東 曜太郎

作家。92年生まれ。19世紀エディンバラを舞台にした怪奇冒険小説『カトリと眠れる石の街…

東 曜太郎

作家。92年生まれ。19世紀エディンバラを舞台にした怪奇冒険小説『カトリと眠れる石の街』と続編『カトリと霧の国の遺産』(いずれも講談社)が発売中です。ここでは読んだ本の感想などを書いています。

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『カトリと霧の国の遺産』が出版されます

9月28日に『カトリと霧の国の遺産』が出版されます!『眠れる石の街』に続くシリーズ二作目です。 挿絵、カバーはまくらくらまさん、装丁は next door design の岡本歌織さんです。前作と統一感がありつつもガラッと変わった、より瀟酒なデザインにしていただきました。帯文には廣嶋玲子先生にありがたいメッセージをお寄せいただきました。感謝申し上げます。 今作も地図が入っているのですが、まくらさんがなんと実際の羊皮紙に書き込んでいただいたものだそうです。素晴らしい地図にな

    • 月記:2023.11

      最近読んだ本や音楽その他。 シオドア・スタージョン『一角獣・多角獣』 SNSで勧めている人がいたので読みました。著者のスタージョンはSF作家ということになっていますが、幻想、ファンタジー色が強い作品が多いです。幻想耽美な描写にもかかわらず、全体的に無頼派感というかヤンキー精神みたいなものが見え隠れするのが面白いところで、実際、著者は結構な変わり者だったそうです。「熊人形」("The Professor's Teddy-Bear"をこう訳すのもすごい言語感覚……)が良かった

      • 月記:2023.6

        久しぶりに更新します。最近触れた本、音楽、映画など。 阿部謹也『中世の星の下で』 中世ヨーロッパの習俗に関するエッセイ。星が人に与える影響、石の持つ呪術性、橋の霊性、聖なる煙突掃除人、人狼など。中世ドイツの人々が生きた宇宙を説明する。こういうの好きです。 澁澤龍彦 『私のプリニウス』 良い意味で肩の力が抜けたエッセイ。うろ覚えで書いているところも大分ある気がします。教養人なのでこのくらいの文章は軽く書けてしまうんだろうな。 古典はどうしても肩肘張って読まれてしまうもの

        • ソーラーパンクについて考えていること

          近頃「ソーラーパンク」という概念が気になっています。日本語のwikiはまだなかったので作ろうかと思ったのですが、どうせなのでブログに書いてみることにしました。 ソーラーパンクの概念 ソーラーパンクの定義は曖昧ですが、基本的にはソーラーエネルギーや再生可能エネルギーなどのエコロジカルな技術が進歩した未来社会のビジョンのことです。英語版のwikipediaではその主要な要素を、「再生可能エネルギー」「悲観的な未来予想への対抗」「持続可能な技術発展」「DIY精神」と定義していま

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        『カトリと霧の国の遺産』が出版されます

          月記:2023.1

          最近触れた本、音楽、映画など。 U・エーコ 『薔薇の名前』 再読。学生時代に読んだ時よりも読み進めやすかったです。以前はよくわからない文章を読むことが苦痛だったのが、最近はフラットに受け入れられるようになったのかもしれない。それがいいことなのか悪いことなのかわよくわかりません。 小川哲 『地図と拳』 とても面白かったです。『百年の孤独』を思い起こすと設定ですが、舞台が近代の満洲なので、書き手も読み手も距離感が難しいかも。一貫してドライな視点で話が進みますが、それだけに

          月記:2023.1

          月記:2022.10

          最近触れた本、音楽、映画など。10月はあまり本を読めなかったです。 S. Elizabeth 『The Art of Occult』 キュレーターのS. Elizabethによるアートブック。「オカルト」を原義の「隠されたもの」と捉え、各時代や地域において正統とされている世界観では説明できないものへのアプローチとしての「オカルト」アートを紹介しています。神智学、カバラ、星座、錬金術、あるいはレオノラ・キャリントンのようなザ・オカルトといったものから、現代日本のポップアート

          月記:2022.10

          『カトリと眠れる石の街』が出版されました!

          第六十二回講談社児童文学新人賞で佳作をいただいた『カトリと眠れる石の街』が9月27日に講談社から出版されました。そろそろ全国の書店に届く頃とのことです。 本作は19世紀末のエディンバラを舞台とする怪奇冒険小説です。 あらすじは下記の通りです。 表紙画、挿絵はまくら くらまさん、デザインはnext door designの岡本歌織さんです。繊細かつ絢爛な装丁に仕上げていただき、美しい本になりました。受賞時、審査員を務めておられた如月かずさ先生、そしてゲラをお読みいただいた書

          『カトリと眠れる石の街』が出版されました!

          月記:2022.09

          最近触れた本、音楽、映画について書きます。 江國香織『号泣する準備はできていた』 普段読まない本を読もうと思って買いました。短編集です。どの主人公もおしゃれでどこか達観しながら、ずかずかと恐れることなくある種の愚かさの沼に入っていくようなところがあり、そこに作者の美学を感じる。一番最初に収録されている「前進、もしくは前進のように思われるもの」がタイトルと相まって好みでした。 大江健三郎 『万延元年のフットボール』 恥ずかしながら初読でした。60年代日本社会のべたっとし

          月記:2022.09

          SD習作『Horror 1873』

          Stable Diffusionで生成した画像の連作その2。 ゲーム感覚で結構ハマります。

          SD習作『Horror 1873』

          SD習作『赤い砂漠にのまれたロンドン』

          Stable Diffusionで生成した画像の連作です。 細かい調整が難しいので、思った通りのものが出てくることは少ないですが、なんとなくのイメージを具体化したりするためには使えるかも。

          SD習作『赤い砂漠にのまれたロンドン』

          月記:2022.04,05

          NYに引っ越してから三ヶ月ほど経ち、なんとか落ち着いてきました。今回も最近読んだ本や音楽の感想を書きます。 阿部謹也 『西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史』 『ハーメルンの笛吹き男』で有名な研究者による一般向けの本。西欧において亡者のイメージがどのように変容してきたかを通じて当時の民衆の世界観に迫る、という内容です。 キリスト教以前のゲルマン社会では、いわゆるゾンビ系の、墓から這い出して物理的な攻撃や超常的な力で生者を脅かす亡者のイメージが主流だったのに対し、中世以後は物理

          月記:2022.04,05

          ニューヨーク国際古書ブックフェア (NYIABF)に行ってきました

          New York International Antiquarian Book Fair (NYIABF)は世界の古本屋が出展するブックフェアで、今回が62回目とのこと。世界の古本屋が出店し、貴重な古本や遺稿、手紙、古地図などを買うことができます。家から近いので土曜日に行ってきました。 場所はマンハッタンのアッパーイーストサイドにある Park Avenue Armory という展示場です。その名の通り、1880年に建てられた武器庫を改装した場所だということ。 あらかじめ

          ニューヨーク国際古書ブックフェア (NYIABF)に行ってきました

          月記:2022.03

          仕事の都合で今月からニューヨークに引っ越しました。書類手続き地獄でバタバタしていてあまり小説も読めてないですが、今月楽しんだコンテンツについて書きます。 Squarepusher『Go Plastic』『ドライブ・マイ・カー』の名前をいろんなところで目にする影響か「My Red Hot Car」が聞きたくなり(肝心の映画自体は見ていない)、久々にアルバムを通して聞きました。プラスチックのようなチープさにかっこよさを見出す、というのがアルバムのテーマとのこと。実際、ドラムンベ

          月記:2022.03

          月記:2022.02

          最近放置していたので、ここ最近触れたメディアの感想やら近況について書いてみようと思います。本やら音楽やら、ごった煮です。 宇多田ヒカル『BADモード』宇多田ヒカルのアルバムで一番好きかもしれないです。マンブルラップのフローのようなものも取り込んでいて、モダンな印象。そういえば、幼少期から西海岸のヒップホップ(Dr. DreとかSnoopとか)を好んで聞いていたみたいなインタビューを読んだ記憶があります。 Skrillexとコラボした曲と「Find Love」が個人的に好みで

          月記:2022.02

          『DUNE 砂の惑星』

          見よう見ようと思ってなかなか行けてなかった『DUNE 砂の惑星』、やっと映画館で見ることができました。不勉強で調べて初めて知りましたが、duneという単語は一般名詞で単に「砂丘」を指すんですね(鳥取砂丘であれば The Tottori Sand Dunes)。 映像、美術、音楽映像の質の良さは真っ先に印象に残りました。メインビジュアルとなる黄色ろく烟る砂漠は非常に美しく、場面場面のアングルや絵作りもかなり工夫されています。サンドワームが出現する前の砂が波打つ様子や、主人公親

          『DUNE 砂の惑星』

          『バイオショック・インフィニット』

          2013年に発売された『バイオショック・インフィニット』というゲームがあります。これは色々な意味で異形のゲームで、個人的に持っていたFPSというジャンルへの偏見を拭い去る原因になった作品です。 物語の序盤、主人公は空中に浮かぶ都市コロンビアに上陸します。名前が示す通り、この街は「アメリカの夢」を具現化したような場所で、ジャズエイジを彷彿させるような瀟洒な街並みワシントン、ベンジャミン・フランクリンなどの像が並び、広場は音楽と笑い声で満ちています。 しかしこうした「夢」は、

          『バイオショック・インフィニット』