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市内RPG 19鳴いたアブラゼミ

レベル8のぼくら、勇者、戦士、魔法使い、僧侶の友だちパーティーは、横熊山遺跡で、ピンクのアブラゼミを見つけた。

そのピンクのアブラゼミが、目の前でデカくなっているのだ。

初め見たときでも十分デカかったのに、もう高さが2mくらいになった。 

ピンクの巨大アブラゼミ。

「まおたをさばひらをかぱんにいけ」
と鳴くたびに大きくなっていったアブラゼミ。しかし、苦しそうだ。謎の呪文?巨大化の呪文?

アブラゼミの目が青く光っている。身体はピンクなのに。

アブラゼミはぶーーーーんと羽音を鳴らした。

「痛っ」戦士ヤスが足をおさえて、うずくまった。足下の草むらが切り裂かれている。

「真空刃よ」僧侶のカナが言った。

「危ない、危ない。これじゃ役に立たないな」
魔法使いヒラは、盾代わりに持ってきた簾を見ながら言った。

「とにかくぶっ叩く!」
戦士ヤスが痛みをこらえて、アブラゼミの懐に飛び込んだ。そして、顔の右側を、バトルステッキでぶっ叩いた。
アブラゼミは大きくひるんだ。

ぼくもすかさず左足をヒノキボーでぶっ叩いた。
アブラゼミは少しだけひるんだ。

「アツッ」魔法使いヒラが火の呪文を唱えた。
火の玉がアブラゼミの頭に当たった。

巨大アブラゼミが前足を突き出す。

僧侶のカナが両手でガードする。装備している少林寺拳法の道着が焦げるにおいがした。
「これはもたないわ」

ぶーーーーん!

「カナ、避けて」

また、真空刃だ。なんとかしないと。

ぶーーーーん!

「危ない!」
ぼくはアブラゼミから離れた。切られた草が宙に舞っている。

ぶーーーー。

「これじゃ近づけない」
そう思ったとき、カナがアブラゼミに向かって飛び込んだ。

カナは木魚でアブラゼミのムネを叩いてから、跳び下がった。

真空刃は放たれない。

「なるほど、予備動作のときに攻撃すればいいんだ。かしこい!カナ」
ヒラが叫んだ。

ぶーーー。

予備動作だ。ぼくら4人はアブラゼミに駆け寄り、攻撃する。

繰り返すうちに、アブラゼミの動きが鈍くなってきた。

これはチャンスと思ったとき、突然アブラゼミが鳴き始めた。

ジーーーー、ジーーーー。

鳴き声の振動が、ぼくらを襲う。

みんな耳を押さえて倒れ込む。もう少しなのに。意識が飛びそうだ。

「キコエン」

カナが呪文を唱えた。

覚えたての聴力を鈍くする呪文。

耳鳴りが止んだ。

カナが何か話しているが、声は聞こえない。

ただみんなアブラゼミに突っ込んでいった。

とにかく叩いた。みんなで叩いた。

魔法使いのヒラは雷の呪文ビリーを唱えたみたいで、ぼくらはその巻き添えを少し喰らった。

身体が痺れる。ヒラのやつ、余計な呪文を、、、。

意識が飛びそうになったとき、巨大なアブラゼミは動かなくなった。

戦士ヤスはしつこく攻撃している。

「もういいよ」

あ、まだキコエンの効力が残ってるのか。

「キコエルー」カナが聴力を高める呪文を唱えた。

「もういいよ」
発した声の大きさに驚いた。調節が難しいな。

ぼくらは小声で話した。
「危なかったね」ぼくは言った。

「カナのおかげで助かった」ヒラも続けた。

「ビリーは余計だったわよ」カナはヒラに言った。

「そう、そう。まだビリビリする」ヤスが続けた。

「とにかく勝てたみたいだから」
ぼくは2人をおさめた。

「写メして。報告、報告」
ヒラが言った。

ところが、あんなに巨大だったアブラゼミは、だんだん小さくなっていく。

「早く写メして」
カナが叫んだときには、小さなピンクのアブラゼミになっていた。

「大丈夫かな、コレ。苦労は伝わるかな」
写メして市役所に送信すると、すぐ返信があった。
「経験値1800、2000円獲得。レベル9」

「やったあ! 今回は報酬もデカい!」
思わずヤスが叫んだ。


前回まではこちら。

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