見出し画像

月記:2022.04,05

NYに引っ越してから三ヶ月ほど経ち、なんとか落ち着いてきました。今回も最近読んだ本や音楽の感想を書きます。

阿部謹也  『西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史』

『ハーメルンの笛吹き男』で有名な研究者による一般向けの本。西欧において亡者のイメージがどのように変容してきたかを通じて当時の民衆の世界観に迫る、という内容です。
キリスト教以前のゲルマン社会では、いわゆるゾンビ系の、墓から這い出して物理的な攻撃や超常的な力で生者を脅かす亡者のイメージが主流だったのに対し、中世以後は物理的な力を持たず、死後の審判に怯えるゴースト系のイメージが浸透したこと、そしてその裏にある社会的、宗教的背景について述べています。
ゾンビ映画やGoTで見られるような「亡者の軍団」のイメージはキリスト教以前のゲルマン社会の名残ということになり、アメリカのゾンビ好きにも結構古い起源があったのかもしれないですね。


ジェラルディン・マコックラン  『ロイヤルシアターの幽霊たち』

打ち捨てられた劇場に住む幽霊たちが小さい女の子と出会って…という話。前半は、様々な時代に生きた幽霊達の生前の話を聞くという枠物語形式で話が進みます。各エピソードが舞台となる街の歴史と重層的に絡んでいて面白く読みました。後半に出てくる幽霊に関するルールやブーイングで火を消すところとかは理解が追いつかないところはあったけれど、小さな町の近現代史、幽霊、子供の冒険、という全体的な雰囲気が楽しい。


コリン・ディッキー 『ゴーストランド 幽霊のいるアメリカ史』

アメリカ全土に散らばる幽霊話を紹介しながら、そうした怪談の裏にある社会的な背景を探るというもの。上で紹介した阿部謹也の本はマクロな視点をとっているのに対し、こちらはより具体的な事件や出来事を通して怪談を解説しています。
セーラムの魔女裁判やウィンチェスター・ハウスなど日本でもよく知られている話も載っていて、資料としても使えるかもしれません。

私たちは彼らを罪のない犠牲者として見ているのだが、それでもなお大衆文化全般を通して、逆説ではあるが、彼らはどこか超自然的な本物の魔女であったという考えに繰り返し立ち戻る
セーラムの魔女裁判について、本書、p51


冨樫 義博 『HUNTER×HUNTER』

連載再開のニュースを見て全巻買い直しました。敵の視点でもモノローグが入ったり、逆に親しみやすい味方側のキャラクターもどこか底知れなさを秘めていたりして、読者との距離感が絶妙なことが先を読みたくなるポイントなのかもしれない。


JJJ 『Cyberpunk feat. Benjazzy』

最近聞いた中で一番リピートしている曲。自分の中だけのカテゴリで「SFヒップホップ」というジャンルがあり、Soul'd Out / Diggy-MO' のトラックや志人の『禁断の惑星』が入っているんですが、その箱の中に加わる一曲になりそうです。JJJの英語と日本語を組み合わせたリリックが好み。


昨年講談社児童文学新人賞の佳作をいただいた作品が9月に出版できそうです。どうぞよろしくお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?