成長して、良い刺激がもらえたのではないだろうか。劇団4ドル50セントの熱量とアットホーム感という強みと、柿喰う客の独特な素早い台詞回しや演出方法という強みが互いに融合して物凄く打ち解けた公演が完成したように思えた。
今後も様々な劇団とコラボしてほしいし、他の小劇団でもそのような取り組みを行っていって欲しいと思える作品だった。



【鑑賞動機】


旗揚げ公演「新しき国」から応援し続けている劇団4ドル50セントが、昨年秋のオムニバス公演に続いて2回目の劇団柿喰う客とのコラボ公演ということで観劇。
今回は劇団4ドル50セントの劇団員と柿喰う客の劇団員が半分ずつ出演するまさにコラボ公演という形なので、クセの強い柿喰う客に対して若手の多い4ドル50セントのメンバーがどう味を出すかを楽しみにしながら観劇。

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【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)


学芸会レーベル

西暦20XX年(あらすじに書いてあった笑)、育児環境の整ったとある幼稚園では保育士の先生たちが超能力を使って言うことの聞かない園児たちを操って秩序と規律を守っていた。
そこへ、みゆき先生(福島雪菜:劇団4ドル50セント)という伝説の女が現れ、ここで先生として働くことを申し出る。そしてどうやらこのみゆき先生は、以前この幼稚園の先生をやっていて1年前に追放されていたようだ。
他の幼稚園の先生たちはみゆき先生の帰還に動揺するが、園長先生(淺場万矢:柿喰う客)は潔くみゆき先生を採用する。
新米のしょうこ先生(前田悠雅:劇団4ドル50セント)は、園内で一番元気の良い園児まことちゃん(小松準弥)のしつけに手を焼いていたが、みゆき先生はいとも簡単に超能力でしつけてしまう。


そんな凄腕のみゆき先生だったが、1年前に「学芸会」がきっかけで幼稚園から追放されていた。
1年前に幼稚園には、だにえるくん(とよだ恭兵:柿喰う客)という内気で友達とも先生とも口を聞いてくれない園児がいた。当時文科省の職員けんたろう(村松洸希:柿喰う客)と付き合っていたみゆき先生は、文科省から「学芸会レーベル」というデータを取り出して、それによって神のような力を手にしたみゆき先生がだにえるくんをしつけることに成功した。
しかし、その「学芸会レーベル」の力は強大すぎて幼稚園の他の園児や先生たちまで操られるようになり、「桃太郎」のごとくみんなで鬼退治することになってしまい、それによって最後にはだにえるくんは死んでしまう。
そんな事件があったことによって、みゆき先生はけんたろうと別れると同時に幼稚園を追放されたのだった。

ところがみゆき先生はまたしても学芸会に手を出してまことちゃんをしつけようとする。みんなで「赤ずきんちゃん」を演じながら、やがて学芸会の力は増していき、幼稚園の園児たちや先生たち、副園長先生(田代明:劇団4ドル50セント)や園長先生まで操られ、みんなで様々なおとぎ話を演じながら、なんとかみゆき先生をオオカミ役にしてかんざき先生(広川碧)が銃で仕留めることで、学芸会から全員を無事元の世界へ帰すことが出来た。

みゆき先生は幼稚園を去ることになるが、母がいなかったまことちゃんの父(牧田哲也:柿喰う客)と結婚して3人で暮らすことになるのだった。めでたしめでたし。

終始訳のわからないストーリーだったが、非常にアニメチックでテンポの速い内容で中屋敷さんらしい脚本だった。映画と違ってストーリー性はそこまで問われない舞台だからこそ成り立つ作品だった。

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アセリ教育

西暦20XX年(あらすじに書いてあった笑)、友達や恋愛を認めるユックリ教育では優秀な人は育たないと、小さい頃からストイックに英才教育によって優秀な人材を育てる「アセリ教育」を政府は施行した。学校では熱血教師である反面狂四郎(加藤ひろたか:柿喰う客)の元、生徒たちは寝る間も惜しんで必死に勉強し、テストでカンニングする者などは容赦なく射殺するのだった。


文科省大臣神童丙左衛門(牧田哲也:柿喰う客)の息子甲之介(小松準弥)は、家庭教師知恵野イズミ(永田紗茅:柿喰う客)に教育されながら小さい頃から必死に勉強してきた天才級のエリートだった。
甲之介は、彼に挑んでくる数々の生徒たち(岡田帆乃佳、隅田杏花、湯川玲菜:劇団4ドル50セント、齋藤明里:柿喰う客)をいとも容易くテストの成績で倒していく。
甲之介は、母の神童ウメ(立野沙紀:劇団4ドル50セント)から「恋愛には手を出さず勉強に集中しなさい、さもなくば離婚します」と宣言されていた。両親を離婚させないために恋愛なんてするものかと固く決めた甲之介だったが、次に現れたライバルが成績が女子の中でトップの白眉毛ヨシコ(福島雪菜:劇団4ドル50セント)でキュートでセクシーな女の子であったため、彼女にうつつを抜かしてしまい恋をしてしまう。
デートの妄想中に現れたウメに怒られた甲之介は我に返り、両親を離婚させまいという思いからなんとかヨシコにテストの成績で勝利して倒す。
しかし、甲之介がマザコンであることを心配した両親は結局離婚することになる。
最後に甲之介の前に現れたのは、ヨシコの彼氏で成績トップの平目キヨシ(平田裕一郎)。早押しでなかなか勝てない甲之介だったが、問題が全て父が作ったものであると分かると、キヨシにあっさり勝利してしまって見事文科大臣の位を父から譲り受けるのだった。

一方街中では零(前田悠雅:劇団4ドル50セント)と名乗る世界一おバカな少年が、世界中のバカをかき集めて政府に対してクーデターを起こそうとしていた。
クーデターの情報が漏洩したことにより零は甲之介の元に連行されるが、甲之介に対して勝負を仕掛けてくる。甲之介は呆れながらも応じて素早くテストの空欄を埋めていく。しかし勉強をしたことがない零は問題を見た途端吐き気を催してしまい、テスト用紙を血だらけにしてしまう。
そして最初の問題である「太郎くんは1個120円のりんごを7つ買って、店員さんに1000円を渡しました。おつりはいくらでしょうか。」という問題に必死で答えを考えようとする。零は頭の中で太郎くん(広川碧)をイメージして考えて考えあぐねた結果、「答えは、店員さんに聞く」と回答する。
反面狂四郎は、零が必死に頑張って考えた努力を評して丸でも罰でもなく三角を付ける。甲之介はそれはおかしいと抗議するが、世界中のバカが一斉にジャンプしたせいで地震が発生して「アセリ教育」は崩壊し、勉強から皆が解放されて生活できるようになったとさ。めでたしめでたし。

「学芸会レーベル」と比較すると、こちらの作品の方がストーリーもまとまっていて個人的にはスンナリ理解できた。特にラストの三角という評価が結構響く内容で、実力だけで丸罰決めるのではなく努力することで人々の心を動かして評価されることの大切さを教えられたような気がした。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)


「学芸会レーベル」も「アセリ教育」も素舞台で舞台装置が全くない作品だった。小道具もほとんど存在せず、強いてあげるなら「学芸会レーベル」の絵で描いた木の被り物、赤ずきんちゃんのキャラクターの被り物くらい。「アセリ教育」に関しては全く大道具小道具存在しなかった(気がした)。その分照明や音響による演出がとても多く、小道具を使わない分多くのことを身体で表現する演出が多かった。

まずは照明だが、非常にカットインで入る照明が多くそれが舞台全体のキレを作っていた気がした。
例えば、アセリ教育の甲之介が相手の貧乏ゆすりを止める「ピタッ」という台詞でピタリと照明が切り替わったり、加藤ひろたかさんと隅田さんのアドリブや、立野さんのアドリブシーンで照明が一気に明るくなったりと、非常にメリハリのつく照明だったと思った。
また照明の色使いがとてもカラフルで、ヨシコと甲之介のデートシーンでヨシコがフラダンスを踊っている際の青とオレンジの照明、射殺されるときの真っ赤な照明、海藻を表す緑の照明、学芸会レーベルではゲンコツ山のたぬきさんのシーンの青、黄色、ピンクの照明など、とてもバラエティ豊富な照明によって様々なものが小道具大道具なしに表現されていた演出が良かった。非常に柿喰う客らしい舞台美術だった。

音響も同じで、カットインで入るSE(効果音)がかなりインパクトがあって舞台のキレを作り出していた。
例えばキャストの身振り手振りに当てられる「パン」とか「スパ」とか「キラーン」いった効果音、アセリ教育では貧乏ゆすりの「ズンズンズンズン」と言う音、消しゴムのカスを投げる音、学芸会レーベルでは先生たちが使う超能力の音など物凄くバラエティの飛んだ効果音が沢山あって、その一つ一つが舞台を作りだしているなという感覚だった。音響照明のオペレーションの方は絶対大変だと思った。
また、音楽も小さくかかっているシーンがいくつかあったがSE ほどインパクトはなかった。学芸会レーベルの「グーチョキパーで...」「アイアイ...」「ゲンコツ山のたぬきさん...」はしっかりとかかっていたが。

そして何と言っても今作品は、上手く身体を使ってキャラクター性やセリフ内容を表現することに長けていた作品だったということ。一番大きな特徴である。
例えば、アセリ教育で物凄くそういうシーンが多かったのだが、零が自己紹介するときに両手で丸を作ってゼロとやったり、マークシートをヌリヌリしたり、Aランクってやったり、零が必死で解こうとした文章題にフリが付けられていたり、三角と大きく描いて見せたりと挙げるとキリがない。
小道具などがない分身体表現でここまで表現して作品を作れるって中屋敷さん凄いなと思った。
衣装は、学芸会レーベルの先生のエプロン服が結構可愛かった、園長先生のアイパッチはとても似合っていてかっこよかった。アセリ教育では零と太郎くんの衣装が印象的、あの帽子を横に被ってサスペンダーしめている感じがカッコよくって、可愛くって素敵だった。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)


劇団4ドル50セントの役者も、柿喰う客の役者も、客演の方もみんなそれぞれ個性的で面白くて全体的に物凄く演技力の高いメンバーだったのではないかと思った。全員は紹介しきれないので、印象に残った6人だけ紹介させて頂く。

まずは、やはり学芸会レーベルでは伝説の女みゆき先生を、アセリ教育では白眉毛ヨシコを演じた劇団4ドル50セントの福島雪菜さん。
彼女は物凄く2.5次元舞台の俳優に向いている気がした。個性の強いキャラクター性を上手く作り出しており、オーバーな身体表現を使った演技とリアクション、でも物凄く可愛げのあるキューティーな立ち振る舞いは彼女にしか出せないと思う。物凄く迫力があって声量があるのに物凄く人を惹きつける可愛らしい魅力がある、そんな武器を備えた福島さんには更に様々な舞台で活躍して欲しいものである。

次に紹介するのは、学芸会レーベルでは新米の先生であるしょうこ先生を、アセリ教育では世界一のおバカ少年零を演じた劇団4ドル50セントの前田悠雅さん。
しょうこ先生ではまともな役を、零ではおバカ役を演じるというまるで正反対の配役であったが、彼女は福島さんとは違ってどちらかというと声量とかエネルギーというよりも、キャラクターとしっかり向き合うことによって、しっかりと舞台を成立させた芝居をしていた印象があってよかった。
特に零は、他のキャラクターとは異質なキャラクターなので役作りが大変だったと思うが、力の抜けたようでイタズラ好きそうなあの役作りが物凄く舞台を作っている感じがして、そして芝居にもハマっていたので非常に良かった(個人的にはしょうこ先生の方が好みではあるが、零は演技という観点で上手いと思った)。

次は学芸会レーベルではまことちゃんを演じ、アセリ教育では神童甲之介というどちらも主役級の役を務めた小松準弥さん。
あの整った顔をしておきながら、ガタイも良くって声量もあって且つあそこまでバカができるって本当に凄いと思った。何でも演じることができそうなマルチタイプの俳優だろうと思った。あそこまで凛々しい顔をしているのに園児や小学生のような格好をするとそれらしく見えてしまうのは何なのだろうか笑。やはりそういう殻を破った演技の出来るキャストだからだろう、本当に素晴らしかった他の公演でも芝居を拝見したい。

次は、柿喰う客に所属している永田紗茅さん。
学芸会レーベルでは園児のおみそ役を、アセリ教育では家庭教師の知恵野イズミ役を演じていたが、配役が良かったからだろうか物凄くしっくりくる上手いお芝居をしていたと思う。
おみそはほとんど台詞はないが、園児っぽく「うん」とか「はーい」とか言っているのが物凄く風貌とキャラクターに合っていてすごく惹きつけられた。また、イズミ役はしっかりとメガネをかけて手を振り回している感じがとても上手くてこちらも目を釘付けにされた。もっと彼女のお芝居を見てみたいと思った。

それから同じく柿喰う客の淺場万矢さん。
学芸会レーベルのみの出演だったが、園長先生のインパクトがとても力強く落ち着いて観ていられる演技だった。
オムニバス公演を拝見した時も思ったが、声がしっかりと届く宝塚のような女優なので、人一倍魅力的に見えてしまうし上手いなと思える。定番のぶりっ子からの勇ましい役の変貌ぶりが観れて良かった。あの変化はとても大好き。

最後は、学芸会レーベルではかんざき先生を演じ、アセリ教育では太郎くんなどを演じた広川碧さん。
この方も個性の強いキャラクター性を上手く作り出しており、2.5次元舞台に多く出演されているのは物凄く納得した、絶対に向いていると思う。
太郎くんの癖のある喋り方、かんざき先生の「あんなことやこんなことが」の言い方など、とても味のある演技で脳裏に焼きつく痺れた演技だった。あの独特で個性的な芝居を早くまた観たい。

他にも紹介したいキャストは沢山いるが割愛。

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【舞台の深み】(※ネタバレあり)


今回で2回目となる劇団4ドル50セントと柿喰う客のコラボ、ここではコラボ公演ということに注目して個人視点で考察していく。

劇団4ドル50セントは2017年に結成され、2018年2月の「新しき国」で旗揚げ公演を行なって以後、様々な演出家を迎えながら活動を続けてきた。メンバーによって外部公演への客演頻度に差が現れたり、途中でメンバーの脱退などもあり劇団の今後の活動の雲行きが怪しくなったこともあった。
しかし、こうやって中屋敷さん率いる柿喰う客という大きな劇団とコラボ公演を打つことが出来て、今後の劇団の活動に弾みがついたような気が個人的にはしている。

昨年の秋にも柿喰う客の劇団員とオムニバス公演という形で共同で公演を打ったが、その時は劇団4ドル50セントのメンバーも多い上、柿喰う客の劇団員たち(斎藤明里さんや淺場万矢さん)に助けられながらの部分も強い感じが個人的にはしていた。
しかし今回は違った。劇団4ドル50セントも柿喰う客も互いに同じくらいの人数で出演し、今回はどちらも人数が多いので下手すれば柿喰う客の色に染められてしまう。そんな状況でも柿喰う客の色に染まらずに、自分たちのカラーを維持しながら公演を作ることに成功している気がする。若手が多いからと言って、劇団4ドル50セントのメンバーが柿喰う客のメンバーに助けられているという感じには見受けられないし、両方の劇団の持ち味が共存した形で上手く公演が成立していた。
中でも福島雪菜さんや前田悠雅さんの今作における演技力が光っていたので、ちゃんと劇団4ドル50セントの公演としても見られたし、他の劇団員たちも感化されたかのように俳優として一番磨き上げられていた気がした。
次回は今年4月にMrs.fictionsという劇団とのコラボ公演が予定されている。様々な小劇団とのコラボを通して、劇団としてどんどん磨き上げていって欲しいと思った。

そして、これは劇団4ドル50セントに限らず、他の小劇団も周囲の劇団とコラボすることで新たな可能性と挑戦を探していって欲しいと感じる。それが今後ストリートプレイ繁栄の道すじであるのかもしれない。

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【印象に残ったシーン】(※ネタバレあり)


学芸会レーベル

やっぱり一番印象に残ったのは、本当に日本世界問わず様々なおとぎ話が立て続けに繰り出されたシーン。もはや早口で何を言っているか分からない部分も沢山あったが、次から次へとテンポよく進む劇に引き込まれた。

アセリ教育

個人的に好きなのは、ヨシコと甲之介とのやりとり。恋に陥ってハワイに来てしまったり、消しゴムのカスを投げ合うやりとりはとても好きだった。
また、零が算数の文章題を解くシーンも印象的。太郎くんが出現しちゃったり、三角をもらうシーンはちょっぴり感動する。
細かいけど印象に残っているのは、幽体離脱、ダンプの運転手、地震を相殺、かに。

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