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なぜ理系に進む女子が少ないのか? その理由を考察

みなさんこんにちは。#YourChoiceProjectライターのききです。

高校生になると、おそらく多くの人が「文理選択」に直面します。文系・理系に分かれて、それぞれ別の分野の勉強をしていくために、ここで選択することになりますね。文理選択をするときは、自分の興味のある分野・得意な分野は何か、あるいは将来どんな職業に就きたいかなどを考慮して決定することになります。


でも、その選択は本当に中立的でしょうか。文系・理系に関する知識はそれぞれ同じくらい持っていますか?社会にどのような学問があって、どのような職業があるのか知っていますか?選択する際、周りの大人、友人、先生の声に影響されていませんか?本当に自分の意思で選択できているでしょうか?

この記事では、以上の疑問を念頭に、文理選択に関する社会的な問題について考えていきたいと思います。

文理選択に現れるジェンダーギャップ

日本では高等教育における理系分野の卒業生の女性比率が先進国間で極端に低くなっています。2019年OECDの調査によると、STEM分野(科学・技術・工学・数学)の卒業生における女性比率は、OECD加盟国平均で32%、上位のポーランドやアイスランドで42%、イギリスで40%、アメリカで35%…であるのに対し、日本は17%と他の先進国と比べてかなり低く、加盟国中最下位という結果でした。


実際、日本の難関大学の女子比率について見てみると、東京大学では理学部12.6%、工学部11.8%、京都大学では理学部7.9%、工学部10.1%、理系分野の筆頭とも言える東京工業大学全体では14.8%とおよそ1割強という低い値をとっています。[1]

海外の大学は入学後に専攻を決定するので、文理における男女差を国際的に単純比較できるものではありませんが、学生全体の男女比がほぼ1:1であることはよく知られていることです。[2]

ちなみに海外の有名大学では、学生数の男女比が言及されることは少ないという印象を受けました。人数比が重要視されるのは、主に学生の出身地域についてであり、多民族社会における人種問題の存在を反映しています。

文理選択は、学力の差ではない!

では、なぜ理系に進学する女子学生は少ないのでしょうか。

「男子の方が、女子よりも理数系の学問が得意だからではないか」と短絡的に考えてしまう人もいるかもしれませんが、研究者の中では男女に学力差はないとする見解が大半です

2022年度のPISA(国際学習到達度調査)によると、日本は数学的リテラシー(1位・5位)、読解力(2位・3位)、科学的リテラシー(1位・2位)3分野全てにおいて世界トップレベルの成績を収めています。[3]
[3]()の左側はOECD加盟国中、右側は全参加国・地域中における日本の順位。

今回は、理系に注目して論じます。

まず、日本の結果を見ると、科学の分野では統計上有意な差が見受けられません。また、数学の分野においても、統計上有意な差は存在するものの、PISA参加国・地域の中では5位の成績を収めており、世界的に見て日本人女子が理系分野が苦手であることを示しているとは言いがたいといえます。

OECD加盟国平均においても、科学の分野での男女差は±0ポイントと、有意な差は見受けられません。数学の分野においても、平均においては有意な差が存在していますが、参加国81のうち24カ国では有意な差が見られず、また、23カ国では女子の方が成績が高くなっています。

以上から、理数系学問の学力において、顕著な男女の差があるとは考えにくいといえます。もし仮に理数系学問の学力に男女差が生じているならば、それは生体的な差ではなく、社会的に生じてしまった差であるということが言えます。

なぜ理系を選択する女子は少ないのか?

では、なぜ学力において性差が見られないのにも関わらず、理系を選択する女子は少ないのでしょうか。


内閣府が2021年に行なった調査によると、理工学部志望の女子学生には、

  • 数学や物理が好き

  • 成績上位

  • 幼い頃に科学的体験が多い

  • 保護者が理工系に進学していた割合が多い

などの特徴が見受けられるという結果が出ています。


前者3点は、容易に想像しうる理由ですが、特筆すべきは、最後の観点です。

この調査によって、女子学生の進学選択は母親の経歴に強く影響を受ける傾向にあることが示されました。女子学生にとって、母親はいちばん身近なロールモデルであるとも言えます。しかし、母親世代においても理系進学者は少数派であったと考えられるため、負の連鎖は続いてしまうのです。

また、幼い頃の科学的体験における男女差は調査では対象としてはいないようですが、保護者のアンコンシャスバイアスが差を生み出している可能性を指摘することもできます。


ちなみに、理系科目への好みの差・成績、理系に対するイメージに関して、人口規模での傾向の差は見られませんでした。ですが、人口の少ない地域においては都市部に比べて、

  • 科学系イベントのなどによる理系経験の機会不足

  • 保護者の学歴や家庭の経済状況の相対的不利

  • 地域における大学収容力、理系学部収容力の低さ

などの傾向があります。それによって、女子学生が進路選択において、より偏った考えを抱いてしまう可能性を孕んでいます。内閣府は人口5万人以下の地域への啓蒙を、女性の理工系分野への進路選択を促進するうえで重点的に取り組むべきであると捉えているようです。

女子の理系進学を増やす方法とは?

ここまで、文理選択に現れるジェンダーギャップの現状とその原因について考えてきました。その結果、原因として理系進学を選択肢として想定できていない女子学生が多数存在する、という状況があることがわかりました。では、女子学生に理系進学を選択肢として提示していくためにはどうしたら良いのでしょうか。実際の取り組みを見ていきましょう。

①自治体が主導する

2021年度「学校基本調査」(文部科学省)をもとに内閣府が外部機関に委託して分析したところ、4年制大学の理工学系学部に進んだ高校生のうち女子比率が最も高かった都道府県は山形県でした。その割合は唯一20%を超えています。全国平均では15.2%であり、山形県に続いて東京都、岩手県、熊本県と続きます。

山形県では、山形大学が牽引役となって、女子中高生の理系分野への興味や関心を高め、理系分野への進学を支援することを目的としたプロジェクトを行なっています。県内の各市町村と連携し、女性の研究者や大学院生が出前講義や進路講和などのプログラムを県内全域で提供しているようです。

日経新聞の記事によると、これらの取り組みは、女子学生にとってロールモデルに接する機会になっていると評価する声が多くみられます。女子学生に「研究者」という選択肢を提示できたり、オープンキャンパスへの参加や研究室訪問のきっかけになったりなどの効果がみられたようです。

②実際に中高生にアプローチする

同様の取り組みは各地で見られます。2023年、岐阜大学が女子中高生を対象にした理系イベントのバスツアーを開催しました。[5] 宮崎大学工学部も同様に、女子中高生を対象とし、サイエンス関連の体験講座、施設見学、講演会などを実施ています。[6]

各地で似たようなイベントを実施しているので、中高生も保護者の方もぜひ調べてみてください。身近な機関が開催していることがあるかもしれませんよ!

東京大学男女共同参画室でも、女子中高生の進路選択を支援するため、学部・大学院と連携して、シンポジウムや見学会などを実施しています。こうした理系進路への選択支援として位置づけられているイベントは、各学部、各研究室によって開催されています。女子中高生や保護者に向けて、理系の魅力や、理系に進学した際の将来のキャリアなどを発信しており、最先端の科学にも触れる機会になりそうです。参加費も無料で、オンライン開催のものも多いようですので、ぜひ一度調べてみてはいかがでしょうか。

③「女子枠」という方法

より強制力のある措置として、「女子枠」の制定が行われていることもあるようです。多様性の確保という観点から、大学側も理工系の女子比率の低さを問題視するようになりました。

東京工業大学は2024年4月入学の学士課程入試から、総合型選抜および学校推薦型選抜において女性を対象とした「女子枠」を導入することを決定しました。2024年、2025年の入試で女子枠を順次導入し、最終的に女子の募集人員は全入学者の約14%に相当する見込みです。この取り組みと一般入試の合格者を合わせて、女子学生比率が全ての学院で20%を超えることが期待されています。

他にも名古屋工業大学(2024年)や、富山大学(2022年)などの国公立大学も女子枠を導入しています。

女子枠制定は、高校時における文理選択には直接関与しないように思われるかもしれません。ですが、女子枠の設定により、その大学そのものへの関心が高まったり、理工学系への進学に抵抗が少なくなったりという良い影響が想定されます。

まとめ

以上、文理選択におけるジェンダーギャップの現状についてみてきました。日本ではいわゆる理工系分野で女子学生の進学割合が少ない傾向にあり、その背後には、ロールモデルの不足や周囲のアンコンシャスバイアスにより、女子学生が理系分野でのキャリア形成のイメージを持ちにくいという実態があると考えられます。こうした問題に対し、大学などによる女子中高生への科学イベント、進路相談の実施や女子枠の制定などの施策が取られています。

もちろん、この記事は文系・理系の差や優劣を論じたものではなく、理系に進学することを推奨しているわけではありません。全ての女子学生が平等に十分な知識に触れる機会を与えられ、自分の意思で進学選択ができるような社会になれば、と思っています。

なんとなく周りだけを見て文理選択するのではなくて、自分の知識・考えが偏っていないかどうかもう一度見直してみてください。みなさんの選択を応援しています!


[1] 令和5年度版。東工大は、令和4年度版。

[2] それぞれ、ホームページから女子生徒割合:オクスフォード大学で51%(2006-2023年度の総計)、ハーバード大学で52%(2021年度入学)、MITで48%(2022年度学部生となっている。

[3] ()の左側はOECD加盟国中、右側は全参加国・地域中における日本の順位。

[4] 表の()内は順位。

[5] 2023年7月15日朝日新聞朝刊、岐阜全県版。

[6] 2023年5月20日朝日新聞朝刊、宮崎全県版。

参考

OECD iLibrary. (2023). PISA 2022 Results (Volume I): The State of Learning and Equity in Education.<https://www.oecd-ilibrary.org/sites/53f23881-en/index.html?itemId=/content/publication/53f23881-en >(2024年3月16日閲覧)。

OECD org. (2022). Share of women graduates in STEM fields. <https://www.oecd.org/coronavirus/jp/data-insights/did-someone-say-women-in-science>(2024年3月16日閲覧)。

⽂部科学省・国⽴教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント」<https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01point2.pdf>(2024年3月16日閲覧)。

東京大学「令和5年5月1日現在 学部学生・研究生・聴講生数調」、<https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400215809.pdf>(2024年3月16日閲覧)。

京都大学「京都大学概要2023 データ編|学生数等」、<https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/inline-files/KyotoUfactsandfigures20235-2f124f258d290e450fcc51a0b7439013.pdf>(2024年3月16日閲覧)。

東京工業大学「教職員・学生数」

< https://www.titech.ac.jp/public-relations/pdf/facts-2-student-2022.pdf >(2024年3月16日閲覧)。

東京工業大学、ホームページ、「東京工業大学が総合型・学校推薦型選抜で143人の「女子枠」を導入 ダイバーシティ&インクルージョンの推進を目指して2024年度入試から順次実施」<https://www.titech.ac.jp/news/2022/065237>(2024年3月16日閲覧)。


山形大学「ヤマガタ 夢 ☆ 未来 Girls プロジェクト ~人の役に立つ仕事を探そう ~」<https://yumemirai-girlsproject.aiyweb.com/>(2024年3月16日閲覧)。

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