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中原俊&三谷幸喜「12人の優しい日本人」は日本では珍しいシチュエーションコメディの傑作映画。

オリジナルは、三谷幸喜の戯曲。自ら主宰する劇団・東京サンシャインボーイズのために書き下ろし、1990年7月30日に東京・シアターサンモールで初演、『しんげき』(白水社)1991年7月号(No.461)に掲載された。映画『十二人の怒れる男』へのオマージュとして、「もし日本にも陪審制があったら?」という架空の設定で描かれる法廷劇・密室劇。『十二人の怒れる男』での展開や設定を基にしたパロディが各シーンでみられる。(ウイッキィペディアより引用)

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■1990年当時まだ日本には「裁判員制度」がなかった

この作品が書かれた1990年には、まだ、日本の「裁判員制度」が施行されていなかったのです。

日本の「裁判員制度」は、2009年<平成21年>5月21日に施行されます。

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■三谷幸喜が参考にした傑作映画『十二人の怒れる男』とは

『十二人の怒れる男』(じゅうににんのいかれるおとこ、12 Angry Men)は、1954年製作のアメリカのテレビドラマ。またそのリメイクである1957年製作のアメリカ映画。これらを原作にして制作された舞台作品。原作はレジナルド・ローズ。
「法廷もの」に分類されるサスペンスドラマ・サスペンス映画であり、密室劇の金字塔として高く評価されている。ほとんどの出来事がたった一つの部屋を中心に繰り広げられており、「物語は脚本が面白ければ場所など関係ない」という説を体現する作品として引き合いに出されることも多い。日本では、アメリカの陪審制度の長所と短所を説明するものとして、よく引用される。(ウイッキイペディアから引用)

私は、アメリカ映画版しか観たことがありません。映画「十二人の怒れる男」は傑作です。「正義と何か?」「多数決の持つ問題点」「民主主義とは何か?」など、社会的なテーマを、エンターテインメントとして見事に昇華させた歴史的名画です。

シドニー・ルメット監督作品。ヘンリー・フォンダ主演。本作品が映画監督デビューとなったシドニー・ルメットは、1957年度の第7回ベルリン国際映画祭金熊賞と国際カトリック映画事務局賞を受賞した。同年度のアカデミー賞で作品賞を含む3部門にノミネートされました。

未見のかたは、ぜひ、御覧ください。

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■映画版「12人の優しい日本人」(1991年)は、中原俊の丁寧な演出が光る

とある殺人事件の審議として12人の日本人が個室に集まる、
みな話し合いをはじめる前から「無罪」にするムード。だって、「有罪」にすると目覚めが悪いし、犯人に逆恨みにされるのはイヤだし・・・といういかにも「日本人的」な雰囲気がムンムンしています。
容疑者は若くて美貌の妻で別れる話し合いの末、男をトラックに突き飛ばし
殺した容疑がかかっていた。
しかしまだこれからの人生があるからと殺人の有無は関係なしで、無罪にするムードが漂う中、念の為採決をして審議を終わらせようとなるが、12人のうちひとりだけ有罪で挙手し「話し合いましょ」と提案。
一同が一斉に非難するも男はくじける事なく話し合いを提案、こうして長くて面白い話し合いがはじまるのであった・・・。

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アメリカ映画である「十二人の怒れる男」は有罪が集まる中、ひとりだけ無罪、それも人の命がかかった大事な審議だから簡単に済ませてはいけないという理由で話し合いが進むけど、今作は「なんとなく無罪」、とか「みんなが無罪だから」とか日本人のファジーな部分を皮肉にしつつ、ひとりだけ有罪で始まる真逆のスタイルだから面白い。そこにダヨーンのおじさんとかジンジャーエールのエピソードとか三谷幸喜らしい笑いのエッセンスが加わり、
陪審員関連の作品の中では傑作と言ってもいいほどの作品に仕上がってます。

中原俊監督は、テレビドラマ「桃尻娘」や映画「櫻の園」で確立した、舞台劇のようなリハーサルを何度も繰り返し行い、役者ひとりひとりがう役柄になりきるまで待ったと言われています。そのためか、「演劇」を観ているかのような錯覚を感じます。

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■気がつくと、観ている自分が「13人目」の陪審員になっている

部屋からほとんど出ないのに面白い。キャラクター一人一人に個性があり何故その人がそういった意見を持っているのかが人間性から分かってしまう気がします。
話し合いのクオリティが高すぎて終盤は事件の映像は一瞬も流れてないのに自然と頭の中で再生されます。

1人が言った意見に対して、「それは違う」と言うだけでなく
「○○だから○○は違う」と芯の通った意見が飛び交う。

これぞ"話し合い"。気づけば13人目の陪審員となって話し合いに参加してしまっていることに気がつく、といった仕掛けが仕組まれています。

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■豊川悦司の演技が突出している

この映画、豊川悦司演じる陪審員(自称、弁護士の男。実は…)が本格的に議論に入ってからの怒涛の展開がスゴイ。

くわしいことはネタバレになるので書けませんが、それまでのすべてが「ひっくり返っていきます」。三谷幸喜の脚本が素晴らしすぎます。ワクワクドキドキしっぱなしです。

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劇団3○○の渡辺えり子が「豊川悦司だけはやめさせたくなかった」という気持ちがわかります。

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■あらすじ。(ネタバレすれすれですので未見の方は飛ばしてください)

■陪審員として選定された12人、殺人事件の判決について無罪か有罪かを
会議室で審議。
全員一致の結論が出なければ評決は決まらず、その場合は解散し別の
陪審員に引き継がれる。
■一同、喫茶店に出前を頼む。アイスコーヒー、ホットコーヒー、パフェなど好き勝手な注文に取りまとめる方も大変。
委員長の男が仕切り始めるが、順番通りの手順でハンドブック読み上げ
も面倒くさそうな意見もあり省略した。
■事件の経緯は、容疑者である若いシングルマザーの母親が別れた夫を突き飛ばしトラックに轢かれて死んだ事件。
目撃者のおばさんは「死んじゃえー」という母親の声を聞いたとの証言もありしかし母親は殺意がなく無罪を主張。
■一同無罪に傾く中で、熱い男ただ一人有罪を主張、もっと話し合いましょうと声高に主張。
結局収集つかず、有罪が一人だけであれば無罪とすることにしたが
一人ずつ紙に結論を書いて集計すると有罪が二票あった。誰が意見を変えたのか?しかしよく数えると13枚あって、熱い男が2枚書いていたのだ。
■クールな男(豊川悦司)タバコをぷかぷか、仕事があるので早く帰りたい男、天然っぽい女性、フィーリングで答える根拠レスのおっさんなど、意見はまとまらない。
メモ魔の女性に対し、上目線の男が論理的にやり込めようとする。
自分の職業は歯医者だ、あんたは嘘か本当か当てられるか?といいメモ魔女性は本当ですというが男はハズレという。
元夫が碌でもない男で死んで当然だと熱く語る男。
■議論は次第に有罪派が増えてきた
これまで黙っていたクール男、弁護士だとのこと。
流れが有罪に傾く中で、素朴系のおっさん、おばちゃんがなんかモヤモヤすると言い出して周りからはっきりしろと詰められる。
彼らを味方すべくクール男は時間稼ぎに、ピザを注文。
容疑者の母親が出前に取ったドミソピザで、大きさ的に子供と二人では大きすぎるのではないかという検証のためだった。
みんな文句を言いつつもその検証することは同意。

さて、このあと、どうなるのか!

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■中原俊はこの映画のあと・・・

中原俊監督は本作の次に、中島らも原作の「今夜、すべてもバーで」を映画化する予定でしたが、結局、頓挫してしまいます。残念です。観たかったのに。

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■この映画を観て、「陪審員映画(戯曲)」に興味を持った人は・・・

筒井康隆の「12人の浮かれる男」をお読みになることをオススメします。これはこれで、笑える傑作です。アメリカ映画「十二人の怒れる男」のパロディです。ときどき、舞台でもやっています。私は、某劇団の公演を観ました。大笑いしました。文庫でも発売されています。ぜひ。

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