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散文

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短くて読みやすい文章のまとめ。
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春眠

春眠

201812300739

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「人生を季節に例えると、何から始まって何で終わると思う?」

教室でふとそんな話題が出たのは、放課後の掃除をしている時だった。
担任の長話のせいで、よそのクラスはとっくに掃除を終えて散会しており、うちのクラスがどんじり。教室にはHR教室の清掃当番の僕等5人のみ。
校庭からは既に野球部の準備運動の声が聞こえている。遅刻して行くとこっ酷く怒鳴るコーチの事を思い浮かべて

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確信

確信

202007080834

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苦しくて苦しくて、今に死ぬ明日には死ぬああクソ、何もかんも恨めしく思える、絶望の一端を嘗める、行き場も無く呻き声が漏れ出して四畳半の空間に紛れて空気がどろりと重たく沈む。
一頻り遣り場なく踠いて、ようやく気を失うように眠れる。と思ったら1時間毎に冷や汗に塗れて目が覚め、熱る脊椎と凍る関節をしくしく感じる。
そうやってギョロリと軋む目玉に早朝の白い光が差して、諦めて

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微睡み

微睡み

201903100137

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やはり私は、

自分の事を酷く浅ましい下賤な人間だと思うのです。
だってほら、ああこう言うだけで生温い陶酔に満たされてとても安心する。居心地の良さ。ぬくぬくと留まっていたい。

今日も他人様に助けて頂きました。
毎日毎日他人様の有難いご配慮によって生かされております。

幾つになっても気が利かぬ、他人様の顔色を窺っては読めず、檄しやすく、容易く他人様を傷付けてはつ

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濁り水

濁り水

202208291837

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地味な事務員がやや開脚気味に橋の端にしゃがみこみ、柱の隙間から水面を撮っている。会社での多少取り繕った仕草はどうしたのだ、と言いたくなるくらいみっともなく何をも気にかけない座り込みっぷり。折りしも雨が降り出した往来で片手に引っ掛けた傘は横転してゆらゆら、濡れるのも厭わず、向こうの橋を通りがかった電車の動画まで撮り始めた。まだ会社から徒歩三分も離れていない大通り、帰

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五月の雨

五月の雨

201905010835

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このところ毎夜悪夢に魘される。
捨ててきた家族に代わる代わる責められる夢だ。
父、母、母方の祖父母、皆々地獄の門卒の様に醜悪な顔をして、息つく暇無く唾を飛ばしてがなる。

ところが、今日の夢は様子が違った。
父と母が5歳くらいの童になって、それぞれ私の両袖を摘んだ。
表情は不明瞭で感情が読めないが、所作は年相応に可愛らしい。
しかし、意外にも袖を掴む力は強く、必死

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シャトルラン

シャトルラン

202008131054

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「シャトルラン」って覚えてますか。私の人生はここまでずっとずっとシャトルランです。先へ先へ記録の先へとひたすら似たようなところをぐるぐるしている。ずっとずっと走り続けているのに、いや走り続けているから、どんどんどんどん音が速くなって私を置いていく。どこへ行ける訳でもないけど記録用紙の評価が上の方になって気分がいい。

私体育は苦手でね、でもシャトルランだけはいっつ

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