記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

舞台 「マトリョーシカ」 観劇レビュー 2021/06/27

画像1

【写真引用元】
Uzume公式Twitter
https://twitter.com/__uzume__/status/1395687279276937224/photo/1

画像2

【写真引用元】
Uzume公式Twitter
https://twitter.com/__uzume__/status/1378286165611044864/photo/1


公演タイトル:「マトリョーシカ」
劇場:すみだパークシアター倉
劇団:Uzume
作・演出:村松洸希
出演:小沼将太、秋沢健太朗、小林亜実、石森美咲、藍菜、岡本尚子、永田紗茅、松浦尚久、岩永達也、谷田部享政、コガケースケ、佐野祐介、大部恭平、シノノメ
公演期間:6/25〜6/30(東京)
上演時間:約75分
作品キーワード:青春、ラブストーリー、舞台美術、生演奏
個人満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆


中屋敷法仁さんが主宰する劇団柿喰う客の劇団員である村松洸希さんが2016年に立ち上げた劇団「Uzume」の公演を初観劇。
今作は本来であれば2020年7月に上演されるはずだったが、新型コロナウイルス蔓延による自粛要請により、2021年6月に延期された。

この物語のテーマは「輪廻転生」、長野県の諏訪第一高校の学生時代と卒業して数年経った現在という2つの時間軸を行き来しながら、学生時代に自殺をした女子高生の生田あい(小林亜実)を巡って、その現場に居合わせてしまった二人の同級生である小山洋介(小沼将太)と岸本悠人(秋沢健太朗)の卒業後の苦悩を描く青春物語。

この作品のポイントは、舞台中央に大きくそびえ立つ赤いジャングルジムと、シンガーソングライターのシノノメさんによる書き下ろしの楽曲「マトリョーシカ」の生演奏。
照明によって格好良く且つ不気味に照らし出されるジャングルジムには圧倒されるし、生のギター演奏と歌が聞けるというのは演劇ならではの試みだと思う。

しかし、個人的にはこの戯曲にはあまり心を動かされなかった。
だから最後にエンディングとして生演奏がかかったとしてもあまり心にくるものはなかったし、キャスト陣の熱量だったり舞台美術の壮大さもちょっと空振りな感じがしてしまった。
もっと戯曲に深みがあれば舞台作品として総合的に映えると思うのだがそこが残念だった。

ただ、この夏を迎えるこの季節で女性キャストたちのセーラー服夏服姿が拝見出来るのは、序盤で非常にテンションが上がるものがあった。
比較的アイドル的要素の強い舞台作品だった。

スクリーンショット 2021-06-29 2.31.15

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/434158/1616970


【鑑賞動機】

今作が情報解禁されるまで劇団「Uzume」の存在を知らず、まさか柿喰う客の劇団員が劇団を立ち上げていると思っていなかったので、まずはその存在に驚き興味を持った。また、今作の出演者も元SKE48のメンバーの小林亜実さんや、柿喰う客の看板女優の永田紗茅さんなど知っているキャストも多かったので観劇することにした。
柿喰う客の劇団員の主宰する劇団なので、柿喰う客のテイストを踏襲しているのか、そうでないのかなど気になるポイントが沢山あったので楽しみにしていた。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

舞台は、長野県諏訪第一高校のとあるクラス。そのクラスの中で成績が良かった生田あい(小林亜実)は、勉強も出来るし容姿も綺麗だし、性格も良くて非の打ち所がない女子高生だった。しかし、彼女の心はいつもここにあらずといった感じで、クラスメイトの平井真希(石森美咲)や矢崎正和(松浦尚久)からはちょっと近寄りがたい存在に思われていた。
しかし、ある日生田あいは突然学校の屋上から飛び降りて自殺してしまう。その時、同じクラスメイトの小山洋介(小沼将太)と岸本悠人(秋沢健太朗)の二人はその自殺の光景を見てしまった。
そのまま二人は重い十字架を背負ったまま高校を卒業して大人になり、15年の歳月が過ぎた。

岸本は大人になって、東京都内のとある企業で営業マンとして働いていた。職場にはキャリアウーマンといった風貌の小牧まゆみ(藍菜)や土井良(岩永達也)といったノリの良い仲間がおり、彼らと社会人生活を満喫していた。
一方で小山は岸本とは対照的に工場で働いており、体育会系食の強い加藤だいき(谷田部享政)と本木辰則(コガケースケ)らの先輩と一緒に仕事をしていたが、内気で内向的な小山にとって彼らとはなかなか心から打ち解けられず、「すぐに謝ったりするな!」と怒られてばかりいた。
ある日、工場で小山が仕事をしていると、たまたま営業周りで工場に用事があって差し入れを持ってきた岸本と遭遇し、偶然の再会を果たす。小山も岸本も驚き、同席していた小牧や加藤、本木も二人が同級生だったとはと仰天する。
その後、小山は加藤、本木に連れられてサウナに入りに行く。まさか小山が誘いを受けるとはと驚き、そこで親睦を深める。

小山はどうも調子が良くなかった。それは、職場の先輩とサウナに行ったからなのか、岸本に偶然遭遇したからなのか分からない。
二人の女子高校生、木村寧々(小林亜実)と小牧ちえ(岡本尚子)はとても仲良しでいつも二人で一緒にいた。今日の夜も二人はまだ家に帰らず、赤いジャングルジムに登って遊んでいた。そこへ小山が通りかかり、寧々に話しかけてくる。「俺のことを知っているよね」と。木村は何のリアクションもしないが、ちえは知らない男がいきなり話しかけてきたことに恐怖を感じて、小山を追い払おうとする。
そこへちえの姉であり、岸本の職場仲間である小牧まゆみがやってくる。まゆみは、岸本の同級生の人だとすぐに分かって話しかける。ただ、ちえからしたら小山は不審者でしかなかったので姉がこの不審者のことを知っていたのかと驚く。
その間寧々はずっと言葉を発することなく黙っていた。

数日後、寧々とちえがまた二人でいるところに小山が現れる。ちえはまた現れたのと身構えるが、今度は寧々が小山と積極的に話しかけ、「お兄ちゃん」と言う。
小山と生田あい(現在の木村寧々)は元々兄妹であった。しかし、二人は兄妹であるにも関わらずお互い恋愛感情を抱いてしまった。そこでお互いに輪廻転生して同じクラスメイトとして高校に入学して付き合おうと決意した。
しかし、前世の記憶を持ったまま生まれ変わって同じ高校のクラスメイトとして生きていくということは、想像以上に辛いものだった。生田は才色兼備なキャラから周囲のクラスメイトからちやほやされ、一方小山は成績は良かったものの内気な性格からまるでクラスメイトに相手にされなかった。
生田はそんな状況に耐えかねて自殺した。そして再び輪廻転生して小山のいない全く別の人生を歩み直していた。しかし、小山にせよ生田にせよお互いがそばにいない生活が辛かった。だからここでその思いを分かち合って再びお互い一緒にいることを望んだ。

高校時代、こんなエピソードがあった。女子高生の東條ゆい(永田紗茅)と成田仁(佐野祐介)は校舎の屋上で羽をむしり取られたとんぼに出くわす。二人は羽をむしり取られて空を飛ぶということが出来なくて可愛そうと嘆くが、その場にいた生田は、「ある種空を飛ぶという選択が出来ないという選択肢のない生き方の方が幸せかもしれない。選択肢があるとそれに伴って後で後悔も生じる」のような発言をしていた。いつも生田とコミュニケーションをとっていた相談員の田村のぼる(大部恭平)は、生田のその発言をじっと聞いていた。

最後にシンガーソングライターのシノノメさんが歌を歌いながら生演奏で楽曲を披露してエンディングとなって物語は終了。

この物語のテーマは、分かる通り「輪廻転生」で二人の歩む人生の終わり方を模索する物語である。設定としては良いと思うのだが、そこに至るまでの過程の部分で登場人物たちの感情にあまり乗り切れなくて不完全燃焼に終わってしまった感覚だった。個人的には、岸本と小山・生田の関係性ももっと見てみたいと思ったし、小山と生田を取り巻く人物像がなんか皆ぼやっとし過ぎていて凄く物語としてすっきり消化されなかった気分であった。
結局この物語は、小山と生田が兄妹だけど愛し合ってしまってそれを叶えるために何度も輪廻転生をしてそれでももがき続けるみたいなことを描きたかったのだと思うが、まずそれだけな感じがしてしまってもっと周囲の人物像に対する深堀りや設定がめちゃくちゃ甘くて、物語の核心に繋がってこないなと感じてしまったのと、もっと小山と生田の「愛」の形を見たかった。ここは役者の力量不足かとも思われるのだが、なんかそこに強い感情が感じられなくてモヤモヤしてしまった。
という感じで脚本に関しては個人的にはちょっと物足りないものを感じてしまって、結果的にその減点が作品全体の良さをかき消してしまうくらいの大きなものだったと感じている。
詳しくは考察パートでしっかりと書く。

スクリーンショット 2021-06-29 2.31.32

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/434158/1616968


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

舞台美術・演出に関しては、かなりエンタメ性を取り入れた癖の強いものが多い感じがしており、これぞ演劇というような演劇らしさを多く取り込んだ内容になっている感触だった。
舞台装置・衣装・照明・音響・その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。劇場に入ってまず目を引いたのが、舞台中央にずっしりと立てられていた巨大な赤いジャングルジムである。このジャングルジムは形としては直方体といった感じだと思うが、最上部は薄いベニヤ板を敷いた感じになっていて歩けるようになっている、言わば屋上のような感覚である。このジャングルジムには左右の壁から太い紐のようなものが伸びていてそれで固定されている感じにも見られた。何か特別な演出的な意図があるのか、それとも地震が起きた時に備えて倒れないようになのかはちょっと分からなかった。
そしてそのジャングルジムの中にシンガーソングライターのシノノメさんがずっと待機していて、最後のエンディングになるとそこでギターを弾きながらED曲「マトリョーシカ」を歌い出す。
基本的には多くのシーンはジャングルジムの手前側のスペースで行われることが多く、そこには広々としたスペースが設けられている。
さらに、舞台の上手下手両隅には、学校で使われるような椅子が一列に配置されており、出番でないキャストもこの椅子に座って待機している。舞台上に現れる際は、この椅子から立ち上がってジャングルジム手前のステージにやってくるといった登場の仕方をする。
またこの学校で使われる椅子は、ジャングルジム手前側に横一列に並べることによって学校の屋上を再現して、生田あいの自殺シーンもその椅子から飛び降りることによって表現していた辺りは面白かった。
このように、赤いジャングルジムや学校の椅子といった感じで、どこか舞台美術全体に懐かしさと青春らしさ、そしてその青春っていうのも爽やかなものではなくて、どこか人間臭く大人になってもマイナスな意味で纏わりついてくるドロっとした感じを漂わせるなかなかパンチの効いた世界観で良かった。

次に衣装だが、衣装は基本的には男子高校生・女子高校生が登場するので制服が多かったのだが、これは本当にオタク視点みたいな書き方になってしまうが、小林亜実さん、岡本尚子さん、永田紗茅さん、石森美咲さんのセーラー服姿が拝見出来ただけで最初はテンションがあがった。こういう姿を見ていると自然と自分が高校生だった時の青春時代を思い出してしまうものである。そういう意味で、舞台美術も相まって観客自身を青春へ気持ちを誘うような演出が凄く効果的に効いていたと思う。
また、小牧まゆみ役の藍菜さんのキャリアウーマン姿が格好良かった。いかにも仕事ができそうな女性という頼り甲斐のある姿に惹かれた。

次に照明、照明はこの赤いジャングルジムが相まって非常に格好良く照らされていたといった感じ。
まず、照明自体が赤いジャングルジムの下部にいくつか設置されていて、そこから赤だけではなく青や黄色といった色とりどりの照明を与えることによって、ジャングルジムの色も変わって見えるあたりが面白かった。
また、ジャングルジムの奥に、客席側に向けて光量の強いまるで車のヘッドライトのような明かりが設置されていたが、あれはちょっと客席側に向けるにしては眩しすぎると思った。暫くあれを見た後に目がチカチカして見えづらかったので解消して欲しいと思った。
あとは、生田あいが学校の屋上から飛び降りて舞台上が真っ赤に染まる照明が印象的だった。

そして音響、やはり音楽はシンガーソングライターのシノノメさんによる生演奏の部分が大きい。
まずはエンディングの音楽は、非常に曲自体は素敵な曲だと思うし非常に今作品にも合った書き下ろし曲だと思っているが、自分が初めてシノノメさんのこの「マトリョーシカ」を聞いた時、RADWIMPSの野田洋次郎さんに非常に声と曲調が似ているなと思ってしまった。これはシノノメさん自身の楽曲のアイデンティティだと思うし注文をつけるのは違うと思っているが、あまりにも野田洋次郎さんに酷似し過ぎていてその点において興ざめしてしまった感じは否めない。
エンディング以外でもシノノメさんによるギターの生演奏は所々で流れており、生演奏の効果は生の観劇体験を味わえるという点で心に響くものがあった。

最後にその他演出部分についてだが、まず一番最初のシーンでキャスト全員が椅子を持って登場して、「ドン」と音を立ててステージ上に椅子を置いて座るシーンから始まる迫力は良かった。始まったといった感覚を観客に与えてくれた。そこからの椅子を客席に対して斜めに配置して学校の整列された生徒の席の配列を再現する演出も素晴らしかった。
また青春時代と現在の時間軸をごちゃまぜにしながら同時進行で描く脚本構成も演劇的で面白かった。悪い芝居の山崎彬さんの脚本までではないが、ちょっと複雑にさせながらもまだ観客に伝わる程度に時系列をごちゃまぜにしていたので、丁度良い塩梅で作品を楽しめた印象。
サウナのシーンで、小山洋介役を演じる小沼将太さんが服を脱いでバスタオル一枚になるシーンは、確実に女性ウケを意識した演出だと思った。今作はこういうアイドル特典的な要素をちょいちょい盛り込んで来る所があって、若い劇団であることを実感する。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作は比較的若年層に人気のあるキャストが集められている感じで、美男美女ばかりであった印象。
中でも特に触れていきたいキャストについて数人紹介していく。

まずは主人公の小山洋介役を演じた小沼将太さん。小沼さんはミュージカル「テニスの王子様」や舞台「黒子のバスケ」といった2.5次元舞台によく出演されている俳優さん、ただ私は彼の演技を拝見するのは初めて。
恋人の生田あいに対する感情を思い切りぶつけている演技はしていたのだが、個人的にはちょっと不自然な演技も多少あったかといった印象。脚本レベルでの小山という人物像を演じるのはなかなか難しいと思うのだが、物語前半のずっと「すいません」を連呼している辺りの自信なさげなキャラ設定は良かったと思うのだが、生田あいに感情をぶつけるシーンはもっと洗練出来たんじゃないかと思った。あの不器用さが逆に狙っていたものだったのかな、キャラ設定的にそこまで感情表現が得意でないという設定だから生田あいに対する感情のぶつけ方も不器用でも良いのかもしれないが、個人的にはちょっと気になるレベルではあった。

次にヒロインの生田あい、木村寧々役を演じた小林亜実さん。彼女は元SKE48出身でアイドルだったそうだが、そちらを引退して今は女優として活躍している。物凄く清楚ないかにも才色兼備の優等生な女子高生という設定は非常にマッチしていた。どこか心ここにあらずな感じとかも上手く表現出来ていたと思う。
ただ個人的な願望になってしまうのだが、小山に対する思いに対してはもっと情熱的に反応して欲しかった。ちょっと気持ち的な部分に関してはあっさりし過ぎている印象。もっと小山を強く抱きしめて良いと思う。もっと小山と再会したタイミングで女の子になって良いと思う、なんかそういった感情的な変貌を見たかった。終始あっさりした演技だった印象。

岸本悠人役の秋沢健太朗さんと、土井良役の岩永達也さんは良いコンビだったのだが、あまりにも二人のキャラがだだ被りだったのが勿体なく感じられた。どちらもチャラい威勢のよい営業マンといった感じで、あれはあれで良いんだけどもっと個性が欲しかった。ただ、小劇場なだけあって声の威勢とかは素晴らしく非常に元気をもらえる役作りだった。

個人的に今作で良いと感じた女性キャストは、平井真希役を演じた演劇企画キャラメルボックス所属の石森美咲さん。彼女のサバサバしている感じ、そしてちょっと優等生の生田あいを鼻にかけている感じがリアリティある演技で好きだった。
物語終盤の矢崎正和に対して恋愛感情を抱く感じで意識する素振りの演技も凄く良かった。彼女の演技はもっと観たいと思ったので、2021年9月上旬に公演予定の果報プロデュースの「あゆみ」は絶対観に行こうと決意した。
また、小牧まゆみ・小牧ちえ姉妹を演じた、藍菜さんと元HKT48の岡本尚子さんも好演だった。藍菜さんはキャリアウーマン的な大人っぽい女性として堂々としているあたりがキャラとして立っていて好きで、岡本さんは木村寧々と一緒にいる時のいかにも女子高生同士で会話してそうな、将来の話とかそういうのが凄くリアリティあって好きだった。小山をキモがる演技とかも凄く良かった。

男性キャストで一番好きだったのは、カウンセラーの田村のぼる役を演じた大部恭平さん。大部さんはおぶちゃという演劇集団を主宰されているそう。彼の心温まるような大人らしい助言が凄く心に染みてよかった。凄く経験豊富そうな印象があって、カウンセラーらしく優しく言葉で包み込んでくれそうな安心感がある役柄が非常に良かった。

スクリーンショット 2021-06-29 2.31.49

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/434158/1616969


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今作の考察は、あくまで私の視点でこの作品について思ったことを書き記しておこうと思う。

先程もストーリー・内容のパートで書いた通り、正直今作は自分の心にグッとくるような内容には感じられなかった。その一番の原因は脚本にあると思っている。舞台美術や生演奏とかは非常に工夫があって良かったし、演技力の高いキャストはいたのだが、脚本に訴えかけてくるものがないとそれらも陳腐と化してしまうことを再認識した。

今作の脚本で、個人的にイマイチだと感じてしまった部分は大きく分けて2つある。
まず1つ目は、今回の作品のテーマとなっている「輪廻転生」に対する深みが圧倒的に足りないと思った点である。今回のストーリー設定としては、兄妹同士で恋をしてしまったのでお互い人生をやり直して結ばれようという選択をするも、同じクラスメイトとして入学した挙げ句、生田あいは優等生でクラスの人気者ではあった一方で、小山洋介は完全にクラスの嫌われ者扱いとなってしまうという、まさに学級ヒエラルキーの天と地のような位置づけになってしまった。それが原因で苦しくなったあいは自殺してしまった訳だが、そのクラスでの二人の関係性とクラスの雰囲気をもっと描いて欲しかったと思っている。個人的には、序盤であいが自殺するまでの物語描写がちょっと短すぎる気がした。
ここをもっと丁寧に描けば、この二人が同じクラスメイトとして過ごしたとしても、いかにその環境が辛いものなのかがより分かりやすくなると思う。演出家の意図として、敢えてそこを丁寧に描かなかったというのもあるかもしれないが、そうであったとしてもその演出方法は今回適切ではなかったと思う。
というのは、ここで抱えていた小山と生田の苦しさが物足りないと、その15年後の小山が工場で働くようになった時の虚しさも淡白なものになってしまうからである。ずっと好きだった人が自分の目の前で自殺して、その苦しさを抱えながら生きるって結構しんどいと思うので、そこを上手く表現させる構成にしてほしかったと思った。
小山と生田は兄妹で輪廻転生して同じクラスメイトになったという設定は、ある意味今作の一番のネタバレ的箇所なので物語の後半に持っていきたいがために、そこを匂わせるような描写は序盤ではカットしていたのかもしれないが、それでも小山は生田のことが好きだったこと、しかしあまりにも二人には距離がありすぎて付き合うに至らない状況であることは、もっと序盤でわかりやすく演出した方が良いと思った。そうでないと、小山の感情が中盤まで迷子になってしまって何を観させられているんだろうという感覚に観客はなる、少なくとも自分はなった。
そして終盤の小山と木村(生田)が再会して、お互いの気持ちを確かめるシーンはもっと情熱的で良い。ここはキャストの演技力にも依存すると思うが。ちょっと盛り上がりが薄かった。

もう1箇所は、小山と生田以外のキャラクターにあまりドラマ性を感じられなかった点である。
全てにおいてドラマ性を感じられなかったかというとそうではなく、例えばいつも「すみません」ばかり言って謝っている小山を叱る工場の職場の先輩の加藤と木本がサウナに連れ出して仲を深めるシーンとかは凄く良かったがそれくらいで、おそらくこういうシチュエーションは脚本家自身が体験しているエピソードとかなのかもしれないが、そういったある種のドラマ的な要素をもっと沢山盛り込んで欲しかった。
例えば、個人的には平井真希と矢崎正和の二人のシーンはもっと観たいと思った。というか、この二人は良い感じでラブラブになれて、それに対してお互いが付き合い出せていない小山と生田が嫉妬するみたいな構造があっても良いと思った。
岸本の心の葛藤ももっと観たかった。同じ職場の仲間とワイワイ楽しくやっているが、どこかで生田のことを思い出すみたいな。そういったもっと心のぶつかり合いとドラマが観たかった。

いずれにせよ、この作品には「感情の爆発」と「ドラマ性」というものが圧倒的に足りていなかった気がした。どこかストーリーも熱量も中途半端で自分の中では不完全燃焼だった。
柿喰う客の役者からまだ26歳という若さで劇団を立ち上げて、こうやって作品をつくるというマインドは物凄く素晴らしいと思うし応援したい、だからこそもっと洗練された作品に仕上げて今後の演劇の世界を牽引していって欲しい。

↓主題歌音源 「マトリョーシカ」シノノメ


↓村松洸希さん、永田紗茅さん過去出演作品

↓永田紗茅さん過去出演作品


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?