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【東大卒ママ座談会】 親になった今考える「地方女子」の障壁

はじめに

#YourChoiceProject ライターの竹内です。実は、私は学生ではなく社会人で、東京大学を卒業したのは10年以上前のことです。ですが、自分自身高校時代までを地方で過ごした経験から、#YourChoiceProjectの活動にとても共感し、こうして記事を書かせていただいております。

 今回は、私と同様に地方から東京大学へ進学し、今は働きながら子育てをしている2人の卒業生に話を聞きました。彼女たちの経験談をもとに、昔と変わらない点、昔から変わった点、教育や地方におけるジェンダーギャップの実情や乗り越え方などを考察していきたいと思います。


お話を聞いた2人のプロフィールを簡単に紹介します。


・Yさん 岡山県津山市出身、2008年度東京大学文学部卒業、8歳男の子のママ

・Aさん 岐阜県土岐市出身、2009年度東京大学文学部卒業、8歳女の子のママ


2人とも、地方出身女子当事者として、また、今は東京で小学生のお子さんを育てている親としても実感するところを語っていただきました。


地方在住で「東大を目指す」ことのハードル


——2人はなぜ地方から東京大学を目指したんでしょうか?


Yさん 本当は医師になりたかったんですが理系科目があまりにも苦手だったため、医学部を諦め文転したんです。その悔しさからいちばんいい大学に行きたかったという思いで東大を目指しました。当時は進学校にいたので、それも自然なことでした。ただ、私の場合はその進学校に行くまでのハードルが高かったですね。そもそも中学受験をしたのが、小学校全校生徒の中で自分と兄だけという環境だったので。


Aさん 私は両親が旧帝大卒だったこともあり、教育に関して厳しい指導を受けてきました。本当は芸術系に進みたかったのですが、親から「芸術系は不可、地元の名古屋大よりランクが上の旧帝大であれば、文学部への進学は容認」という条件を出されていたため、親と私双方の希望を満たす場所が東大以外に存在しませんでした。アルバイト禁止で家出するお金もなかったため、正々堂々と家を出るには東大に行くしかなかったのもあります。


——実家を出たいからという理由は地方女子あるあるですよね。東大を志望すると言ったとき、家族の反応はどんなものでしたか?


Yさん 親からは最初は笑われましたが、途中から真剣さが伝わり、応援してくれるようになりました。ただ、親戚からは「嫁の貰い手がなくなる」「実家に帰ってこなくなる、両親はどうする」等のネガティブな声も少なくなかったように思います。


Aさん 父親は私の成績に厳しい一方、「女の子が東大にいっても結婚相手が見つからず不幸になるのでは」と母にはこぼしており、現在も否定的な気持ちがあるようです。母親からも「なぜ、そこそこの大学で十分なのに東大なのか、資格も取れない人文系の学問なんて経済的な成功にはつながらないから無意味だ」という言葉をかけられたこともあります。


入学後も卒業後も存在したジェンダーギャップ


——「結婚できない」が定番の心配ごとなんですね。大学入学後にジェンダーギャップを感じたことはありましたか?


Yさん 周囲の大人たちの影響からか、男の子は稼げた方がよく、女の子は愛嬌が大切、というステレオタイプが自分にも多少刷り込まれていたように思います。なので学内で「東大女子お断り」というサークルを見て、自分たちは「愛嬌がない」「可愛くない」と思われているんだろうなと感じても「それが普通だ」と思っていましたね。反発する気持ちもなく、おかしいとすら思いませんでした。最近になって、上野千鶴子先生の祝辞などでそれに触れてくれて、やっとおかしかったよねと再認識できた感じです。


Aさん 私はもともと大学院進学を希望していたのですが、「首都圏に実家のある女子は(実家があるので)進学できる、地方女子が同じ立場だと思うな」という発言を親から聞いたことがあり、ジェンダーというギャップと同等に「地方」がギャップなのだなと痛感しました。一方で学内の男子は、想像していたよりも感じがよく、きちんと対等に話せたのは良い意味で衝撃でした。​​


——上野先生の祝辞は当時話題になりましたね。大学卒業後の社会人生活ではジェンダーギャップを感じたことはありますか?


Yさん 新卒で商社に入社したとき、初めて女性の総合職を採用した部署に配属になったんです。飲み会ではセクハラが当然でしたし、それを我慢しないと出世できないような雰囲気がありました。男性とは扱いも求められているものも全然異なっていたように思います。そして、それについても特に違和感やギャップを感じていませんでした。今になって、そんな自分の価値観も問題だったと感じています。


Aさん  結婚に関しては、かなりのジェンダーギャップを感じました。30代目前になると親からも急に「20代後半で結婚できないなんて、何の高望みをしているんだ」「学生時代が終わったんだから、賢い女なら金のために結婚せよ」などと言われ、私の事前承諾なしに見合いが組まれて断るのに苦労する、断ると「選ぶ権利があると思うな!」と暴言が降ってくるなどの目に遭いました。その際も「東大なんかに行ったから配偶者が探しづらいのでは」と親戚が心配している、という触れ込みつきでした。


親が子どもに対してできること


——そんな苦労を経験しながらも、東大に行ってよかったと思いますか?また、自分の子どもへの教育にも影響がありましたか?


Yさん 人生学歴だけではないことは前提として、大学という環境が自分たちに与えてくれるたくさんのもの、例えば「努力できた自分への信頼感」「社会的に影響力があり、活躍している人たちとのつながり」「選択肢が広がる」「周囲からの信頼」などは、間違いなく努力に見合ったものだと感じます。自分の子どもにも広い選択肢を提供したいという意味で勉強を頑張ってほしいですね。「知らないことを知ること」「知識を使って人に価値を提供すること」「新しい価値観と接すること」、広義での「学ぶ」ということの楽しさを一緒に感じたいです。​​


Aさん 私にとって東大での時間は、「好きなだけ学び語り合うことのできる圧倒的な自由」の経験でした。特に卒業してからは、いかに恵まれた環境だったか実感し、愛着が高まったと思います。 そのため子どもにも、もし学ぶことや学問に興味があるなら、恵まれた環境でなんでも学んでほしいため、当然東大を含む大学・大学院進学を前提に子育てしていますし、子育てや教育環境への投資は収入の割に多いです。大学学費と仕送り両方を支払うことの金銭的負担を考えると、せめて進学先の選択肢が多い首都圏にいたいという希望もあります。


——自分が経験したからこそ環境の良さが実感できるし、東大に限らず、そうした伸び伸びした環境で学んでほしいと思いますよね。地方女子が東大を目指すハードルはどうしたら越えられると思いますか?


Yさん 地方だと、医師などの意識の高い親、十分な時間・お金などのリソースが都心以上に必要かもしれません。兄弟が多い場合は男子が優先される傾向は今も強いと聞いているので自分は期待されていないんだ、頑張らなくてもいいんだ、というような意識が植えつけられる可能性もあります。狭い村社会が残るところも少なくなく、まだまだ古い価値観に苦しめられている人もいるかもしれません。ですが、今ならSNSなどでさまざまな価値観に触れることができるので、諦めずに味方やロールモデルを探してみてほしいです。


Aさん 困難ですが、道はあります。まず高校選択の段階で、地域のトップ校かつ、首都圏への合格実績がある高校を目指すことをおすすめします。地方の高校(特に公立)では、地元の有名大学への合格実績を重視する一方で、首都圏への進学はリスクが高いため、先生に煙たがられる傾向にあります。それはそういう構造だから仕方がないと割り切り、決して自分の能力を嘆かず、地道に理解者を探してください。学校の先生1人ぐらいは話せるかもしれませんし、塾の先生、友人、友人のご家族も味方になってくれるかもしれません。奨学金制度などは自分から動かないと教えてもらえないことも多いので、粘り強く味方を探してください!


——地方在住のご家庭でも、親御さんが首都圏への進学のハードルを下げるためにできることはありますか?


Yさん 私自身は、父はまったく無関心であったものの、教師であった祖母、女性も一定の教育を受けるべきだという考えの母の下、時間や金銭をなげうって教育に投資してくれました。本当に恵まれていたと思うし、感謝してもしきれないです。

金銭的な面ではやはり奨学金、自治体の助成など自分たちが身を切りすぎず子どもたちの可能性を伸ばしていける制度をしっかりと調べて有効活用すべきだと思います。都心程の身近な情報源がないながらも、学校で得られる情報、学習塾や教材の情報に至るまで、頑張ろうとしている子どもを支援するための情報はオンラインで調べることができます。

オンラインは広告含め信頼性に欠ける情報も多いので、バックアップとして周囲の人脈作りからつながっていき、成功した先輩方の体験談も大いに参考になりますし、WEBセミナーなどで首都圏の受験生の生の声から得られる情報等もありますね。親自身がアンテナをはり、自分、環境の限られたリソースの中で得られるものをフル活用して応援する姿勢そのものが子どもにとっては大きな糧となると思っています。


Aさん 特に地方の女子たちは、謙虚で思いやりがあり、他者を自分よりも優先できる思慮深さがあるものです。能力が高いほど、他者の背景が透けて見えるので、自分の都合を後回しにしてしまうことはよくあります。けれど、そうした優れた特性は、能力を最大限に活用できる場所でこそ、使いがいがあるものです。

私自身は受験前に一度上京したことで、さまざまな人に会い、自分が抱えてきた問題は自分のせいじゃないと気づくことができました。後に続く世代や、すべての弱い立場の人のために、フェミニズムを学ぶことをお勧めします。一冊読むなら、イ・ミンギョン著、すんみ・小山内園子訳『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス、2018年)です。

まとめ

地方女子には、地方におけるジェンダーギャップの大きさ、仕送りなどの経済的負担などさまざまな要因が障壁として立ちはだかっていること。そして、それが10年以上経った今もまだまだ残っていることを、彼女たちの話を聞いて痛感しました。また、地方女子が「地方を出にくい理由」と「地方を出たがる理由」は共通のものがあるのだと改めて感じました。


ここ数年、地方から女性が去っていくという問題がニュースでも何度か取り上げられています。実際、私の友人でも東大卒に限らず、地方出身の女性はほとんど首都圏に残っているように見受けられます。その背景には、雇用や男女の賃金格差といった問題があると言われていますが、彼女たちの話を聞いていると、それ以前に結婚や教育に対する女性への風当たりの強さがあるのではないでしょうか。「地方から東京に」のハードルを下げるためには、「東京から地方に」のハードルも下げて、人の交流を増やし、地方にいても新しい価値観に触れやすくしていくことが求められているのかもしれません。

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