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舞台 「夜盲症」 観劇レビュー 2020/11/14

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公演タイトル:「夜盲症」
劇団:柿喰う客
劇場:ザ・スズナリ
作・演出:中屋敷法仁
出演:永田紗茅、福井夏、長尾友里花、齋藤明里、北村まりこ、原田理央、今井由希、淺場万矢、七味まゆ味
公演期間:11/13〜11/22(東京)
個人評価:★★★★☆☆☆☆☆☆


中屋敷さんの演出作品は数多く観劇しているが、柿喰う客の本公演の生観劇は初めて。
女優9人が高天原乳業の社員で構成されたソフトボール部「アマテラス」を結成して東京オリンピックを目指すというストーリー。とにかくキャスト全員のキャラクターが濃すぎて、全員目立ちすぎて逆にみんな印象が薄くなってしまった感じ。アフタートークで中屋敷さんもおっしゃっていたが、キャスト全員一人芝居として観たいと思ったくらい。
破天荒な脈絡のないストーリーと捲し立てるようなスピーディーな台詞回しによって、あまりストーリーを理解出来ぬままあっという間に終わってしまった。そして下ネタ連発の台詞を堂々と発している女優たちに若干引いてしまったが、それはそれで楽しかった。
そして照明が凄くカッコ良い、カラフルで奇抜なものが多かったのでそれだけで舞台が物凄く映えた。
好き嫌いはっきり分かれる作品かと思うが、下ネタが大丈夫でエネルギッシュな作品が観たい、元気を貰いたいという方にはお勧めしたい。

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【鑑賞動機】

ずっと生で観たいと思っていた柿喰う客の本公演だったから。出演しているキャストの半数以上を既に他の舞台で芝居を拝見していてよく知っていたので、久々に生で芝居が見れると思うと楽しみだった。また、久々に演出家の中屋敷節も体感したかったから。期待値は高め、11月観劇予定の公演の中では最大の期待。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

あまりにも脚本が支離滅裂で破天荒で、そして台詞回しが非常にスピーディーだったのでストーリーの流れを全然追えなかった。おそらく演出家もストーリーをしっかり理解してもらおうという意図はなく、ただ舞台上の空気感や熱量を体感して欲しい作品なのだろう。

分かった範囲でストーリーを説明すると、高天原乳業の女性社員たちはソフトボールチーム「アマテラス」を結成して、東京オリンピックを目指していた。しかし「アマテラス」に所属する女性9人はとにかくキャラが濃く、それぞれが異名を持っていた。
しかし、「アマテラス」のメンバーたちは皆若き女性たちなので、馬淵伊代(原田理央)なんかは東京オリンピック直前で結婚して子供を産み、高天原乳業を寿退社してオリンピックに出場しないなんてことを考えるメンバーもいた。
一方、今回の作品の主役、そして「アマテラス」のピッチャーを務める飛花莉茶(永田紗茅)は、親を殺された過去がありその犯人を探していた。そしてその犯人こそが、同じ「アマテラス」のメンバーである入留峰詩音(福井夏)だった。入留峰は飛花の父親と恋仲でもあったことから、飛花の母親を殺したらしい。
しかし、最後には二人は抱きしめ合ってハッピーエンドに終わる。

今作は本来なら今年の5月に上演されるはずだったがコロナ禍によって11月に延期となった。東京オリンピック開幕を見据えての脚本だったが、そこに関しては虚しくもそんなムードがかき消された状態での上演となってしまったのが残念。また上演時間も1hでここも感染症対策によって縮小されたとか。
ただ、上演開始数分間はコロナ禍に触れられるシーン、例えば自粛警察が出て来たりと大幅に5月に上演されるはずの作品には取り入れられなかったであろう部分も盛り込まれていて面白かった。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

素舞台で舞台装置は一つもなく、小道具も馬淵が最後に抱えていた白いタオルに包まれた赤子くらいで、ほとんどが照明、音響、衣装によって世界観が形作られていた。

まずは衣装から見ていこう。衣装はフライヤーに載っているような色気満載のソフトボールチーム「アマテラス」のユニフォームかと思いきや、赤いローブのような姿で女優9人が登場。ユニフォームではなくとも生足がローブから見えている点では色気は半端なかった。
メイクも物凄く奇抜になされていた印象。座席が後方だったので、しっかり女優の顔を見れなかったことが残念だったが、アイメイクや口紅が物凄く濃くてまるで近くで見たら化物のようなメイクをしていた模様。

そして今回の舞台で一番演出的に注力されていたのは照明。色とりどりの照明が瞬時に切り替わり、舞台上が物凄く映えていた。以前劇団4ドル50セントとのコラボ公演である「学芸会レーベル/アセリ教育」を観劇した時は、劇場が青山クロスシアターであったこともありそこまで照明による演出は奇抜ではなかった印象だったが、今作はスズナリという割と自由に照明を仕込める劇場だったからか、物凄く照明効果で遊び尽くされた作品のように感じた。
特に印象に残った照明は、舞台手前に仕込まれていた、床から天井に向けられた照明によって黄色く照らされる箇所。そして、「フライヤーがエロティックなジャケットだったので、それ目的で観に来た人もいるでしょ」的な台詞の時に、それ目当てで来場した観客は誰だみたいな流れで下手側の客席に青白くスポットが入るシーンも面白かった。そこに座っていた観客は絶対ドキッとしたはず。ちょっと恥ずかしいが、生の舞台ならではの客いじりな演出は凄く印象に残った。そして最後に終盤で、ストロボみたいな明滅する照明は目がチカチカしてくるが迫力あって好きな照明だった。

音響は物凄く「学芸会レーベル/アセリ教育」の雰囲気と似ていた。基本的にどのシーンにもBGMが流れていて、「デュンデュンデュン」みたいなエンタメチックな感じの調子の良いBGMだった。
そしてカットインで入るソフトボールのボールを打つヒット音。「カキーン」というキレの良いSEが非常に爽快感があって好きだった。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

とにかく役者全員のキャラが濃かったのだが、個人的に印象に残ったキャストだけ紹介していく。

まずは主演を務めた飛花莉茶役を演じた永田紗茅さん、過去に「快物」「学芸会レーベル/アセリ教育」と演技を観て来たが今作品は過去の作品とは比べ物にならないくらい殻を破った演技となっていて観ていてとても楽しかった。
特に印象に残ったのは、やっぱり過去の両親のことについて一人語るシーン。もう下ネタ連発だったのは物凄く驚いた。「ぱっかーん」とか「おーいおちん○ん」を連呼しているシーンはマジでヤバイと思った。御転婆な女性が叫んでいるのなら笑えるのだが、永田さんは普通に美女なので下ネタ連発には物凄くギャップがあり過ぎて個人的にはちょっと引いてしまった。観客からも笑い声が起きていなかったので引いていた人は結構いたと思う。それでもあそこまで女を捨てて殻を破って演技が出来る彼女は素晴らしいと思った。絶対にTVではありえない、舞台でないとありえない演出には舞台の魅力も感じられたので1周回って好きだった。

次に、死神の入留峰詩音役を務めた福井夏さん、彼女の演技は今回が初観劇だが個人的には一番良かったと思っているしファンになったくらい彼女の魅力に惹きつけられた。
まず色気が半端ない。最初にキャストが順番に紹介されるシーンで「ふくいーなつ」という掛け声の後にブラをチラ見せするセクシーポーズは凄く好きだった。
そして、なんといっても飛花との二人のシーンでドロドロな展開になっていく時のダークな雰囲気も凄く好きで、女性二人にとても色気を感じた。
そして本編とは関係なくなるが、たまたまアフタートークで彼女が出演する回を観ることが出来たのだが、彼女のちょっと怖いけど天然な感じのキャラも良かった。本編ではカットされた長尾友里花さんがラップを歌うシーンが披露された時も、このシーンがお気に入りだったらしくメンバーの中では一番テンション上がって楽しんでいる様子も素敵だった。

次に寺島久里香役を演じていた長尾友里花さん、彼女は9人のメンバーの中では唯一ショートカットヘアーで眼鏡のかけた雰囲気の違った印象を受けた。メンバーの中では結構小柄。雰囲気は独特でもしっかりと9人のメンバーの中に溶け込んで存在感を発揮していた印象。

そして吉良キララ役を演じた齋藤明里さん、彼女の芝居は基本「学芸会レーベル/アセリ教育」といった劇団4ドル50セントとのコラボ公演で観ていて、それ以外での公演では初めてお目にかかった。
彼女の声はハスキーで甲高く、すごく印象的な声であるイメージだがそこが柿喰う客にハマっていてとても好きだった。早口と声の甲高さのハーモニーがとてもよく似合っている。
彼女は王様のブランチに出演していることもあり、食レポをするシーンがとても印象的。彼女メインのシーンが何分かあったが結構好きだった。

真刃結役の淺場万矢さんも迫力ある演技が魅力的だった。冒頭のシーンが一番印象的で、あの力強い声量から始まる感じが一気に作品にのめりこめた感じがあって凄くよい演出だと思った。

最後に倉宮内環奈役を演じた七味まゆ味さん、彼女の演技を観るのは初めてだが彼女は9人の女優の中でも特にキャラが濃かった印象。魔女みたいに邪悪な存在感を感じた。とって食われそうな感じのオーラ。アフタートークで中屋敷さんもおっしゃっていたが、彼女に役をやらせると何でも化物と化してしまうとか笑。たしかにそれだけ濃いキャラクターを持った女優もそうそういないだろう。
「この演技、実は結構疲れるんです」という台詞がとても笑えて良かった。実年齢を感じさせる箇所とても好きだった。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

初めて柿喰う客の本公演を観劇して思ったことは、改めて中屋敷さん脚本の作品は独特な舞台作品で魅力があると感じた。しかし個人的には、この柿喰う客の色というか特色はあまり好みではないかなとも思った。
自分自身は結構ストーリー重視で作品を観る傾向があるので、ストーリーそっちのけで役者の熱量と舞台美術を楽しめばそれで十分みたいな作品だと満足行かない場合が多い。今回もそこに当てはまっている気がして、もっとストーリーをしっかり追いたかったし理解したかった欲求が最後まで残ってしまった。ストーリーを理解しないまま終わってしまうと、他がどんなに良かったとしてもフラストレーションが溜まってしまう。

そんな個人的感想はここまでにしておいて、以前観劇した劇団4ドル50セントとのコラボ公演であった「学芸会レーベル/アセリ教育」と今作との比較をしていこうと思う。
どちらも中屋敷さんが作と演出を務めていて柿喰う客の特色の強い作品であると思うが、「学芸会レーベル/アセリ教育」と比較して今作は特にストーリーが訳わからん感じで下ネタが連発だった印象である。
「学芸会レーベル/アセリ教育」でそこまで下ネタ連発には出来なかったのは、やはり4ドル50セントのメンバーもいたので遠慮があったのか分からないが、その要素があった方がぶっ飛んでいる感じがして個人的には好きだった印象である。流石に永田さんが下ネタ連発していたのは驚いたけど笑。
あとは照明が今作の方が圧倒的に色とりどりでカッコ良かったことと、4ドル50セントの劇団員がまだまだ柿喰う客色のハイテンションでハイスピードな台詞回しについていけてなかった箇所があって、その分今作の方が女優たちがしっかりそこに順応してついていっている感じがあったのでクオリティとしては今作の方が高かったと思う。

それでも今作よりも「学芸会レーベル/アセリ教育」の方を評価してしまうのは、やはり脚本の分かりやすさ、ストーリーについていけるか否かに寄っているんだと思う。もうちょっとストーリー運び的に観やすい作品であればもっと評価出来る作品かなという印象だった。


【写真引用元】

柿喰う客公式Twitter
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/news/404722

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