今年こそ!教員の理想的な夏休みの過ごし方とは⁈【高校教員応援マガジン】
こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。
早くも夏休みの足音が近づいてきましたね。
「学校の先生って夏休みは何をしているんだろう…?」とふと疑問に思い、林研究員に尋ねてみました。
疑問の答えはもちろん、長年の経験からの、教員としての夏休みのお勧めの過ごし方も教えていただきました。
教育について、生徒について、自分自身について、見つめ直すきっかけにぜひご一読ください。具体的かつ熱意あふれる提案に励まされます。
👨🏫はじめに
▶なぜ、管理職の道へ?
私は北海道の公立高校に34年間勤め、2023年3月定年退職しました。
教諭として20年、教頭・副校長6年、校長8年、計8校です。
「管理職になるなんてあり得ない」と思っていて、それどころかその道に進む人を「教壇に立つために先生になったのに、なぜ?」と、訝しく思っていました。
しかし、教務部長時代に尊敬できる校長と出会い、課題や危機をともに乗り越え、学校経営の仕事に魅力とやりがいを感じ、キャリアを転換しました。
お陰で、大都市と地方、様々な地域の様々な学力層の生徒たちのいる学校に勤務し、豊かな教職人生を送ることができました。
数々の失敗や後悔はあり、管理職試験も何度も落ちたりしましたが、同僚や諸先輩、地域の方々、そして生徒との出会いに恵まれ、何とかなりました。感謝しています。
▶教諭時代の夏休み
さて、高校教育、高校教員と言っても、千差万別です。
教育行政やメディアで一般論が語られることがあり、その必要もありますが、現場は多様です。
高校教員の皆さんは、新年度当初から、大変多用な日々を送り、間近に夏季休業が迫っているという点は共通していますが、現在の状況も夏休みの予定も多種多様だと思います。
地域、公私、学校の歴史と文化、パーパスやミッションによって、また、同じ学校にいても、教科、校務分掌、担当の部活動によって異なることでしょう。
私の場合、教諭時代は、夏休みに「ゆっくりできた」ということはなかったです。
前年度のうちから、高校入試、卒業式、成績処理、年度末業務、送別会、新年度の準備。そして、入学式、オリエンテーション、考査、学校祭、、、気がつけば、夏休みです。
休みと言っても、夏期講習や保護者面談がありました。部活動の指導や合宿をしていた時期もあります。
つまり、一般教諭の20年間、夏休みを待ち遠しく思いつつも、しっかりと計画を立てるような余裕がなかったのです。
常に仕事に、締切に、問題や課題に追われていたように思います。
▶教頭時代の夏休み
そして、教頭になり、週末や黄金週間が休みらしくなり、夏休みは夏休みになりました。
管理職になったことで、ワーカホリック気味だった私の場合は、自由に扱える時間が圧倒的に増え、精神的なゆとりを得ました。
それゆえ、矢面に立ち汗をかいている先生たちを大事にしなければならないと思いました。より働きやすく働きがいを感じられる学校経営と環境整備に努めなければならない。そのために、管理職として手に入れた余裕や余白を最大限生かさなければならないと思った次第です。
とにかく、夏休みを夏休みとして生かし切ったと胸を張れない私が、現役の高校教員の皆さんに立派なアドバイスなどできる資格はありません。
しかしながら、あらためて思い起こしてみれば、やはり、授業日とは異なる時間が流れ、違う時間管理をしていたことは間違いありません。
特別な話はできませんが、皆さんのヒントになることを願いながら、経験上、思うところを記します。
🌻教員としての夏休みのお勧めの過ごし方
1 皿洗いとキャンプ
教員になって4年後に結婚し、3人の子どもに恵まれました。今となっては時代遅れの考えを有し、「仕事が忙しいのだから仕方ない」と思い、育児家事の全てを妻に委ねていました。皿洗いでも洗濯でも何かできることがあったと思うのですが、記憶はありません。そして、今さら謝っても時すでに遅しです。
10分でも5分でもよい(たぶん)です。何か家事をやるとよいと思います。そのことで、家族との関係性が良好になるのはもちろん、自分自身も新しい気づきのきっかけになるはずです。一人暮らしの場合には、普段行き届かないようなプラスアルファの家事をしてみるのもよいでしょう。
また、私は講習や部活動の合間を縫って、家族と海や公園、キャンプに行きました。疲れていたり、仕事のことが頭から離れなかったり、結果、怒りっぽかったりして、ダメな父だったと思います。
しかし、行かないよりは行ってよかったです。私はもともとアウトドア派ではなかったのですが、子どもがいるお陰で自然体験をすることができました。あまり会話が弾むということもなかったのですが、子どもたちが独立した今、時間をともに過ごすこと、一緒に同じものを見たりやったりすることの大切さを強く感じています。
共有する思い出があるということはかけがえのないことです。
自然を前にして感動に浸ることは生きるエネルギーになります。
時間や回数ではなく、少しでも家族や友人との時間、あるいは自然と向き合う時間をつくることが大事だと思います。
(「感動」の大切さについては)
▼「感動体験」をこどもたちに 平井一夫さんに聞く(琉球朝日放送)
▼『センス・オブ・ワンダー』 筑摩書房/レイチェル・カーソン (著)
2 好きなことに没入
ライフネット生命保険を創設し、立命館アジア太平洋大学の学長を勤めた出口治明さんは、人生で大切なことは「人、本、旅」と言っています。
▼出口治明APU学長が語る人生における人×本×旅の必要性(TRAVEL JOURNAL ONLINE)2020.7.22
私はといえば、夏休みに旅行したことはありません。友人に会ったこともほぼなかったです。今思えば、できたらよかったです。
私ができたのは読書です。
教員一年目の夏休み、教材研究上読もうと思っていた本はあったのですが、最初に手にしたのは長編小説でした。仕事に全く役に立たない、生徒に絶対紹介することもない本を貪るように読みました。
4月から、激務であっても、同僚に支えられ、それなりに楽しくやっていたつもりだったのですが、思いっきり違う世界に浸りたかったのでしょう。
「優先順位を間違えた」と思いつつ、すっきりしたのを覚えています。
そして、先ほど「仕事には全く役に立たない」と書きましたが、違っているかもしれません。
生徒は「生き物」です。多様です。その生徒のすぐに誰もがわかる特徴もあれば、本人さえ気づいていないポテンシャルもあります。
モチベーションが上がるスイッチがどこで入るかわかりません。何がきっかけで学びに熱中するかもわかりません。
教育は、言えばわかる、情熱的に語ればきちんと伝わる、というものではありません。
合理的な目標や明確な理由、正当な根拠は絶対に必要ですが、それを振りかざせば、生徒が理想どおりに動くなんてことはありません。
唯一絶対の正解がない中で、教育者はもがくしかありません。一生懸命考えて、「今はこれだ!」「これがベターだ」と思う言動をするしかありません。
そんなとき、単に教育書を読んで学ぶだけではなく、好きなことがあって寝食を忘れるぐらい熱中する時間を持っていることは大事なように思います。
読書、音楽、映画鑑賞、ドライブ、、、何でも構いません。
教員に限らないかもしれませんが、教育という唯一絶対の正解のない仕事、子どもたちに向き合うという仕事においては、余白、遊びの部分があることは必要ではないでしょうか。
(読書の大切さについては)
▼『本を読む人だけが手にするもの』 ちくま文庫/藤原 和博 (著)
3 教育を学び直す
「仕事から離れて」と言った舌も乾かぬうちですが、教育関係の本、ネット情報、文科省の通知等を集中して読むこともお勧めします。
次々に新たな教育書が出版されています。学習指導要領の解説を再読する手もあります。ネットサーフィンし、新たな情報をキャッチするのもよいでしょう。文科省の会議資料等も充実しています。代ゼミ教育総研noteも過去に遡ってお読みいただけると嬉しいです。
教育者として仕事をしているわけですが、余りにも忙しいと、「こんな教育をやりたい」よりも「やらなければならない」の義務感が強くなってしまいます。
また、学校に対する様々な指示や要求があり、応えざるを得ません。それが正当なものであっても、人間は自分が決定に関与していないものに従うばかりだと疲れます。自分が思うことから出発し、対話をしながら自ら考え、決めて、行動する。それが人間らしくあることではないでしょうか。
夏休みの時間を活用し、教育について学び直す。考え直し、本質に迫る。教育情報に能動的に向かい合う。文章と対話をすることで自己を取り戻すのです。
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これは生徒の勉強と同じです。基本的に、生徒は何を学ぶのかを自分で決めるのではないのです。
学習内容は与えられるものです。学習指導要領が定めています。教科書を使って学びます。
どんなに授業の質が高く、楽しいものであったとしても、与えられ続けると疲れます。
だからこそ、授業の中で、生徒が選び取る、生徒が決める時間があるとよいのです。短くても構いません。
また、予習や復習の価値はここにあります。能動性を取り戻すのです。予習や復習をどうやるかは自由であり、自分で決められます。
授業では先生の説明を聞いていた。先生のお陰で、わかった感じがした。しかし、本当にわかったのか。自問自答しながら読み直す。それは学習効果を高めるだけではありません。
人として、息を吹き返すのです。
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先生も同様です。
教育書を読む。よいことが書かれ、理想が描かれている。必要に迫られて読むばかりだと、虚しく響くかもしれない。しかし、夏休みは性急な義務感から自分を解き放ち、今一度理想と向き合ってみることができます。
自分が生きている現実と理想をぶつけ合う。書かれた理想どおりにはできません。しかし、理想と現実のダイナミズムに身を置き直すことで、新たな視点や新たな意欲が生まれると思います。
外部からの通知等の理由や背景を理解することができれば、仕事の納得感も上がります。
様々な読解の中から、新たな考えや提案を作りだすことができれば、夏休み以降の学校改善にも生かせるのではないでしょうか。
(特にオススメするもの)
▼教育振興基本計画(令和5年6月16日閣議決定)
▼『「考える力」を育てるためにSAPIXが大切にしていること』総合法令出版/高宮 敏郎 (著)
4 授業が命
この10年間、授業=学びに係る多くのキーワードが現れました。アクティブ・ラーニング、主体的・対話的で深い学び、学力の三つの柱、コンテンツとコンピテンシー、観点別評価、カリキュラム・マネジメント、個別最適な学びと協働的な学び、学びの主語は生徒、自己調整学習、、、
2022年度から現行の学習指導要領が始まり、一人一台端末も導入されました。
授業観=学習観の転換が求められています。
しかしながら、授業づくりの基礎基本は変わりません。
到達目標や評価の観点の設定、学びのアクティビティを組み立てる授業デザイン、時間配分、発問。
その大前提は、教材の修得です。教材と向き合い、自分が知識を正確に理解しているかと問い、内容を活用して思考・判断・表現できるかを確かめる。この教材を学ぶ意味はどこにあるのか、何が面白いのかをしっかりと掴む。要するに、教材研究ありき、です。
教材に対する深い理解なしに、授業の新たな形だけ身につけても、生徒の学びは薄いものにとどまります。
教材研究に終わりはありません。
私は「進学校」で地理と倫理を長く担当しましたが、学び続けなければ、授業を組み立てることも、生徒の頭や心を動かす工夫もできませんでした。受験でうまくいくためのノウハウ的なことも教えました。しかし、大学入試を超えて、学習内容を味わってほしい。地理や倫理ならではの見方や考え方、マインドを身につけてほしい。真の興味関心を持ってほしい。それは難しくも、やりがいのあるトライです。
夏休みがチャンスです。仕事はあり、時間は有限です。しかし、教科書、学習指導要領、指導書、参考書、関連書籍を一つでも多く読み込み、楽しむことです。
授業づくりはそもそも終わりのない探究ですから、完成度よりも、少しでも時間をかけることにこだわるとよいと思います。たとえ短い時間でも「中途半端だから意味がない」と思うことはありません。
じっくりと学ぼうとする姿勢自体が、皆さんの授業に味わいをもたらします。少しでもその探究に没頭する時間をつくるのです。
2冊の本を紹介します。
▼『まんがで知る デジタルの学び3: 授業改善プロジェクト』さくら社/前田 康裕 (著)
▼『授業づくりの深め方:「よい授業」をデザインするための5つのツボ』ミネルヴァ書房/石井英真 (著)
また、授業に関わる様々な研修機会は、対面でもオンラインでも用意されています。
(代ゼミの教員研修)
▼代ゼミの教員研修 2024年度夏期(対面・オンライン)
▼代ゼミ教員研修 アーカイブス(オンライン)
5 はじめに身体ありき
皆さんは、身体によいことを何かやっていますか。
身体は時に手強く、私たちは思わぬ苦境に陥ることがあります。
学校教育においては「心身ともに健康であること」が顕揚されますが、私はやや違和感を覚えます。
健康ではなくなってしまった状態に対する否定的な価値評価があるからです。
もちろん、健康の大切さは言わずもがなです。しかし、思いがけず、そうではなくなってしまうことがある。
したがって、私は、大事なのは「心身の健康のために自分にできることをやり続ける」ことだと思います。
健康でもそうでなくても、まずは自分の心がけを大切にするということです。
健康のための何か。わかっているけれど、なかなかできない。夏休みは何かを始めるチャンスです。
「三日坊主」を恐れる必要はありません。多くの人がそうなってしまうものだからです。継続できなかったことを嘆くよりも、再び始める自分を褒めてあげましょう。
私の場合は、朝走ることと就寝前のヨガです。
ほぼ毎日走ります。「偉いですね」とよく言われますが、運動音痴で、他にできることがないから走るしかありません。習慣になってしまっただけとも言えます。
走ると、心と頭が整います。考えやアイディアが浮かんでは消えます。家に帰ってから、メモをすることもあります。
走るときは前を向きます。身体が前を向き、一歩一歩前へと足を出すと、気持ちも前向きになります。
夏休み、皆さんも何か始めてみませんか。
(運動の効能について)
▼ランニングが体に与える影響(ナイキ)
(続けるために)
▼『三日坊主のやる気術』大和書房/山崎拓巳(著)
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