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舞台 「FRAGMENT」 観劇レビュー 2023/09/17


写真引用元:東京夜光 公式Twitter


写真引用元:東京夜光 公式Twitter


公演タイトル:「FRAGMENT」
劇場:吉祥寺シアター
劇団・企画:東京夜光
作・演出:川名幸宏
出演:丸山港都、ししどともこ、草野峻平、笹本志穂、田中博士、角田萌果、永田紗茅、堀口紗奈、阿久津京介、都倉有加、中山麻聖
期間:9/12〜9/18(東京)
上演時間:約1時間50分(途中休憩なし)
作品キーワード:演劇、戦争、SF、ヒューマンドラマ
個人満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆


川名幸宏さんが主宰する劇団「東京夜光」の新作公演を観劇。
「東京夜光」の演劇作品自体は、2021年3月に上演された『いとしの儚』、2021年7月に上演された『奇跡を待つ人々』、2022年2月に上演された『悪魔と永遠』以来4度目の観劇となる。
当初神山光輝役で出演予定だった中山麻聖さんが体調不良のため休演し、代役として川名さん自身が出演されるという回での観劇だった。

物語は、現代の日本と太平洋戦争の時代を繋ぐ話。大学時代の演劇仲間と久々に会ってBBQをする会、白戸景(丸山港都)は売れない俳優をやっていて、同じく俳優をやっていた雨宮美智(ししどともこ)と付き合っていた。
景は美智をベンチに呼び出してプロポーズしようとしたが、他の演劇仲間たちがやってきて笑い者扱いされる。
景は、他の演劇仲間が脚本を書き出して売れ始めたり、結婚して出産する夫婦もいたりと順調に駒を進めている様子に焦りを感じているようだった。
その時、空中から突然航空機の音が聞こえて爆撃が始まり、あたりはすっかり戦争状態になってしまい...というもの。

今作の序盤15分程度は、演劇仲間たちが久しぶりに集まってお互いの近況を語り合う、リアルに近い日常会話劇なのだが、航空機からの攻撃を受けてからは一気にSFの世界にスイッチして物語が展開されるという構造。
今作で最も伝えたいメッセージ性はよく分かるのだが、そこに持っていくプロセスで扱われるSFにどこか無理やり感が否めなくて、その描写が作品をかなり陳腐なものにしてしまった点が勿体なく感じた。

描きたいメッセージ性としては、演劇を続けていくことの意義と俳優という仕事の無力さについてだと思っていて、そこは分かりやすかった。
今作を創作し上演する側の人間が、まるで自己批判するが如く厳しく的確な言葉を作中に忍ばせて描くその姿勢は素晴らしいものだったが、終わり方が個人的には好みではなかった点も私個人の満足度が下がった要因だったかもしれない。
このメッセージ性は、たしかに演劇に限らずどんな業界で働いていても当てはまるメッセージだとは思うのだけれど、だからこそラストがあの終わり方だと納得いかなかった(詳細はネタバレレビューへ)。

ただ、役者陣の演技は素晴らしく、等身大の物語だったからこそ、彼らも本気で感情移入して演技している姿に魅了された。
特に主人公の景役の丸山港都さんはハマり役だと思って観ていたし、景の友人の崎野武役を演じた草野峻平さんの説得力ある台詞と演技にも心動かされた。
さすがお二人とも劇団員だけあって、川名さんは彼らに演じてもらう役のキャラクター設定を熟知されていると感じた。

今作は間違いなく、社会人になってからも演劇活動を続けていこうとする人々には刺さりまくる物語だと思う。
むしろ、今作は演劇活動をする多くの方に観て向き合って欲しい作品なのではないかと思った。

写真引用元:ステージナタリー 劇団東京夜光「fragment」より。(撮影:神ノ川智早)




【鑑賞動機】

川名さんが創る演劇はいつも好きで、脚本が難解なフィクションだけれども、そこには今の自分の生活や人生にしっかりと繋がって、そして色々と今持っている自分たちの価値観を考えさせられる作品が多いので、今回の新作公演も楽しみにしていた。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ベンチの元に、白戸景(丸山港都)と雨宮美智(ししどともこ)の二人がやってくる。どうやら二人は大学時代の演劇仲間のBBQに参加しているようで、そこを二人でふらっと抜けてきたようである。景は、何か美智に言おうとしているが色々と焦らしていて、美智は戸惑っている。
そこへ、崎野武(草野峻平)と崎野空(笹本志穂)がやってくる。二人は結婚して、空は赤子を抱っこしている。景は実は美智と二人きりになってプロポーズをしたかったと言う。なんだと周囲の人間には笑い者にされる。武は皆の元に戻り、空は赤子もいるしそろそろ帰るのだと言う。美智は全然話せなかったと言いながら、空と赤子にさよならをする。
月野昴(阿久津京介)と春日飛鳥(永田紗茅)、そして相澤笑里(堀口紗奈)がやってくる。向こうでは、景がプロポーズをしようとしたという話から下ネタの話になって盛り上がっていると、こちらに逃げてきたらしい。
そこへ、大宮桐子(都倉有加)がやってくる。彼女は脚本家として売れ始めたばかりで勢いがある。その大宮の脚本を今度は月野が演出するという企画が決まっていて、春日はそれに出演予定だった。その脚本には、景にそっくりの登場人物がいるにも関わらず、他の人が出演することになっていた。景は、そのことを全く知らなかった。
一同がベンチから去っていって、景は美智にどうしてその企画のことについて知っていたのに教えてくれなかったのかと追及する。
今度は、ベンチの元に芸能事務所のマネージャーをやっている佐藤正樹(田中博士)と、小説家をやっている諸橋陸(角田萌果)がやってくる。佐藤と景は二人でベンチで話す。佐藤はマネージャーをやっていると会社員のようなものだから、景のような存在が羨ましくなると言う。諸橋は、売れたいという欲求がなくて、お金のために小説を書きたくないと言っている。

景は、上空に何やら航空機のようなものがこちらに近づいているのを発見する。一同が集まってくる。そしてその航空機は、地上を攻撃し始めて一同は一斉に隠れる。どうやら戦争が始まったようである。ベンチは天井に吊り下げられる。
一同は目を覚ますと、ここはシェルターの中のようだった。美智は、どうやらお腹に子供もいるらしく体調悪そうだったので休んでいると言う。シェルターの外は、どうやら戦車などが走っていて、あたりは一気に戦争中と化したようだった。春日と相澤は、そんな中で自分たちが生き残れたことを動画にあげようと、「生きてるだけでハッピー」と言いながらピースし合って写メを取り合う。月野からは不謹慎だぞと注意される。
一同は集まってくるが、景と武がいない。景は、一つの日記を持って姿を現す。その日記は、太平洋戦争中に空襲によって亡くなった少女の日記だった。中を見てみると、日記というのは正確ではなく、亡くなる寸前にこの少女が自分の人生を遡るように記憶を書いたようである。そして最後には、この少女が空襲によって亡くなったことを別の人が追記していた。

景は、ここに書かれた日記を朗読することによって、動画に上げて反戦を唱えようと言う。
一同は、役者とスタッフに分かれて作品作りを始める。自転車のシーンや空襲のシーンを朗読で演じて、最後に景は「STOP WAR」と唱えて撮影を終える。
一同は、ここの脚本がいけないとか、演技がいけないとかで議論を始める。そしてそれは、仲間同士の言い争いになっていく。
役者をやった春日は、月野に悩みを打ち明ける。マクロな視点で台本を捉えようと演じても難しくて、役者は普段もっと日常的な些細な悩みでいっぱいだからだと言う。たとえば、いつ洗濯しようかとか夕ご飯何食べようかとか。
武が戻ってきて、自宅の方へ心配になって行ってみたが、妻が見当たらなかったと言う。景は武と行動をともにする。

朝になる。全員のスマホに、戦争が始まったので国のために戦えとの命令が下される。
景を除いて、一同は戦争に向かおうとする。しかし、景は戦争に向かうことを反対する。先ほどまで反戦を唱えた動画を一緒に撮影したのに、どうして反戦の行動を移さないのか、反戦を訴えるのが役者の役目なんじゃないかと言う。
しかし一同は、国の命令に叛いたらそれこそ命を失って戦争が終わっても俳優が出来なくなってしまう。だから、今は大人しく政府の言うことに従うしかないと言う。それでも、景は反論する。
武は景の頬を叩く。所詮俳優なんて、空っぽな自分の生きる意味を反戦などに見出して何者かになろうとしたいだけだと言う。

景は、少し体調が回復した美智に話かけられる。近いうち子供が生まれて、自分だけの体ではなくなるのだと忠告される。
景は、自分の人生の過去を遡って赤子として生まれるまで遡って上演は終了する。

序盤15分は、リアルにありそうな演劇活動を続ける人たちの日常会話。きっと川名さん自身も普段の日常でこういった会話をよく耳にしたり考えたりしているから、等身大の会話劇なのだと思う。この15分間の会話劇は個人的にはとても面白く感じられて、みるみる引き込まれていった。
しかし、突如として戦闘機のようなものが飛んてきて、地上にいる景たちを攻撃してくるシーンから物語は一変する。そこからは、まるでSF映画を観ているような感覚で、何か壮大なストーリーが始まるのかと一気に期待値が上がってしまったのだが、その自分の期待値を上回る面白さが後半にあったのかと考えると疑問が浮かんでしまった。
複数人の方がSNSの感想で指摘していた通り、SF描写に整合性が取れないというか、あまりにも現実離れしてしまって、どう解釈したら?と思わせるような戦争描写、例えば戦車がいきなり現れたり、スマホで戦争に赴くように命令が下る描写とか、安っぽいSFのシーンにも感じられて、そういった要素が作品の質をだいぶ落としてしまっているように感じて、私は勿体なく感じた。
しかし終演後、よくよく考えてみれば今作は、演劇活動する脚本家や俳優たちの無力さや限界を訴えた作品だったので、戦争描写が陳腐だったという演出にも、はっきりとした意味合いがあるようにも感じられる。詳しくは考察パートで触れるが、例えば戦争描写が陳腐だったり、安っぽいSF描写に感じられてしまうのも、今作の創作者は当事者ではないから致し方ないことだし、それは演劇創作者や俳優の限界であるというメインメッセージとも整合するからである。
だとしても、そのメッセージに辿りつくのは終盤であり、劇の途中でそういった陳腐な描写が登場するので、その段階で観客の満足度は下がってしまうので、脚本構成・演出という点で上手いとは思えなかった。

写真引用元:ステージナタリー 劇団東京夜光「fragment」より。(撮影:神ノ川智早)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

世界観は戦争が巻き起こるSF的なものなのだが、ステージはがらんとしていて、音響と照明による迫力で上手く演出していた印象である。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順で見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージ上は意外にも舞台装置は少なく、中央にベンチが一つ。そのベンチも最初のBBQのシーンの日常会話のみで、航空機に攻撃されてSFの世界に入ると、舞台がシェルターに切り替わるので、ベンチは天井から吊り上げられて空中にぶら下がる異様な光景となる。ベンチが宙吊りになっている光景は、もちろんステージ上が地上ではなくなってシェルターになったというのもあるが、その光景の異様さから平和な日本は終わりを告げて戦時中の混沌の世界にスイッチしたことを演出する効果的な美術だったと思う。
ベンチの周囲に芝生が付けられていたのも、どこか雰囲気があって良かった。

次に舞台照明について。
舞台照明は本当に格好良かった。特に格好良かったのは、航空機による攻撃を受けてシェルターのSFシーンに切り替わるシーン。ステージ上の床面に上向きでセットされている照明を巧みに使って、上空から何やら飛行機がやってくる感じを上手く演出していて素晴らしかった。その演出があまりにも格好良すぎて、だからこそそこからどんなSFが展開されるのかと期待値が上がってしまったから、今作は後半部分に関して上手く楽しめなかったのかもしれない。
あとは、シェルター内を表す薄暗い照明演出も雰囲気が出ていて格好良かった。

次に舞台音響について。
舞台音響も個人的には格好良くて好きだった。BBQのシーンからシェルターのシーンに切り替わる、航空機の「ドカーン」という音も格好良かった。
しかし、個人的には劇中劇(空襲で亡くなった少女の日記を朗読するシーン)で流れるチェロの音楽がとてもマッチしていて和んだ。その挿入曲によって、作品自体も一気に重厚な味わいのものに仕上がっていく気がした。
スマホが光って、戦争出動命令が流れるSEも緊急地震速報的なインパクトがあって、これはこれで良かった。このシーンだけ浮いてしまうくらいリアルなのは気になるが、クオリティは高かった。
ラストの主人公の人生の記憶が、空襲で亡くなった少女の日記のような逆行をしていて、最後赤ちゃんの泣き声で終わる音響効果も印象に残った。正直あの終わり方には、好き嫌い分かれると思うし、ここに関しては考察パートでしっかりと触れたいが、終わり方は意味がしっかり解釈できるのであれば好きだった。

最後にその他演出について。
航空機が攻撃してきて、シェルターのシーンに切り替わる時の、景のモノローグは良かったのだが、他の役者たちがある種コンテンポラリーな身体表現をしてシーンを創作していたが、これはたしか『悪魔と永遠』でも思ったが、ダンサーがやるなら見応えがあるのだが、ちょっと個人的に中途半端な気がした。
あとは、崎野武役を演じる草野さんが、ガチで白戸景役を演じる丸山港都さんをビンタするシーンは驚いた。でも、それがいけないとかではなくて、これは男同士で同じ劇団員同士だからこそ出来る演技かなと思いながら観ていた。迫力があった。
これは、脚本に関連するコメントになるかもだが、序盤の15分で各登場人物のキャラクター設定がなされていて、例えば佐藤正樹なら新米の芸能事務所のマネージャー、諸橋陸ならお金のためには書きたくない小説家、大宮桐子なら売れたい脚本家のようになっているが、そこを劇後半でももっと活かしても良かったのかなと思う。基本的に、物語が景の物語で終始していて、それはそれで描きたいテーマがそこなので分かるが、もっと周囲の登場人物を使って脚本を膨らませられたら面白くなったのではとも思った。

写真引用元:ステージナタリー 劇団東京夜光「fragment」より。(撮影:神ノ川智早)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

役者陣は約400人の俳優の中からオーディションで選ばれた実力俳優たちばかりで、皆演技が素晴らしかった。ただ、劇団東京夜光の劇団員たちの演技も抜群に光っていて、劇団に所属する役者たちを最もよく知っている主宰が作演出だからこその演技でもあって、劇団って良いなと改めて思える芝居だった。
特に印象に残った役者について言及する。

まずは、主人公の白戸景役を演じた劇団東京夜光の丸山港都さん。丸山さんの演技は、東京夜光の全ての舞台で演技を拝見している。
今回の主人公白戸景のキャラクターは、30歳を過ぎても売れていない俳優、しかし俳優に対するプライドはやたらと高くて、かといって色々オーディションを受けて必死に頑張っているかと言ったらそうでもないような人物。事態が戦時下になってしまったという機会を利用して、反戦活動を空襲で亡くなった少女の残した日記を使って朗読劇を演じて発信する。
周囲がとやかく言い出すよりも前から、私は良い意味でこの景がやろうとしていることに対して腹立たしく感じた。今まで何者でもなかったのに、こんな情勢になったばかりに勢いづいて反戦活動という大義名分を背負って演劇をしようとする。そしてそれを利用して売れようと考えてしまう。そういったある種人間のエゴみたいなものはこれでもかというくらい感じられて個人的には好きだった。
また、そういった主人公を周囲が叱りつける容赦のなさも割と納得感があるので、すごく描きたいことは分かるし、こういうことをしっかりと当事者である演劇人が描いていることに好感は持てるし、そんな役としっかり向き合っている丸山さんの熱演は素晴らしかった。
私の観た回では、最前列で観劇させて頂いてたのだが、汗をだらだらに、そして涙を流しながらの熱演で、そこに今作の一番のメッセージ性が盛り込まれているのではと気付かされた。メインメッセージをしっかりと伝えるのには、景を演じる丸山さんの演技が物凄く重要で、そんな重役をこなしてしまう丸山さんが素晴らしかったし格好良かった。

次に、崎野武役を演じた東京夜光の劇団員の草野峻平さん。草野さんの演技も、毎度東京夜光の作品で観劇させて頂いている。
武は景とは対照的で、演劇はやってきたが劇団に所属して家庭も持ち始めていた。もはや妻と子供もいるので、自分一人の体ではない。だからこそ、演劇を続けることということに対して、景以上に客観的に冷静に考えられたのだと思う。
終盤のシーンで、自分だけは戦争に行かないと頑なに言い張る景に対して、あそこまで的確で辛辣な言葉を浴びせかける武のインパクトが凄かった。今作のメインメッセージを的確に伝えるのなら、あそこまで辛辣な台詞として描かないと成立しないだろう。そしてそんな重要な役を、物凄い説得力で草野さんが演じられていて素晴らしかった。
そして、この景と武の関係は、同じ劇団員という信頼関係で繋がった俳優同士だからこそ演じられたのかなと思う。これ、例えば景がどこかの初めましての役者だったりすると演じるのがお互い遠慮してしまって難しくなると思う。お互い気を許し合える関係だからこそ、あそこまで容赦なく、そして遠慮ない芝居として成立し、それが結果的に作品全体として上手く機能しているなと感じた。

雨宮美智役のカムヰヤッセンのししどともこさんも素晴らしかった。ししどさんの演技拝見は初めて。
景というまだまだ、売れない役者をやっている彼氏に対して、優しく指摘を入れて支えていこうとする彼女としての姿が魅力的だった。景はあんな感じで、結婚をして子供を産むとなった時、この人は家族を支えてくれるのだろうか、という一種の不安みたいなものを景に対して抱いている様子が手に取るように分かってリアルだった。

個人的に良いなと特に感じた役者さんは、大宮桐子役を演じた都倉有加さん。私自身は都倉さんの演技を拝見するのは初めて。
都倉さんは、アマヤドリの芝居によく出演されるイメージ。サバサバしていて、割と気が強めで売れたいと望んでいる貪欲な感じの女性に感じられて、そのサバサバ感が非常にナチュラルで、こんな感じの人いそうと頷けたので良かった。
そして、役者に対しては優しそうな一面もあってそこがまたキャラクターとしての魅力があるように思えた。

春日飛鳥役を演じた劇団柿喰う客の永田紗茅さんと、相澤笑里役を演じた劇団4ドル50セントの堀口紗奈さんの掛け合いも観ていて好きだった。
「生きてるだけでハッピー」とか、若い女性たちがキャピキャピやっている感じは個人的には心踊らされるが、逆に不謹慎という側面もやはり感じられるしハマっていた。

写真引用元:ステージナタリー 劇団東京夜光「fragment」より。(撮影:神ノ川智早)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

最初この作品を観劇し終わった時に、正直私はこの作品の終わり方について納得が行ってなかった。それだけではなく、劇の途中のSF的描写があまりにも陳腐だというのも満足度を下げていたというのもあるのだが、それもあってより観終わったあとのモヤモヤが消えなかった。
ただ、この作品について観劇していない妻に話をして会話したり、自分で観劇レビューを書きながら整理していくことで、ラストに対する解釈が色々と変わってきて見え方が変わったので、ここではそのラストの解釈についてを中心に考察していきたいと思う。

この作品のメインメッセージは先述した通り、演劇活動をする者、つまり当事者でない人間が当事者になりきる事に対する無力さ、それを利用して自分の名声を高めようとしてしまうエゴと欺瞞、それをより一般化すると夢を追って何者かになろうとすることに対するエゴを、あたかも人のためや社会のためという大義名分にかこつけて正当化しようとしている人間の傲慢さなのかなと思う。こう考えると、今作は演劇をしている人たちの物語であるが、よりそうでない人にとっても他人事ではなく突き刺さってくる内容にも捉えられる。
だからこそ、私はラストの終わり方に納得がいかなかった。ラストは、まるで景自身も見つけた日記に書かれていた空襲で亡くなった少女のように、過去の記憶を書き込んで自分の誕生まで遡って終わっている。この解釈が結局どういうことかよく分からなくて、個人的には景には演劇活動を続けていく上での何らかのアンサー、別に明確でなくてもぼんやりと何かを暗示する終わり方をして欲しいと願ってしまったのだけれど、それが全くなくてちょっとがっかりだった。これでは、川名さん自身が演劇を続けてきて、自分たちがエゴのため以外で演劇をする理由が結局見出せなくて、それっぽい抽象的な終わらせ方で誤魔化して逃げているようにも思えてしまったから。
演劇だけに限らず、何かの夢を追いかけて活動をしている人たちは沢山いると思う。起業家もそうかもしれないし、他の専門職でもそういう人は沢山いると思う。そしてその頑張る根っこにあるメチベーションというのは、やはり人間にはどこかエゴというものがあって、有名になりたいとかお金持ちになりたいのような野心というのは多少はあるものだと思う。そしてそれをモチベーションにして頑張ることに悪気はなくて、それをあたかもそうでなく正義のためとか社会のためとか主語が大きくなり過ぎて、正当化し過ぎてしまうのが問題で、なにもその活動をやるなという訳ではないのだと思う。だから、景がやろうとしていることも悪いことではないのだから、もう少しその活動を続けていく上でポジティブな終わり方をして欲しいと勝手に感じていた。

しかし、景が自分をまるで空襲で亡くなった少女と同化させたということを深掘りしていくと、あとで面白い解釈が見出せたのでそのことについて書く。

景は、空襲で亡くなった少女の日記、正確には日記というか過去の記憶を後で辿りながら書いた記録を元に演劇をした。しかし、その時の空襲を直接体験していない景たちがその当時の彼女の気持ちに沿って、反戦をうたった所でそれは陳腐なものでしかなかったというのがメインメッセージである。
景たちもいきなり戦禍に巻き込まれたが、そんな混乱状況で会ったこともない彼女の演技をしても嘘になってしまう。だからこそ、今作は演劇が表現出来ることの限界を的確に描いて、創作者たちの無力さを残酷に浮き彫りにした。
しかし、そんなメインメッセージを含めた物語としての今作は、ラストに景の過去の記憶が逆行する形で終えることで、私たち観客は、景が空襲で亡くなった少女の日記を読んでいるような感覚と同じ感覚で、景が俳優として真っ当しようとしてもがいている人生の記憶を読んでいるのに近いことを指すのかなと思った。
つまり、この『FRAGMENT』という作品は、景という一人の俳優が書いた逆行していく過去の記憶を演劇として上演している劇なのだと。

そう考えると、途端に俳優たちが演劇を続けるということに対する一つのアンサーが浮かび上がってくる。
それは、俳優というのは戦争のような自分たちが当事者として体験していないことに対して、本気で演じることは無力だが、自分たちの等身大の話を演じて披露することに対しては説得力があるということが伝えられるのかなと思う。
たしかに、戦争の描写やSF描写は非常に陳腐なものだったけれど、普段の俳優や脚本家、演出家が抱えている悩みに関しての会話劇はとても面白かったし、それ自体にこの作品は意味があるのだと言うことを伝えたかったのかなと思う。
だから、戦争描写がいい加減だったり、SF描写が陳腐で観客が不満や違和感を覚えること、それ自体も今作の演出のうちで、むしろそうだからこそ等身大の会話劇に説得力があって映えるのだと感じた。
タイトルの『FRAGMENT』は、一見空襲で亡くなった少女が書き残した過去の記憶の日記がそれなのかと思うし、もちろんそれも指していると思うのだが、個人的にはこの劇全体が、主人公白戸景の『FRAGMENT』であるとも解釈出来るのかなと思った。

そう考えると、演劇をやる意味というのは見出せるし、それをより一般化して考えると、変に社会貢献とか人のためとか大義名分を並べて活動するのではなくて、あくまで自分がやりたいというピュアな気持ちを公にして活動していくことが、主人公のようにならない生き方なのかななんて考えられてモヤモヤがすっきりした。

写真引用元:ステージナタリー 劇団東京夜光「fragment」より。(撮影:神ノ川智早)


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